私は悪魔に魂を売ってしまった。
というか、悪魔の魂を買ってしまったのだ。
人間という生き物は、便利と安心を追い求めて進化して来た。
21世紀の現代、平穏無事な生活を求めていればそうそう死を予感する状況には追い込まれないだろう。
しかし中には悪魔に魅入られて、その平穏な世界から道を踏み外す輩が現れる。
たとえ本人が平穏な日々を望んでいても、気がつけば彼岸の彼方に足を踏み入れる事もある。
時に無駄にパックラフトを背負ってアルプス山中にてヘコヘコ死未遂。
時に小太郎山の山頂で嘔吐して廃人うどん死未遂。
時に伊豆の荒れた大海に放り込まれて嘔吐土左衛門死未遂。
時に濡れた吊り橋でケツから転んで痔と共に転落死未遂。
時に嫁から髪留めゴムで乳首を攻撃されてショック死未遂etc…。
一度死神にロックオンされた者は、そう易々と平穏な日々には戻れない。
しかしどうせこの運命に抗えないのなら、自ら火中の栗を拾いに行くのが漢というもの。
かつて私の尊敬するウォーズマン氏もこうおっしゃっていた。
「攻撃は最大の防御なり」と。
そんな中、私の心の中に沸々と沸き上がる1/3の純情な感情。
脳裏に浮かぶはあの時の光景。
かつて赤岳鉱泉のアイスキャンディーを前にした時の感情だ。
アイスクライミングへの憧れからか、この写真は後方にいたジョンボーAに「さもこれからクライミングしそうな感じで写真撮って」とお願いして撮ったもの。
この時は「アイスクライミング」というのは、自分とは全くの別世界と思っていた。
写真を撮ってるジョンボーAも同じ気持ちだった事だろう。
ジョンボーAとはほぼ同じタイミングで雪山の世界に入って行ったが、とにかく安全第一で行こうと誓い合った仲。
危険な事には絶対に手を出さないと約束し合った。
そして「アイスクライミングやりたいとか言い出したら殴るからね」とお互いに言い合っていた。
そして「ダブルアックスとかに手を出しそうになったら全力で止めるから」とも。
世に言う「アイスノン協定」である。
そんな折、「生き死神」と呼ばれる蟷螂拳の達人が二人の前に現れた。
厳冬期の甲斐駒ケ岳・黒戸尾根に颯爽と現れて我々を挑発して来る死神、ランボーN。
彼は通常のピッケルで苦戦する我らを尻目に、ダブルアックスと呼ばれる死神の鎌を駆使して縦横無尽に立ち回る。
この時、僕とジョンボーAの間に「あれ、ダブルアックスって普通に便利な道具じゃん」って気持ちが蔓延。
アイスノン協定の件があるからお互いにそれを口には出せなかったが、確実にハートに小さな灯が灯った。
これが生き死神が仕掛けた甘い罠だとも知らずに。
それから10ヶ月が経った。
僕はその生き死神に連れられて伊豆で殺されかけていた。
その時、死神からまさかな情報が僕の耳に入れられる。
「ジョンボーAからダブルアックスはどれがいいでしょうって相談がありました」と。
奴は協定を破って、ついに死神に魂を売りやがったのだ。
まるで運動会のかけっこで、一緒に走ろうと約束しておきながらロケットスタートでぶっちぎられた気分だ。
協定を破ったという事は、僕は涙をこらえてジョンボーAを全力で殴らなければならない。
あんな物を手にしたら、絶対歯止めが利かなくなって垂直の世界(=死の世界)へとまっしぐらだ。
今ならまだ奴の目は覚めるはずだ。
しかしである。
死神の魔力はしっかりと僕の善の心すら蝕んでいた。
いつの間にかインターネットの検索窓の中に「ダブルアックス オススメ」とか「アイスクライミング 入門」などのいかがわしい言葉を入力しているではないか。
18禁よりも淫らな平和禁(平和を望むものは入場禁止)のNGワードばかり。
徐々に高まって行っちゃう魔の感情。
それはまるで、「サタンに支配されて傷跡が一箇所に集中しちゃったバッファローマンのようだ」と言えば分かり易いだろう。
こうなって来ると、だんだん正常な判断がつかなくなる。
そのタイミングでジョンボーAがメッセージで「ダブルアックス買ってもいいすか?殴られますか?」とついにカミングアウト。
本来なら僕はそのまま奴にハリケーンミキサーを食らわせて止めなければいけない立場。
