頂上で昼メシを食う事無く、僕は猫岳に向けて歩き出した。
まだお腹も空いてなかったし、時間も11時だったからもっと良い場所で食おう。
しばらく行くと、まるで1000m足らずの場所でも風景は北アルプスのような岩稜が望める。
僕が歩いて来た釈迦ヶ岳までの尾根だ。
よくもまああんな所を歩いて来たもんだ。
40分程歩けば猫ヶ岳山頂だ。
山頂はまさに猫の額程のスペースしかない。
いい加減腹減ったから、ここでメシ食おうと思ったが狭いからやめておいた。
頂上滞在時間10秒でその場を立ち去り、ハト峰へ向けて進んだ。
わざわざこの稜線ルートで来たはいいが、それといった展望も無く単調な道のりが続く。
どこかいいスペースがあればメシを食おうと思うんだが、まるでそんな場所が無い。
どうやらブラックホールは持久戦に持ち込むつもりらしい。
そろそろ腹へってバテテ来たぞ。
やがて森林地帯に入って行くと、実に雰囲気のいい紅葉地帯へ吸い込まれて行く。
うん、中々よろしい。
実に正しい秋の登山を楽しんでる気がするぞ。
やがて運命の分かれ道が現れた。
道は三つに分かれ、標識が複雑に入り乱れて分かりづらい。
右に行く道は明らかに違う道。
左に行く道は標識的にはハト峰に行かずにそのまま朝明渓谷へ下山する道。
標識の雰囲気的には、一番怪しげな斜め右前方の曖昧な道が正解っぽいが。
しかしその曖昧な道はあまりにも怪しすぎるので、一度左の道を降りて行った。
しばらく降りて行くが、やっぱり違う気がして再び引き返す。
何度地図を見ても、あの曖昧な道が正しいルートに思えてならない。
僕はその曖昧ルートに突入して行った。
見事にブラックホールの罠にはまった瞬間だ。
僕はブラックホールの顔に吸い込まれ、四次元の異空間へと葬り去られてしまったのだ。
だんだん道は登山道とはとても思えない雰囲気になって行く。
それでもかろうじてピンクのテープの目印があったから、それをたどって進んで行った。
随分進んで行ったが、明らかにおかしな空気に包まれて来た。
「やばい」と思って引き返すが、ピンクのテープが見当たらない。
完全に自分の位置をロストした瞬間だ。
背中に一瞬にして寒気が走る。
僕は見事に遭難した。
ブラックホールの罠に完璧にはまってしまったんだ。
やはりめざましテレビの言う通り、ラッキーアイテムの消しゴムを持ってくるべきだったんだ。
そう言えばキン肉マンはこの異次元空間からおならで脱出していた。
こんな時に思い切り余談だが、最近僕のおならの数が尋常でない。
腹の中でコポコポとおならが次々と生成され、ひどい時はおよそ5分ごとに放屁する。
プッという可愛らしいものではなく「パッスぅぅぅ〜〜、ぱすっ、すぅぅぅ」といったハイレベルな息の長いものばかりだ。
しかもすべてのおならのグレードが高く、まさにガスと呼ぶにふさわしいスメルだ。
実はこれを書いてる今現在も解き放っている。
恐らく何らかの病気なんだろう。
嫁も相当怒っているが、僕のおならがひどいというのをご両親に相談するのはやめてほしい。
話は激しくそれたが、もちろんそんな僕のおなら程度ではこの遭難から脱出する事は出来ない。
そこで思い出した。
結構な電池の消費量の為、使用を控えていたGPSアプリの出番だ。
まさにこんなときの為に準備しておいたのだ。
さっそく起動してみると、やはり思いっきりルートからそれてるじゃないか。
黄色の稜線を歩いて来て、三つに分かれる道を稜線沿いに来たはずがまるで違う場所にいる事が分かる。
とにかく元の場所に戻るべく、iPhoneをかざしながら道無き道を戻って行く。
やがて遠く逆側の山上に、僕が目指していたハト峰が見えた。
やっぱり全然違う方向だったんだ。
この時点で、かなり腹も空いていたがこんな場所でのんきにメシ食って場合じゃない。
早くこの四次元空間から脱出するのだ。
しばらく彷徨ってようやく分岐点の場所まで戻る事が出来た。
本当にこのアプリ入れてて良かった。(詳細は遭難野郎必携アプリ)
まさか本当に遭難野郎になって救われるとは。
これが無かったら今頃僕は超人墓場行きで、腕の一本をアシュラマンに持って行かれる所だった。
結局僕が最初に降りて行って、引き返して来た道が正解ルートだった。
僕が引き返した場所から、わずか1分程歩くととても分かりやすい標識が出ていた。
まあ、いつもの事だ。
看板屋としては、あの分岐点の看板の分かりにくさのが許せない。
もっと遭難野郎の心理を汲み取って、分かりやすい標識にしなければダメだろ。
そしてようやく、あの遭難先から見えたハト峰に到着した。
もう、ただただ安堵感とメシが食えるという感動を味わう。
この時食べたカップラーメンミルクシーフードの味が忘れられない。
まさにブラックホールをホワイトな力でねじ伏せた瞬間だった。
三つ目のパーツ、ミート君の右腕を手に入れた瞬間だ。
鈴鹿セブンも残り四山。
こんな調子で無事に全て制覇出来るんだろうか?
