標高2,956mで神に祈りを捧げるこの男。
男の名は「ゲリM」。
まさかを楽しむアウトドアマゾ集団「チーム・マサカズ」の発起人だ。
しかしここ数回のチーム活動にゲリMの名はなかった。
さすがに毎回ゲリで参加出来なかったわけではない。
彼は8月の国家試験に向けて猛勉強中だったのだ。
そして今回、無事に国家試験が終わった事で正式にチーム復帰。
そして「ゲリMお疲れ登山」と銘打って、精神的抑圧から解放された彼を今度は肉体的に追い込んでやろうというのが我々の目的だ。
とは言え「復帰直後だから軽めの山を」という要望を出して来た彼をそんなに無理をさせる事は出来ない。
そこで僕がチョイスしたのは「木曽駒ヶ岳(2,956m)」。
ここはロープウェイで2600mまで上がって行けるから、お気楽に3000mクラスの登山が楽しめる場所。
しかし我々はあくまでもアウトドアマゾ集団。
すんなりピークハントして帰って来るわけがない。
山頂から縦走したのち、一度8合目まで降りて再び登って来るという男前な周回コースをチョイス。
軽めの復帰登山を期待しているゲリMを一気に追い込んでみせる。
そして結果はいつもの様に素敵な「まさか」が溢れるマゾ登山となった。
ある者は高山病の頭痛と戦い、ある者は恐怖で弱って行き、ある者は神隠しにあって姿をくらます。
天候もいつも通りの展開となり、ゲリM復活祭に恥じない登山となった。
今回のメンバーはゲリMとアゴ割れMとオギKと僕の4名。
それではそんな悲しい4人の男たちの楽しい楽しい登山を振り返ってみよう。
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早朝4時。
この時間にして駒ヶ岳ロープウェイの駐車場は大混雑だ。
そしてこの時点で早くも僕は最悪な体調を楽しんでいた。
僕らは前日入りして車中泊していたんだが、なぜかアゴ割れMが頼んでもいないのにクーラーバッグ持参で大量のビールを持って来ていた。
明日に備えてさっさと寝なくてはいけないのに、夜中の1時になんてものを登場させるんだ。
結果、咲かせてはいけないのに学生時代の思い出話に花が咲いてしまい貴重な睡眠時間が削られて行く。
そして酒を飲んだ後に車内で寝ようとするが、いつものように僕は寝付きが悪い。
毎度のごとく睡眠薬で強制スリープ状態にするんだが、やはり酒の後というのがよろしくない。
やがてやっとこさ眠りに落ちようとした矢先、誰かの車の防犯ブザーが高らかに鳴り始める。
僕を強制的に眠らそうとする睡眠薬と、そうはさせじと延々と鳴り止まない防犯ブザー。
僕は苦痛にまみれた泥のような意識の中、寝たのか寝てないのかよく分からない状態で朝を迎えた。
こうして本日もマゾ野郎にとって絶好のコンディションが仕込まれた。
この状態が後々僕を更なるマゾへと追い込んで行くことになる。
戦いは山を登る前から始まっているのだ。
そしてさすがは人気の山、バスに乗るのも始発の1時間前から行列だ。
あんまり時間がかかるから僕はゲリMに荷物を預けてトイレに行った。
登山前に余計な茶色い荷物を切り離して計量化を図る大事な作業だ。
男便所と言えど並ばなくてはならない。
やっと僕の出番となり、急いで荷物を放出しようとしたが「バスッ、バッスゥゥゥ」というジョジョ的な音しか出ない。
踏ん張っても踏ん張っても肝心の荷物が出て来ず、ガスだけが音とともに排出されるだけ。
外には多くの人が並んでいるだけに、恥ずかしさと焦燥感が僕を包み込む。
すると便器の外からも「バスッ、バッスゥゥゥ」という音が聞こえる。
なんと外でアゴ割れMが「おぅい、いるか?バス、バスが出るぞー!」と言っているではないか。
僕は荷物放出を緊急放棄し、急いで駆け出してバスへ向かう。
何とかバスには間に合ったが、結果的に僕はわざわざ並んでまで皆の前で屁をこいて帰って来ただけという悲惨な結末となった。
本日も見事なスタートダッシュが決まったようだ。
バスでロープウェイ乗り場に着いて再びロープウェイ待ち。
ここで僕はメンバーに自慢げにこいつをご紹介だ。
ちょっと前にブログでご紹介した新相棒登山靴「マムートさん」だ。(参考記事)
今回はこの硬派なスイス野郎のデビュー戦でもある。
少々高かったが、今後の快適な登山を金で手に入れたと思えば安いものだ。
もう今日からは靴擦れとは無縁の登山が始まるのだ。
この時点ではそう思っていた。
神は男の「浮かれ」を決して見逃さない。
後にこのマムートさんが、この憐れな男を肉体的にも精神的にも追い込んで行く事になる。
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やっとロープウェイに乗って、一気に2600mの千畳敷へ到達。
