世界は、
そうだ。
自由を求め
選ぶべき世界が
目の前に広々と横たわっている。
終わらぬ夢が
お前達の導き手ならば、
超えてゆけ、
おのが信念の旗のもとに!
おマゾ王に
俺はなる!
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【後悔日誌 8月9日】
4:30
昨夜、100人越えの奴隷船に幽閉された私と怪我人パパラッチK。
ムンムンの船内での合唱&蹴り合いの戦いに勝ち抜き、私達はなんとか無事に一夜を明かす事が出来た。
もちろん朝から優雅に自炊出来るような状態ではない。
早朝から多くの奴隷達が脱出準備を進め、その波に押し出されるように我々も小屋の外へと吐き出された。
とりあえず、我々もゆっくり朝飯が食える所まで逃げることにした。
高所恐怖症の怪我人は、足を引きずりながら奴隷船から必死の脱出。
しかし我々は脱出開始わずか1分で道に迷って立往生。
なんとか他の奴隷に道を聞いて先を急ぐ。
そしてようやく我々が目指す「雲ノ平」への入口に到達した。
そこでこれから進むべき方向に目をやってみる。
するとそこにはとてつもない斜度のハイパー急登が待ち構えていた。
起き抜け一発目からこの急登は、いささかおマゾが過ぎるのではないだろうか?
まだエンジンがかかってないのに、いきなりF1レース会場にピットアウトさせられる気分だ。
しかしずっとこんなアホな急登が続くわけじゃないだろう。
私達は早速心拍数をMAXまで引き上げながら、モーニング嗚咽タイムを楽しむ事に。
そしてこの時点で早くも怪我人の様子がおかしい。
何やらさっきからうつむき加減でやけに無口だ。
やがて彼はうつろな目で私に向かって、「キャ….キャプテン…..。僕はもう…ダメそうです….。」と言い放つ。
そして「僕の事は気にしないで….先に…先に行ってくださ….グハッ!」。
彼は血を吐いて死んだ。
せっかく手に入れた新しい仲間だったのに、早くも私はこの大急登奇襲でその仲間を失ってしまった。
私は彼の亡骸をその場に放置し、先に進んで行く。
結局彼は、昨晩私の替わりにおっさんに蹴られるだけの役であっという間に姿を消した。
あまりにも早すぎた怪我人の離脱。
どうやらまたボッチの航海が始まってしまったようだ。
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5:20
どういう事だ?
行けども行けども、ハイパー急登の攻撃の手が休まる気配がないぞ。
それどころかどんどん酷くなって行くではないか。
さすがは秘境雲ノ平への道。
そう易々と行けては秘境でも何でもない。
そしてこの時点で、朝飯食ってないからパワーも出ない。
出るのは喉元までこみ上げて来る胃液ばかり。
そんな私に対して、一切容赦する気配がないハイパー急登が延々と続いて行く。
どんなに頑張って進んでも、ここの奇妙な急登は「オラオラオラオラオラオラオラァッッ!」と私をめった打ちし続ける。
こいつは間違いなく殺しにかかって来ている。
北アルプスの三大急登は別の所だが、ここは別格の急登フルコース。
絶対に余計な荷物背負って来ちゃいけない所だった。
しかし私だって世間に名の知れたマゾ。
この雲ノ平への挑戦権をかけた試練に負けてはいられない。
こんな時こそ、いざ己撮りで無駄に根性を示す時。
しんどい時にさらにしんどさをプラスする事によって、我が「マゾ場のくそ力」は輝きを増す。
三脚がないから尚更難易度も高い。
ほんとはこんな時用に、パパラッチKには「歩く三脚」として撮影で活躍してもらいたかった。
しかし彼はもういない。
ここまで来たら、私と急登、どっちが先にマゾり負けるかの根比べである。
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6:00
いい加減にしてくれないか。
これは米軍が開発した新手の拷問なのだろうか?
ほんといつまでこれ続くんだ?
朝奴隷船を脱出してから、かれこれ1時間以上ノンストップマゾダンシング。
足の筋肉は常時パンプアップ状態で、今にも「ボンッ」って爆発してしまいそうだ。
どこまで行っても、見上げるたび同じような絶望的光景。
いつのまにか双児宮のアナザーディメンションに迷い込んでしまったのか。
しかしこんなものは嫁の罵倒に比べたら屁のつっぱりだ。
日常的にこの程度のサド攻撃を浴び続ける、我が魂の怒りをぶつけるのは今しかない。
私は叫びながら登って行く。
「ちょっとニンニク食っただけで一週間も“このニンニクくそ野郎”とか言わなくていいじゃない!
