「あん時のアイツ」シリーズ第4弾は、和歌山県の「小川」(こがわ)をピックアップ。
2004年の5月に、和歌山を一人でぐるっと放浪した際の一コマだ。
小川は串本にある名川、古座川の支流の川。
当初僕は古座川を下ろうと思っていた。
しかし地元の人曰く、「小川を下らずして、古座川を語るべからず」と言わしめるほどの最高の川らしい。
水量があまりないから、雨が降った後がベストらしく条件もばっちりだ。
僕の旅にはいつだって雨が降っているから、その点は問題はない。
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確かこの時は西側から和歌山を回って来たと思う。
7年も前だから記憶がぶっ飛んでいる。
高野山から白浜の方に抜けて、日置川をカヌーで下って東に移動して来たはずだ。
途中にあった恋人岬。
左と右の両サイドから波が来て、岬の先端でぶつかリ合う珍しい場所だ。
波と波が出会うラブリースポット。
この当時、彼女もいない僕はこの場所を苦々しく眺めた記憶がある。
この頃の僕の放つ恋の波は、誰にもぶつからないワンウェイの悲しい波だった。
悔しいから小便でもしてやろうか。
そんな事を考えていたら、
見透かされている。
恐らく僕と同じようなワンウェイ野郎達の「怒りの放尿」騒ぎでもあったんだろう。
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やがてとても印象深い「橋杭岩」が登場する。
当時もそうだが、今でもここは結構僕を感動させてくれる。
何やら伝説によると、弘法大師様が天の邪鬼との橋作り競争の時にバスンバスンと巨大岩の杭をうった名残らしい。
この手の弘法大師ネタは各地に残ってるけど、だんだん弘法大師もアイアンマン並の扱いになってるぞ。
いくらなんでも、ちょっと無理がある。
弘法大師様も「俺、そんな事してへんで。普通の坊主やで。」とビックリしてると思うぞ。
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やがてJR古座駅にあるカヌー艇庫に到着。
ここは串本町の古座観光協会が管理していて、カヌーレンタルを行っている。
串本町は全国でも珍しいほど、カヌーに対して真剣に取り組んでくれているとても最高な町だ。
カヌー野郎達の天敵でもある漁協とも折り合いを付け、「ここから上流はアユ釣り、ここから下流はカヌー」とばっさり分けてくれているので、余計な事を考えずに下れる数少ない川だ。
さらにこの古座駅には「カヌータクシー」なるものがいる。
町ぐるみでこのカヌーというニッチな世界を応援してくれる、実にマニア受けの心憎いサービス。
僕は自艇持込みだが、もちろん快くオッケーしてくれる。
タクシーのドライバーも地元の川好きのおっちゃんだったりするので、とても貴重な情報や話を聞くことが出来る。
僕の時は地元のアユ釣り好きのおっちゃんで、「とっておきのスタートポイントがあるから」と言って、おっちゃんおすすめのポイントで降ろしてくれた。
確かにこんな場所は地元の人しか分からない。
というかこれカヌーどうやって川に降ろすのよ?