いきなりの森林限界の世界。
かつてこんなに一気に高度を上げて来た事がないから、若干戸惑いがある。
しかし本日はゲリM復活祭にふさわしく「大快晴」。
近頃僕は快晴後の代償請求におびえて、快晴に対してすっかりデリケートになっているがやはり気分がいい。
今日はただただ楽しいだけの登山が楽しめそうだ。
出発前の記念撮影もとても平和な空気に包まれている。
しかし彼らはまだ知らない。
この後には「いつも通り」の濃厚なマゾの世界が待ち受けている事を。
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神社にお参りしてからの出発。
今思えばこれが自殺行為だった。
これは神様に「僕の存在」を自ら知らせる行為。
天に愛されない悪天候男が最もやってはならない事だ。
真っ赤な服を来て猛牛の集団に突っ込んで行くような行為だった。
そんな事も知らないのんきな四人が、快晴の千畳敷カールを突き進んで行く。
いやあ、気分がいいねえ。
浮かれてロロノア・マゾまで登場する始末だ。
まあ、浮かれてると言っても「まさかのリコール」によって左右別々のトレッキングポールを使う事になった腹いせ写真なんだがね。(参考記事)
おい、見てるかレキの社員よ。
君たちのリコール製品のせいでこんな悲しい思いをしている男が日本にいるんだぞ。
なんとかしてくれよ。
それにしても人気の山だけあって登山者がうじゃうじゃいるぞ。
僕は周りにも迷惑をかける悪天候男だから、今日は晴れて本当に良かった。
皆さん、今日は存分に登山を楽しみましょう。
さあ、僕と一緒にレッツ・エンジョイ登山。
そんな浮かれ心を合図に、ついに神の反撃体勢が整った。
何やら僕は背中にいつもの殺気を感じて振り返る。
呼んでもいないのにいつも現れるアイツ。
ちょっとでも浮かれるといつも現れるアイツ。
そしていつも僕だけを愛してくれるアイツ。
アイツは今日も思いっきり僕に抱きついて来た。
あっという間にアイツの優しさに包まれる。
ついさっきまで大快晴だったのに、一気に周りはダークな世界へと引きづり込まれた。
ああ、出だしの20分だけが我々に許された日光だったのか。
のんびりした陽気な世界が、瞬く間に悲壮感に満ち満ちた世界へと変貌を遂げてしまった。
マゾなメンバーはともかく、他の登山者になんと言ってお詫びすればいいのか。
いっそこのリコールポールで腹かっさばいて許しを請いたいがそうもいかない。
同じ日に僕と同じ山を登ってしまった己の不幸を呪うがいい。
さあ、短かったがレッツ・エンジョイ登山はここまで。
ここからは魅惑のレッツ・エンジョイ・マゾタイム。
結局落ち着く所に落ち着いただけの事。
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急登を乗り越え、「乗越浄土」という名の稜線まで到達。
辺りは一気に開けて素晴らしい眺望が広がり、南アルプスなどが一望のもとだ。
という想像を膨らませる四人。
今までの修行登山で「想像する」という特殊技術に磨きをかけて来た甲斐があったってもんだ。
景色は見るもんじゃない、想像するものなんだ。
オギKに至っては、こんな状況にも関わらず想像だけでこんなにも楽しそうだ。
実は彼は行きの車の中で、Podcastの爆笑問題の下ネタを聞きながら興奮したって話をして喜んでいる。
もはや彼は景色を通り越したものまで想像する力を得てしまったようだ。
一方で天を仰ぎ、苦痛に顔を歪めているのは僕だ。
彼は心眼で南アルプスの絶景を堪能しているわけではない。
実は彼は人生で初めての「高山病」を絶賛堪能中なのだ。
正直僕は高山病にはならないものだと思っていた。
しかし昨夜の酩酊朦朧車中泊による寝不足と、ロープウェイで一気に高度を上げた事の合わせ技一本。
とっさの悪天候マゾには順応出来るが、急激な高度順応に見事に対応出来なかったのだ。
ちょっと酔っぱらったような状態で、軽く頭痛と気持ち悪さが続く。
フラフラと木曽駒ヶ岳山頂を目指す座頭市。
前回の槍ヶ岳で「ミスター高山病」ことバターNの事を散々に書いたが、まさか僕も高山病になるなんて。
これが彼の住む世界なのか。
彼はこんなにも楽しい世界の住人だったのか。
なんだか僕ばっかりマゾを楽しんで皆に申し訳ない気持ちで一杯だ。
一方で有り余る体力をいつも持て余す「歩く精力」ことアゴ割れM。
精力が溢れすぎた彼は、何故かトレイルランナーに付いて走って行ってしまった。
そして時間が経つとまた走って戻って来る。
なんて落ち着かない男だろうか?
