熱狂の熱は未だ冷めやらない。
彼らはそのアツい想いを胸に、新たな戦場へとその身を投じる。
あの赤岳三兄弟と日本選手団による、超急登からサンマに至るまでの手に汗握る攻防戦。
そんな歴史に名を残すほどの壮絶な死闘の末、ついに手に入れた悲願の金メダル。
そしてその金メダルを手にした事により、一躍時の人になった日本選手団メンバーたち。
そんな彼らには「王者」としてやるべき事がある。
それは応援してくれた人々のためにお送りする「エキシビジョンマッチ」。
フィギュアスケートの上位選手が大会最終日に披露する、あのエンターテイメント性の高いフリー演技の事だ。
もちろん彼らは赤岳を撃破した夜に作戦会議を開いた。
アツい想いが止まらない彼らの議論は夜遅くまで白熱した。
「明日どうする?」
「なんか燃え尽きちゃったね」
「寒いしね」
「遅くまで寝てようか」
「やめとく?硫黄岳」
「それいいね」
「サンマで胃がもたれててさ」etc….
激しさを増すディスカッション。
圧倒的なやる気に満ち満ちた王者の風格。
しかし最後はやはりレジェンド団長の鶴の一声。
「バカヤロウ!今回は私にとっては一生に一回だけの快晴なんだぞ!そして嫁の罵声に怯える必要も無いし!オムツだって換えなくて良いんだし!ご両親に気を使う事もしなくていいし!飼い犬に吠えられる事もないんだ!こんなチャンス…こんなチャンスはよぅ…うっ..うっ…」
もはや最後は言葉になっていないほどのレジェンド団長のアツい情熱。
溢れ出る涙と嗚咽が止まらない。
この団長の言葉に感動した日本選手団。
若い選手の中には甘ったれた発言をした己の不甲斐なさに涙する者までいる。
危うく赤岳の最後の罠「ヌクヌク選手村大作戦」によって心を持って行かれる所だった。
しかし団長の涙の演説にて再びやる気を取り戻したご一行。
2日目は、エキシビジョンの途中で金メダルの授与式も予定されている。
彼らはそれぞれの思いを胸に眠りについた。
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2日目の朝が来た。
もちろんこの時点で早くも王者の威厳を見せつける者がいる。
それは神経質な低血圧兄妹こと、低血圧Mちゃんとレジェンド団長。
二人はこの時点で「ほとんど寝れなかった」という仕込みマゾを完成させていた。
団長に至っては睡眠薬まで飲んだのに寝れなかったという徹底っぷりで、激しい体のだるさが絶妙だ。
そして前日から長時間かけて仕込んで来たランボーNの状態も厳しい。
ただでさえもたれていた胃に、数年ぶりに食べた苦手食材「サンマ」を投入させて、彼の胃腸は絶望的な状況に追い込まれている。
やはりメダリストのマゾリスト達は、朝からの仕上がりがひと味違っている。
そして彼らは起き抜けに、突然こっくりさんような「闇の儀式」を開始。
黒魔術でマゾ神でも呼び出そうとしているのか?
さにあらず。
彼らは早朝出発のため、事前に朝食弁当を頼んでいてそれを食っているのだ。
もちろん朝4時に起き抜けからヘビーな弁当を胃に流し込むのは至難の業。
当たり前だが、これにてランボーNは早くも胃袋マゾ沸点に到達。
出発準備をする頃には、彼の目からはすでに光が失われている。
まさに死んだサンマのような目をして、無感情でアイゼンを履く廃人。
さすがは「胃もたれ界のアーティスト」と言われるだけの事はある、実に安定した佇まいだ。
そしてやる気と重い肉体とのバランス調整に苦心する他の選手達も、なんとか己を奮い立たせて準備を進めて行く。
もちろん、誰よりも早朝に弱い低血圧ガールの目からも光が失われている。
昨日のスマイルがウソのような厳しい立ち上がり。
さすがは「低血圧界のマゾンナ」と言われるだけの事はある、実に安定した佇まいだ。
お気楽なエキシビジョンのはずが、実に重々しい日本選手団のテンション。
外に出れば、雪崩直後のような光景とともに厳しい寒さが襲いかかる。
分かっていた事が、やはり厳冬期の早朝はツライ。
しかしレジェンド団長は必死に「厳冬期の嫁の罵声ブリザードの威力に比べれば…」と己を鼓舞する。
そしてまだ多くの選手が寝静まる選手村を、夜逃げするように出発する日本選手団。
夜討ち朝駆けはマゾ屋の鉄則。
稜線の会場で、メダル授与式を楽しみにしているファンが我々を待っているのだ。
こうしてついに2日目の戦いをスタートさせた日本選手団。
暗い八ヶ岳の山中をもぞもぞと徘徊し始めた魑魅魍魎たち。
まだ血圧が上がって来ない低血圧Mちゃんは、血圧が低過ぎてヘッドライトすら点灯していない。
しかし次第に思いがけないほどの「急登」になっていく道。
これに気を良くしたのか、彼女はニヤリの代わりにヘッドライトを点灯させて喜びを表現している。
