古座川/和歌山

空飛ぶ山田と体育な夜〜古座川編〜

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カヌーに乗って空を飛ぶ男がひとり。



山田(仮)が地表に影を落としつつ、カヌーに乗って空へと浮上して行く。

ついに宇宙人がキャトルミューティレーションの標的に山田を選んだのか?


さにあらず。

空に浮かんでいるように見えるのは、この川の透明度がそうさせているのだ。



時は2005年の11月。

今回の「あん時のアイツ」シリーズ第17弾は、和歌山県「古座川」。


以前は支流の小川をご紹介したけど(まわる柿太郎)、ついに本流を攻める時が来たのだ。

水量が豊富な時は圧倒的に「小川」をおすすめするが、やっぱり本流の古座川も「清流度」はグンバツだ。


この時の旅は、僕と山田(仮)とビビるSの三人旅。

この旅の計画は「古座川を下って、翌日カヌーで海に出て無人島を目指す」といった、中々当時としては冒険色の強い旅だった。

今回は古座川編をお送りします。


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確か「月の瀬温泉」手前あたりの川原にて、前日入りテント泊。


11月なんで、当たり前だけど朝は冷え込む。

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眼前にはどかーんと峰がそびえている。

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ここ、後で知ったんだけど「少女峰」って地元では言われてるみたい。


こんな昔話が残っている。


昔々、おふじという評判の17歳の美人が住んでおり、それを聞いた海賊が妻にしようと無理矢理連れ去ろうと押し掛けた。

ここまではよくある昔話。

しかしその後追いつめられて逃げ場を失ったおふじは、この高い峰の上から古座川の淵へ飛び降りて死んでしまいましたとさ。おしまい。


なんて救いのない昔話なんだ。


そんな思いっきり無念の霊が現れそうな川原で、陽気にモチを焼く救いのない野郎が三人。

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おふじさんには悪いけど、やっぱりこの時期の楽しみは断然焚き火ですよ。


お餅でパワーをつけた三人の海賊は、一路スタート地点へ向けて移動。

美人ではなく、ロマンを奪いに行くアツい戦いが始まったのだ。


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やがてスタート地点に到着。

そして我々の眼前に、ズボーンとヌリカベが立ちふさがった。

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これ、実は一つの「岩」なんです。

「古座の一枚岩」って言われるやつで、日本版のエアーズロック。

もうちょっと有名になっても良いと思うんだが、いかんせんマニアックな和歌山県のさらに山奥なんで観光客も大して来ません。


全体像の写真を撮りたくても、近いしデカすぎるので収まりません。

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はみ出た部分は適当に想像して下さい。

中学生の頃に、目を細めて画面にかじりついた時の事を思い出しながら。


そして、川の透明度はやっぱり美しいですよ。

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和歌山県の南部って、高速道路も通ってない「陸の孤島」だから、人も来ないからこのような美しい自然が至る所に残ってるんだよね。

やっぱり観光地化されていない自然ってのは素晴らしい。

住んでいる人には悪いけど、このままずっと変わらず「陸の孤島」であり続けて欲しいものだ。

行くのが大変だけどね。



そしていよいよ男のロマン海賊団の出発。

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これだけ迫力ある一枚岩を仰ぎ見ながらの川下りは、実にオツなものがある。


しかも水がキレイだもんだから、川底が丸見えで空に浮かんでいるようだ。

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日常社会生活でも「浮いた存在」な三人の海賊の浮ついたリバーツーリングは続いて行く。


そんなに流れがある訳でもなく、実にのんびりした快適ツーリング。

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そんなに大した「瀬」があった記憶がない。

しかし地元の人に聞いたんだが、そんな古座川を過去に豪快に「沈」した男の昔話があるそうだ。


昔々、テレビ番組の撮影で来ていた大仁田厚という大男がカヌーで沈しましたとさ。


これはこれで救いのない話だ。

一体このおとなしい川のどこで沈したんだ?

電流有刺鉄線等の数々の偉業を成し遂げてきた偉大なマゾの大先輩。

こんな場所でもセルフマゾはかかさないのか。

さすがとしか言いようがない。


気持ち良い場所があれば、すぐ上陸。

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基本的に我々は頑張って漕がない。

ただうだうだと酒飲みながら下って、良さげな川原があれば上陸して昼寝等の重要任務を遂行する。

山田は酒を飲まないから、このメンバーで行くと僕とビビるSはがっつりビールが堪能出来る。

こんな景色の中では、発泡酒でも瞬く間にプレミアムビールへと変貌するのだ。


そして、我々のもう一つの楽しみ。

それは焚き火。

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上陸しては、薪木に良さそうな流木を拾い集めて徘徊する。

この時はいつでもバーニング出来るように、集めた流木をカヌーに括り付けながら下って行った。

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最高すぎる緩やかな時間。

やっぱり(晴れた日の)リバーツーリングは最高だ。


そしてこの川の良い所はその景色。

他の山に比べて、雰囲気のある岩山が多く周りにそびえる。

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この写真は大したことないが、全体的に中国の「桂林」のような雰囲気が漂う川。

