赤岳/長野

ヤツオリンピック・赤岳編4〜地蔵尾根下山戦線〜

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ついに悲願の金メダルを手に入れた日本選手団。

4年間の思いを結実させ、最高の形で赤岳山頂の表彰台を独占したのだ。


この快挙に日本中が歓喜に包まれ、感動の嵐が吹き荒れた。

喜びのあまり、道頓堀にダイブする若者も後を絶たなかったと言う。


しかしである。

表彰台から降りるとすぐ、日本選手団の顔から笑顔は消える。

なぜなら彼らの戦いはまだ終わっていないからだ。


ここから先は、選手村(赤岳鉱泉)に向けた下山戦が始まる。

気の抜けた下山時にこそ、オリンピックの悪魔は忍び寄るもの。

しかもここからは、本来登りで使うはずだった「地蔵尾根」を使っての下山。


弟の文三郎と兄の赤岳の敵討ちとばかりに襲いかかる次兄のお地蔵様。

赤岳三兄弟の中で、もっとも急登で荒々しいと評判の男。

その男が今、下山になってその姿を現したのだ。


奴はあわよくば我々の金メダル強奪を画策している可能性が高い。

無事に選手村に辿り着いてこそ、初めて日本選手団の完全勝利。

お地蔵様の追撃を振り払い、選手村で美酒に酔う事だけを目指す地蔵尾根下山戦線。

最後の最後まで気を抜いてはいけないのである。


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笑顔から一転。

再びファイターの顔に戻った日本選手団。


ここからは獲得した金メダルを死守しながらの下山戦線。

もちろんのっけからこのスペシャルな斜度が襲いかかる。

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その気になればいつだってローリングwithストーンズがかませそうな状況。

もちろん高度感も下りの方がリアルさを増し、高所恐怖症のレジェンド団長にとっては早くも正念場だ。


そして前方を見れば、「どっからでも滑落カモン」と言ってるかのような陽気な岩の稜線。

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まずはこの稜線を越えて、お地蔵様が待つ下山道を目指す戦いだ。


しかしすでにオリンピックチャンピオンとなった日本選手団。

下山戦と言えど観客からの注目度は抜群。

彼らは「アイ・オブ・ザ・タイガー」のテーマ曲に乗せて、激しいスポットライトに照らされながらその戦場に向けて入場して行く。

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しかし何気にこのスポットライトが意味するのは「日没が迫っている」という事。

実は15時には選手村に帰還する予定だったが、文三郎達との死闘のせいで時間が長引いてこの時点で「15時」だったりする。

さすがにこの時期に15時に山頂じゃとても笑っていられない。

なのでこの時点で彼らはタイムアタック下山にその身を投じ、日没という新たな敵とも戦う事になったのだ。


しかしそんな逼迫した状況でも、ただ一人金メダルの余韻に浸ったまま浮かれが止まらないシェルパ弟。

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レジェンド団長は声を枯らして「浮かれるんじゃない!」と訴えるが、彼は耳が聞こえない様子。

もちろん現場の誰もが、まだ彼がゴーストハイカーのサムラゴーチである事には気づいていない。


一方で、後方から何やら新手のアメリカンヒーローのような男がフラフラとやって来る。

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今にもアベンジャーズに出演してしまいそうな勢いだが、実際はここまでの戦いの傷が癒えていないグッタリとするパパラッチKだ。


やはりここまでの激しい戦いのせいで、皆一様に体力の消耗が激しい。

レジェンド団長に至っては、顔の表情は見えないのに漂っている疲労感がハンパない。

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やはり長丁場となると、このベテランにはいささか負担が大きい様子。

この頃にはもうすっかりクライマーズハイの魔法は解け、四十路間近の現実的な肉体疲労が一気に襲いかかって来る。

そして高所恐怖症の彼に突きつけられるこの高度浮遊感。

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この高度感に対し、彼のケツはアカギのような「ざわざわ」と言う効果音が支配する。

このままでは四十路間近の良い大人が「ジュンジュワー」と失禁してしまう事は必至。

これは早くも金メダルと大人の威厳喪失のピンチだ。


しかしそんなピンチなベテランに仲間達がエールを送る。

シェルパブラザーズが「ワタシタチイルカラ ナニモシンパイイラナイ。ダカラモットカネヨコセ。」と強力サポートを約束し、

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パパラッチKも杉良太郎ばりの流し目で「スクープは私にお任せください」と言わんばかり。

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そしてかつて「街でほんわかカメラ女子」だった低血圧Mちゃんに至っては、今では武蔵の様に勇ましく上段にピッケルを構えて「いざ!尋常にマゾタイム!」と激を送る。

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仲間達の熱いエール。

これにはレジェンド団長も再び奮起。

金メダルを手に入れてさらに結束が高まった我らが日本選手団。

このチームワークに対し、敵国の応援団もヤンヤの喝采だ。


そして彼らは観客達の声援に手を振りながら、勝利の下山を進めて行く。

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会場はジャパンコール一色。

そんな中、やがて稜線上に赤岳天望荘が見えて来た。

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ここが地蔵尾根下山戦直前の選手控え室だ。

そしてそこに王者の風格たっぷりに入室して行く選手達。

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手前のランボーNはサングラスで表情が分からないが、実はこの時点で相当のシャリバテ状態。

