三ノ沢岳/長野

龍が如く〜進撃のモクモクさん〜

sanno 2

体から龍の如くモクモクを大発生させる男がいる。

体内でくすぶっていた彼のパワーが今まさに中央アルプスを食い尽くす。

帰って来た。

半年ぶりに奴が山に帰って来たのだ。



この半年、彼はひどく体調を崩していた。

立ってる事もやっとだったり、何かと言えば突然マーライオンのようにゲロまみれになることも。

咳、吐き気、頭痛、倦怠感、立ちくらみetc…。

「私はこのまま死んでしまうんだろうか?」と思ってしまったほどのしんどさだった。

最近「マゾ不足だね」と言われる事があるが、普通に遊んでるだけで十分にマゾしてたのである。


それでもなんだかんだとこの半年、結構川や沢に出没していたのはご存知の通り。

まさに男は命を削って遊んでいたのである。(寝てろよ)


そんな中、今年度のメインイベント「パックトランピング2015〜雲ノ平編〜」の時が近づいて来ていた。

そこで今回、多少体調も良くなって来たのでリハビリ登山を敢行。

高度順応と体力測定も兼ねて、日帰りで中央アルプスの秘境「三ノ沢岳」を落すという作戦に打って出たのである。


元々はソロで行くつもりだったが、そんなリハビリ登山に名乗りを上げた者がいた。

それは同じくこの半年、長く山から遠ざかっていた「低血圧Mちゃん」。

悪天候三兄妹でお馴染みの、モクモク系急登ニヤリガールである。


今回はそんな「山離れ」と「晴れ離れ」が著しい兄妹が織りなす弾丸リハビリ登山。

「浮かれメルヘン」と「長兄の報復」が渦巻く平和登山。

モクモクっと振り返って行こう。


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中央アルプス千畳敷。


駒ヶ岳ロープウェイを降り、外に出た悪天候兄妹。

アルプスとは「白い世界である」と信じて疑わないこの二人。

そんな血塗られたトラウマにあえぐ二人の前に、とんでもない世界が飛び込んで来た。

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蒼い!

空が青い!


空ってのは白いもんだと己の辞書に刻んでいた二人は、その現実をすぐには受け止めきれない。

しばし呆然とその場に立ち尽くし、必死で頭の中を整理する。

ショックのあまり若干過呼吸気味になりながらも、なんとか記念撮影。

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ものすごく合成感を感じてしまうが、空は雲一つない超快晴なのである。


よくよく考えたら、以前この二人で登山した時も快晴だった。(参考記事:竜ヶ岳リハビリ病棟〜おマゾ兄妹のニヤリ行脚〜

要するに今まで全ての悪天候の原因は、悪天候三兄妹長兄の「ハッポーNさん」にあったのだ。

我々だけなら快晴兄妹なのである。


早くも浮かれモードになってしまった二人は、早速悪天候の神に笑顔で別れを告げ、

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わずかな雲すら出る予感がしないパーフェクトスカイの中、グハグハと進んで行く。

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やがて稜線の極楽平の標識が、これでもかという青の世界の中に現れる。

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そして稜線に到達すると、そこはまさに極楽の世界が広がっていたのである。

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アルプスからの眺めなんて遥か昔に諦めている低血圧Mちゃんは、この信じられない光景にプルプルと震えている。

今までのパターンだと、「稜線到達=白に包まれる=景色ゼロ」が当たり前だった二人。

一瞬、本当に死んで極楽に来てしまったのかと錯覚してしまうほど。

かつて僕がモクモクにまみれた御嶽山も、今日ばかりは完全な姿を晒している。

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そして来た道を振り返れば、失禁脱糞必至のこの風景。

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いつも雲の中で雲海すらまともに見た事ない二人の前に広がる、上級絶景技の「霧海」。

そしてサザン(南アルプス)オールスターズも一堂に会して浮かんでいる。

さらによく見てみれば、遠くに峰富士子の姿まで。

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今まで景色なんて想像するものだと強がっていたが、やはり当たり前だが生は良い。

これにはついに低血圧Mちゃんもヘナヘナと座り込んでプルプルしている。

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立ってられないのも無理はない。

これはもはや、5年ほど暗い地下牢に閉じ込められていた人が突然日の光に照らされるようなもの。

僕は目からこぼれ落ちる涙を悟られぬよう、カメラで顔を隠すのに必死。

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そんな感涙にむせぶ男の背後には、ででんと「宝剣岳」。

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かつてチーム・マサカズでこの頂きを目指した際、大モクモクにまみれて小木Kが失踪してしまった事もあった。(参考記事:木曽駒ヶ岳 後編〜失踪ミステリー〜

今日は三ノ沢岳の帰りに、この宝剣岳にリベンジをかます予定。

今日はモクモク予感ゼロだから、きっとあの時の無念を晴らす事が出来るだろう。


さあ、まずはあの遠くにそびえる「三ノ沢岳」を制覇しよう。

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この山は、中央アルプスの山脈からポツンと孤立した独立峰的な存在の山。

