最近、めっきりカヌー野郎から山野郎になりつつあるが、決して山が好きなわけじゃない。
川は暑くて晴れた日なんか最高の遊び場だし、圧倒的な楽しさがある。
一方、山はあまりにもストイックすぎる。
でもカヌー人口に比べて、山やってる人は圧倒的に多い。
正直すごくしんどいだけだし、僕の場合登頂してもさほど達成感を感じないからとても疑問だ。
シニアの方々の登る姿なんてとても信じられない。みんな死にたいのか?
では、なぜ今回山の素人が一人で北アルプスに登ってしまったのか?
それは僕が生粋のドMだからに他ならない。
高所から低所に水が流れるがごとく、M男の宿命として導かれたのだ。
予想通り、今回の旅も(登山だって旅なんです)すこぶる僕を痛めつけ、激しく罵倒してくれた。
蝶ヶ岳〜常念岳、1泊2日テント泊縦走単独行〜マゾ男登頂記〜の始まりです。
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出発前日の夕方にこの旅に行く事を決めたもんだから、準備やら調べもので寝たのは遅かった。
とにかく朝の4時くらいの暗いうちに自宅を出て、遭難防止の為に早めに入山して早めにテント場に辿り着こうという計画を立てた。
しかし朝、6時起床。
いきなりの寝坊スタートだ。
寝起きとともに計画が頓挫し、いきなり追いつめられる波乱の幕開けとなった。
まあ寝坊しても単独行だから誰にも迷惑はかけないが、ミスはすべて自分に跳ね返ってくる。
そこから休憩無しの4時間ロングドライブ。
登山前に僕はかなりの疲労感を身にまとう結果となった。
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三股の登山口駐車場はぱんぱんの満車状態で、車を置くスペースがない。
出遅れた僕をあざ笑うかのような結果だ。
道路の脇で一応準備を進めていたら、ちょうど1台車が出て行ったから慌ててバタバタと車に乗り込みその場所への駐車に成功した。
慌てすぎて、持参のカロリーメイトがバキバキに砕けるというアクシデントはあったが、これでなんとか入山出来そうだ。
準備も完了し、10時頃張り切っていざ出発だ。
駐車場脇にあった登山道らしき場所を登って行く。
すると、この先。ベンチとイスがあってその先の道がないじゃない。
僕は登山開始1分にして途方に暮れた。
1分前はあんなに張り切って登り始めたのに、2分後には下山。
あらためて、駐車場奥にちゃんとした道を見つけたから進んで行く。
翌日の夕方に同じこの道を、新橋のサラリーマンのようなフラフラの状態で下山してくる事になるなんてこの時は知る由もなかった。
登山届け所が出て来たから、登山届けを提出して、隣の案内板をチェック。
現在地の三股登山口から5時間半かけて蝶ヶ岳へ。そこが本日のテント場。翌日常念岳方面へ稜線を歩き、再び下山する予定だ。
しかし、この時の僕は蝶ヶ岳の方で頭が一杯で、常念小屋から前常念岳への「×」「廃道」の文字が頭に入っていなかった。
これが翌日の下山時、脱水野郎になって地獄を見るはめになるのだが、この時の彼はそれを知らない。
出だしは非常に順調に進んで行った。
今までりんたろくんと行った、ヒルまみれ笹まみれの山々を思えば軽々と僕は登って行った。
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しかし、1時間経っても2時間経っても延々とこんな感じが続く。
さすがにしんどい。汗は滝のように溢れてくる。
もちろん登れば登る程道もどんどん急坂になって行き、いよいよMモード全開になって行く。
そして腹が減って来た時に気づく。
昼飯のおにぎり買ってくるのを忘れてるじゃないか。
初日の昼飯以外の自炊するメシは持って来ているが、約2ℓ持って行った水も少なくなっているのでここで自炊は厳しい。
昼飯休憩ポイントと見込んでいた「まめうち平」もいつまでたっても現れない。
しかたなく微かな登山道の脇へ腰掛けて、砕けたカロリーメイトやミックスナッツを昼飯代わりに惨めにほおばる。
しかしこいつらすごい勢いで僕の水分を奪って行く。
結果的にに沢山水を飲んでしまった。
さらにここからわずか3分くらい歩いた所で「まめうち平」が登場。
あんな惨めな場所で食わなくても、あとちょっとだったんだね。
さらにひたすら進んで行く。
もう大分体力的に厳しい状態で、追い討ちをかけるように足の踵に靴擦れが発生。実につらい。
「そこを登って曲がれば、景色が開けてくるはず」って何度も思っては裏切られてまた登る。
非常に精神的に堪える登山が続く。
でも登り始めて2時間半くらい。
やっと景色が開けて来て、常念岳が雲間から姿を現した。
下を見れば、豊科の町が広がっている。
いやあ、登って来たねえ。
そこからは一気に森林限界を超えて、見晴らしの良い「いかにも」な感じになって来たぞ。
さらにズンズン登って行く。
常念岳も雲が晴れて、大変よろしい姿を見せつけて来た。
お花なんかも咲いちゃったりして、いい感じになって来たぞ。
その後もひたすら登り続ける。気持ちはカネミ食品の社員だ(わかるかな?)。
蒼穹の空に向かって登って行くような感覚。
しかし、景色の良さとは裏腹に酸素濃度はどんどん薄くなって行くのが分かる。
息が切れまくって、ゼヒゼヒ言いながらも一歩一歩全身で登って高度を上げて行く。
水もなくなりそうになって、喉もカラカラの状態に鳴った時蝶ヶ岳ヒュッテが見えて来た。
やった、着いたぞ。ビールだ!
その頃の僕は頂上に着いた感激よりも、ビールの事しか頭になかった。
ほんとの蝶ヶ岳頂上は歩いてすぐの所だが、僕は一目散に山荘を目指す。
今の僕の頂上はビールなんだ。
一体誰がこんな2600mを越える所までセールスに来るというのか?
そんな突っ込みにも力が入らない。
いち早くビールを飲むんだ。
山荘の中に入ると老夫婦が宿泊の手続きをしていた。
その人達と山荘の受付の人とえらく話が盛り上がっていて、僕は何分もその場に待たされる。
待たされている間の僕の顔は阿修羅の様な顔だったことだろう。
やっと老夫婦が去り、僕は早口でテント設営代300円を払い、500mlのビール700円を支払う。
ビールの値段が高いだの、設営代のが安いだのと文句は一切浮かばない。むしろ700円では安いくらいだ。
ビールという文明が作り出した最高傑作を手に、頂上まで我慢出来ないから山荘裏の景色のいい所に移動。
常念岳に向かって高らかに乾杯!
まるでアサヒビールのポスターのようではないか。
そしてついにビール注入。
突き抜ける快感!めくるめく爽快感!
これはもう人間の作ったものじゃない。神が作り賜うた黄金の聖水だ。
ストイックな世界に投じられた一滴の快楽の雫。
この為に5時間登って来たんだね。
僕はしばらくその快楽に身を委ねた。
その日の夜、地獄の一夜を過ごす事も知らずに。
-つづく-
マゾ男登頂記〜蝶ヶ岳の黄金水〜
- 蝶ヶ岳〜常念岳/長野
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MATATABI BASE
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期待感煽るなあw
次回楽しみにしてるよーー!
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あんまハードル上げんといて下さい。
でもまあほんと酷い目にあいましたわ。
やっぱり大人しく川で遊んどけば良かったです。
でもやっぱり自分を追い込んで行くのが好きなんですわ。
おヒマな時に今後も読んだって下さい!