蕪山/岐阜

スネ夫の1日〜蕪山〜

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大快晴の大展望。

見た事無い光景に戸惑いながらも飛び出したガッツポーズ。


しかし、本来の彼の本日の予定は「家の大掃除」だったはず。

そもそもこんな所でガッツポーズしている場合ではない。



週末は天気が悪そうだったから、張り切って掃除するつもり満々だった。

でもその予定を入れた途端、みるみる週間天気予報は回復傾向に。

前日になって日曜日は14時くらいまで晴れるという予報をキャッチした。


寝下座覚悟で嫁との交渉開始。

僕は嫁に「肩腰40分マッサージコース」を施しながら涙ながらにアツい想いを訴えた。


そして翌日の祝日に掃除するという条件付きで、見事に1日フリー券を獲得。

そんな券がヤフオクで売っていたら1万出しても買うが、その券は嫁からしか発行されないから貴重な事この上ない。


こうして男は歓喜のフリー券を握りしめて晴れやかに旅立った。


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向かった先は蕪山(かぶらやま)。

岐阜県関市の板取川上流部にある1060mの山だ。


この山を選んだのは、周辺で一番天気が良さそうだったからというだけではない。

以前登山ショップの店員が、「近場で穴場的なおすすめの雪山があるってお客さんから聞いたんですが、実は名前を忘れてしまったんですよ。山県市の上の方で、なんか読みにくい山の名前の山。確か“無”って漢字が入っててカブキとかカブトとか、そんな感じの山だった」と言っていた記憶があったから。

奴はおそらくこの「蕪山(かぶらやま)」の事を言いたかったに違いない。


そんな非常にフワフワした情報だけを頼りにやって来た蕪山。

だだっ広い「21世紀の森」ってとこの駐車場へ。

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僕以外誰もいないぞ。

穴場的なのはいいが、穴場過ぎた感が若干不安だ。


一応登山口はあったから間違いは無いはず。

不安の中でスタートです。

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それにしても何故この人はこんなに顔色が悪いんだ?

記念写真というよりセルフ心霊写真になっている気がするが、これが世に言う死相ってやつか?

先行きが不安だ。


でも登りだしてすぐに度肝を抜く光景が広がっていた。

突然巨大な木のモンスターに囲まれたのだ。

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「じんめんじゅ」の群れは、こちらがみがまえるまえにおそいかかってきた。


ベアクローのようなものすごい迫力。

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巨大な木から木が乱立して生えまくっている。

僕は岐阜の山に来たつもりだったが、いつの間にか屋久島にでも迷い込んでしまったのか?

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何やらここは「株杉」って言われている巨大な杉の群生地らしい。

さすが穴場だ、中々やるぞ。

なんだか早くも得した気分だ。

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しばらくはそんな巨人達に見下されてる気分を味わいながら進んで行く。

しかし普段から嫁に見下されているから全然気にならない。

迫力だけで言ったら「株杉」よりも「サド過ぎ」な嫁の方が遥かに上を行っているようだ。


株杉区間が終わると、まさかの急登世界が始まる。

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しかも雪が前日の雨でほとんど溶けていて、地面はぐちゃぐちゃのゲリ道。

さらに中途半端な雪質で、いたるところにミニ落とし穴。

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最高に歩きづらくて、最高にしんどくて、男の顔のニヤケが止まらない。


そして、美しい渓谷沿いの道をひたすら急登して行く。

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後で知ったが、この山は夏場に来ると素晴らしい体験が出来る山としても有名なようだ。

この山の夏場は「ヒルズ族」がバブリーに大発生。

侵入して来た登山者の足下に大量に食らいつき、ちゅうちゅうと血を吸い尽くす。

やがてミスターカーメンに水分を吸い取られたレフェリーのような姿になるのだ。(キン肉マン参照)

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夏場にこの山を登る際は、このレフェリーのように胸に「わたしは〇〇」とご丁寧に書いておけば、ブロッケンJrに間違われる事も無いだろう。