登山者が賑わう木曽駒ヶ岳や宝剣岳とは違い、マニアックなマゾしか行かないという静かる秘境の山なのである。


慣れない太陽に対し、まだ足腰がガクガクしている低血圧Mちゃんも果敢に下降。

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三ノ沢岳へ行くには、せっかく稼いだ標高を一度ガッツリ下降してから登り返していかねばならない。

マゾにはたまらない不毛感だ。


やがて鞍部付近に到達。

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なにやら急激にハイマツのモコモコ感がアップ。

突然世界は「藪漕ぎ」的なディープな世界に。

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基本的に登山者があまり来ないから、登山道はこのような「ハイマツモコ道」と化すのである。

そしてもこみちは急登クッキングを開始する。

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長いブランクで、さすがの低血圧Mちゃんもこれは厳しいか?

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しかしその表情を拡大してみると、

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ニヤついているッ!


久々に低血圧Mちゃんの急登ニヤリが炸裂。

僕も安心してグッハグッハと急登。

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しかしそのデカいケツを拡大してみると、

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米ついているッ!


家に帰ってから気づいたが、一体どの段階でついたのかさっぱりわからない。

そんな米男とニヤリ女が、ひたすらハイマツモコ道を突き進む。

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リハビリ登山にしては、やってる事がいささかマニアックすぎた感が否めない。

しかもである。

彼らはまだ気づいていないが、実はこの時通常の登山ルートではなく「バリエーションルート」に迷い込んでいたりするのである。


明らかに道が無くなり、藪漕ぎ地獄に埋没する低血圧Mちゃん。

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通常の山ガールなら「道間違えやがったな!」と僕を罵る所だが、帽子の下の彼女の顔は満足げに笑っていた。

マゾ2匹が織りなすファンタジー登山。


散々薮を漕いでマゾを楽しんだ後、何とか通常登山道に抜け出て一安心。

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再び浮かれ出した二人。

しかしその背後では、「アイツ」がそんな浮かれた我々の姿を発見していた。

「アイツ」は宝剣岳の背後から、城壁越しの進撃の巨人のようにこちらをじっと見ている。

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雲一つなかった世界に現れた、イワオのような顔をしたモクモク巨人さんである。

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そんな視線に気づいていない二人は、さらなる浮かれ世界に到達する。

ハードなモコ道の果てに、とてつもない「お花畑」が展開していたのである。

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普段から花に興味が無く、「花見てる暇があったらもうひとマゾ咲かせようぜ」と言ってしまう僕ですら、感動で立ち止まって写真を撮りまくってしまった程。

低血圧Mちゃんも、「これを逃したら晴れた花畑なんて10年後だ」とばかりに必死でシャッターを切る。

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そしてそんなメルヘン街道を進んでいくと、お花畑の先に頂上が登場。

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なんというメルヘンさ。

これぞ中央アルプスの秘境と呼ぶに相応しい世界だ。


そしてそこを登り詰めて山頂到達。

そこには身もすくむような青空絶景が。

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さすがの低血圧Mちゃんも血圧急上昇でコーフン。

そして二人して「祝!登頂」「脱!悪天候」と叫んで記念撮影。

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もう「魁!男塾」だったあの頃には戻らないぞ、と浮かれ宣言だ。


その瞬間。

天から「この愚か者め!」という声が響き渡る。

そして僕の中で悪天候神拳伝承者の血が沸き返る。

それは突如「ボカーンッ!」と破裂し、僕の中から大量のモクモクが大発生。

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もはや西部警察のように各地でモクモク爆発が止まらない。

そして男から龍のようにモクモクが伸びて行き、青の世界を浸食して行く。

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そして彼は「これでこそ我がアルプスだ!」と絶叫。

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雲一つなかった世界は、たちまちホワイティーに染まって行く。


一方、悪天候妹はどうか?

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彼女も「私も負けてられないわ」と祈りを開始。

そしてニヤケながら、なんとザックから大量のモクモクを溢れさせているではないか。

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やがて彼女は女王蜂のように、背中からポコポコとモクモクを産み落として行く。

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やがてはカメラからもモクモクを噴射。

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いよいよ本性を現してしまった悪天候兄妹。

そんな二人の状況に、遠く白馬にいる長兄のハッポーNさんが呼応したのだろうか?

