翌週末の北岳制圧に向けての仮想登山。
北岳は南アルプスのキング。
反乱軍の一員として、王位簒奪の為の準備は入念に行なう必要があるのだ。
選んだステージは富士山同様の独立火山峰「御嶽山」(3,067m)。
山岳信仰の霊山にして「修行の山」。
家からのアクセス、標高、登山タイムの全てが仮想北岳に持って来いの山だ。
ただし、テスト登山のつもりが今回も本番さながらのマゾに追い込まれて行く男。
軽く「テスト」なんて言ってるが、実はこの山は去年から狙い続けていた憧れの名山。
岐阜県民として、この「御嶽山」と「白山」はいずれ倒さねばならない宿命の山なのだ。
とにかくテストしたい事は、3000mの山に単独で登れるかどうかではない。
因縁の登山靴「マムートさん」が長時間の登山に耐えられるのかということ。
正確に言えば、僕の足がマムートの打撃攻撃にどこまで耐えられるかの我慢勝負。
快適登山を楽しむ為に買った靴が、今最も僕の足を引っぱっている事は確かだ。
それではそんな「9時間耐久我慢大会」の模様を振り返ってみよう。
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金曜夜。
仕事を終え帰宅し、男の三大任務(子供の風呂・歯磨き・寝かしつけ)をこなした時はすでに21時過ぎ。
準備を整え、22時に家を出発。
今回は飛騨側からのスーパーロングコースでの登頂を目指していた。
しかしカーナビが登山口である濁河温泉までを検索した所、「5時間半」という魅惑のタイムを提示している。
今回は朝の5時前から登り出そうと思っていたので、このままでは不眠不休でスーパーロングコース突入となってしまう。
向かう車の中でどんなにシュミレーションしてみても、行き着く所は必ず「過労死」だった。
散々迷った挙げ句、今回は王滝口(長野だけどこっちのがアクセスが多少早い)からのロングコースに切り替えた。
事前の情報収集不足が早くも露呈した結果だ。
登山口を変えたと言っても、車で寝られたのはわずか2時間ほど。
本日もスタート前から男の顔に激しい披露の色が滲んでいる。
目の錯覚なのか、登山口の文字が血文字のダイイングメッセージのように見えて不安を煽る。
まあ、ある意味北岳も同様の結果が予想されているので調度いい。
「睡眠不足」はマゾ使いの事前仕込みとしては王道中の王道。
今日もグッドコンディションだ。
この王滝口の登山道は御嶽山の最高地点「剣ケ峰」までの最短コース。
このように子供も登ってしまうおよそ3時間程の行程。
もちろん今回は剣ケ峰も越えて、その先の摩利支天山までを目指すロングコースだ。
正直僕はこの王滝口の剣ケ峰までの道のりをなめていた。
以前チーム・マサカズのオギKの娘二人が、このルートで登頂を果たしていたからだ。
小学生の女の子に登れるんだから軽々登れるだろうと。
しかし、地味にキツい登りが延々と続くじゃない。
何が一番驚いたかと言えば、もうこの時点でマムートさんのローキック攻撃が始まった事だ。
今回は薄手の靴下にチェンジし、ジェルクッションのシートを患部に貼付け、靴紐も緩めに設定。
ここまでして痛かったら絶望的って感じだったのに。
テストするまでもなく分かっていた事だが、早くも確信した。
この靴は間違いなく僕に合っていないと。
早くも痛くなる小指の付け根の骨。
おまけにここの所のキツかった仕事と寝不足の体が、まるで登山に順応してくれない。
結局いつも通りグハグハと苦痛に顔を歪めながらの登山となった。
振り返れば早くも雲海が広がっているが、僕の足にも痛みという不快が広がっている。
景色は美しいのに、心が沈んでいるのは何故だろうか。
それでも天気予報通りの素敵な青空にはご満悦だ。
しかしこの数時間後。
この景色が真っ白なクラウドサービスに支配されるなんて事はこの時は思ってもいなかった。
そしてオープニングの写真やこの写真。
いつものように己撮りで颯爽と佇んでいるように見えるが、この山での己撮りは羞恥の極みだ。