非常に滝の多い登山道。

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この写真はセルフタイマーをセットした後に、「思いのほか足下が滑って立ち位置まで移動出来ない間にシャッターが切られてしまった男」という作品だ。

その後も、ひたすら続く急登に思わずニヤリとしてしまう。

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本年度のマゾり納めにピッタリな、陰鬱な急登パレードの連続。

そして雪山の森を堪能しようとやって来て、まるで雪がないというまさかな現実も僕の気分をへこませる。

ご丁寧に重くて邪魔なスノーシューまで背負って来てしまったこの空しさよ。

まるでコンパ会場がもの凄くラフな居酒屋だった事を知らずに、パリッパリのタキシードを着て意気揚々と会場に乗り込んで行くようなKY感だ。



その後も「店員お薦めの雪山」だったはずの「雪の無い山」を彷徨う男。

するとこんな木に挟まれた状態の岩に出くわした。

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この岩に出会った時、「他人の気がしない」と勝手に岩に愛着をわかせる男。

普段から、養子として嫁とご両親の間に挟まれて身動きが取れないというその男そのものの岩だ。

ダイソンの羽根無しヒーターをお義父さんが買って来た際、男は全く暖かく感じなかったくせに「いやあ、さすがダイソンですね」と気を使い、嫁に「これ高いくせに暖かくない」と男が文句を言われても、「いくらダイソンでもひどいよね」と同調する事を忘れない。

挟まれた石に意思は必要ないのだ。


そんなこんなで、ひとしきりいつものネガティブハイキングを楽しみながら登って行く。

すると次はこんなものが。

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鹿…だよね?

5本指っぽいけど、たまたま2回踏んだんだよね?

しかし一度ネガティブに落ちた僕の思考回路は、この後僕がリアルなプーさんと戯れているシーンばかりを映し出す。

すると後方でパキパキッと枝を踏む音にビクッと振り返る。

何もいない。

楽しくてしょうがないわ。



そうこうしていると、やっと気持ちのいい雪の道になってきた。

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これがフカフカの新雪だったら、今こそスノーシューが大活躍して強烈に気持ち良かっただろうね。

でもぜんぜんまだスノーシューいらずで普通に歩けるから非常に無念。

間違いなくこの山に来る時期を間違えたようだ。


やがて、山頂まであと1,000mの標識のある尾根に到達。

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突き抜けるような青空が、すっかりネガティブに埋没していた僕の心を晴れやかにしてくれる。

何気に快晴の雪山は人生で始めての快挙。

色々不満はあるが、晴れていればオールオッケーね。

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大分雪も深くなって歩きにくくなって来たが、スノーシューを装着するほどでもないという微妙なライン。

距離もあと少しだから、フンガフンガと突き進む。


やがて最後の急登をグッハグッハと越えていくと、

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一気に景色が開けて、

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ステキすぎるヴィクトリーロードが出現。

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これだよ。

これなんだよ。

真っ白な雪原と青すぎる空。

ずっと憧れ続けていた雪山登山の醍醐味。


吹雪にまみれて撤退を繰り返していた今までの僕の雪山登山。

このブログを見てる友達から「何が楽しくてそんな悲惨だらけの雪山に行くんだ?」と疑問を投げかけられて、僕は常に変態扱い。

でもこういう光景をご覧いただきたい。

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一般の方にはさして特別ではない光景かもしれないが、僕にとってはアバター以来の衝撃映像。

この素晴らしき光景を素直に受け入れることが出来ない。

なぜなら僕の中の辞書から「快晴」という項目が消えていたから。

僕の辞書の中身は、基本的に「暴風」「吹雪」「豪雨」「みぞれ」「遭難」「脱水」「撤退」「無念」「鬼嫁」といった負のワードで満たされている。

だからこういうステキな光景なんて、CGで作った登山雑誌の陰謀としか思っていなかった。

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「晴れ」ってこんなに素晴らしいものだった事を、36歳の今ようやく思い出す事が出来た。

そしてわざとらしい程の絵になる1本の木がある山頂へ到達。

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絵になり過ぎだろう。

さては僕は死んでしまったのか?

