苦節8年。
いや、構想でいうとおよそ15年と言った所か。
ついに「家族でお花見カヌー」というビッグイベントがやって来たのである。
独身時代からいつかこんな日が来たらいいなと思い続けて来た。
春うららかなポカポカ陽気の中。
頬をなでるそよ風を感じながら愛でる桜並木。
その下を流れる穏やかな水路をカナディアンカヌーが進んでいく。
そのカヌーの中にはステキな奥様と笑顔の子供たち。
非の打ち所のない平和なる幸せ家族風景。
しかしである。
現実は無情。
結婚してから8年間、その夢は果たされるどころか実現不可能と思われるほど打ち砕かれていた。
なぜなら我が家庭を牛耳るのはあの伝説の嫁。
ゴキブリ並にアウトドアを嫌厭し、イチゴショートケーキ並にインドアを溺愛する女。
そして何よりも「旦那が嫌い」という、致命的な感情を有している。
そんな彼女に、水滴で石に穴を開けるかのように少しづつ少しづつ説得する事8年。
今ようやくその映像化不可能と言われた想いをスクリーンに投影するときが来たのである。
今回はそんな我が家の貴重なる前進の記録。
最近汚れた記事が続いたので、ここらで爽やかな記事を挟んで行く事にしよう。
同時に子供たちそれぞれの「出発の春」も添えて。
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木曜日。
長男りんたろくんの小学校入学式の時が来た。
大物である彼の顔には全く緊張感がない。
この後彼はしきりに、「この顔が〜一生のこる〜、この顔が〜」と歌っていた。
ちゃんと小学生としてやって行けるのだろうか?
しかもこの日は土砂降りの大雨。
彼は保育園の入園式の時も激しい突風の中だったが、このあたりもしっかり父の血を受け継いでいるようだ。
とりあえず、ついこないだまで「ダッコダッコ」と言っては背中に担がれていた幼児もすっかり少年に。
多くの時間を一緒に過ごして来ただけあってお父さんは感慨深いよ。
小学校生活、しっかり遊んでそこそこに勉強しなさい。
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でもって土曜日。
兄とは打って変わった最高の天気の中、次男こーたろくんの入園式である。
このブログ内で妊娠から出産に至るまで書いて来ただけあって、これはこれで感慨深いものがある。
赤ちゃんだとばかり思っていたのが今では立派に保育園児。
誰の血を引いたのか若干サドっ気が強くて兄を殴ってばかりなのが気になるが(兄はそれを黙って受け入れている)、わんぱくでも逞しく育ってくれればオールオッケーだ。
一方お父さんも記念に、そのDNAの元となる嫁に写真を撮ってもらった。
相変わらずピントが僕に合っていないサドモードなのが気になるところ。
しかも彼女は入園式出発前に、僕が「このネクタイで合ってる?間違ってない?」と問うと無表情のままこう言った。
「お前の顔が一番間違っている。」と。
春うららかな朝。
お父さん、子供たちの成長にちょっと感傷的になっちゃったのかな。
うっすら目に涙が溜まっちゃったね。
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翌日の日曜日。
そんな愛に溢れる家族で向かったのは、滋賀県近江八幡の西の湖。
今日はここの水郷巡りで、夢のファミリー花見カヌーと洒落込んでしまう予定。
僕としては嫁や子供たちに目一杯平和なひとときを楽しんでもらって、「カヌーって楽しいね!アウトドアって最高!お父さんステキ!」と言ってもらうのが狙い。
今後のために決して失敗が許されない重要なプレゼン大会なのである。
ちなみに前日の土曜日にはにビビるSファミリーもここに来ていた。
その時の絵に描いたような「平和なアウトドアファミリー」のFacebook投稿がこれである。
もはやiPhoneの輝度を下げないと直視出来ないほどの眩しい家族風景。
僕は思わず「これだよ。こーゆーのがしたいんだよ。」と言わずにはいられない。
ビビるファミリーは常に我が理想的家族を見せつけて来るため、僕は今まで何度も悔しい思いをして来た。
しかし今日は我がファミリーが彼らの上を行く平和像を見せつける番だ。
ちゃんと天気予報の事前チェックは済んでいて、今日が一日晴れだって事は確認済み。
不安要素なぞカケラも見つからない快晴予報だった。
じゃああれは何だ?
