発熱強行軍で突入した穴吹川。
激流疲れの我々が求めた清流は、「アナブキよお前もか」と言ったまさかの激流ブルータス状態。
ユリアの川は裏切りのユダに支配された。
時は20XX年。
そこは暴力と激流と発熱が支配する混沌の世紀末。
新たな救世主伝説が始まるのか、それとも悲しみの敗退伝説で終焉の時を迎えるのか?
哀愁の穴吹川、後編です。
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増水で小濁りの穴吹川だったが、沈下橋までは非常に穏やかなツーリングだった。
しかし突如としてユダの親衛隊達が襲いかかって来た。
今回「ここは穏やかな川だから」と僕に促されて、初めてソロでダッキーを操る事になったダッチャーSに非情な試練が訪れる。
彼は僕にコーディネートされるままに那賀川では渦にまかれ、今回穏やかな川と紹介された穴吹川で一人で激流に突入させられる羽目になってしまった。
しかしそれが我がマゾ塚カヌースクールの生徒の育て方。
彼も期待に応え、見事なドリフトで瀬と岩壁を乗り切った。
しかし彼の顔に笑顔が見当たらない。
僕が彼の立場なら同じ表情だったことだろう。
さらに「ここは穏やかな川だからカナディアンカヌーで優雅に行きますか」と促され、優雅に瀬に突入するB旦那とバターNコンビ。
彼らはたおやかに瀬を乗り越えて、その先のエディーで捕まり優雅に水没して行った。
マゾ塚カヌースクールの教えを忠実に守った男達。
穏やかなはずだった川でのまさかの沈がこの先の不安を煽る。
以前僕がカヌーを引っ張りながら歩いて下った区間が、ことごとくユダ化している事を認識した。
ユダ親衛隊に「UD」の焼印を刻み込まれて、二人はすっかりユダに忠誠のポーズだ。
恐ろしい。
絶対に僕は沈しないぞ。
しかし親衛隊達の波状攻撃は続く。
前方で穴吹川には似つかわしくない轟音が聞こえたので偵察。
結構な隠れ岩と勢いのある瀬。
小歩危に比べたら赤ちゃんのような瀬だが、安心を金で買っていない分その緊張感は小歩危を上回る。
そんな瀬も果敢に静水用カナディアンで攻めて行くマゾ&バター。
陽気にガッツポーズしている男は、実はこの時点で体温38度くらいのヒートアップ状態。
まさに己の体を限界までいじめ抜いてユダに戦いを挑んだ、南斗水鳥拳レイのようなこの男の覚悟。
トキに最後の秘孔を突かれているから、僕はまだわずかだけ戦えるぞ。
(北斗の拳を知らない人には訳が分からないと思うが、気にせずに突き進みます)
続いてダッチャーS&B女房。
思いがけず激流にまみれる事になってしまった男と、骨折疑惑のある女の果敢なるパドリング。
そして、B旦那が僕のゴエモンで突入。
ゴエモンは船体が軽いから、このようなアッパーロデオを提供してくれる暴れ馬だ。
とんだ利かん坊だが、今回の旅で僕は決定的にゴエモンの事が好きになった。
散々悩んで買ってほんと良かったよ。
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ユダ親衛隊の追撃を逃れ、ようやく一時の静寂が訪れた。
これでこそ、やっとカナディアンカヌーらしい雰囲気だ。
天気もよくて(時折突風に見舞われるが)、バターもとろけて寝漕ぎを始める。
ああ、しあわせだなあ。
体調さえ良ければ。
川原での優雅な休憩風景に見えるが、僕はもうパドルで体を支える事がやっとだ。
もう14時を過ぎて、朝マックのガソリンがきれて来てみんなぐったりしている。
今更ながら思うが、なぜこの人達は昼飯を買って来なかったのか?
