初日は濁流にまみれ、二日目は激流と病魔の狭間で揺れた小歩危ラフト。
我々の中に「そろそろ清流でのんびりとカヌーがしたい」という欲求が高まっていた。
しかしその点、今回の四国旅の敏腕コーディネーターの僕としては抜かりはなかった。
抜かりはなかったはずだった。
裏切りの宿星を戴く、あいつが現れるまでは。
那賀川、吉野川と来て3本目にチョイスしたのは「穴吹川」。
まさに僕の中では満を持しての登場で、絶対に皆に堪能してもらいたかった「THE清流」。
以前にも紹介した通り、現実的じゃない程の良い女としてユリアに例えて絶賛した四国一の清流だ。(参考記事)
しかし今回、我々の目の前に現れた穴吹川にはユリアの面影はなくなっていた。
清流ユリアが三日前の雨によるまさかの激流化で、「南斗紅鶴拳のユダ」へと変貌を遂げていたのだ。
そんな妖星のユダとの戦いの記録を、2回に分けて振り返って行こう。
前編の今夜は、本格的なユダとの戦い前のプロローグです。
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朝。
僕は明らかな体の異変で目が覚める。
鼻の奥と喉が激しく痛み、体は熱っぽくて凄まじいほどの倦怠感。
実に分かり易く僕に襲いかかってきた「風邪の諸症状」達。
連日の冷水川下りと寒風ダッチナイトの傷跡からついに死国の病魔が侵入して来たようだ。
僕はもそもそとテントから這い出る。
そこに展開されていたのは、この旅で最高の快晴の世界だった。
これはイヤミなのか?
寄りによってこんな体調の時に晴れるなんて。
快晴を得るにはこれほどの犠牲を払わねばならんものなのか。
何やら悔しいが気を取り直す。
せっかくの快晴に体調が悪いだの熱っぽいだなどと言ってる場合じゃない。
ここは一発、朝一の快調な放便からスタートしてやろう。
僕は川原に併設してあった公衆トイレへ向った。
なんて事だ。
分身を切り離した後に突きつけられた真実。
紙がないじゃないか。
周りを見渡すとポケットティッシュが落ちていたが、残機はわずかに2枚。
こいつは朝からスペクタクルな展開になって来た。
僕は慎重に2枚のテッシュを切って4枚へとセパレートし、1枚1枚に渾身の集中力を注ぎ込みケツを拭く。
不幸中の幸いで本日の出血サービスは見送られていて助かった。
こうして僕は無事に早朝のハイレベルな排便をこなした。
今日の長い一日を予感させる、不安な立ち上がりとなった。
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みんなはまだ寝てるから、一人で周辺をサイクリングし川の状態を見に行った。
ゆっくり休んでればいいものを、晴れていると気持ちが焦って動かずにはいられないのだ。
キャンプした川原を反対から見るとこんな感じだ。
このだだっ広い川原に、キャンプしてるのはわずかに2組。
みんなGWにわざわざ混雑するキャンプ場に行かなくても、こんなに極上なキャンプ地があるんですよ。
で、肝心の川はと言うとご覧の有様。
やはりこの前の豪雨で、増水して濁っちゃってる。
この時の僕のショックがお分かりいただけるだろうか?
何も知らない人は「そこそこ奇麗じゃない」なんてことをぬかすだろう。
しかし、僕はこいつの本来の姿を知っている。
上流からミネラルウォーターを流し続けているんじゃないかというクリアウォーターの世界だったのに。
こんなのユリアじゃない。
あの豪雨から3日経っているから、ユリアの力を持ってすれば回復していると踏んだんだが。
やはり川の回復力が落ちて来ているんだろうか?
