仙丈ヶ岳/長野

仙丈ヶ岳1〜3033m峰と893m銭湯〜

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ここにプラトーンばりに喜びを爆発させる男がいる。

場所は南アルプス「仙丈ヶ岳」3033mの山頂。

ついに彼にも、一般の方々と同様の完璧なエンジョイ登山を手に入れる時が来たのだ。

彼の決め台詞「こんなはずじゃなかった」は今回は炸裂せず、「これだよ、これ。求めていたものは。」というとても言い慣れてない言葉が飛び出す。

彼にとって登山とは「楽しい事はないストイックな修行の世界」だった。

今年本格的に登山を始めて以来、彼の山には常に次のようなキーワードがつきまとっていた。

「突風ナイト」「寒気」「異臭」「吐き気」「脱水症状」「低体温性」「打撲」「腰痛」「膝痛」「靴擦れ」「捻挫」「ヒル」「藪漕ぎ」「敗北」「雨」「遭難」「サド嫁」

これこそが「通常の登山」だと認識していただけに、上の写真も納得がいくだろう。

(ちなみにこの写真。実は周りには十数人の他の登山者がいる。強烈な恥ずかしさを感じながらの渾身のポージングだった。)


サディストな読者の舌打ちが聞こえてきそうだが、そんな彼の充実登山を振り返ってみよう。

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仙丈ヶ岳行きは唐突に決まった。

iPhone4Sの発表、スティーブ・ジョブズ氏の逝去の発表と時を同じくして、B旦那CEOから仙丈ヶ岳登山の計画が発表された。

iPhone4Sへの乗り換えをどうしようかと悩みすぎていた僕は、ここは一発3000m登山で悩みを吹っ飛ばそうと決意。

うまい事嫁のお許しが発せられ奉られましたので、行かせていただく事になった。


「南アルプスの女王」という異名を持つこの仙丈ヶ岳。

激しく膝を痛めている僕は、どんだけ女王様にムチでバシバシやられるかと覚悟の上での決断だった。

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登山前日の金曜日。

仕事を1時間前倒しに切り上げた僕は、iPhone4Sの予約開始直後のソフトバンクのお店へ直行した。

なんやかんやと話を聞いた後、とりあえず予約(本決まりではない)をしておいた。

さあ、あとは女王様にしごかれ罵倒された後に導き出された答えに従って決断するだけだ。


そしてこのまま、現地の仙流荘バス停駐車場まで直行だ。

とりあえず風呂に入りたかったので、会社の近くの銭湯へ向かった。


初めて利用するが、実に古き良き銭湯といった感じが好ましい。

しかし古き良き銭湯すぎて、中には全身刺青の2人組がいるではないか。

いかにもすぎるシチュエーションに少々戸惑う。

確かにこの名古屋の中村という地区はアチラ側の人が多い土地柄だ。


入浴客は僕と刺青男2人と他3人の合計6人。

やがて刺青男がその他の3人に親しげに敬語で会話を始めた。

話を聞いていると、どうやら皆お仲間さんじゃないか。

普通のおっさんに見えた人が、一番の親分のようだ。

ヤクザの方々5人に囲まれて完全に五面楚歌状態。

3033mの登山前に893m(ヤクザに囲まれたマゾ)という難局を乗り切らねばならなくなった。

よく見ると脱衣所には、服を着た若い護衛のような男が目を光らせている。

孤立した僕は、せっかく銭湯に来たのに激しい緊張でまるでリフレッシュできない。

少しのミスが命取りだ。

打たせ湯のしぶきがあの方々にかかってしまうものなら、打たせ湯どころか鉛の玉を打たれてしまう。

僕は全神経を研ぎすまし、ただただ穏便なる入浴に徹する事だけに集中した。

お金を払ってまで、なぜこんな思いをしなければならんのだ。


皆が脱衣所から出て行き、残されたのは僕と親分と護衛の3人だ。

他の組のヒットマンと思われているのか、護衛の視線を背中にびんびん感じる。

もはやしっかりと体を拭く事もままならず、ちょい濡れ状態で服を着てそそくさと銭湯を出た。


このいつも通りのトラブルスタートに、早くも今回の登山の壮絶さを予感してしまった。

すっかりトラブルに慣れてしまった男の悲しい性格だ。

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延々と車を走らせる事4時間。

仙流荘バス停の広い駐車場に着いた。

もうすでに多くの車が止まっており、車中泊している人が沢山いる。

さすがは人気の山だ。

人が多いのは嫌いだが、最近登山者は僕一人だけというマニアック登山が続いていたので少々ホッとしたりもする。


さっそくいつものように睡眠薬にて強制就寝。

もう禁煙の薬はやめたので、吐き気に悩まされる事はない。

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IMGP1855.jpg

翌朝、5:30(登山者が多いから通常より30分繰上げ)のバスに乗る。

どうしてもバスで登山口に向かうシチュエーションは、因縁の乗鞍岳を思い出されてしまう(僕の膝打撲とりんたろくんの低体温性)から不安になる。


僕の隣の席の学生の男女の会話を聞きながらの道中。

聞いていると明らかに男は女に好意がある感じだが、女は不思議ちゃんを装い軽くいなしている。

そんな微笑ましい会話を盗み聞きしては、勝手に甘酸っぱい思いに浸る三十五歳一児の父。


1時間ほどで無事、登山口の北沢峠に到着。

IMGP1856.jpg

山梨県側からのバスに乗ってくるB旦那さんご一行は、まだ到着していない。

それにしても中々に寒いじゃないか。富士山の頂上を思い出す。

はたしてみんなはちゃんと来るんだろうか?

またしても孤独な待ちぼうけをするはめになりはしないだろうか?

あの日以来待ち合わせには敏感になっている。

そしてやはり電話したくてもソフトバンクは圏外だ。

auに乗り換えちゃうぞ、がんばってくれよ孫さん。

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やがて山梨側のバスが到着し、B旦那さんご一行が疲労感タップリの顔で降りて来た。

前日12時まで飲んで寝る間もなくやってきたらしい。

しかもバスでは座る事も出来ずトイレに行く事も出来ず、寒さに震えながらここまで辿り着いたようだ。

さすがだ。自ら登山前に自分を追い込んでくる辺り、僕と同じ匂いを感じる。


IMGP1867.jpg

今回の仙丈ヶ岳登山隊は、横浜の追い込み系マゾヒストことB旦那さん、静岡の悩める黒はんぺんことHくん、鶴見のサディスティック女優ことEちゃん、そして岐阜のガラスの膝小僧こと僕の4人編成だ。

写真ではHくんが上野クリニックの広告のようになっている。


そして我々は7:20頃、南アルプスの女王様の玉座を目指し登城を開始した。


〜仙丈ヶ岳2へつづく〜



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