あとはひたすら単調な下りで下山し、下界の芝生の広場でぐったり。
あまりにハードな戦いに、もう紅葉なぞはどうでもいい。
疲れを癒し、とぼとぼと駐車場に向けて歩き出す。
途中前方を同い年くらいの夫婦が楽しそうに仲良く歩いている。
きっと今日の登山を楽しく振り返っているんだろう。
お揃いのザックなんか背負っちゃってさ。
この光景を見た途端妙に切ない思いが風となり、僕の心をなでて行く。
「ああ、僕もあんなふうに夫婦水入らずで楽しく登山できたらなあ」
そんな些細な事が夢なんて。
でも一生実現する事の無い切ない想い。
遭難して少々心に弱さが出てしまったようだ。
そして切ない気持ちを抱えたまま、一人ふらふらと駐車場に着いてゴール。
「よし」という独り言が寂しく響く。
こうして鈴鹿セブン三発目「釈迦ヶ岳」は静かに完了した。
鈴鹿セブン三発目「釈迦ヶ岳」〜完〜
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーおまけーー
近くに「釈迦の隠し湯」と謳ったマニアックな温泉があった。
カーナビの温泉設定でも現れない程の隠し湯だ。
入り口の簡素さは隠し湯と呼ぶにふさわしい。
この温泉、基本内湯しか無い。
そして体を洗う場所の椅子が驚く程高い。
子供なら足がつかないんじゃないかという椅子で落ち着かない。
そしてシャワーが無いから蛇口のお湯を桶にためて体を流すという古風な仕様。
隠し湯だからといって、シャワーまで隠す事は無いだろう。
しかも蛇口から出るお湯の量が微量なため、体を洗い流すのに果てしなく時間がかかる。
さすが釈迦の隠し湯だ。そのまま隠しておけば良かったか。
しかし僕はこういった雰囲気の温泉が嫌いではなかったりする。
さあ、この温泉で「夫婦登山」の切なさは奇麗さっぱり洗い流したぞ。
最後に再び一句で締める。
「これからも 孤独にさすらう マゾ野郎」
季語は無いが奇語はしっかり謳われている秀作だ。
次の戦いへ向けて再び男は動き出す。
鈴鹿セブン三発目〜釈迦ヶ岳〜後編
記事が気に入ったら
股旅ベースを "いいね!"
Facebookで更新情報をお届け。
MATATABI BASE
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
こんにちは!
名古屋で登山のフリーペーパーPO!を制作している蟹江と申します。
突然ですが相談させてください。
ツイッターにもコメントさせていただきましたが
10月発行の弊紙秋号で釈迦ヶ岳を掲載致しますが、紅葉の写真が足りておりません。もし可能であればお借りさせていただきたく存じます。
突然失礼致しました。
宜しくお願い致します。
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
蟹江さん、はじめまして!
こちらのコメントに気づく前にTwitterの通知メール見てPO!のページからメッセージ送っておきました。
基本的にこのブログ上の画像は連絡さえ頂ければ使用OKですのでどしどし使ってください。
よろしくお願いします。