白馬方面から、突如轟音が響いてモクモク大発生。

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その姿はマゾの「M」のようにも、ハッポーNの「N」のようにも見える。

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いよいよ長兄も動き出してしまった。

これを確認した巨人も、我らが次に目指す宝剣岳付近で一気に勢力を拡大して行く。

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たちまち「太陽」はモクモクにガードされ、辺りはいつものような日の射さない色味に。

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急がないと。

急いで行かないと、宝剣岳がモクにまみれて登れなくなってしまうぞ。


そんな我々の焦りを察知したハッポーNさんが、「ぬうううんっ!」と超爆発。

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原爆でも落されたかと錯覚してしまうような、過去最大級のモクモクが巻き上がった。

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あの真下に長兄がいる。

ちょっと前まで雲一つない世界だったのに。

そしてハッポーNさんは凄い勢いで我らの背後に進撃。

あっという間にさっきまでいた三ノ沢岳の山頂が、モクモクの屋根に埋もれて行く。

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前方を見れば、ついにモクモク巨人達も城壁を乗り越えようと大挙して進撃を開始。

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最初はイワオだけだったのに、ここまでの大群に膨れ上がった巨人達。

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快晴青空登頂写真からわずか1時間半という信じられないスピード。

稜線上では、逃げ遅れた登山者が巨人の餌食に。

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それでもまだ宝剣岳登頂を諦めていない我々は、急いで戻って行く。

何とか宝剣岳が巨人に飲み込まれる前に登頂するのだ。


やがて二人は稜線まで戻って来た。

わずか数時間前に、このような景色↓が見えていたその場所。

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それが今ではこの有様だった。

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まさにいつも通りのイマジンの世界。

もうあの頃の景色は想像するしかないのである。


そして分岐で宝剣岳を見上げる。

数時間前はこのように雲一つない世界↓だった。

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それが今ではこの有様だった。

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今まさに巨人に飲み込まれて行く宝剣岳。

辺りの景色もたちまちダークに。


我々は消えゆく宝剣岳を見ながら「今日は…諦めよう…」と挑戦権放棄。

そんな我らの横にはこのような石碑が。

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そこには「天候はわれらに機会を与えず」と刻まれていた…。



こうして「いつも通り」の登山を満喫し、しっかりリハビリに成功した二人。

千畳敷に着くと「南アルプス山容図」の看板に座り、南アの絶景をバックに想像しながらパシャリ。

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やっぱりアルプスはこれにつきるね。

ちなみに最終的には雷鳴ってました。


さあ、ここからは前半の青空の代償をしっかり支払わねばならない。

まずは「今日は夕方には帰るから」と嫁に言って登山許可を得た男。

そんな男の前に展開したのは、まさかの「ロープウェイ2時間待ち」という快挙。

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ロープウェイ乗り場には、巨人から逃れて来た大量の避難民達の姿。

せっかく夕方帰宅に間に合う時間で戻って来たのに、ここで2時間待てと言うのか。

確実に夕方に帰れないじゃないか。


長い待ち時間、男はノンアルビールでやけ酒。

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そして意を決して嫁に「ごめんなさい…。夕方には帰れません…」と力なく電話をする。

しかもその時嫁が昼寝中で、猛烈に機嫌が悪いというビッグタイミング。

電話口の闇の向こうから、実に太い声で「やっぱりな…。お前はいつもそうだ…。帰って来たら何をするべきかわかってるな。」と言うじゃない。

これで今夜はエンドレスで「肩甲骨もみほぐし」をさせられる事が決定した。

こっちの女形巨人には一切の言い訳は通用しないのである。


一方、妹の方も負けてはいない。

彼女は帰りのバスで猛烈に車酔いしてマジで嘔吐な5秒前状態に。

なんとかグロッキーなまま駐車場まで到達したが、その顔から生気は失われていた。

その介護に追われた兄は、慌てるあまりバスの中に買ったばかりのトレッキングポールを1本置き忘れて来るというまさか。

家に帰ってそれに気づいた時は、顔面蒼白になって崩れ落ちたほどのショックだった。

(後に電話で問い合わせて落とし物として発見された。着払いで送ってもらいました)


見事なる二人の追い込み代償コンビ芸。

しかも低血圧Mちゃんはそれでもまだ代償を払い足りない様子。

「晴れ慣れ」していない彼女は致命的なミスにコミットしていたのだ。


【Before】

ドゥッ、ドゥッ。ドゥッ、ドゥッ。

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【After】

パーパーパラッ、パーパーパラッパー、パーパーパラッパー。

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これぞ本意気山ガール低血圧Mちゃん復活の証し。

トレッキングポールとプロトレックを駆使して体現した、ニモ柄の芸術「ファインディングマゾ」。

今後彼女は立派な社会人として、名刺を出す度に相手に強烈なインパクトを与え続けて行く事だろう。



こうしてリハビリ登山は幕を閉じた。

後半の転落っぷりは酷いものがあったが、ある意味我々らしい復活祭だった。


そしてこれでなんとかこんな体調でも山に登れると判断した僕は、今週末旅に出る。

中央アルプスの秘境の次は「北アルプスの秘境」。

というか「日本最後の秘境」と言われる場所。

その場所の名は「雲ノ平」。


半年のブランクがある男が突然挑む大冒険。

しかも通常の登山ではなく、そこにパックラフト、トレラン、テンカラ、野天温泉、沢登り、マゾヒスティングを繰り出す、伝説の「パックトランピング」スタイルでの挑戦。


体調悪くても、遊びの意地だけは龍が如く。


全力マゾ男の進撃はここから始まるのである。





龍が如く〜進撃のモクモクさん〜   完



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