乗鞍岳/岐阜

惨敗に乾杯〜乗鞍岳〜

台風一過の快晴に見舞われた秋分の日。

岐阜県の天気予報は全域で快晴。

テレビのお天気お姉さんも「お出かけ日和でしょう」と笑顔で言っていた。

さらに僕は降水確率が完全に0%で、風速も一番穏やかな場所を探した。

雲一つ無い、パーフェクトな秋の登山を親子で楽しむのだ。


そんな秋分の日に、我々親子の眼前に繰り広げられた光景は以下の通りだ。



完全に雲の中の霧の世界。

気温は−1度の極寒ワールド。

風が吹きまくっているので、体感温度はさらにワイルドだ。

りんたろくんはガタガタ震え、唇は紫色の低体温症状態。

さらにお父さんは左膝の骨に、恐らくヒビが入っている状態。

我々親子に何が起こったのか?

振り返ってみよう。

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パーフェクトな天気を望める場所で、りんたろくんと「軽く登れる山」を探した。

今お父さんは、富士山で破壊した腰痛を抱えているのであまり無理は出来ないんだ。

そこで導きだされた山が「大日ヶ岳」だった。


しかしそこに向かう移動中、あまりにも天気がいいもんだから沸々とある感情が芽生える。

それは「乗鞍岳にリベンジをかましたい」というもの。

乗鞍岳は以前仮想富士山として挑戦し、最終的に無惨な結果になった思い出の場所なのだ。(※コチラを参照

高度は3000m級だが、乗鞍スカイラインを山頂付近までバスで行けて、山頂まではおよそ2時間の距離。

りんたろくんの高山病が心配だが、難易度的にはほとんどハイキング気分だ。

そう、この時お父さんは完全に乗鞍をなめていた。

こうして、りんたろ登頂記9番目「乗鞍岳」への挑戦が始まった。

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ほうのき平のバスターミナルで、10時55分発のバスに滑り込みで乗り込む。

前回のように、直前でバスが行ってしまうというミスはおかさなかったぞ。幸先よし。

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しかし、どうもおかしいぞ。

雲一つ無い快晴のはずが、辺り一面雲じゃないか。

でもまあ上まで行けば、雲も超えて行って眼下に雲海を眺められると思っていたので、この時は気にもしてなかった。


50分ほどで、畳平のバス終点へ到着。

僕がまだ学生の頃はまだマイカー規制も無かった頃だったから、車で来た時の事を思い出した。

時は流れ、父親になった僕の目の前にレインボーな我が子が笑って佇む。

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というのもここはやっぱり非常に寒いから、しまむらで買ったポンチョを風防代わりに着せたのだ。

基本1700mの大日ヶ岳を想定していたので、大した防寒着を持って来ていなかった。

そもそもここからして乗鞍をなめている。父親失格だ。


結局雲を超える事は無く、基本雲と同じ高さで進んで行く。

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さすがに寒くて不安がよぎるが、晴れ間が出ると途端に暖かくなるのでその後も進んで行った。

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3000峰独特の雰囲気が漂い始めて、大変気分がよろしい。

晴れたり霧だったりの繰り返しだが、今の所なんて事は無い。道も楽々だ。

りんたろくんも笑顔ではしゃいでいる。来て良かったね。

IMGP1427.jpg

まるでアンデス辺りの地元の子供といったところだ。


その後も、晴れて実に気持ちのいい景色を堪能する。

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下の写真に注目したい。

IMGP1440.jpg

のんきに写真撮っているが、山頂が今まさに雲に覆われて行っているのが見て取れる。

親父はカメラ目線でへらへら笑っているが、ちゃんとりんたろくんは異変に気づいている。

引き返すならここだったんじゃないか?

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平坦な道は山荘へと続き、ここからは本格的な登山道が始まる。

すっかりこの頃には、りんたろくんは背中で寝息を立てている。

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なんとなく富士山に似た感じのものはあるが、そんなにヘビーではない。

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ゴンゴンと雲が流れ、基本的に下界の景色はチラ見がやっとだ。