子供達の前で“鼻息すらクサいで近寄るな”はないじゃない!あんまりだ!」
登山靴の上に落ちるは汗か涙か。
男の航海は常に上だけを見据え、いばらの道を突き進むのである。
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6:20
一切休憩する事なく、ハイパー急登をひたすらガフガフ突き進むこと実に1時間半。
ついに我が頭上に燦々と太陽の光が降り注ぐ。
そしてここを乗り越えて行くと、とうとう急登地獄の終了を告げる世界が眼前に登場。
打ち勝った。
薬師沢小屋からの通常コースタイム2時間10分に対し、1時間40分でマゾり切った。
一人仲間を犠牲にしてしまったが、私は雲ノ平へのサディスティック試練を持ち前のマゾん気で乗り越えたのだ。
伊達にニンニク食ってるわけじゃないのだ。
そして実はこの場所こそ、広大なる雲ノ平のはじっこ。
ついに私は大秘境・雲ノ平の世界に足を踏み入れたのである。
そしてしばらく進んでいくと、なんと私は「アラスカ」に到達していた。
そして見渡せばまさにアラスカの絶景が。
桜木ルイを観ていた中学時代のように目を細めて見れば、薬師岳もまあマッキンリーに見えなくもない。
日頃から想像力だけは鍛えているから、その辺はどうとでもなるのでる。
すっかり気分はデナリ国立公園なう。
再び元気を取り戻し、体から勝手に元気玉が放出されてしまうほどだ。
三脚なしでも一人でここまでやれれば上出来だ。
そしてここでやっっっっと朝飯である。
朝飯前の運動が若干長過ぎてハード過ぎたのか、食欲的にパン焼いて食うのが精一杯だ。
でも今回初投入のこの焼き網は、ちょっと重いから躊躇したけど持って来て良かった。
実に良い買い物をしたものだ。
今後は長く大切に使ってやろうと思う。(※これは伏線です。)
さあ飯も食ったし、ちょっとだけ横になって休憩。
ここで英気を養い、いざ雲ノ平の深部へと突き進もう。
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7:40
またしても寝てしまったではないか!
アラスカに来てから、ガッツリ1時間ものんびりしてしまった。
あれだけ頑張って時間を巻いたのに、これじゃくたびれ損のマゾ儲けだ。
私は急ぎアラスカの奥地に分け入って、出発に向けてお小水をした。
その時、聞き覚えのある声色で「ゴホッ…ゲホッ…」と咳をしながらアラスカ庭園を誰かが通り越して行った。
私はお小水が済むと慌てて出発した。
するとどうだろう。
なんとそこには、死んだと思われたあの怪我職人がいたではないか。
足を引きずり、顔面蒼白な怪我職人。
ウサギとカメよろしく、私が寝て小便してる間に彼は私を追い抜いて行ったのだ。
これでやっと「歩く三脚」を手に入れた私は、早速虫の息の彼に写真を撮ってもらう。
肩で息している割には、しっかりとピントを合わせて来るあたりさすがはパパラッチ。
一番ツラいあの大急登を、一切励まし合って助け合う事をしなかった船長とクルーとの感動の再会。
さあ、再び二人でこの荒波をかき分けて、いざ雲ノ平の深部に向けて突入である。
そしてそれを合図に、遠方には勇壮なる槍ヶ岳のお姿も。
雲ノ平から見る槍ヶ岳の形は、非常に美しくとんがっていきり立っている。
今回私は荷物の計量化の為に望遠なしの単焦点レンズしか持って来てなかったが、やっとここでパパラッチKの本領発揮。
彼はただの怪我人ではなく、めったに撮らないのにあえてクソ重いカメラを背負って来てしまう無法者。
無駄を楽しむパックトランピングの旅路には、やはり欠かせないクルーの一人である。
なんて事を思っていた矢先。
なんと突然、パパラッチKがまばゆい光に包まれたではないか。
そして彼はそのままキャトルミューティレーションされて、ゆっくりと上空に消えて行く。
去り際に彼は言う。
「ど…どうぞお先に…行ってください…。僕の事は…気に…しないで….」
こうして私は大事なクルーを宇宙人に連れ去られてしまった。
またしても彼は自分の身を犠牲にして、私をキャトルミューティレーションの危機から救ってくれたのだ。
彼の再度の犠牲を無駄にしてはいけない。
再び私はボッチとなって、雲ノ平のテン場目指して突き進むのである。
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8:10
一人になった私は、アラスカの大地から「日本」に舞い戻っていた。
