日本最後の秘境と呼ばれる場所がある。
その名は「雲ノ平」。
広大な北アルプスの最深部。
簡単には人を寄せ付けぬ幻の大地。
そこは、我こそはというマゾのみが侵入を許されるサンクチュアリなのである。
そんな聖域に今、一人の男が立ち上がる。
彼の名は「常時・マゾリー」。
かつて24キロのザックを背負い、裏銀座から突入して高瀬川源流部をパックラフトで下った孤高のパックトランパー。
なぜそんな無駄な事したんだという周りの声に対し、彼は「そこにマゾがあるからさ」という名言を残した。
そして計画に無理がありすぎるという声に対して、「そこに嫁がいるからさ」と吐き捨てて過労死したことは記憶に新しい。
その高瀬ルートから1年。
死んだと思われていたマゾリーはまだ生きていた。
そしてよせばいいのに再び不毛極まりない「パックトランピング」スタイルで、ついに北アの大秘境に挑もうとしているのである。
そもそもパックトランピングとは何かをおさらいしておく必要がある。
なぜなら世間一般に全く浸透していないからだ。
それはマゾリーが考案した画期的な遊戯スタイル。
「登山」「パックラフト」「トレイルランニング」「テンカラ釣り」「野天温泉」「マゾヒスティング」を、無理矢理短期間に凝縮して楽しんでやろうという「六兎を追って無駄を知る」のお得な臨死体験。
厳しい嫁を持つ、時間のないマゾには持って来いの異種格闘技戦なのである。
もちろん彼はこの1年、第二回パックトランピングに向けて虎視眈々と準備を進めて来た。
通常の人なら体力をつけて、筋力アップに励む局面。
しかし彼はこの半年、あえて謎の病を患って体力減退と筋力ダウンにいそしんで来た。
そして散々ブランクを溜め込んだ上でこの無謀な挑戦に打って出たのだ。
このあたりの調整術こそ、彼がレジェンドと言われる所以。
おかげでここ数年最大の体重になってしまい、腹回りの肉がベイマックス化。
服を着替えるだけでも「ゼェゼェ」と息が切れてしまうという堕落っぷり。
これで遭難ギリギリの極上マゾは約束されたようなものだ。
しかもである。
忙しくて中々いつもの理髪店に行けなかった彼は、旅の前日に「どうしても髪をさっぱり短くしたい」と謎の床屋に突入。
よく駅とかにある「カット1000円。10分で終わります」という禁断の地へ。
すると髪を洗う事なくいきなりバリカンで激しく刈り上げられ、驚きの早さで切った髪を巨大バキュームで吸い取られる。
そして10分後。
鏡に映った顔は中学生のようなスポーツ刈りのおじさんの姿。
そこはかとなく漂う、凄まじいDT感。
まるで中国辺境民族の嫁探し特番を見ている錯覚を起こすほどの髪型に。
もちろんこの仕上りを見た嫁は、「ヒャッヒャッヒャッ」と指差して過去最高の笑顔だ。
彼の雲ノ平決戦に向けた見事な仕上りが止まらない。
さらに全身あせもまでも発生させ、「体力不足・体重増加・敏感素肌・童貞刈り」というベストコンディションに。
それでも彼はまだ止まらない。
次は快晴祈願のための事前代償行為の調整に入る。
決戦に旅立つまさにその日。
午前中だけ仕事に出て、午後から富山に向けて旅立つ計画。
その午前中、デザインの打ち合せに向かう途中。
彼は自らの身を警察に捧げたのである。
あえて信号の↑を→と見間違えて右折したマゾリー。
そして彼の思惑通り、物陰からまんまと警官が飛び出しその場で違反切符。
罰金9000円+2点減点。
あと数ヶ月で「ゴールド免許」という大事な時期に、あえて捕まる男気。
しかも遅れて到着した打ち合せでは、デザインにとことんダメ出しを食らうという二重事故に。
これでブルー切符・ブルー免許・ブルー気分の「ビッグ・ザ・ブルースリー」を達成し、雲ノ平の快晴は約束されたも同然。
彼にとって、この程度で快晴の雲ノ平が手に入るなら安いものなのである。
さらに今回は他に二人の精鋭を現地に派遣している。
それは前日入りしている「ジョンボーA」と、マゾリーより数時間後に後発する「パパラッチK」の強力晴れ男コンビ。
これぞ晴れと晴れで悪天候を挟撃して鎮める「快晴サンドイッチ作戦」。
広い北アの山中で、途中でこの二人と合流するという万全の布陣である。
秘境すぎて携帯は一切繋がらないから、そもそもちゃんと出会える保証もないというスリリングな作戦だ。
このような「コンディション悪化」「快晴代償」「快晴布陣」という、かつてない事前工作が炸裂。
もちろん彼は「現地」でも多くの代償を支払って行く事になる。
さあ、いざ大秘境へ。
珠玉の後悔とマゾが待ち構える北アルプス最深部の戦いへ。
そしてその先に待つ大秘宝を目指して。
「2015年度パックトランピング雲ノ平編」
次回よりお送りいたします。
では予告編をどうぞ。
雲ノ平パックトランピング〜予告編〜
- 雲ノ平〜高天原/富山
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MATATABI BASE
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