そう、これが当カヌースクール名物の集団マゾ奥義「ノンチャージパドリング」。
僕は講師なので、そこに個人マゾ奥義「発熱パドリング」を加えた上級テクニックを披露。
この辺りからついに僕は弱音を吐き始め、意識の朦朧化が始まり出す。
そう、これは鎮魂の「朦朧流し」。
これから失うであろう僕の最後の魂の叫びを、本人自らで弔うビッグイベントだ。
その後も容赦ないユダ親衛隊達の奇襲が続くが、僕の記憶は正直飛んでいる。
ちなみにこのB女房の頭上にきらめく、川を横断する糸たち。
ミッションインポッシブルの赤外線の罠でもなければ、カサンドラの衛士ライガとフウガの二神風雷拳でもない。
恐らく漁協によるなんらかの目印かと思われるが、これがたまにたわんで川面付近にまで垂れ下がっている事がある。
これにカヌーのまま突っ込んで行こうものなら、それこそ南斗水鳥拳で「シャオッ」とやられた感じになるので気が抜けない。
上から糸、下から瀬、内から熱。
実にハードな三つ巴の戦い。
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ユダ本人との対決は突然やって来た。
今までの親衛隊の瀬などは目じゃない瀬に突然突入してしまった。
僕が先頭だったのでその際の写真はないが、この時は僕とダッチャーSのマゾダチコンビ。
今まで通りの親衛隊の瀬だと思っていたから、下見もせずに突き進んでしまった。
そんな隙を見逃さず、すかさずユダが水中から奇襲をかけて来た。
僕らをガツンと突き上げて、その先は落ち込みと岩壁がウェルカム体勢を取る。
この写真は後に撮ったものだが、水流が岩壁へ一直線だ。
そんな岩壁に向けて、我々マゾダチコンビは意図に反して流れに逆らう事なく突っ込んで行く。
見事にダッキーの頭から男らしく岩壁へ突入していった。
「うわー」とかの叫び声は一切なく、お互いに無言。
必死さと恐怖で、お互いの顔が引きつっているのが分かった。
そのまま岩壁に頭から激突し、車の衝突テストのダミー人形のようにガクンと体が揺れる。
必死でバランスを取る無表情のダミー人形達。
そのままダッキーの頭を起点にして、回転しながら僕らは流された。
なんとか沈は免れたが、ダッチャーSは那賀川・吉野川に引き続き、本日もこの穴吹川で激流大回転する羽目となった。
もう誰にも彼の事を初心者なんて言わせない。
彼は入校するカヌースクールを間違えてしまったようだが、誰よりも「回転する事」と「挟む事」をこの旅で学んだようだ。
無事に岸につけた我々は、急いで後続の連中にパドルを使って大きく「×」印を作ってユダの存在を知らせた。
僕はこのユダの瀬でのパワープレイで、いよいよ体調の悪化が決定的なものとなった。
もはや引退時の千代の富士のような心境で、気力と体力の限界を感じていた。
しかし、その犠牲のもとについにユダをねじ伏せる事に成功したのだ。
レイの宿星は「義星」だが、僕の宿星は「犠牲」。
ユダよ、我が胸で安らかに眠れ。
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その後もユダ親衛隊の残党を駆逐しながらの行軍。
穴吹川ってこんな川だっけか?
あの穏やかだった日々を取り戻したい。
そして僕の朦朧度と体温は右肩上がり。
もはや立っているのもやっとで、僕一人だけが「ゴールデンウィークのレジャー中」から「ゴールデンマゾのデンジャー中」のオーラを放ち始める。
食あたりならぬ、普段から日光慣れしていない男の「日あたり」状態。
そしてこれがわざわざ苦心して嫁からGW外出許可を勝ち取って、はるばる四国まで楽しみに来た男の末路だ。
一般の人はこの姿を見て「この人は楽しんでいるのか?」という疑問を持つかもしれない。
もちろん、さすがの僕でもこの状況を楽しめたら今後「マゾキング」と名乗るが、まだまだそんな器ではない。
しかしここで思いがけない出会いがあった。
以前にマニアックなニッチ雑誌「カヌーライフ」で記事を読んだ事のある、四国の川や山のガイド会社「Trip」の代表の方に遭遇したのだ。
旅先での出会いを大事にする僕としては、朦朧としている場合じゃない。
僕は渾身の空元気を発動し、一緒に写真を撮ってもらった。
悪寒の為にバターNからパドリングジャケットを借りて着ている姿が痛々しいが、中々貴重な出会いを楽しめた。
「後で遊びにおいでよ」と嬉しいお誘いがあったが、遊びに行ったら僕はそのまま彼に介護してもらう事になるだろう。
それはあまりにも申し訳なかったし、基本的に無理だった。
また今度落ち着いてゆっくりとお話がしたいものだ。
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フラフラと流されていく朦朧野郎。
すると川の岩壁に立っている子供達を発見。
そしてその下流でその母親らしき人が「その子達を助けて下さい」と言ってるじゃないか。
どうやら、流されて岩に辿り着いて立ち往生していた状態だったようだ。