かつて司馬遼太郎がそんな桂林のような雰囲気を愛したという、実に風光明媚な川なんです。


そしてその後も、どこまでも透明で鏡のような川は続く。

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そんな透明で清らかな鏡面の川面を、濁った男共のカヌーが切り裂いて行く。

まあなんせ流れがあんまりないから結構漕ぐ羽目にはなるんだけど、気持ち良さは変わらない。


景色も雄大で気持ち良すぎだ。

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やっぱり改めて見ると本当良い川だなあ。

これ書いててまたウズウズしてきたわ。

でも、一人で行ったら雨が降って濁流なんだろうな。



やがて僕だけ上陸して、二人のカヌーを見下ろしてみる。

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もう、空に浮きまくってんなこの二人。

コンパとかで「浮いてるね」って言われたらショックだけど、川での「浮いてるね」は最高の賛辞だ。


彼らの奥には、例の「少女峰」がどーん。

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「少女峰」と呼ぶにはあまりにもイカツイ。

今後は「大仁田峰」と呼ぶ事にしよう。


やがて、しっかりとロマンの略奪に成功した我々は、テント泊した場所にゴールした。


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ここからは、スタート地点の車を奪い返す旅が始まる。

普通、三人もいれば誰か一人はカヌーを見張るお留守番だ。

しかし、我々は三人はそんな事はしない。

カヌーが盗まれたらそれまでの事さ。

まあ、二艇とも僕のカヌーなんだけどね。


こうして我々は、カヌーを置き去りにして三人で仲良く自転車に乗って上流に向かった。

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いつもは煩わしいこの回送作業も、この川の雰囲気だとばっちり楽しめる。


美しい古座川を眺めながら走っていると、岩をくりぬいたトンネルなんかもある。

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まるで誰かがカメハメ波でも撃ったかのようなトンネルだ。


で、気分よくどんどん進んで行く。

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やがて、例の「一枚岩」が現れてゴールです。

回送ですら楽しめる数少ない川だ。

ちなみに、前回の小川の記事でも紹介したけどここには「カヌータクシー」なるものもある。

しかも鮎釣りが始まっても、一枚岩から下流は「カヌー専用区間」だから夏でも楽しめる。

古座川は、とことんカヌー野郎には最高の場所なのだ。


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カヌーを回収して、今夜の宿探し。

やっぱり寒いってことで、急遽適当な宿に泊まる事になった。


向かったのは「月の瀬温泉ぼたん荘」。

なんせ時期が時期なだけに、全く客がいなかった。

「寝られればどこでも良い」という我々の要求に対し、先方は「最高のおもてなし体勢」をとって来た。


案内された場所はここ。

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部屋というか別館じゃないか。すごいぞ。


ここは「いろり館」といって、ホームページによると「個展、ワークショップ、コンサート、イベントなどのほか、団体様のご宿泊にもご利用できます。」って書いてあった。

そんな場所に三人だけでの豪勢な宿泊だ。

閑散期って最高だ。


中に入ると、衝撃的な光景が目に入ってきた。

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これは、部屋というか「体育館」だぞ。

まるで避難生活じゃないか。

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そして、その広大な部屋のセンターに「ぽつん」と布団が三つ敷かれている。

なんだ、この「豪勢と寂しさの中間」な感情は?

せめて端の方に布団を敷いてくれれば良いものを、何故あえてど真ん中に配置したのか?

絶対にこの布団を敷いた人は、笑いを噛み殺しながら敷いた事だろう。



この部屋(体育館)には台所まで付いているので、買い出しに出かける。

もちろん、海の町だから地元の魚屋へと突入です。

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食の男、山田にはたまらないシチュエーション。

新鮮食材を心より愛してやまない男だけに、大満足な買い出しだった。



早速我々は、広くて寒々しい体育館の片隅で静かに宴会を始めた。

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状況が状況なだけに、大いに盛り上がるって訳ではなかったが、メシは果てしなくうまかった事を記憶している。

新鮮な魚祭り。

締めはもちろん雑炊です。

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これ、ほんと美味かったなあ。

まさかこんな体育館の片隅で、こんな美味い雑炊食ってるとは朝の時点では思いもしなかったな。

これだから旅は面白い。


たらふく飲んで、やがて明日に備えて眠りについた。

当然だが、妙に落ち着かずに寝にくかった事も記憶している。



さあ、翌日はカヌーで始めて「海に出る」。

海を越えて無人島を目指すのだ。


目指す島の名は「九龍島」(くろしま)。

名前からして、なんとなく冒険心を駆り立てる。

過去に、熊野水軍の拠点だったと言われている島だ。


我々ロマン海賊団がその島で出会うのはどんなお宝なのか?

そこにワンピースは眠っているのか?

ワクワクしてたまらない。


しかし、悪魔の実「マゾマゾの実」を食べた僕は海の恐怖に打ち震える事になる。

そして、偶然その島に居た謎の撮影部隊の正体とは?

そこにいたのは良い子なのか悪い子なのか?

全ては九龍島編で明らかになる。



〜九龍島編へつづく〜



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