しかし今の僕にそんな事は出来ない。
それどころか、僕はジョンボーAを腕に巻き付けて、
勢いよく死の世界へと送り出してやった。
これで奴の超人墓場デビューは決まったも同然だ。
しかしこのように長年悪魔超人界で共に汗を流して来たスプリング松尾が、遠い世界の住人となって少し寂しかった。
僕も正直ダブルアックスが欲しくて欲しくてしょうがないが、いかんせん金がない。
1本4万円近くする奴が「ダブル」だもんだからその威力も倍。
そしてそれだけじゃ終わらない。
ウォーズマン氏は叫ぶ。
さすがに無理だ。
いかにサタンに乗っ取られた僕でも、さすがにそこまでバカじゃない。
良くて破産、悪くて嫁に撲殺されてしまう。
やはりここは諦めようではないか。
冷静になってみれば、こんなもん買って自ら死に急ぐ事などないのだ。
そんな時、突然メシア(救世主)が現れてしまう。
Facebook上に、去年友達になった山仲間メシアTさんの投稿。
これを見た時の我が心境を想像出来るだろうか。
諦めて俗世の人々と同じ平和な道を進もうと決心した時に投下された、あまりにもストライク過ぎる爆弾。
その時の心境を分かり易く例えるなら、「突然乱入して来たモンゴルマンにいきなりフライングレッグラリアートを食らった時のような驚き」と言えば分かり易いだろうか。
思わず「マキマキー」と言わずにはいられないほどのビッグタイミング。
僕は再びサタン憑依バッファローマンに戻り、即座に彼女との交渉を開始した。
やがて、全部セットでウォーズマンが提唱した金額の半額以下の値段が提示された。
まさにミラクル価格なのである。
まずこの時点でその金額自体も結構なものだったのに、ウォーズマンの「光の矢」を浴びていた僕には安く感じてしまったから恐ろしい。
しかしその金額でこのセットが買えるってのは奇跡的。
僕は即座に「飲み会」という名の名目で彼女と秘密裏に接触し、闇の中でゲンナマとブツを交換した。
その闇の中、僕の背後で微笑んでいたのは死神。
こうして僕も、タッグパートナーであるスプリング松尾の後を追って、超人墓場へと堕ちて行ったのである。
そんなバッファロー田沢がこの度ご購入してしまったのが以下の奴ら。
●ペツル 「クォーク」
ついに我が元にやって来てしまった死神の鎌。
もはやこれを持って雪の上に立っているだけで絵になってしまうという妖刀。
漢をロマンという名のアリ地獄へといざなう地獄の鎌である。
細かい仕様やうんちくに関しては、ここでは省くから他のブログを参考にすべし。
このアックスを調べようとして検索してここに辿り着いた人はほんとごめんね。
前置きのバッファローマンのくだりが余分でしたね。
とにかく、これで僕は2016年からアイスクライミングという新ジャンルに手を出す事になった。
もちろんこれを駆使したもうワンランク上の雪山登山も。
いよいよ我が体臭からも腐敗した死臭が漂い始めて来た気がしてならない。
●ブラックダイヤモンド 「スティンガー」
モノポイントアイゼンと呼ばれる前刃一本爪のアイゼン。
前刃が一本であることによって、アイスクライミング時によりアクティブなムービングができるという呪いのアイゼン。
商品名のスティンガーとは、訳すと「刺し貫く人」という意味。
まさに氷上のヒットマン。
ドス一本で狙った獲物を逃がさない。
この鋭い前爪が、紛争相手の親分の内蔵めがけて射し貫くのである。
当初全く買う予定じゃなかったのに、勢いでセット購入してしまった。
いよいよ我が部屋内が殺人凶器で溢れて来たぞ。
我が家に泥棒が入って来たら、これ履いて犯人の股間を思いっきりケリ飛ばしてやる。
そんな防犯にも役立つ魔性のアイテムでございます。
●グリベル 「スピーディー」
支点の為に氷壁に突き刺すアイススクリュー。
これも当初全く購入を考えていなかったが、生き死神ランボーNに相談した所「買いでしょう」と背中を押された商品。
まさか我が人生でアイススクリューを買う日が来るだなんて思ってもいなかった。
もうここまで来ると自分の行き先がよく分からない。
そもそも高所恐怖症なのに、ちゃんとアイスクライミングなんて出来るんだろうか?