この写真の後ろはこんな感じで、わんさと登山者がいる。
彼らの前でカメラをセットし、そそくさと立ち位置に移動してポージングしてまた戻って来るという一部始終が衆目に晒されるのだ。
大衆に自慰行為を目撃されているかのようなこの恥辱。
マジックミラーじゃないマジックミラー号で撮影しているようなこの感覚。(意味分かるか?これ)
色んな意味でたまらねえ。
八合目を越えれば、さらに傾斜もきつくなってくる。
オギKの娘達はよくぞこんな所を登ったもんだ。
その時はオギKの奥さんも登ったようだが、こんなところに我が嫁を連れて来たら訴訟問題に発展しかねない。
九合目まで来ると、火山だけにやや硫黄の匂いがするようになる。
登山中に度々オナラをこく僕としては実にありがたい山だ。
木曽駒ヶ岳のときの記事では書かなかったが、僕は終始屁をこいてチームのメンバーに迷惑をかけている。
ここなら例え麗しきレディーと来ても心置きなく放屁可能だ。
やがて「王滝口頂上」へ到達。
ここを抜けると、景色が開けて荒涼とした山容が姿を現す。
ついに御嶽山の頂上「剣ケ峰」を捉えたぞ。
霊山だけに、実に荘厳なオブジェが立ち並んでいる。
梅雨時になると天パの僕の前髪はこんな感じになる。
しかしそんな湿気とは無縁の最高の快晴状態がたまらない。
ああ、足が痛いけど楽しいなあ。
そう言えば本来登山って楽しむものなんだよなあ。
進んでマゾだ修行だなんてやってるけど、今回は何事もなさそうだ。
今日ぐらい楽しんじゃってもいいのかな?
なんて僕の心の声が神々達の怒りに触れた。(この人達↓)
お前のような男を楽しませてなるものかと、早速後方から刺客を送り込んで来たのだ。
噴火したのか?と思うほどに、ものすごい勢いでモクモクが形成されて行く。
結局いつも通りなのか?
急がねばならない。
前方は平和な快晴が展開しているが、
振り向けば圧倒的な勢いで迫り来る神の刺客達。
またやってしまった。
あれほど浮かれるなと何度も言い聞かせてきたのに。
結局いつも通り雲とのデッドヒート。
晴れてるうちにせめて山頂だけは拝んでおきたい。
最後の階段を駆け上がり、
見事、剣ケ峰到達。
うああ、雲が雪崩のように迫ってるぞ。
山頂到達の感動に浸っている場合じゃない。
ささっと登頂記念撮影。
勝った。
なんとか美しき二の池だけは「浸食」される前に拝むことが出来た。
しかし地図には「360度の絶景」と書いてあったが、この時点で90度くらいの絶景。
それでもいつも景色を想像する事しか許されない僕としては大上出来だ。
やはり空想の女性よりも生身の女性のが圧倒的にいいものだ。
結局迫り来る雲のおかげか、足を痛めながらもわずか2時間での登頂。
まだまだ先は長い。
御嶽山との第1ラウンドを終え、僕はゆっくりと勝利のコーヒーを作り始める。
そのわずかな90度の絶景を堪能しながらのコーヒーはきっと格別だろう。
さあ、コーヒーができたぞ。
この素晴らしき景色を見ながらのコーヒーがまた最高…
アツアツのコーヒーが出来上がった頃、僕はモクモクの濃い雲の中にいた。
景色なんて真っ白で何も見えやしないじゃない。
あれかな?コーヒーの湯気でメガネが曇ったのかな?
いや、違う。
コーヒーを湧かしているこのわずかな時間の間に、僕はいつもの世界にご入店していたのだ。
この時男の飲んだコーヒーはいつもより苦かったという。
こうして僕と雲との楽しい追いかけっこが幕を明けた。
ここからはいよいよ摩利支天山を目指すロング周回コースのスタート。
テストというにはあまりにもハードな修行が始まろうとしていた。
御嶽山2へ 〜つづく〜
御嶽山1〜男のコーヒータイム〜
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MATATABI BASE
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