どうやら無事に血圧が上がって来たみたいだ。
それと同時に後方でもテンションを上げて行く者達がいる。
ひたすらアウトドアグッズに関して、アツく議論を交わしながら登って来るシェルパブラザーズのお二人だ。
まるでアウトドアFMラジオ番組「DJシェルパブラザーズのオールマゾニッポン」を聴きながらハイクアップしているような気分。
この朝っぱらの急登タイムをゴキゲンに盛り上げてくれる二人の軽妙トーク。
このまま放っておいたら、そのまま「ランボージョンボー天気予報」まで始まりそうな勢いだ。
しかしそんな彼らのゴキゲントークが全く響かないリスナーがいる。
それがこの想定外だった大急登に対し、己のマゾと向き合い続ける低血圧Mちゃんだ。
文三郎に続き、またしても一歩一歩のリーチが合わずに大苦戦を強いられている。
彼女はこの早朝のエキシビジョンですらお茶の間に感動を届けてしまう。
もちろんこの姿に感動したリスナーから、DJブラザーズに応援のお便りがひっきりなしに送られて来る。
しかしアウトドアギアの話題にしか興味の無いこのBros.は、そのお便りを無視して「やっぱRabは良いっすよね」とOD談義に花を咲かせている。
雇われシェルパ族として赤岳登頂サポートの仕事を終えた彼らは、もう彼女を助ける気はさらさらないようだ。
一方、最後方のパパラッチは暗くて何をしているのか確認できない。
きっと夜陰に紛れて、アイドル歌手が若手スポーツ選手のマンションから朝帰りする現場を押さえようと目を充血させて狙っている事だろう。
そして硫黄岳までの道を完全になめてかかっていた我々の前に、延々と続く地味極まりない急登パレードの嵐。
メダル授与の会場までの、中々にマゾが満ちあふれた楽しい道のり。
やがて空が白み始め、静謐な雰囲気で我々の登場を厳かに迎え入れ始める授与式会場。
昨日日本選手団と激戦を繰り広げた赤岳さんも、優しく我々を見守ってくれている。
そして我々もその眼差しに応えるように、フンガフンガと王者らしい急登マゾを見せつける。
そして誰もが「誰だ?硫黄岳は楽勝だって言った奴は…」と文句が出始める。
このエキシビジョンのくせに、随分とハードな設定に戸惑いが隠せない日本選手団。
しかし徐々に空が明るくなって来るにつれ、辺りの景色は絶景度を増して行く。
まさに徐々に八ヶ岳のカーテンが上がって行くよう。
しかしそれと同時に胃酸のカーテンも上げて「Majiで嘔吐な5秒前」のランボーN。
数々のサバイバルな現場を生き抜いて来た彼だが、さすがにサンマには勝てなかったようだ。
ワイルド野郎の彼の胃は、その見た目に反して非常にデリケートなのである。
今彼に必要なのは、絶景よりも大正漢方胃腸薬である。
そしてそんな日本選手団に対し、まだまだ終わらない急登歓迎セレモニー。
やがて朝の弁当をリバースしそうになった頃。
ついに我々は金メダルのメダル授与式会場に到達。
そして会場は静寂に包まれる。
やがて我々の登場と同時に「日の丸」の掲揚の儀式がスタート。
日本選手団も胸を張って入場。
そして位置に付き、
選手全員で国歌斉唱です。
まーぞーがーあーよーおーわー(マゾが代は)
あーめーにー あーらしーに(雨に嵐に)
どーえーすー よーめーのー(ドS嫁の)
どーれーいーとー なーりてー(奴隷となりて)
おーきーのー すーううーむ まーでー(お気の済むまで)
感動の涙が止まらない。
会場からは雨のような拍手が降り注ぐ。
そして隣で微笑む銅メダリストの阿弥陀岳さん。
さらには我々の健闘を称えて握手を求める、銀メダリストの赤岳さん。
まさに翼を広げるように我々を包み込む戦友の二人。
素晴らしいメダル授与式。
やる気のない体に鞭打って、無理して登って来た甲斐があったってもんだ。
まあ、実は本来のご来光ポイントまで到達できずに「間に合わなかった大失敗」だった事は触れずにおこう。
さあ、無事にメダル授与式も終わった。
次はこの会場に詰めかけた人々に贈るエキシビジョン。
硫黄岳山頂に向けて、再び歩き出す日本選手団。
相変わらずの急登と、この頃から風も吹き始める。
お気楽なエキシビジョンのはずだが、なんだかやってる事は昨日とあまり変わらない。
やがて「赤岩の頭」という、本来のご来光ポイントにようやく到着。
ここから右側を見れば、これから挑む硫黄岳への素敵な道のり。
そして逆側を見れば、モーレツ大絶景がご登場。
もう昨日に引き続き、レジェンド団長のパンツはたちまちビショ濡れ。
もはや歴代の名女優達が全裸で並んでいるかのようなこの豪華さに、団長の前屈みが止まらない。
他の選手達もただただその絶景を前に立ち尽くすのみ。
ジョンボーAに至っては、天高く拳を突き上げ「我が生涯に一片の悔い無し」と叫んでいる。
これぞ素敵なエキシビジョン。