現場に到着した我々の頭上に白く覆い被さる真っ白な天井は?
春とは思えないほどの寒々しい世界観と、それに見合った寒々しい風が吹き抜ける。
そして今にも雨が降りそうな中、沈痛な面持ちで準備して出発記念写真。
ビビるSがFacebookのコメントで「半袖でも暑いくらいやったわ」と書いていたのを鵜呑みにし、半袖半ズボンで来てしまった僕は早くもプルプル震えている。
嫁は嫁で全身から「行きたくねーなー」という気怠さオーラを発し、子供たちも「お父さん、寒いよぅ」と窮状を訴える。
そんなファミリーに、琵琶湖特有の午後の風が容赦なく吹き付ける。
そもそもこの時点ですでに13時。
朝の出発時、嫁の準備のために僕は「2時間」も待たされている。
もう一度言う。
「2時間」も待たされているのである。
正直その時点で僕の堪忍袋の緒はズタズタに切り刻まれていたが、グッと堪えてここまで来た。
全ては平和なファミリー花見カヌーのため。
今日僕は何があってもこの営業スマイルを絶やしてはいけないのである。
そして出発。
気持ちは色々とざわついているが、この見事な桜には心が安らぐのである。
しかし「感動」という感情を前世に置いて来ている嫁からは、当然「キレイ」とか「ステキ」という感嘆系のお言葉は発せられずに無言。
そして子供たちからは「寒いよ、お父さん」とか「お腹空いたよ、お父さん」と言った、悲しい映画のようなセリフしか出て来ない。
そもそも「芝生でランチ」の予定だったのに、出発が13時じゃあ桜より空腹のが先立つのも無理はない。
出発が遅れたのはお母さんのせいなのに、何故か責められるのはいつも私である。
それでも我が営業スマイルは絶える事なく、「桜いいですねー!気持ちいいですねー!」とファミリーヨイショ。
やっぱりこの青空と桜のコントラストが…
どうしよう。
だんだんお父さんも楽しくなくなって来ちゃった。
ジャケット着たのはいいけど、下が半ズボンだから芯から体が冷えて行っててテンション上がらないんだよね。
こんな時はGoProを使った画期的なアングル写真を撮ってテンションを上げてみる。
しかしこんなことをやっていたら、そのまま岸に激突。
すかさず嫁の「ちょっと!ちゃんと漕げや!」という罵声が飛んで来たのは言うまでもない。
腹も空いてるから、皆一様にイラついているのか?
子供たちもどこかしら退屈そうだ。
私が15年以上思い描いていたファミリー花見カヌーの状況と、なんだか随分違ってる気がしてならない。
その後はアラスカの原野を思わせる寒々しい湖に出て、
なんとか必死のファミリーヨイショを繰り出しつつ、ランチ予定地の場所に上陸。
たとえ天気が悪くても、この「桃園の誓い」の会場のような場所なら平和を満喫出来るはずだ。
午後だからなのか寒いからなのか分からないが、我がファミリーだけでこの場を独占。
早速ジェットボイルでお湯を湧かす。
するとあっという間に大沸騰をかまし、熱湯が吹きこぼれて子供に少しかかる。
すかさず嫁に「殺すよ」と言われ、「そういうところがダメなんだ」と説教タイム。
やがて「だからお前は…」という説教が終わりかける頃にカップラーメン完成。
それに空腹の餓鬼どもが我先にと貪りつく。
もちろんここにビビるSファミリーのような手作り弁当は並ばない。
では私は一体何故2時間も待たせれたのか?
