御嶽山/長野

御嶽山3〜天使と悪魔の分岐点〜

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地獄の入口をヨタヨタとうろつくこの男。

一度は摩曽支天念という神にまでのぼり詰めたこの男が、ついに地獄へと堕ちて行く。


摩利支天山からの、行きとは別コースのお鉢巡り。

男を待ち受けていたものは地獄のような荒涼としたステージ。


やがて霊山御嶽山が「醜い己と対峙せよ」とばかりに試練を課す。

男は地獄の風景の中での自問自答で醜い己に打ち勝つことが出来るのか?

冷静と情熱とネガティブと劣等感の狭間で男が辿り着いた境地とは?


北岳制圧への道〜御嶽山編〜最終章です。


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あえて難コースからの摩利支天山制覇。

神となった男は下山を開始し、再びお鉢をぐるっと回って剣ケ峰を目指す。


やがて賽の河原まで戻って来た男に異変が起きていた。

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まるで死んだ子供が、賽の河原で親を探してうろついているかのようなこの光景。

実はこの時点で彼は、原因不明の「左ケツの張り」を訴えているのだ。


摩利支天山から下山中に突如左ケツに「ぴりり」と電気が走った。

こけたわけでもひねったわけでもない。

何もしていないのに思いがけない部位からの突然過ぎる痛みの新規参入。


ただでさえ足の痛みに耐えている状況での左ケツの反乱。

しかし考えようによっては「痛みをもって痛みを制す」の方程式で、逆に足の痛みが気にならなくなるかもしれない。

でもそんな淡い期待に反して、各所の痛みは各所の痛みとしてしっかりと脳に信号を送り続ける。

脳もその信号を余す事無く受け入れて、絶妙なバランスで下半身全体が見事に痛い。


そんな満身創痍の男の前に立ちふさがるは、随分とロックな岩の登山道。

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ここをよじ登って行けというのか?

よせばいいのに、行きとは違う道を選んだ事により距離もハードさも痛みもパワーアップ。

いよいよ地獄のような登山になって来たぞ。


ブホブホと岩をよじ登って行く。

ある程度登りきり、ほっとして上を見上げればどこまでも続くガレ場急登のご登場。

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これを見て、思わず心がポッキリ行きそうになる。

まだ昼飯も食ってないし、ちょっとここらで休憩が必要だ。


ここは行きに見た二の池のちょうど逆側で景色もよろしい。

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眺望こそモクモクのせいで全く見えないが、池が見えるだけで十分幸せだ。


お湯を沸かし、カップラーメンに注いで3分後。

カップラーメンの出来上がりとともに、二の池のモクモク化も完成していた。

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お湯を沸かすわずか3分だけが僕に許された二の池満喫タイム。

こうして魅惑の3分間を堪能した男はM(マゾ)-78星雲のウルトラの星へと飛び立って行った。



ささやかな幸せすら奪われた男。

昼メシのシーフードヌードルがいつもより塩辛かったのはこぼれ落ちた涙のせいなのか。

それでも男は再び登り始める。


地図によると、このガレ場の急登を登りきれば「一の池」があるという。

二の池と三の池があれほど見事だっただけに、一の池への期待も高まるというものだ。

わざわざこんなアホみたいなハードルートに来たのもそのためだ。


足とケツの痛みに耐えながら、やっとのことで稜線に辿り着いた。

そして眼下には壮大な「一の池」が広がって…

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おや?池は?

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おい、まさかとは思うがあのチョロリとした水たまりが「一の池」だとぬかす気か?

僕はこんな小さな水たまりを、こんな壮大なスケールで眺める為にはるばるここまで登って来たというのか。


即座に全身から力が抜け、もはやココロもカラダも立っているのがやっとだ。

そんな疲れ果て唖然とする僕の前に追い討ちをかけるような光景。

どこまでもどこまでも続くガレた稜線。

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これを見た僕は思わず言ってはいけない言葉を口にしてしまった。

すでに世は2012年だが、恥ずかしげもなくあえて言ってしまおう。

「おんたけ、どんだけ〜〜」と。

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イワオの大群のようなアホみたいな岩の道が延々と続いている。

そんな道をキン骨マンみたいにゲッソリしてしまった男が登って行く。


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ここは地獄なのか?