ここは奥日本庭園。
雲ノ平には他に「日本庭園」「スイス庭園」「ギリシャ庭園」「アルプス庭園」などのオシャレ庭園が点在する。
そしてここからはまさに天国だった。
とても北アルプス内とは思えないほどの、「これぞ秘境」といった広大な台地が広がっているのである。
そしてその広大な台地には、これでもかと高山植物が咲き乱れている。
まるで日本じゃないみたいだ。
なぜ「日本庭園」なんて名前付けちゃったかなあ。
そしてその広大な道を進んでいくと、ついに憧れのあの山荘が現れたのだ。
天下御免の「雲ノ平山荘」だ。
去年「黒部の山賊」を読んで以来、ずっと憧れを抱いていたこの場所。
山荘自体は新しく建て替えられてしまったが、このような僻地に小屋があるってだけで感動的。
そしてこの小屋は何より外観も風景も一級品。
まさに思い描いていた通りの、夢のような光景が広がっている。
2日かけて苦労してやって来た甲斐があった。
早速テント場の受付を済ませ、秘宝「巣封羅威人(スプライト)」を購入して一人歓喜の乾杯。
しばらくベンチに座って感慨深い気持ちで、風景を眺めてぼっーっとした。
そして重い腰を上げて、いざテント場へ向かおうとした時。
なんと、宇宙で人体実験されているはずの怪我職人が追いついて来たではないか。
その顔には笑顔も達成感も見当たらない。
相当ハードな部分までくまなく実験されてしまったのだろうか?
気の毒に…。
しかし彼も即座に秘宝「巣封羅威人」を飲んで、再び生き返って我が船に乗船。
そう言えば彼はまだ朝飯食ってないような気がするが、よく動けてるものだ。
そもそも足怪我してるのに、ノー休憩でよくここまで来れたものだ。
ある意味彼も立派なマゾ超人である。
ちなみに、雲ノ平のテント場は小屋の近くにはない。
私はパパラッチKに「受付の人に、テント場はあの丘を越えたさらにその奥ですと言われたよ」と伝える。
それを聞いた時の彼の、苦虫を100匹噛み潰したような顔が忘れられない。
そして「これでやとゆっくり出来ると思ったのに…」という痛々しいコメント。
果たして彼はこの航海をちゃんと楽しんでいるんだろうか?
彼の後悔も順風満帆のようである。
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9:00
小屋からテント場までの壮大な冒険は続く。
その広大な世界の中を、戦場から逃げ延びた瀕死の落ち武者がさすらって行く。
しかし思いがけないほどに遠いテント場。
次第に落ち武者は徐々に遅れ出し、
またしても「お気に..なさらず…。どうか…お先に…。」と言いながら遥か後方に。
結局彼とはほとんど別行動になってる気がする。
でもせめて雲ノ平テン場到達の感動のぐらいは共有したい。
私はヘロヘロの怪我職人にさらにムチを打ち、なんとか歩かせる。
そしてついに。
ついに雲ノ平最深部、「雲乃平喜屋武風恕于(くものだいらきゃんぷじょう)」に到達したのである。
なんと素晴らしいキャンプ場であろうか。
実はこのテン場には、もう一人の船員が先行部隊として前日入りしている。
その男は出発前、「僕は水場の近い上の方に目印つけてテント張っています」と言っていた。
早速私はテント場のさらに上部に向けて動き出す。
しかしここで怪我職人の足が止まったではないか。
彼はこのテン場の入り口で「僕はここにテントを張ります」と宣言。
私は「なぜだ?あと少し登って行けばみんな近くにテント張れて夜は宴会出来るじゃないか。」と問いただす。
しかし怪我職人は頑にその場所を動かない。
なんと彼はそのたった「50m」ほどのテン場内の登りを、「もう余力がないから私は行かない」と言い放ったのである。
本当にあと少し歩くだけの事なのに、ついに彼は精魂尽き果ててしまったのである。
さすがは意外性の男。
結局彼は今回ほとんど一緒にいなかったが、ある意味一番目立っていい所を持って行った。
過去に彼の為に催したバースデー登山にも、そのご本人が当日ブッチをかますというハイパーまさかがあった。(参考記事:チーム・マサカズ祝3周年〜疾風のサプライズマン〜)
そう、彼はその場にいなくても存在感を示してしまう男。
疾風のサプライズマンは、この雲ノ平でもまさかを炸裂し放題である。
私はそんなグロッキー怪我人と4度目のグッバイをかわし、もう一人の仲間の元へと登って行く。
確か彼はテントに目印をしてあると言っていたが、ちゃんと分かるんだろうか?