なんて事は考えてはダメだ。
とりあえず桜なんて一切見ずに狂ったように空腹を満たした我々。
しかも嫁が「桜なんぞ興味ない」とばかりにスマホをいじくり出したので、僕とりんたろくんでレッツ釣りタイム。
だいたい分かってた事だが、釣れる気配なんてミジンコの糞ほども感じない。
というかりんたろくんが一投ごとに糸を絡めてくれるから、お父さんはひたすら糸ほどきという地味な作業ばかり。
しかも時と共に「冬なのか?」と思ってしまうほど寒くなって来てつらいのなんの。
確か昨日この場所で、ビビるSが「Tシャツでも暑いくらいやわ」と言っていた気がするが…。
所詮これが私と彼らとの間に建つ大きな壁なのか…。
結局私は、その大きな壁に囲まれた小さな悪天候世界で巨人の進撃に怯えて生きる小動物なのか…。
なんだかとても切ない気持ちになって来たぞ。
どうしよう、泣きそうになって来た。
そんな中りんたろくんが「ヤッター!釣れた!」と絶叫。
しかしよく見るとそれはただのタニシだった。
ある意味タニシを釣るこの男の技量も凄いが、これがまたこの切なさに拍車をかける。
もっとちゃんとお魚を釣らせてあげたかった…。
やがて「もう寒すぎて風邪を引いてしまう」との事で、早々にこの桃園から撤退。
すっかりフードまで被ってネズミ女と化してしまった嫁。
風景が寒々過ぎてレジャー感が全く感じられず、まるで「北朝鮮からの脱出を図る国境の川の家族」的な写真に見えてしまう。
しかも悪い事に、ここで僕お得意の「道迷い」が勃発。
この水郷巡りは結構迷路みたいになってるから迷いやすいのだ。
挙げ句変な水路に迷い込み、せり出した枝がことごとく前に座る嫁にバキバキと襲いかかる。
僕はこのピンチをチャンスに変えるべく、「あははは!やったね!」と陽気にその場を盛り上げる。
僕のイメージでは「もう、やんなっちゃう。うふふふふ」と家族でひと盛り上がりの場面。
しかし前方から風に乗って流れて来たのは、「チッ」と「死ねや」という静かなる言葉のナイフ。
そのナイフは僕の心の頸動脈をサクッと切っては後方に消えて行った。
やがてそんな楽しい楽しいファミリー花見カヌーは大詰めへ。
漕いでも漕いでも逆風に押し流され、体も冷えに冷えて行く厳しい時間帯。
嫁の手はすっかり止まってしまい、「疲れた」「さむい」「綺麗なトイレ行きたい」と明らかに楽しんでいない様子。
りんたろくんは退屈すぎるのか、ずっと「金太の大冒険」を歌っている始末。
そしていよいよ子供たちが寒さで震え出し、僕も体が冷えすぎて鼻水が止まらなくなる。
しかたなくオールウェザーブランケットを子供たちに被せて、まさかのカヌー上ビバーク状態に。
そしてブランケットの隙間から顔を出したりんたろくんの、「お父さん、僕らは遭難しているの?」という言葉が胸に刺さる。
こんなはずじゃなかった。
こんなはずじゃなかったのに。
お父さんはただただ家族でお花見を楽しみたかっただけなんだ。
悪気なんてなかったんだよ。
頼むから小学校の日記で今日の事は書かないでおくれ。
それからはいよいよ逆風が強まる中、「ただただ脱出するため」の必死のパドリングが続く。
カナディアンカヌーは二人で漕がないと全然進まないから、嫁も手に豆を作りながら渾身のパドリング。
とうとう日が暮れるタイミングになってしまい、いよいよ遭難感が凄まじい。
今日は平和をとことん楽しむと言って家族を誘ったが、結局いつも通り目一杯マゾを楽しむ結果となってしまった。
やがてスタート地点に戻って来た我々。
もちろん記念撮影をするなんて雰囲気ではなく、即座に子供たちを車の中で暖房を入れて温める。
みんな…
今日は楽しんでくれたかな?