この昼から続く胃もたれからのシャリバテアタックで、彼の内蔵系マゾはかなり追い込まれた状態になっている。

屈強なシェルパ族の彼だが、中々日本の食文化に苦戦しているようだ。


一方で、あれ程山頂直下で浮かれていたもう一人のシェルパ族に元気が無い。

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そしてすぐさまこの場で彼は眠り込んでしまった。

今思えばあれはきっと寝ていたんじゃなく、ゴーストハイカーとして罪の意識に苦しんでいたんだろう。


そしてちょっと休憩のつもりが、疲労の濃い選手団はここでバッチリ休んでしまったという失態。

そうしている間にも時は刻々と刻まれて行く。


結局この控え室を出たのは15:50。

下山予定時刻を大幅に遅れた状態でまだ稜線にいるという「やっちまった感」。

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やはり完全に下山するまで気を抜いてはいけなかった。


そしてこの浮き足立つ日本選手団に対し、「ここが好機」とばかりについに姿を現したお地蔵様。

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ついに赤岳三兄弟の次兄がその姿を現した。

ここからはいよいよこの地蔵野郎との下山タイマン戦線だ。


先頭を切るレジェンド団長が、試しにこれから下山して行く地蔵尾根をそっと覗いてみた。

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気のせいだろうか?

私にはこの先が崖にしか見えないが…。


たちまち恐怖のあまり、マナーモードのように全身のバイブ機能が止まらないレジェンド団長。

彼の得意のネガティブシンキングは、その脳裏に「滑落」の二文字しか映し出さない。

進んでも死、留まっても死。

嫁と口論になっている時と同様の心理状態に、団長の顔から血の気が引いて行く。


しかし進むしか生き残る道はない。

せっかく手に入れた金メダルを、こんな所で失うわけにはいかないのだ。


こうして果敢に地蔵尾根に攻め込んで行く日本選手団。

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しかしその崖の先は、お下劣極まりない大急降下の世界だった。

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たちまちレジェンド団長の脳裏に、子供達との楽しかった日々が走馬灯のように駆け巡る。

そして浮かび上がる保険金の書類を手にほくそ笑む嫁の姿。


後方からは、同じく嫁さんに大量の生命保険を掛けられている胃もたれ男が崖を下って来る。

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しかしこの男は関東屈指の高所変態男。

このような現場になればなるほど、「ぬへ、ぬへ、ぬへへへへ」とこみ上げて来るニヤリを抑える事が出来ないのだ。

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こうなってくると彼はとても頼りになって来る。

そして彼は恐怖に怯える団長の方を見て言った。

「ダイジョブネ。ワタシ、モッテルカラ。」と。

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何という安心感。

彼が中盤でゲームを組み立ててくれれば、この下山戦線もなんとか乗り切れそうだ。


しかしこの時は気づけなかった。

彼が「モッテル」と言ったのは、単に「胃がモタレテイル」と言いたかっただけだという事を。



それでも何とかこのモッテルスマイルに励まされて、彼らの身もすくむような滑落下山は続いて行く。

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やはり強敵、地蔵尾根。

文三郎も大概だったが、こいつも相当やんちゃな傾奇者だ。

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そして我々が歓喜に包まれた赤岳方面を見ると、もうすっかり太陽が傾いちゃってるじゃない。

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まずいぞ。

この時点で時間はすでに16時。

さすがに焦り始める日本選手団。


しかし頼りになる男ランボーNが、本田圭佑から大門刑事のような厳しい表情にチェンジ。

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何という安心感。

こなまま選手団の団長の座が彼に奪われてしまいそうなほどだ。


しかし日没への焦りと急降下の恐怖が、じわじわと日本選手団を追い込んで行く。

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そしてついに選手団の中に幻覚を見始める者達が続出。

ジョンボーAは、岩に抱きついてキャバクラのお姉ちゃんと岩との区別がついていない危険な状態。

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そしてパパラッチKは雪山でショッピングをするブルース・ウィルスファミリーの幻覚を見て、驚喜してシャターを切っている。

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疲労と焦りと恐怖で精神が攪乱されて行く日本選手団。

そんな我々を見て「してやったり」とほくそ笑むお地蔵様。

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しかし奴はこれ以上は雪で身動きが取れないようだ。


ここが勝負所。

奴が雪に埋まってる隙に、一気に下山をかますのだ。


しかしここからが樹林帯前のラスト急降下ポイント。

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下を見れば、笑けるほどの斜度が迫り来る。

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本来は登りで使う予定だったこの地蔵尾根。

きっと登りだったら、文三郎以上に相当打ちのめされていた可能性は高い。

下から登って来る登山者は気の毒なほどヘロヘロ状態。

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ある意味で、我々は作戦勝ちをしたのである。(道を間違えただけ)