すると私は奇妙なテントを見つけた。
拡大してみる。
こ…これは。
この顔、そして濡れても大丈夫なようにちゃんとパウチ加工されているというヒマさ。
間違いない。
これが奴のテントだ。
しかしその場には彼はいない。
実は彼は今、先行部隊としてすでに高天原に行っている。
その男と出会えるのはまだ先の話である。
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9:20
私は早速この雲ノ平でやりたかった事に着手していく。
それはこの憧れのテント場にて、我がシャングリラ3をおっ立てる事である。
周りが普通の山岳テントの中で、三角テントは目立ちまくる事だろう。
今回は設営時間短縮のため、あらかじめ作った六角形の「ペグ早打ちマシーン」を導入した。
そのマシーンを駆使してペグ打ってる状況を己撮りしたら、まさかのアブさんフレームイン。
そう、ここは結構な勢いで羽虫だらけ。
そんな中で、インナーメッシュ無しの開放感抜群のシャングリラ。
恐らく私は今夜、大量の虫達に食い殺されてるかもしれない。
そして何気に新しく買った、このローカスギアのトレッキングポール「CP3」。
実はこれはドッキングして、シャングリラのポールにトランスフォーム。
そしてわずか3分で、あっという間に三角テント登場。
素晴らしいポールを買ったものだ。
今後長く大切に使って行こう。(※これも伏線です。)
雲ノ平に三角テントが立っているという異質感。
そんな異質感にさらなる変態感を演出するべく、無駄にパックラフトを出撃。
私はこの無駄まみれの写真が撮りたいが為に、はるばるこんな奥地までこいつらを担いで来たのである。
しかしその苦労があったからこそ、他の人では味わえない快楽が待っている。
それがこの「極上パックソファ」の瞬間なのである。
これぞパックトランパーだけに許された至高の快楽。
フカフカのパックソファに寝そべり、シャングリラ越しに広大な雲ノ平を見下ろすという贅沢。
はるか下の方にあるパパラッチKのテントもよく見える。
そしてゴロッと仰向けになれば、どこまでも広がる蒼井そら。
まさに夢の世界だ。
これが夜になろうものなら、満天の星空が広がってとんでもない世界になるはずだ。
それを想像すると、興奮のあまり我が股間のシャングリラも見事な三角形を形成してしまう。
しかし、いつまでもここでのんびり寝転んで三角形になってるヒマは私には無い。
私はまだここからさらに奥地にある大秘宝、マゾピースを見つけに行かねばならない冒険者。
正直疲れ果ててるし、ここでのんびりしていたい。
だが我が胸の中のロマンが、私に平穏な時を許さないのである。
私は快楽という名のパックソファを、エイヤッとシャングリラ内に収納。
フカフカソファタイムはまた今夜楽しめば良い。
そしてすぐさま私は戦闘装備を見にまとう。
そう。
パックトランパーとして、まだ「トレイルランニング」と「野天温泉」という二つの競技が残っている。
ここからは走って、さらなる北アの深部へと航海を続けるのだ。
正直、病み上りでブランク明けの中年がする事ではない事は重々承知している。
しかし、何故なんだという周囲の声に対して私は今回もはっきりと言いたい。
「Because it’s There.(そこにマゾがあるからさ)」と。
さあ、ここからはついに核心部「高天原(たかまがはら)」。
新たな黒い仲間もそこで待っている。
そして怪我人のその後も個人的に気になってしょうがない。
いよいよグランドライン後半の海へ。
そこは「新世界」と呼ばれる過酷な大地。
ついにマゾピースを巡る頂上決戦へと突入なのである。
マゾピース4 高天原編へ 〜つづく〜
マゾピース3 雲ノ平編〜さすらいの怪我職人〜
- 雲ノ平〜高天原/富山
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MATATABI BASE
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