しかし私にはまだ最後の望みが二つ残っている。
それは嫁の好きな「シャレオツカフェ」&子供たちも盛り上がるだろう「湖の見える温泉」だ。
ちゃんとおもてなしのための事前調査はバッチリなのだ。
で、向かったのが、バウムクーヘンで有名なたねやのフラッグシップ店「ラコリーナ近江八幡」。
この中にあるシャレオツなカフェで、たっぷりスイーツを堪能してもらって嫁のご機嫌も大回復のはずだ。
で、この時点で17時。
店内に入る。
お馴染みの看板。
「カフェは17時で閉店です」
ですよね。
もうこの時点で、僕は振り返って嫁の顔を見る勇気は1mmも残ってなかった。
後方でまた「チッ」ていう音が聞こえた気がする。
もちろん「朝2時間も待たされてなかったら」なんて事は口が裂けても言えない。
しかしまだ終わっちゃいない。
車を走らせ、いざ「宮ヶ浜の湯」へ向かう。
琵琶湖は風によって湖とは思えないほど波が立っていた。
そこにある休暇村近江八幡内にその温泉はある。
24時まで入れる事は事前調査済みだから、カフェのような悲劇はないはず。
で、受付へ。
受付のおばさんは言う。
「日帰りの方は14時までです」と。
どうやら僕がチェックしていた時間は「宿泊者用」だった模様。
もう嫁に向かって振り返るどころか、その場を逃げ出したい気持ちで一杯だ。
もちろん聞き慣れた「チッ」という音はしっかり耳に届き、その後は「だからお前は…」という説教が始まったのは言うまでもない。
子供たちもさっきお父さんから「どうせすぐ温泉だ。湖に入っていいぞ」と言われてズボンまで濡らして震えている。
そして切ない目で「お父さん、温泉…入れないの?」と見て来る。
すまない。
ほんとうにすまない。
苦節8年。
構想15年。
こうして我が夢のファミリー花見カヌーは幕を閉じた。
ほんの少しでいい。
人並みの幸せをかみしめたかった。
ただそれだけだったんだ。
ちなみに2週間後には、ついに夢のまた夢だった「ファミリーキャンプ」が待っている。
でもなんだか今は不安しかない。
これでキャンプもダメダメ父さんだったら。
もういっそアラスカで一人で生きて行こう。
きっとその方が家族のためな気がします。
そう思った春の週末でした。
春のファミリー我慢大会 〜完〜
春のファミリー我慢大会〜近江八幡マゾ巡り〜
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MATATABI BASE
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いつも楽しく読ませて貰ってます。ありがとうございます。
あの、いつも遭難したり、悪天候に見舞われたり、それがこのブログの面白さだと思うんですけど、さすがに今回は笑えませんでした。
かわいそ過ぎる…登場人物全員…
二週後の成功を心よりお祈り申し上げてます。
ちなみにこの日、ばっちり晴れ予報だったので私も富士山方面にドライブに行ったのですが、予想外の曇り模様で富士山見えず仕舞い。
天気予報図とにらめっこして、おかしいなと首を傾げていたのですが、貴殿のせいだったのですね。勢力範囲を広げすぎではないでしょうか。
勘弁して下さい。
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やましんさん、ならびに日本の皆さん。
この度はご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんでした。
昔は比較的局地的な豪雨が多くて周辺住民にしか被害を与えてなかったんですが、最近半径500キロ圏内まで影響を与え始めているようです。
今思えばアラスカに行った時も、アラスカ史上最大の雨が降って主要道路の端を崩落させた事もありました。
そして僕が岐阜の川に行った時も、富士登山に向かった小木Kから雨に降られて悲惨だったと苦情が来た事もありました。
もうここまで来たら、同じ時代に僕と同じ日本に生まれてしまった不幸をお呪いくださいませ。
そろそろゴビ砂漠にでも行って地球の緑化に少しでも貢献出来るように、目一杯雨を降らせて来ます。
でも多分そういう時は晴れるんでしょうけどね。
2週間後キャンプ場で雨なんて事になったら、まず間違いなくもう二度とファミキャンなんて無理でしょう。
それどころか緑の紙を突きつけられるかもしれません。
まだ養育費人生になるのはごめんなので、2週間後は必ず晴らしてみせます。
これでもかという眩しいファミキャン模様をお送りします!
自信無いけど
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土曜日に私たちも行ってきました。
西の湖園地のビビるSファミリーの後ろに並んだカヤックが私たちでした。1日ずれていたらお会いできましたね。
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びんさん、どうもです。
見事にまたニアミスだったんですね。
FB投稿見ててもしやとは思ったんですがやっぱりそうでしたか。
よく考えたら桜の時の水郷巡りって、関西東海北陸のカヤッカーが一堂に会すんで示し合わさないオフ会みたいなとこありますよね。
日曜日誰かに会うかなって思ってたんですが、あんな午後遅い時間から、しかも寒風吹きすさぶ中でやってる人は相当少なかったです。
まあ現地でバッタリ読者に会って「あなたが噂のサド嫁さんですね」なんて嫁に話しかけられたら全てがアウトなんで、ある意味で良かったのかもしれませんね。