僕は知らないうちに摩利支天山で滑落死していたのか?

よく見ると亡霊のような男達も歩いている。

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昔、聖闘士星矢でこんな光景を見た事があるぞ。

蟹座の聖闘士の「積尸気冥界波」を食らった奴が、死の国(冥界)へと送り込まれて火口みたいな所に落ちて行くあのシーン。

分かる人にはこれ以上無い例えだが、分からない人は全く分からないだろう。


そしてもういい加減見飽きたモクモクさんが本日何度目かのご登場。

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より一層、その地獄感に彩りを添えてくれたようだ。

全く嬉しい限りでゾクゾクするぞ。


その後も、益々地獄のような光景になっていく御嶽山。

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やはり僕は地獄に堕ちてしまったんだ。

閻魔様も「お前文句ばっか言ってるが、なんだかんだと毎週のように遊んでるじゃないか。貴様のような奴は満場一致で地獄行きだ。」と審判を下したんだ。


前方では火口の奥で火山が噴煙を上げている。

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まさか噴火か?

こんなとこで噴火に巻込まれて死んだら、きっと僕の友達たちは「あいつらしいなぁ」って言うんだろうな。

そんな風に言われる僕の生き様とは一体なんなんだ?


地獄に突入した事で、次第に卑屈なネガティブ野郎へと堕ちて行く男。

よく見るとあの噴煙もモクモクの発生源じゃないのか?

まさかあそこに実は嫁がいて、必死で僕に雲を送り続けているんじゃないのか?

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インドア派と思い込ませておいて、毎回僕の先回りして雲やら雨やら雷やらを発生させていたのか?

そして苦しんでいる僕を眺めてほくそ笑むのが彼女の趣味かもしれないぞ。


一度は神になった男が、ついに堕天使となって歪んだ自問自答を繰り返す。

ここは霊山御嶽山。

今、まさに男は心の清濁を試されているのだ。


うつろに地獄を彷徨い、やっと剣ケ峰に戻って来た。

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ここまでこれば人も沢山いるし、少しは人心地を得ることが出来るはずだ。

しかし剣ケ峰で目に入ったのは、沢山の登山者以上にボリュームMAXになったモクモクさんだった。

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もうやめて。

ほんと、勘弁してください。

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瞬く間に僕はモクモクさんの懐深く引きづり込まれていた。

山の天気は「変わりやすい」というが、もうはっきりと「変わるんです」と言い切ってもらいたいものだ。

今となっては、2メートル先が見えていれば僕にとっては「視界良好」と言えるだろう。

受け入れるしか無いのか。


例のごとく僕のせいで巻込まれて行く被害者の方々。

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いつもなら大声で「ごめんなさい」と叫びたい所だが、歪んだ今の僕は「同じ日に山に登った不幸を恨むがいい」と呟く。

きっと悪魔や貧乏神も最初は善人だったんだろう。

で、今日の僕のように徐々に心が歪んで堕ちて行ってそんな風になったんだろうな。

きっとそうだ。


やがてエスカレートした神の新たな追い打ちが開始される。

僕の目の前に「にゃんにゃんカップル」を送り込んで来たのだ。

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手を繋ぎながらのラブリー下山。

闇の心に支配された僕の前で展開されるポップな世界。


最初のうちは微笑ましく見ていたが、やがて僕の中に嫉妬・悔しさ・鬱陶しさ・羨望・劣等感などの感情が入り乱れてスパークする。

僕の全力パワーを解き放ってこいつらに雨でも降らせてやろうか?

その手を繋いでいる真ん中を突っ切って行ってやろうか?

男に対して「やがてその女もドSな嫁に変貌を遂げるんだぞ」と叫んでやろうか?