やがて地蔵尾根の追撃を振り切り、ついに樹林帯への入口が見えて来た。

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これで勝利を確信した我々。

ここまでお地蔵様の攻撃を受け続けるだけだったが、ついにチャンピオンが本気になる。

ここで日本選手団は一気に攻勢に出たのだ。


レジェンド団長が高らかに「野郎ども、行くぞ!」と言って滑落して行く。

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そしてその後を追うように、ランボーNが「ウへ、ウへ、ウヘヘへ」とニヤケながら追随。

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後続の選手達も次々と滑落して来る。

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ついに炸裂した「サムライシリセードアタック」。

5人のケツを受け止めたお地蔵様の「ぎゃあああ」という断末魔が八ヶ岳に響き渡る。


これにて赤岳三兄弟、最後の男お地蔵様を颯爽と撃破。

まさに日没サスペンデット直前の劇的勝利。

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後はもう余裕のビクトリーロード。

夕日に照らされた美しき樹林ハイクのみ。

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しかしそれでも諦めの悪い赤岳の残党達が時折現れる。

だがもちろんそんな雑魚どもは、再び我々のケツで黙らせればいいだけの事。

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もはやメダリストの我々を誰も止める事は出来ない。

しかし若干シリセードアタックをし過ぎたのか、痔主のレジェンド団長の動きが変な事になっている。

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それでも彼は振り向いて不敵に笑う。

ひょっとしたら、彼のケツは鮮血にまみれて「赤だけ」になっているかもしれない。

そんなチープなオチでいかがだろうか?



やがて長かった戦いが終わる。

ついに我々は選手村に帰還。

時間は、実に下山予定時間から2時間遅れの17時。


選手村では、我々の帰還を祝うアイスクライミングセレモニーが開催中だ。

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見ず知らずの人達からもこのように祝福されて、すっかりご満悦の日本選手団。

勝利の下山記念撮影では、団長が嬉しさのあまり「ピッケルを首に刺す」というイリュージョンまで披露。

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他国の選手からも健闘を称えられ、鳴り止まない拍手と賛辞の嵐。

胸を張って選手村の部屋に引き上げる日本選手団。


やがて彼らが部屋に行くと、なんと部屋の中で今まで一緒に戦っていたはずの「ジョンボーA」が寝ているではないか。

ここで彼がゴーストサムラゴーチに代行登山を依頼していた事が発覚。

これに激怒した低血圧Mちゃんと団長が怒りのリンチだ。

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この己のチーム内で起こった大スキャンダルに、パパラッチKも思わずシャッターを切る。

そしてこれに対してジョンボーAは「名誉毀損で訴えます」と逆ギレ会見。

こうしてあれ程一枚岩だった日本選手団の団結は、脆くも崩れ去った。


しかしここからはご褒美のお時間。

色々あったが、ここは一旦仲直りして食堂にてビールで乾杯。

噂通り、この選手村の飯は実に美味しそうだ。

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そしてここの名物と言えば「ステーキ」であるという事はすでに調査済み。

激しい戦いの後の肉ほど美味いものは無い。

ここまで「とんこつラーメン胃もたれ」と「シャリバテハンガーノック」で苦しんで来たランボーNも、好物の肉に対して鼻息が荒い。


しかし我々の前に現れたのはステーキではなく、まさかの「サンマ」だったのだ。

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これを見て愕然とするシェルパ族の男。

そしてこちらを見て「ワタシ…イチバンニガテナモノ…。ソレハサンマネ。」と哀しそうな目で訴えた。


限界空腹胃もたれ状態で現れた、ガッツリ脂の乗った苦手食材。

完全勝利を確信した男に襲いかかった、赤岳からのまさかのラスト攻撃。


それでもサンマをバイオハザードのようにぐちゃぐちゃにしながら、彼は生きるために必死でサンマに食らいつく。

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彼の長いサバイバル人生の中で、最も死の危険と隣り合わせのサバイバル。

しかし彼は「コノママサンマクッタラ、ワタシヘリデハンソウサレテシマイマス。ミナサンニメイワクカケテシマイマス。」と涙ながらにサンマ登頂を断念。


窮鼠猫を噛む。

赤岳は我々に「最後ッ屁」をかまし、地獄への道連れにランボーNをチョイスしたのだ。


最後の最後で哀しき犠牲者を排出してしまった日本選手団。

しかし彼らは満足げに眠りについた。

なんせ翌日からは「硫黄岳」という名のアイスリンクで、お気楽な「エキシビジョン」が開催されるからだ。


赤岳との激戦の後は、フリースタイルで観客を楽しませるエキシビジョン硫黄岳。

しかしその先に待っていたのは、お気楽を通り越した思いがけない「暗闇急登ハイク」。

そして山頂に仕掛けられていた「まさかの罠」に団長の悲鳴がこだまする。



祭りの舞台は「硫黄岳」へ。


まだまだヤツオリンピックは終わらないのだ。




赤岳編 完


〜ヤツオリンピック・硫黄岳編へ〜 つづく



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