正直僕の方が「私を助けて下さい」と言いたかったが、ここは一発レスキューカヌー部隊の出動だ。
まず僕が小さい方の子供二名を救出。
この子達も、まさか病人に助けられるとは思ってもいなかったろう。
その後、大きな子の方をダッチ女房コンビ(このネーミングは危険だな)が救出。
そして何気に岸に戻れなくなっていたお母さんをバター旦那コンビが救出した。
カナディアンカヌーで救出される姿を見て、僕が助けた子供達が「あっちのが良かったな」などとぬかし出す。
発熱をおしてまでの勇気ある救出おじさんに対する、子供達の心ないツイート。
フォロー損のくたびれもうけだ。
まあ、しかし人助けの後には我々の心には清々しい風が吹いていた。
こんな我々でも人様のお役に立てたのだ。
基本ただ遊んでるだけなんだが、何やらそれも正当化されたようで気分がよろしい。
意外と長い旅だったが、最後にある堰を越えて、
いよいよゴールの川原が近づいて来る。
以前に来た時は僕はここで一人きりでBBQ客の衆目に晒され、子供達に指を指されながらの羞恥ゴールだった事を思い出す。
しかし今回は仲間がいる事で堂々とゴールだ。
そして僕はフラフラと上陸し、その場に倒れ込む。
長い戦いを終えた美しき男の姿だ。
男は静かに息を引き取った。
トキの秘孔の効果が無くなって、犠牲の男は南斗の星に還って行った。
新車購入のため今回の旅が最後となる相棒のエクストレイルが、変わり果てたご主人様の姿を見てすっかり「お手上げ」の状態だ。
平熱が36度に満たない僕だが、恐らくこの時の僕は39度近い熱が出ていたはずだ。
目も当てられない旅の終焉となった。
僕の意識はほとんどなかったが、eTrexはしっかりとログを取得しています。
より大きな地図で 穴吹川 を表示
本来であれば僕はここで皆と別れて別行動を取る予定だった。
限りあるGWをフルで遊ぶ為、翌日は帰宅がてら京都の宇治川を下ってやろうと目論んでいた。
しかし先ほどの写真をご覧になってお分かりのように、僕の頭上には「GAME OVER」の文字と死兆星が輝いている。
それでもまだ「遊ぶ」と言い張る僕だったが、結局見かねたB旦那が僕の車を運転してくれて、何と岐阜まで搬送してくれた。
僕はもはや自力で死国を脱出する力が残っていなかったのだ。
ワンピースで廃船直前のゴーングメリー号が瀕死で動けないルフィを運んだように、最後のエクストレイルが動けない僕を死国から運び出してくれた感動のワンシーン。
こうして僕の念願だったGWの四国遠征は壮絶な最期で幕を閉じた。
腰痛を抱えて家を出た男が、病人となって帰って来るという悲惨な末路。
僕もたまには普通の人のような楽しいGWを味わってみたい。
でもこれが僕の生きる世界。
こうして男はいつも通りの旅を満喫し、また新たなマゾを求めて彷徨い始める。
死して屍拾う者なし。
男は再びイバラの道を歩き始めた。
激流どうでしょう 〜完〜
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〜おまけ〜
GW最終日の早朝に無事帰宅。
風邪を引いている事が分かった途端、嫁に「近寄るな」「触るな」と汚物扱いを受ける男。
頑張って帰宅した男に対する無情な罵声の嵐。
昔はちゃんと心配してくれたのに、時の流れとは残酷なものだ。
久しぶりに会う我が息子を抱きしめようとしたが、もちろん嫁によって引きはがされた。
熱が38度あるなんて言ったら家を追い出されそうだったから、僕はあくまで「風邪気味」だ「熱もない」とアピール。
だったらってことで、何故かデパートの「アンパンマンショー」に行かされる事になってしまった。
そこで下された無情な指令が「屋外ステージでの場所取り」というミッション。
野外の風が、病人の身に染み渡る。
こんな事なら無理してでも宇治川下っておけば良かった。
やがてアンパンマンが登場したが、一番助けを求めている僕に目もくれずにバイキンマンと戦っている。
今この会場で一番真っ白な顔をしているのはショクパンマンではなく僕だ。
思った以上に長いショーが終わったとき、僕はジョーになっていた。
僕だけがモノクロで劇画チックにうなだれている。
僕の風邪はこの屋外アンパンマンショーで、ついにパーフェクトな完成型となった。
僕は大人しく高熱である事を白状し、激しく怒られながら帰宅した。
そこからの先の記憶がない。
それとも自分で記憶から消してしまったのか。
今となっては分からない。
男はこの日から一週間以上、たっぷりと風邪と戯れる事になる。
男のゴールデンウィークはまだまだ終わらないのだ。
〜完〜
激流どうでしょう最終夜〜哀愁の朦朧流し〜
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MATATABI BASE
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最終話まで、仕事中に読ませて貰いました北斗の拳!