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僕の卑屈な堕天使化が止まらない。

どうせ女の方はレキのポール使ってるけどリコール対象じゃないに決まってる。

どうせ男の方は加齢臭も無く、登山靴もぴったりで、それでもってサラサラヘアーに決まってる。

昔の僕のように、天パにストレートパーマかけにオシャレ美容院に行って店員さんに「チッ」って舌打ちを打たれた経験なぞないに決まってる。

くそう、吹き荒れろ。雨よ降れ。全てを破壊してしまえ。



いかん。

落ち着け。

あんたどんだけネガティブになってるんだ?


恐るべし霊山御嶽山。

僕は今、自分の闇の部分をまざまざと突きつけられていたのだ。

ここはまさに天使と悪魔の分岐点。

人として僕はどちら側の男なのかが御嶽に試されているのだ。


こんな時は得意のセルフマゾ機能を発動。

自らに「強烈な尿意」という十字架を背負わせ、余計な事を考えられない状況に自らを追い込んでみた。

はちきれんばかりの膀胱が、下山の一歩一歩でシャウトする。

立ちションをかまそうにも、大量の登山者の存在がそれを許さない。

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こんな見晴らしのいい場所での放尿は変態行為と紙一重。

あの遥か先に見える駐車場のトイレまで、体内で尿の表面張力を維持させながらこぼす事無く辿り着かなければならない。


しかし駐車場は見えているのにいつまでもいつまでも近づかない持久戦。

パンツを濡らしているのは汗だけではない気がしてならない。

ここから先は顔面蒼白内股ウォーク。

失いそうな意識をつなぎ止めるのに必死だ。

そしてそんな状況にも関わらず、僕の足はしっかりと脳に痛みの信号をLTE並の高速通信で送り続ける。


いろんな限界の先の限界の世界を彷徨いながら、フラフラで駐車場に近づく。

その頃には子供や老人にも追い抜かれるという悲惨な状況。

駐車場に到達し、登山を終えた感動など感じるわけもなくトイレに駆け込む男。


僕は忘れない。

この時の手足がしびれるほどに突き抜けた放尿の快感を。

この時の僕の恍惚の表情は、堕天使の悪夢から見事に解放された悟りの境地。

僕は霊山御嶽山に、人として大事なものが何なのかを教えてもらって気がしてならない。


そして「本当のゴール」となったトイレの脇で一人寂しく勝利の記念撮影。

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このやりきった感溢れる姿が、今回の戦いの壮絶さを物語る。

久しぶりの完全燃焼。

もう、しばらくは登山する気にもなれない。



待てよ。

これって1週間後の「北岳」に向けての仮装登山じゃなかったっけ?

まずいな。

予行演習で燃え尽きてしまったようだ。

足も痛めたしスタミナも使い果たしてしまった。


でもこれは結果的に想定内。

実はこれはテスト登山ではなく、事前に悪状況を仕込みつつ快晴代償を前払いする為の登山。

これで北岳に対する準備は万端。


いざ、王座簒奪へ。

待ってろよ、北岳よ。



御嶽山 〜完〜


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〜おまけ〜


帰りに温泉に寄ったんだが、そこがいい温泉だったので紹介しておこう。

それはこの「こもれびの湯」だ。

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僕の温泉の判断基準はいい湯だったり効能がどうかではない。

いい温泉とは、おもしろいかどうかが重要だと信じている。


ここの湯は濁りすぎていて、まるでドブにでも浸かっているような野趣溢れるお湯。

さらにお湯は強烈な「鉄」の匂いで、一度浸かれば瞬く間に全身が鋼鉄臭に包まれる。

そこに設置されている「ヒノキボディソープ」で体を洗うと、鉄と檜の香りが大喧嘩して、何やら体が「工業的」な匂いでコーティングされる。

そして今日一日の汗と加齢臭と工業臭が不思議なケミストリーを巻き起こす。

で、温泉を出る頃には鉄臭さ満載の「アイアンマン」となっているという不思議な温泉。


みなさんも一度行ってみてはどうだろうか?



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