瓢ヶ岳/岐阜

夏の笹のモーゼ

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なにやらジブリ作品のようなタイトルだが、そんな爽やかな体験ではない。

夏のこの時期、1000m程度の山を登るとどういう悲惨な目に遭うかの実験シリーズ第二弾。

妙法ヶ岳のヒル地獄に次ぐ今回は、背丈程もある笹の海をモーゼのように進むという苦行だ。

りんたろ登頂記6番目の山は郡上近辺にある「瓢ヶ岳」。
「ふくべがたけ」と読むらしい。

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登山道入口には立派な駐車場がある。

駐車してるのは僕だけだ。

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この山は秋の紅葉がメインのようで、こんな夏の日に登る野郎の姿は見かけない。


駐車場から少し下がった所に登山口があった。

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後で知る事になるが、一般的な登山口は駐車場の上の方にあったようで、この登山口は直登ハードコースだった。


のっけから激しい急坂をグハグハ言いながら登ってゆく。

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おかしい、ここも初心者向けの山だったはずだが、登る程にハード。

だんだん雰囲気がロッククライミングテイストになって来た。

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これも後で知る事になるが、このコースは地元のロッククライマーが練習に来る場所のようです。
決して2歳児を背負ってくるような所ではない。


ちなみにここで二人組の登山者に会った。

「わあ、お孫さん背負って登山ですか?大変ですね。」

僕はたしかに老けている。
髪の毛だって数多のストレスで白髪だらけさ。

しかしお孫さんとはあまりに失礼ではないか。少々ブルー。

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その後なんとか通常登山道に合流した。
筋肉ははち切れんばかりだ。

しばらく進むとりんたろくんが急に泣き出した。

特に異常はなかったから、さらに進んで行っても一向に泣き止まない。

これはなにかヤバい事態かと思って慌てていろいろチェックしたら、その理由が分かった。

りんたろくんがいつも手に握っている愛用の登山用具、機関車トーマスのラムネの入れ物が彼の手にないではないか。

お父さんは再びヨロヨロの体に鞭を打って、来た道を戻ってなんとかトーマスを発見。

時間と体力の大幅なロスだった。

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そんなこんなで骨ヶ平に到達。

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りんたろくんは登頂前のお馴染みの姿になっている。

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トーマスを握りしめて、深い眠りに落ちている。


さあ、「岐阜の山」という本によればこの骨ヶ平から瓢ヶ岳までの尾根道が実に気持ちがいいらしい。
やっとここから気分よくトレッキングを楽しめるぞ。

このためにしんどい直登ルートだって乗り越えて来たんだ。

そして瓢ヶ岳への尾根道の入口だ。

さあ、快適登山が始まるぞ。

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なんだ、この笹は!

身の丈程の笹が両サイドから登山道を浸食してるじゃないか。

登山道の先が見えない。
見晴らしの良い快適な尾根はどこに行ったんだ。

こんな足下の登山道が見えない道を進んで大丈夫なのか。
遭難しないか?滑落しないか?

でもせっかくここまで来たんだから進む事にする。

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こうして僕とりんたろくんは笹の海に吸い込まれて行った。


下の写真を見て、皆さんはどこが登山道かお分かりだろうか?

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一応、この写真の真っすぐルートが登山道。

笹は朝露を含んでいて、たちまち僕の体はずぶ濡れになって行く。

今日に限って、スポーツタイツも履いてないから生足・生腕に容赦なく笹が襲いかかる。

ほんとは笹を手でかき分けながら進みたいが、それをするとりんたろくんが笹の被害に会ってしまうから、両腕でりんたろくんを笹からガードし、笹の海を己の体で切り裂いてゆく。

途中一匹のヒルが服についているのを発見して取っ払う。

その一匹を見てしまったもんだから、またこの笹の中はヒルだらけではないかと不安に支配される。

笹の中にいる時は自分の体は見えないから、さらに恐怖は倍増だ。

この笹地獄は500mほど続きました。

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憔悴状態で瓢ヶ岳登頂成功。

相変わらずりんたろくんはのんきに眠っている。

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頂上からの眺めはまずまず。

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でもまたあの笹の海を帰る事を考えると、あまり達成感には浸れない。


珍しくりんたろくんが頂上で目を覚ましたので、早速記念撮影。

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珍しく笑顔じゃないか。

やっと山が楽しくなって来たのか?

決してこの山は楽しくないぞ、りんたろくん。

さらには万歳三唱までも。

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まあなんにせよ良かったよ。お父さんは嬉しいです。

余談だがこの日は中日の森野Tシャツです。
お父さんが買って来たのに、いつまでも嫁が着させないから着させました。
アウトドアのみならず、強制的に中日信者に仕立て上げるのがお父さんの役目です。


いつもお父さんが使ってるのを見てるから、トレッキングポールも見事に使いこなす。

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そして彼はちくわ指でニヒルにお弁当タイム。

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飯も食ったし下山しようと思ったが、ここから5分程度さらに奥に進めば「奥瓢ヶ岳」もダブル登頂出来てしまうのだ。

5分程度ならまあ少し寄って行こうかと突き進んだ。

またもや笹の海に溶け込んで行く我々。

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おかしい。

この笹の海の中、5分経っても、10分経っても、15分経っても頂上らしき場所に出ない。

やがて看板が出て来た。

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瓢ヶ岳と書いてある所がスタート地点、その少し左の奥瓢と書いてあるのが目的だった奥瓢ヶ岳頂上。
Aと書いてあって水色になってる所が現在地点。

明らかに行き過ぎてるじゃないか。

この時の疲労感といったらどうだ。

むなしく元来た道を戻った。

帰り道も笹だらけで奥瓢ヶ岳頂上はどこなのか分からなかった。

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瓢ヶ岳頂上に再び戻り失意の下山。

まあ、帰りはあの直登ルートじゃない一般登山道で下るから気楽なもんだろう。

もうあの笹地獄は勘弁だ。


一般登山道を順調に下って行ったら、目の前に奴らが姿を現した。

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なんだこれは。
さっきより酷いじゃないか。

視界にはもう緑しか入ってこない。ここは本当に日本なのか?

笹はさらに密度を増し、左側は崖。

もう僕は発狂寸前だった。

「ここは爽やかな草原、爽やかな草原なんだ…。」と念仏を唱えながら笹に突入した。

ここからゴールまでのおよそ1時間。ほとんど記憶がありません。

ある種、悟りの境地に達していたように思う。

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我々は生還した。

笹マニアかパンダならパラダイスだが、我々には地獄の山だった。

夏は標高の高い山に登ろう。

そう誓った登山だった。


帰り道、美並の道の駅からサーフィンしてるカヤック野郎達を発見。

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近づいて行って、しばらくりんたろくんと見学。

さっきまで笹の波と戯れていた我々から見ると、彼らは溢れんばかりの清涼感に満ちていた。

カメラでシャッターを押す瞬間、りんたろくんがカメラのストラップを引っ張った。

なにすんのって思ったが、出来上がった写真を見てビックリ。

カヤックの人を中心に円を描くようなスピード感溢れる迫力ある写真が撮れた。

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これは一人では出来ない撮影方法だ。

りんたろくんと僕の初の合作。

登頂記6番目の最悪な山を越えて、我々の親子密度はさらに深まったようだ。

今回はりんたろくんも楽しんでたし、次は3000mクラスの山行ってみようかね。

ヒルと笹の次はなんだろう?



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