ここは天国なのか?

僕のような男がこんなステキな気分に浸ってしまって、分不相応ではないのか?


振り返れば恵那山がシルエットで浮かび上がり、

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周囲は360度の大絶景。

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いつもは真っ白な世界で何も見えなかったけど、山頂からの眺望って本来はこうなってたんだ。

なんてセクシーなんだ。


想像するしか無かったモザイクの先の世界。

中2の夏に友達同士で一室に集合し、誰かが親の部屋から持って来た1本の謎のビデオテープ。

そのテープが全ての謎を解決してくれたあの時の感動が蘇る。

もう純真無垢だったあの頃には戻れない。


こうしてまたひとつ大人になった僕はヨロコビの記念撮影。

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写っているのは自分なんだが、マゾコラとしか思えない程に信憑性を感じさせない写真だ。

でもこれは事実なんだ。

そろそろ浮かれてもいいんじゃないか?

調子に乗ってもいいんじゃないか?

人並みに楽しんでもいいんじゃないのか?



15分後。

頭上にはいつもの「モクモクさん」が出現し、同時に風も出て来たね。

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モクモクさんは「いやあ、遅れてスミマセン」と頭をかきながらやって来た。

やっぱりね。

そうだよね。

浮かれちゃったからね。


瞬く間に快晴は終わり、いつもの状態に戻って平静を取り戻した男。

やはり僕にはこの程度の状態が心落ち着くようだ。

どんなに優しくてセクシーなお姉さんに誘惑されても、やっぱり落ち着く場所はドS嫁がいる養子家庭ってことなのさ。


調子を取り戻した男は、登りとは別の尾根道から下山開始。

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強烈に道が分かりにくい。

空には暗雲が立ちこめ、鬱蒼とした森は遭難臭をプンプンと解き放っている。


マニアックルートなのか、全く踏み後も無い僕だけの世界が続く。

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せっかくなんでこの静かな森の雪世界を堪能する。

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すごく気持ち良いぞ。

凛とした静寂の世界に、時折鳥の声。

ここには煩わしい人間関係も競争もなく、劣等感も優越感もなくて戦争も無ければドSな罵倒も無い。

雪の低山登山は、こうして静かな森の中で立ち止まってみる事が最高の贅沢だ。


静かで豊かな心を手に入れて、意気揚々と再び下山開始。

しかしそのわずか2分後、強烈に大転倒。

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思いっきり雪の落とし穴に足を取られて、スーパーマンスタイルで前のめりにクラッシュ。

さっきまであんなに良い気分だったのに、たちまち落ち込むスーパーマン。

天はまだまだ浮かれる事を許さない。



非常に不明瞭な道をなんとか地図を見ながら進んでいく。

やがて滝が見えて来た。

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なかなかに見応えのある滝だ。

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「どうせ浮かれちゃダメなら、いっそ飛び込んで滝に打たれてやろうか」というマゾ心が疼いたが、グッとこらえる。

どうせ家に帰れば上から罵声の滝をたっぷりと浴びてマイナスイオナズンに包まれるから、何もここで滝に打たれる事は無いのだ。

なんて僕は恵まれたマゾだろう。


幸せをかみしめながらさらに下山。

すると滑落必至のエキセントリックな橋が登場。

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すごい斜めってる。

絶対雪で滑り落ちるだろ。

ここはSASUKEの会場か?

ふと上を見れば、もう一本橋が架かっている。

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なるほど、さすがにこっちは危険だからあちらが正解の橋というわけか。

しかしその橋まで行くと、穴だらけの朽ちた橋じゃない。

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どっちの橋が正解なんだ?

これは桔梗屋さんが仕組んだとんちか何かか?