降ろされたはいいが、途方に暮れる僕。
結局悩んだ末に、「カヌーを落とす」という画期的な方法を試みてみた。
実にワイルドな方法だったが、見事に降ろす事に成功。
大事大事に扱う事はもちろん大切な事だが、野山の遊び道具はワイルドに酷使するという美学もありなのだ。
川原に降り立った僕の前には、まさに秘境という感じの光景が広がる。
最高にワクワクする瞬間。
「初めての川を下るときの高揚感は、10代の初デートに匹敵する」とは野田さんの言葉だが、まさに僕に好奇心や恐怖など様々な感情が駆け巡る瞬間だ。
僕には恋人岬など必要ない。ワンウェイの川下りこそ我が人生だ。
早速小川に漕ぎ出した。
「ワンウェイの川下りこそ我が人生だ」と言いながらも、実は彼は遡上をしている。
一度遡上をしてから、再度川を下るのだ。
早速ぶれる彼の人生。
その理由は、この少し上流に「滝の拝」と呼ばれる何やらすごい場所があるらしいから。
小川の水は半端なく奇麗だ。
鮎が泳いでる姿も丸見えで、青年のコーフンは止まらない。
その後もせっせと遡上をしていく。
しかし、瀬が出て来てカヌーを漕いでの遡上は厳しくなって来た。
そんなに簡単に滝の拝に出ては、秘境感のありがたみが薄れるからちょうどいいだろう。
僕はカヌーを崖の上に担ぎ上げ、陸路で瀬を越えていく。
この冒険感がたまらない。
気分はまさにインディージョーンズ。
再び川上の人になった僕は、奇妙な岩の回廊に吸い込まれていった。
実はこの滝の拝、普通に車で来ればこの橋の上から拝めるんだが、それでは風情がないじゃない。
己の力で下流からカヌーで遡上して、汗だくになって辿り着いてなんぼの世界だ。
思いがけず簡単に見られる事を知った僕の、負け惜しみも飛び出した。
それでもやっぱり川からの眺めは格別のものがある。
ほんとカヌーやってて良かったと思える瞬間だ。
最後は滝になっているので、行けるのはここまで。
漕いでも漕いでも進まないので、この場所なら延々とパドリング練習が出来る。
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滝の拝を堪能したら、いよいよ小川の川下りスタート。
確かに水量は少ないが、水がキレイ過ぎてコーフンは止まらない。
最高だ。最高すぎる。
まだちょっと寒い時期だったから潜れなかったが、夏場ならパラダイスだ。
途中途中で、いい感じの淵があればフライに興じてみる。
この手のかわいらしい奴らが、パスパス釣れる。
ツアー客だろうか、色鮮やかなカヌーが何艇か通り過ぎていく。
こんな川で初カヌーしちゃった日にゃ、今後はまっていくだろうなあ。
その後下っていってくと犬が寄って来た。
カワイイなあ、と思って見ていると結構デカくてなんか怖いぞ。
すごい勢いで僕に迫ってくる。
顔が笑ってない。
怖くなって急いで漕ぎ抜けた。
川はやがて「柿太郎のまわり」と呼ばれる区間へと突入する。
なぜ柿太郎のまわりと言うのかはさっぱリ分からないが、川が半端なく蛇行している区間。
道路からも離れて、人工物の全くない夢のような区間だ。
ちなみにこの「柿太郎のまわり」を空から見るとこんな感じ。↓
一度道路からおもっきり離れて、再び同じような場所に川が戻ってくる。
川野郎にとってまさに桃源郷。
所々生唾ものの淵が現れ、最高の川原と最高の景色。
僕にとってはドバイのどんな高級ホテルより、ここに泊まりたい。
その後もどんどん下っていくと、とあるカヌーが目に入る。
写真では分かりにくいが、カヌー犬ならぬ「カヌー猫」だった。
初めてカヌーに猫乗せている人を見た。
その時の猫の切ない表情が忘れられない。
間違いなく彼にとっては迷惑千万な事だったろう。
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このあと古座川に合流して、河口付近の古座駅近くまで漕いで行くんだがはっきり言って一日で漕ぐ距離ではなかった。
35キロくらい漕いだんじゃないだろうか。
前半あんなに楽しかったのに、後半はつらすぎて下向いて漕いでた記憶がある。
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串本町から北上中、その日の夜は雨が降って良い野宿場所が見つからなかった。
当時僕が乗っていた車はシートがフラットにならなかったので車中泊が出来なかった。
結局国道沿いの、トラックなどがゴゥゴゥ横切る東屋にテントを張った。
非常に切ない思いをした事を今でも思い出す。
当時の僕は頑に野宿にこだわっていたから、自業自得だろう。
その思いは今も変わってないけどね。
小川はほんとに最高の川だ。
というか和歌山の川が大好きだ。
ぜひ皆さんも行ってみてはどうだろうか?
まわる柿太郎
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MATATABI BASE
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