そして勢いで、同じくグリベルのバイザーもWEBで購入。
これで一通りアイスクライミングに必要な物が取り揃ってしまった。
今になってちょっと「ほんとに大丈夫だろうか?」と心配でならない。
しかもスプリング松尾が死神に「アイスクライミング連れてってくださいね」と軽くメッセージを送った所、彼の返事はこうだったらしい。
「普通のアイスじゃおもしろくないでしょう。この際いろいろとすっ飛ばしてミックスバリエーションを行きましょう。テント担いで垂直縦走。八ヶ岳だと赤岳主稜は混むから天狗か阿弥陀北とか。甲斐駒オウレンとか。谷川岳西とか…」
止まらない死神の暴走。
奴はやはり我々を殺す気満々だ。
我々の寿命を吸い取って、それを自分の寿命に取り込む気満々なのだ。
悪魔に魂を売って買ってしまったスプリング松尾とバッファロー田沢は、今になって後悔が止まらない。
果たして我々は来年の桜を見る事ができるのだろうか?
とりあえず、今回差し伸べられた手が救世主的だったのか死神的だったかは数年後の僕の生死を見れば答えは出るだろう。
今回はただ「買っちゃった。テヘペロ」って言いたかっただけ。
大掃除が忙しくて遊びに行けないんですよ。
ネタがないんですよ。
何故か楽しい気持ちよりも悲壮感の方が強いが、自分で選んだこの運命。
きっとこの先に新しい世界が待っている。
そこにはキレイなお花畑も広がってるだろう。
ジョン・レノンが歌い、ブルース・リーが舞い、高倉健が優しく微笑むその世界へ。
Knock, knock, knockin’ on heaven’s door
Knock, knock, knockin’ on heaven’s door
Knock, knock, knockin’ on heaven’s door
Knock, knock, knockin’ on heaven’s door….
死神の鎌とカチ込みヒットマン〜Knokin’ On Heaven’s Door〜
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MATATABI BASE
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こんばんはモチックです
おぉ、かっこいい!!ダブルアックス
この世界は、あこがれますがちょっと怖いですよね
でも、のめりこんでいく気持ち、止まらない高揚よく分かります。
僕もやってみたいなぁ
ミックスクライミング?なんてのは、無理だけど、赤岳鉱泉のアイスキャンディーぐらいなら。。。
これはうらやましい。
是非初クライミングのレポートお願いします。
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モチックさん、どうもです。
まさに同じ感想で、憧れるけど何やら怖いし別次元の話って感じでした。
ただのダイエットで何となく始めた登山でしたが、まさか数年後にこんな事態に陥ってしまうとは夢にも思わなかったですよ。
そもそもどんな感じでやるものかも想像の域を出てなくて、楽しみというより不安しかないですね。
死神ランボーNは相当変な所に連れて行こうとしてますし。
僕も順番通りにアイスキャンディーから始めたいんですが…。
なんかキスから始めたいのにいきなり青姦からスタートするみたいな気分で緊張します。
初クライミングは来年になると思いますが、一発目で星になってる可能性がありますのでもしかしたらお伝え出来ないかもしれませんね…。
なんとか生還レポート書きたい所です。
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はじめまして。
とうとうアイスクライミングですか。己撮り、相当きつそうですね(笑)
最近Yukonさんのブログを知り、どはまり中です。
ここには最近買ったパックラフトからたどり着きました。
同世代でアウトドア好きなので、男塾、キン肉マン、野田さん等々共通項が多くて馴染んで、すっかりファンになってしまいました。
いつかどこかの川でお目にかかったら是非ご挨拶させてください。
これからもどマゾな記事楽しみにしてます。
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irie9さん、はじめまして!
このブログは基本的に同世代の80年代ジャンプ黄金期を生きた人にはどストライクですが、それ以外の人には何がなんだか分からないただの公開変態ブログです。
特に山や川の情報を求めてやって来た人には何も有益な情報がなくてビックリでしょうね。
ジャンプネタ+野田さん知ってる人のために一切の説明無しにネタが進んで行くんで、分からない人は豪快に置いて行かれます。
とりあえず集英社からクレームが来るまではこのスタイルを貫きます!
アイスクライミング中に己撮りはさすがに世界初になるかもしれませんね。
コマ撮りで滑落して行く瞬間はかっこよさそうです。
その時は美しいポーズで「男塾万歳!」と叫んで富樫のように散りたいと思います。
よろしくお願いします。
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お返事ありがとうございます。
gopro撮影は実は私もやってまして、Goproの性質上アイスクライミングは確実に良い映像撮れると思います。
とはいえ総合的なリスクをいかに判断するのかが、アウトドアを楽しむ者の大事な資質ですね。
でも、期待しています(笑)
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がんばります!
そしていつかは嫁の前で美しく土下座する大迫力の映像もお届けします!
よろしくお願いします!