メダルの重圧から解放され、やっと素の表情で浮かれ始める日本選手団。
感慨に耽るレジェンド団長。
思えばこのブログをやり始めなかったら、きっと一生出会う事がなかったであろう仲間達。
去年までの雪山は一人きりのロンリーマゾプレイばかりだった。
ソロスタイルも大好きなんだが、このような集団マゾ遊戯も悪くない。
さあ、あとはもう何の心配もないエキシビジョン。
もう「まさか」なんて起こりえるはずが無い、浮かれビクトリーロードの始まりだ。
このリラックスした選手達の演技に、観客もため息まじりで見とれている。
優雅に奏でられるノクターンの調べに乗って駆け上がる日本選手団。
ふと横を見れば、風が作った素敵な芸術「シュカブラ(風紋)」。
そして硫黄岳の稜線の先にには、あの人まで祝福に駆けつけてくれた様子。
我らの盟友、モクモクさんだ。
いつもはここから溢れかえって、我々から景色と色彩を根こそぎ奪って行く彼。
しかし今回ばかりは迷惑にならない所から美しく見守ってくれている。
そしていよいよ演技はエンディングに向かって美しく進行されて行く。
やがてレジェンド団長の目に、平らな硫黄岳の山頂が目に飛び込んで来た。
エキシビジョンのフィナーレに相応しい、美しきスケートリンク。
そしてそこに優雅に滑り込んで来るリンクの妖精達。
もう待ちきれないファンからの花束がいくつかリンクに放り込まれる。
この集団浮かれポンチ達に対して惜しみの無い拍手が降り注ぐ。
そしてこの山頂リンクでまずはパパラッチKの演舞。
彼は静かにリンクの周回を始め、得意の表現力で観客を魅了する。
そしてビシッと決めポーズ。
これには女性ファンからの黄色い悲鳴が止まらない。
北アルプスをバックに、お前のハートは全てお見通しだと言わんばかりのポーズに失神する女性が続出だ。
彼がスクープするのは芸能人のスキャンダルだけではない。
彼はそのバズーカレンズで、常に理想のお嫁さんを捜す事にも手を抜かない男なのだ。
そしてパパラッチKからバトンを受け取った低血圧Mちゃんも美しく舞い始める。
彼女はすかさずランボーNとペアを組み、氷上でムーンウォークを披露。
そしてMちゃんから離れたランボーNが、そのまま月面クレーターのような噴火口すれすれの男らしいスケーティング。
そして後方からは、華麗なステップをしながら弟のジョンボーAが優雅に滑り出す。
もう観客のボルテージは最高潮。
そして最高の瞬間のために、彼らは硫黄岳山頂標識がある「キス&クライ」に向かって行く。
この「キス&クライ」で、最高の登頂記念写真を撮って初めてこの「ノーまさか」の完璧なエキシビジョンが完成する。
そしてもちろん、この最後の名誉ある撮影係に任命されたのは選手団団長のこの男だ。
風が強いから三脚が立てられず、必死で岩での固定を試みる。
そして石を挟んでレンズの高さを上げるべく、調度良い大きさの石を手探りで手に取る。
しかしそんなレジェンド団長の手に摩訶不思議な感触が襲いかかった。
岩を掴んだはずだったが、何やら妙に柔らかな触り心地。
不審に思った団長は、その手の先を凝視してみる。
こ これは…。
いや..そんなことあるはずがない…。
もう一度目をこすって拡大してみる。
そんな馬鹿な!
もう一度言う。
そんな馬鹿な!
なぜこの標高2,760mの世界にこのような物体が?
そしてなぜその一点にピンポイントで手を差し伸べてしまったのか?
この広大な八ヶ岳の、このわずか一点に何故?
感じなくていいはずのこの「生の息吹」に愕然とするレジェンド団長。
「キス&クライ」を目前にした、まさかすぎる「クソ&クライ」が炸裂。
この快挙に対し、観客からは「待ってました!」「やっぱりあんたはレジェンドだ!」というヤンヤの喝采。
しかしこれこそがこのチームの目指した最終系。
浮かれた果てにある到達点。
美しいばかりじゃマゾじゃない。
これこそが我らが日本選手団なのである。
何気にうんこを触った手がジョンボーAの背中に行っている所にも注目したい所だ。
しかしサービス精神旺盛な彼らのエキシビジョンはまだ終わらない。
この先の下山で、さらなる素敵な罠に自ら落ちて行く者達が続出する。
何気に今回の旅で、最も危険な脱出劇が始まる。
そして選手村から先はおマゾパレードで沿道に詰めかけた人達へ金メダル報告。
まだまだマゾどもの愉快な変態行為は止まらないのだ。
ヤツオリンピック・硫黄岳 後編へ 〜つづく〜
ヤツオリンピック・硫黄岳前編〜魅惑の山頂トラップ〜
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MATATABI BASE
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