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調子良く登っていたら途端に景色が一変する。

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頂上まであと少しの所。

尾根に出た事で凄まい突風だ。

しかもかなりの冷気をまとった突風。

強烈に寒い。

IMGP1461.jpg

たまらず起きて泣き叫ぶりんたろくん。

降ろしてあやすが一向に泣き止まない。

彼の手や足が氷のように冷たい。

ガタガタ震える我が息子。

唇を見れば、若干紫色になっている。やばい、低体温症になってしまう。


頂上まで残り僅か50mも無い地点。

しかし、とてもじゃないがこれ以上の無理はさせられない。

雲が晴れる気配もなく、寒風は吹き止む気配を見せない。


我々は撤退を決意した。


登頂目前にして、ついに初の「撤退」。

しかしこの場合は迷う事無く撤退だ。


りんたろくんは泣き止まず、再びキャリアにも乗ってくれなくなってしまった。

結局僕は彼を腕で抱え上げ、風から守るように下山して行く。

これは想像を絶する重作業。

腕の筋肉はブチ切れるんじゃないかという程に軋む。

足場も見えにくいし、ストックも使えないから、精神を研ぎすませて下山を続ける。

もう登山じゃなくなって来た。山岳救助だ。

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なんとか山荘に辿り着く。

もうお父さんも全身ひどい状況だ。

腕と腰が再びフェスティバルだ。


山荘の中は少し暖かかった。

まず暖かいうどんを注文し、少しづつ食べさせながらりんたろくんの体をさすって温める。

そしてあったかそうな毛糸のポンチョが売っていたので、早速購入しりんたろくんを包む。

IMGP1466.jpg

5000円の出費はかなり痛かったが、悪いのは全てお父さんだ、仕方ない。

しかし彼はこんな状況でもiPhoneのしまじろうを手放さない。


しばらくさすり続けていたが、一向に手足の冷たさが変わらないので急いで下山しよう。

りんたろくんをバッグに乗せ、僕はトレイルランナーのように走って行く。

あれほど富士山で痛い目に会っているのに、同じ事をやっているが、今回は状況が状況だ。


相変わらず、全体が雲の中で視界は効かず、風は冷たく悲惨な光景は続いて行く。

IMGP1468.jpg

僕はりんたろくんを大声で励ましながら走る。

「がんばれ!あと少しでバーブー(バスのこと)だ。がんばれぇー!」


その時、ついにやってしまった。


初撤退の次は初事故だ。

勢いで足を踏み外した僕は転倒して行く。

このまま転倒してしまったら、りんたろくんが大変な事になってしまう。

咄嗟に両腕でりんたろくんを支え、僕は左足の膝で全ての体重を支えることを選んだ。

僕、りんたろくん、荷物の総重量90キロ近くが膝の一点に激しくのしかかる。

90キロのハンマーを「ごんっ」って膝に打ち付けられたかのような激痛。

「あ、いったな」って即座に思った。

痛すぎて立ち上がれない、歩けない。

損傷してはならないものが損傷されてしまったのか。

間違いなく骨にヒビいってますって感覚だ。

いつかやるとは思っていたが、ここで来るのか。


それでも今はりんたろくん優先だ。

僕はびっこを曳きながらも、それでも走って進んだ。

楽々ハイキングだとなめていた乗鞍岳は、今までで一番ハードな脱出劇となった。

本気で救助も考えてしまったよ。

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なんとか畳平に到着して、即座にバスに乗り込む。

「完全なる敗北」

親子して、完膚なきまでに惨敗を喫してしまった。

乗鞍岳二連敗。今までで一番簡単な登山道にして、一番ハードな経験をさせてくれた。


真っ白な風景の中をバスは下山して行く。

運転手がマイクで所々解説を挟んでくる。

「晴れていれば前方に北アルプスの山々」「晴れていれば白山が」「晴れていれば左手に御岳が」「晴れていれば・・・」

ああ、もうやめてくれ。

打ちひしがれた我々親子への追い打ちなのか。

外の風景は全部霧じゃないか。

わざとやってんのか?ケンカ売ってんのか?

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バスは50分後、ほうのき平へ帰って来た。

速攻で荷物を車に降ろし、ほうのき平の温泉へ。


冷えたりんたろくんを湯船に入れると、彼は「ふはぁ〜〜」と言った。

2歳とは思えない程のオヤジ的な入浴の一言。よほどつらかったんだろう。

みるみる体が温まって行き、唇も赤みが戻って来た。

途端にご機嫌になるりんたろくん。

「また山登りたいか?」と聞くと「うん」と甲斐甲斐しく答える我が子。

ついでに聞いてみた。

「お父さんとお母さんとどっちが好きだ?」

「おとうしゃん」

最高だ。

やはり命がけの戦いを終えた我々に熱い親子の絆が芽生えたのだ。

おそらく、彼は聞かれた内容の意味を理解してないだろうけど。

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温泉から出て、空を見上げると人をおちょくったような快晴が目に入る。

IMGP1471.jpg

IMGP1472.jpg

まあいいさ。いつものことだ。

またいつかリベンジしてやるぞ。因縁の山、乗鞍め。

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帰り道、本来登る予定だった大日ヶ岳はすさまじいまでの快晴に包まれていた。

IMGP1477.jpg


その後、りんたろくんがiPhoneを遊びまくって充電がなくなった。

その時に僕の大事な腕時計が無い事に気づく。

真っ青になる僕。(どれほど大事かはコチラ

間違いなく温泉に置いて来たのだ。

りんたろくんが脱衣所で大暴れしてたどさくさで棚に置いて来てしまったのだ。

しかし、温泉に電話しようにもiPhoneの充電が切れている。

車で充電できるやつはiPhoneバッテリーカバー用のもので、最近りんたろくんに破壊されてしまったのだ。

結局5000円のポンチョに続いて、iPhone用の車充電器を2000円程で購入。

惨敗した上での余計な出費は、金額以上にこたえるものがある。


なんとか温泉に腕時計はあった。

心の底からホッとした。着払いで送ってくれるみたいだ。

この時のホッとした感じが、本日で一番満足できた瞬間だった。


こうして、我々親子の惨敗の1ページが秋分の日に刻まれた。

まだ病院に行ってないから、お父さんの膝がどんな状況かは分からない。

現時点でも、相当に痛い。

しかし明日は家族サービスで「日本昭和村」に行かねばならぬ。

お父さんの戦いはまだ始まったばかりだ。



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