結局穴だらけの橋をアシモ並の動きで何とか突破。

中々ハードな下山道だ。



道はさらに不明瞭になっていき、目印のテープだけが頼りの迷路状態。

そしてついにピンクのテープを見失い、男は見事にお得意の遭難タイムへ突入。

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行ったり戻ったりを繰り返しながら、必死で目印のテープを探す。

そしてとにかく分かる所までまた登り返して、何度も地図とにらめっこ。

まるで双児宮に迷い込んだ聖闘士星矢気分。

このままではアナザーディメンションで遥か彼方へ飛ばされてしまう。


地図とGPSを頼りに、不安で一杯になりながら暗い森を彷徨い歩く。

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そして何とか目印を発見し、無事に下山。

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よかった。

毎度毎度この不安感はたまらないものがある。

見上げると、天はすっかりいつもどおりの感じに。

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まあ、自分らしいフィニッシュだ。

ポツポツ雨も降って来たしね。

あの快晴の頂上が、今となっては幻覚だったんじゃないかと思えるね。



より大きな地図で 蕪山 を表示


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せっかく嫁から頂いた1日フリー券。

登山だけで終わらせてはもったいないじゃない。


僕は板取川温泉の駐車場に車を移動させ、早速ネクストマゾの準備開始。

登山後の疲れついでのランニング。

このランでわずかに残った体力を根こそぎ奪い取るという、マゾには堪らないデザートのお時間だ。

そして己を散々追いつめてからの温泉は、筆舌に尽くし難い程の快感を僕に与えてくれるのだ。


早速ランニングの格好に着替えてランニング開始。

2キロくらい走った時点でふと思い出す。

一応嫁が心配してるかもしれないから「無事に下山した」とご報告しておこう。


電話をする。

すると嫁がいつもより8段階くらい低いトーンで電話に出た。

「なんだ?」

「いや、一応下山のご報告でございまして。心配してるかと思いまして。」

「あ?」

「いや、心配してないご様子ですね。これからちょっとランニングして温泉入って帰りますんで。」

「ランニング?そんな暇があったらすぐに帰って来い。こっちは胃と腰が痛いんだ。」


しまった。

余計な事を言ってしまった。

翻訳機能を使って彼女の言いたい事を整理すると、「私は妊婦であちこち痛くてしんどいのに、お前は登山だけで飽き足らずにランニングと温泉まで楽しもうというハラか。さっさと帰って来いこの糞ブタ野郎。」ということになる。

僕は「せめて温泉だけでも…」と言ってみたが、電話の先は漆黒の無言。

こうなると僕の考える余地は無い。



大急ぎで元来た道2キロを全力疾走で戻る。

残りの体力を根こそぎ奪い取る事には成功したが、心の痛手のが深いようだ。


この状態で温泉に入ればさぞかし気持ち良いいんだろうなあ。

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しかし僕はその「天国」を目の前にしながら、汗だくのまま車に乗ってランニングウェアのまま家に向かって突っ走る。

今回のは「1日フリー券」ではなかったのか?

1日フリー券と見せかけた、1日サディスティック体験チケットだったのか?



一切の寄り道をせず最速で帰宅。

テレビの前でパジャマのまま寝転んでいる嫁。

そして僕を見るなり、おかえりなさいも無く呟く。

「腰もんで」と。


そのまま、息を切らせながら嫁の腰を揉むランニングウェアの男。

当然「お前臭いな。ドブ臭い」と言われる汗冷え男。

「いや、温泉入ってないんで…」とちょっと抵抗。

「なに?私が悪いってこと」と眉間にシワが寄る女。


もはやジャイアンだ。


しかし妊婦さんは何かと大変なので「スイマセン」と言ってマッサージを続けるスネ夫。

握りしめていた1日フリー券は、いつのまにか「従順マッサージ券」へと姿を変えていた。

そしてお義父さんが通りかかれば、すかさずスネ夫からマスオへとシフトチェンジして愛嬌を振りまく。

めまぐるしく表情を変える家庭内アシュラマン。




そしてスネ夫は今日も嫁の腰を揉み続ける。


まんざらでもない表情で。



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