このままでは僕はみんなから「ウソップ」呼ばわりだ。
僕の名誉の為にあん時のユリアの写真をここに載っけておく。
これこそユリアの本来の姿なのに。
期待を大きく裏切られた。
ユリアだと思って抱きついたら、筋肉ムキムキの厚化粧のユダでしたという驚愕度。
さすがは裏切りの宿星のユダ。
せっかくの晴天なのに、清流は濁流で僕の平熱は微熱と化す。
あまりにも悔しすぎる。
本日もバッチリと起き抜けからの一人ガッカリを楽しんでテントへと戻った。
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もう風邪だろうがユダだろうが、ここまできたらこの晴天を堪能するまでだ。
晴天時に焦燥感に支配される僕は誰にも止められない。
僕はまだ寝ている人間を叩き起こし、皆がテントを乾かしている間に時短の為に一人で全員分の朝食をマックに買いに行く。
わずかな時間も惜しい。
急がないといつ天候が崩れて、僕の体調も粉々に崩れていくか分かったもんじゃない。
早々に撤収作業を済ませ、スタート地点の白人神社下の川原へと移動。
ここが神社脇の川へ降りて行く道。
ここにある宮崎駿風の穴吹の「A」マークが目印だ。
でも、川原までは車で降りれないから途中のスペースに車を停めてカヌーを運びます。
ふと、穴吹川を見てみる。
何やら増水して、清流穴吹川が「激流化」している気がするぞ。
以前来た時は渇水気味で、僕はこの川をほとんど歩いて下ったものだが、本日は随分と荒れていらっしゃる。
もうあの頃の面影は全くなく、見事にユダに支配されてしまったようだ。
ここでやっと登場するのが「清流用」として持って来たカナディアンカヌー。
本来は静水域を優雅に漕ぐもので、決して激流のユダと戦う為のものではない。
ましてや大人三人で乗るものでもない。
試しにやってみたんだが、その不安定感はかなりのスリルを味わえる。
しかし悪ノリは続き、四人でのトライ。
「仕掛けた罠に大ウナギがかかっているかを見に行く原住民」と旅行者たち。
約一名、先頭に裸体の原住民が乗っているように見えるがこれはバターNだ。
まだ着替え前なのに落水の危険がある遊びが始まってしまったので、いっその事脱いでしまったのだ。
あれこれ準備しながら遊んでいると、地元のおっちゃんが話しかけて来る。
「てっきりなんかの撮影してるのかと思ったよ」と言われてしまった。
裸体でカナディアンカヌーに荒々しく乗る男のグラビア撮影会とでも思ったんだろうか?
我々は月刊さぶの関係者と思われたかもしれない。
実は色々あって、まだスタートしてないのにずっとこの場所で遊んでいた。
なんとあんなに早く起きたにも拘らず、昼の1時からのスタートになってしまった。
本日も初日に続き昼メシ抜きで、朝マックだけで今日一日を乗り切ることになった。
実はこの時点で僕の体調は、良くなりそうな予感ゼロの絶望的な下り坂を転がり始めていた。
それでも、せっかくの快晴を無駄に出来ない。
こうして死国3本目の川下りが始まった。
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前回は水量がなくて苦労した区間も、増水によりスイスイと流れて行く。
やはり四国随一の川、穴吹川。
たとえ川が濁っていても、その優しげな雰囲気と周りの景色が雄大で気持ち良い。
味わい深い沈下橋が「ようこそ」と出迎えてくれる。
しかし、僕の気分は沈下橋よりも沈下してした。
体がしんどすぎて中々浮上出来ない。
「晴れている」という事が、逆に僕を「せっかく晴れているのに」という気分にさせて気持ちをへこませるのだ。
でもここは、沈下橋恒例の橋の上からの撮影会でテンションを無理くり上げてやろう。
こういう写真が撮れるのが沈下橋ならではだね。
そして再びここでも悪ノリが始まる。
晴れていると何か人間の大事な線が緩んでしまうようだ。
よせばいいのに再び四人乗りカナディアン。
先頭を漕ぐ僕だけが必死だ。
今ここで沈してこの冷水に身を預けた瞬間に、僕の旅はゲームオーバーになってしまう。
ホイミすら使えない状態でラスボスに挑んで行くドラクエパーティー気分。
先頭を行く勇者の残りHPはわずかなオレンジ色状態で、「いてつくはどう」ですら食らったら死んでしまいそうだ。