そして前方に山ガールを発見すると再び走り出すアゴ割れM。
ガール達を追い抜いて、僕らを待つ振りをしながらガールの顔をチェックするソツのなさ。
この男は一度「血抜き」でもしとかないと大人しくなれないのかもしれない。
しかしそんな彼には自前の「ストッパー」が搭載されている。
興奮しすぎると、彼のケツから「イボ」がひょっこりと顔を出す。
そして痛みで彼の動きは止まる。
うまい事出来ている。
その後も木曽駒ヶ岳山頂を目指し、黙々とモクモクの世界を登り続ける男達。
しかし高度を上げるほどにテンションを下げて行く男が一人。
高山病のあまりの素晴らしさに、すっかり言葉を失って喜びを噛み締めている。
高山病がこんなにも楽しいものなんて知らなかった。
そしてもう一つ、彼のテンションを下げる事に一役買っている奴がいる。
それは彼のおニューの登山靴「マムートさん」だ。
さすがに値段が高いだけあって靴擦れがない。
フィット感も実に素晴らしい。
しかし過剰にフィットしすぎたのか、小指の付け根の骨が出た所がとても痛いじゃない。
最初は頑にその痛みを認めようとしなかったが、もはや認めざるを得ないほど明らかに痛い。
それは靴擦れの痛みというか、「打撃系」の痛み。
トンカチで骨の部分をコンコンコンと叩き続けているかのようなニュータイプの痛みだ。
考えないようにしていたが、「靴が足に合っていない」という驚愕の事実を僕はついに受け入れた。
正直足よりも僕の心が激しく痛い。
今後ずっとこの硬派すぎたスイス野郎とともに僕は登山人生を歩んで行くのか。
僕は高山病で薄れゆく意識の中、悪魔のようなマンモスの笑い声を聞く事しか出来なかった。
そんなボロ雑巾のような僕の姿を見て、さすがの神も憐れに思ったのか。
少しだけ景色を「チラ見せ」してくれた。
まるで薄目を開けて景色を見ているようだが、少し見れただけでも大満足だ。
景色なんてこのくらい見えれば上等だ。
全裸全開の節操の無い女より、真面目なオフィスレディーが髪をかきあげた時にチラリと見せるうなじにこそ奥ゆかしさを感じるものだ。
そうゆう事にしておこうじゃないか。
やがて山頂を捉え、青空に向けて必死で高度を上げていく高山病男。
そしてついに木曽駒ヶ岳山頂に到達。
頭と足と心を痛めつつの歓喜の瞬間を迎えた。
しかしこれは歓喜のバンザイではなく、あまりのしんどさに「もうお手上げ」という状態。
お気楽登山の木曽駒ヶ岳でも、いつも通り見事なマゾっぷりを披露するあたり流石は歴戦のマゾ。
そしてひとまず木曽駒ヶ岳山頂制覇です。
おや?と思われた方も多いだろう。
「ゲリM復活祭」と銘打った割には、ここまではただの「一人マゾ祭り」じゃないかと。
ゲリMを追い込むと言いながら、追い込まれてるのはお前じゃないかと。
そもそもゲリMが全く出て来なかったじゃないかと。
僕のようなプロになると、今回のように登山前からフルスロットル・マゾで楽しむことが出来る。
しかしアマチュアマゾの彼らには多少時間が必要だ。
さあ、ここからはいよいよ稜線歩きから美しい池を経由した大周回コース。
ついにゲリMが悲鳴を上げてゲリにまみれるのか?
そしてこの中の一人が「神隠し」にあって物語は急展開。
謎が謎を呼ぶミステリー。
悲壮感たっぷりの後半戦開幕。
まだまだ奴らから目が離せそうにない。
木曽駒ヶ岳 後編へ 〜つづく〜
木曽駒ヶ岳 前編〜ゲリM復活祭〜
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MATATABI BASE
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木曽駒すごい人ですね!
さすがはお金で高度を買える山!(笑)
先輩のような強者アルピニストでも高山病になるんですね!?
きっと色んなものが重なってなったことと思いますが、マゾニストには堪らないご褒美ですね!(笑)
また、一番恐れていた「マムー様の呪い」・・・((( ;゚Д゚)))
高額なだけに呪いの威力も半端ないっすね!!
http://drscholls.jp/products/036.html
↑これおすすめです。僕はSIRIOの呪いで下山時の靴擦れがひどかったんですが、改善されました。
本来、靴の内側に貼るものの様ですが、僕は足に直接貼ってます。
ゲリM先輩の行く末が気になります!
P.S. ロロノア・マゾのリクエストにお答えいただき、ありがとうございます!(爆)
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高山病は全くの予想外でした。
でもマムーの裏切りの方がさらに予想外だった。
価格の分だけ取り返しのつか無さが凄いハードに精神をえぐって行くね。
ちょうど今日好日山荘に預けてあったレキのリコールポールを回収に行って来ました。
その時マムーの呪い対策に似たような商品を紹介されて購入。
早速明日富士見台・横川山にて試して来ます。
店員曰く、もう半年は我慢して使ってみた方が良いとの事。
それでもだめなら、幅広にする加工が可能ってお話でした。
まだお互いに手探り状態だけど、マムーとは良い長い付き合いにして行きたい。
じゃなきゃ困る。
ゲリMは次回、城西魂を発揮して素晴らしい姿を見せられると思います。
アツい先輩の姿を焼き付けてくださいね。
ロロノアは突然僕らの前に現れました。
僕も彼に出会えて光栄です。
彼はしきりにレキ社に対してグチを言い続けていました。
可哀想な男です。