大爆笑!是非 続編 奥多摩編 長瀞編宜しくお願いします。
奥多摩編はキャンプ A奥多摩カップコース Bそのゴール白丸ゆったり C楽しい澤の井コーステニスコートまで 三つの楽しいコース在りますよ!ラフティングも勿論
写真にワンカップ写ってましたが、奥多摩近辺には東京都のくせに超美味しいお酒あります。コース中の澤の井が私のスタンダードお酒!大吟醸の般若湯セットお勧め!そしてここの酒粕の魚!最高!管理釣り場でニジマス釣って塩焼きも!
(家 近くなのですが、仕事 新木場で単身赴任 釣りしてて流れて来た奴楽しそう?でカヌー始めました。去年は、会社の奴らも巻き込んでキャンプ カヌー 今年も問合せが来てしまった。)
上司帰ってきた また!
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お見事です!
よくぞこの長くて下らないものを最後まで読破しました。
もはや後半はカヌーブログというか北斗の拳ですからね。
我ながら意味が分かりません。
ほんと子供さえ落ち着けば今すぐにでも関東遠征行きたいです。
なぜかこのブログ通じて知り合う人は関東の人が多く、僕としても早く行きたくてしょうがないんですよね。
でも嫁がアレでアレなんで中々すぐには厳しいでしょう。
逆にこちら方面(岐阜)に来られる際はご連絡ください。
夏はアユ釣り師まみれで下れる川はほとんどないですが、10月から5月はいいとこいっぱいありますよ。
何気に僕も仕事中でして、背後に社長が帰って来たので仕事に戻ります。
最近は日帰り登山ばっかでカヌー記事少ないですが、今後ともヨロシクです!
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もう一度読んでも大爆笑!
BGM https://www.youtube.com/watch?v=qwuL9oKU8f0
ひこにゃんさんのaiwotorimodose!
子供はしょうがないし、そんな時期だから、しかし今でしょう!ゴルゴはもっと早くカヌュー 知るべきでした。
yukonさん位の時期は、モトクロス、お金泥に埋めながら走ってました。カヌーはエコ!大気も汚れず石油資源も最初だけ 良い!
嫁さん問題は、巻き込みましょう!家は奥様専用用具と艇を購入 自宅に艇庫作りました。そして上げ膳据え膳の接待!これですね!
奥様5月 長瀞で撃沈して顔強打 シャーアズナブルのお言葉じゃないけど「ヘルメットが無ければ即死だった」嫁談。
高尾山在りますよ!会社のドウパくんは全コース制覇して名古屋に転勤奴は大阪から大分まで普通にチャリで帰る奴 横浜から高尾山までチャリそして登山!しかしお水が嫌いでカヌー無理?
関東遠征 お待ちしております!メール下さいねっ!
横浜組さん東神奈川駅近くの肉の芸術品 ここで肉買って奥多摩どうでしょう?明日新横で仕事 帰りにゲット
土曜仕事の日曜日はhttp://www.city.koto.lg.jp/seikatsu/douro/7476/62316.html
江東区のカヌー場 温水シャワー有り
雨ですね!奥多摩に行きたい!
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確かにカヌーは初期投資だけで済んで、現地に行くガソリン代くらいですからね。
妙なテーマパークとかに行ってよく分からないお金を支払うくらいなら、断然こっちのがエコで楽しい。
でも過去に嫁をカヌーに乗せたことあるけど、決定的にインドアな彼女には何の心の動きもなかったです。
どんなに接待してもだめなものはだめ。
僕がショッピングセンターで頭痛が起きるのと同じ原理でございます。
それにしてもカヌー・カヤック場なんてあるの初めて知りました。
こういうのが近くにあれば、多少遊びに行けなくても我慢できるかも。
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そう!近くに? でもタイミングかなぁ?
ゴルゴさいとうの決定打は、釣りして流れてきたカヌーよりも 母校の小学校のプールです!
荒田小学校 カヌーで検索。ゴルゴが泳いだ道のりを時代が代わるとカヌー横断!
鶴見の総持寺でダライ・ラマに会った時と同じく ショック
(奴は普通のおじさんだけど、背後に気配が?ゴルゴだからだろうか。?)
東京なんて田舎者の集まりですよ!
奥様にメール めっちゃおもろいブログ発見!
反応が楽しみです!