ここまでは、中々のんびりとしたカヌーを満喫出来ている。
しかしここまではまだユダは本当の実力を出して来ていない。
ここからが「裏切りの宿星」と言われるユダの真骨頂。
この先は「UD」の焼印が入ったアップダウンの瀬が押し寄せる。
この先、清流穴吹川が増水によって激しい激流に変貌している事をこの時の僕らは知る由もない。
何も知らない陽気な四人と病人一人が穴吹の黒い穴に吸い込まれて行った。
ある者は静かに川に転落し、ある者は人命を救助し、またある者は最後に力尽きてしまう非情なる穴吹の世界。
そこは体温38度オーバーの夢のマゾワールド。
男の朦朧度が加速する。
〜激流どうでしょう、最終夜へつづく〜
激流どうでしょう第4夜〜裏切りのユダ〜
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MATATABI BASE
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お疲れさまです。
このあたりは、ブログを読み始めたころ新記事より旧記事へ進んでいった頃です。
このシリーズも興味深いというか、文学的な何かを感じます。
原住民が先頭に載っておる写真ですが、千載一遇のチャンスでしたね。
川を下るときはインディージョーンズになりきって下りたくなってきました。
渦に巻かれたお話は、大変でしたね。
以前一緒に犀川を下った仲間が途中岩飛びをしたんですが、カッコよくダイブし「らっこだよ~」と流れてゆくではあり居ませんか!
でもエディからカレントに出るとその岩で生まれた渦がゆっくり迫ってくるんですよ。
ゆっくりとその渦が頭にヒットして「じゅぼ」って渦仲に消えたんです。
そのあとすぐに王様がレスキュウへ出発、あまりに遅い動きで被災者は自力で渦から解放されたす明かりました
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hamatoshiさん、どうもです。
着々と遡上し続けているようで、改めて感謝感謝です。
この激流どうでしょうシリーズは、個人的にかなり印象深い旅となりました。
まさに燃え尽きるまで遊び倒した感があって、同時に老いも感じてしまいましたよ。
バターNは時折裸体でうろつく事があるので、常に注意が必要です。
その渦に巻かれた人の気持ち、非常によく分かります。
そのうち出てくると思いますが、僕も一度長良川でアンダーロックに「じゅぼ」って体を持って行かれて、友達とともに人間洗濯機を楽しみました。
まあ人間、早い段階で死なない程度に川の怖さを体感しておいた方が今後の為です。
ただその一緒に洗濯機に入った友達は、以来水恐怖症となってカヌー界から引退しましたけど。
川って怖いスネ。
でもやめられないんスよねえ。
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引き続き・・
御岳なんですけど、放水口よりDRしまして、途中ラフト軍団に追いつきました。
ちょっとまって、先に行ってもらったんですが、中洲状の部分がありラフトが葦の向こうで見えないんですよ。まず1艇からジェットコースターのような絶望絶叫が聞こえてきました」。そしていいタイミングで2艇目がやはり絶望的な絶叫をあげています。
私の記憶だと、そこには何もないはずなんです。何故そんな絶望的絶叫をあげるのだ。
と思い少し先を行く仲間の船では目を丸くしてしっかと見つめているじゃありませんか!。
私の知らない瀬だかホールだか、ラフトを揺るがす何かがあったのだと、心を強く持ってそのカーブを抜けました。
そしてなんとそこには!パドルを一斉に垂直にあげ鼓舞している姿がありました。
え~!絶望絶叫悲鳴に聞こえたじゃん・・・
ということがありました。
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あれはあれで紛らわしいですね。
ラフトではお約束とは言え、見えない場所でやられると僕のようなチキンはたちまち恐ろしい想像が働いてしまいます。
まさに和知野川の夜と同じですわ。
ぜひ今度はやりかえしてみましょう。
何も無い所にいきなり全裸カヌーで登場して悲鳴を上げさせてやればいいのです。