「長瀞(ながとろ)」
若い時から、一体何度となくこの響きに一種の憧れを抱いて来た事だろう。
いわゆる荒川上流部の長瀞町の区間の事を指すんだが、昔からカヌー雑誌とかではしょっちゅう特集が組まれていた川。
正直地方もんとしては、「また長瀞かよ」とか「東京もんが東京近郊の川ばっかり特集しやがって」と嫉妬まじりに眺めていたのが長瀞だ。
たまに全国区のテレビ番組で東京のグルメ情報とかやったりするが、地方の人間からするとどうでもいい情報だし「どうだ、東京は良いだろう?」って言われているようで腹立たしいのと一緒。
とかく東京もんはちょっと台風が来た、ちょっと路面が凍結したと言っては全国番組で大げさに報道しやがるし。
ジャイアンツの試合結果はやたら長いのに、ドラゴンズの結果なんて文字だけだし!
…的な、東京に対するひんまがった嫉妬と憧れが入り乱れた場所。
それが長瀞なのである。(埼玉だけど)
そんな長瀞を今まで漕ぐ機会が無かったのは、単純に激流のイメージがあったから。
一人では不安だし、はるばる何時間もかけて行くような大清流でもないし。
僕は激流派ではなく清流派男優なので「関東行くなら四国に行く」って原理が働いて、長瀞に行く機会を逸していたのだ。
しかし今回、サケヤKの結婚式というビッグイベントに招かれた事で長瀞への道が開けた。
僕のような汚れた男がいきなり式場に行くのは失礼に当たる。
そこで、、サケヤKの地元関東の名川で激流に揉まれて、この身を清めてやろうと思い立ったのである。
幸い金曜日だというのにヒマそうな横浜組の仲間が長瀞を案内してくれるとの事。
持つべきものは遊び人且つ、フリーダムな友達である。
ただここに至るまでに、長時間ドライブ、僅かな仮眠のままずぶ濡れ二子山登山という前座余興で若干体はよろけ気味。
そして「絶対安静ね」と言われているこの手首を駆使し、これからパドルを持ってガンガン流されようってんだからいとおかし。
しかしそれもこれも、全ては結婚式に綺麗な体で出席するために避けては通れない試練。
普通にシャワー浴びて出席するなんて、川仲間のサケヤKにあまりに失礼だ。
猛烈に眠たいけど、そんなのいつもの事なので気にしない。
それではどんよりとした天気の中で行われた初の長瀞川下り。
特に何かあったわけじゃないけど、記録としてサクッと残しておこう。
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スタート地点の親鼻橋下の川原。
ここで早くも圧倒的なミスが勃発。
ダッキー2艇で下ろうってんのに、なんと僕もバターNもダッキーに空気を入れるための「ポンプ」を忘れて来てたという衝撃の凡ミスが発覚したのである。
それは「これからチーズフォンデュをするのにチーズ忘れた!」に等しいショック。
はるばる関東まで来て大バカヤロウもいいとこなのである。
まだ写真すら撮ってないのに「早くも撤退か?」と敗戦濃厚な4人。
しかし運良くそこにラフティング業者のガイドさんがいたので、B女房が悩殺スマイルで「ポンプ貸してくれませんか?」と懇願。
するとそのガイドさんがすこぶるいい人で、「川ではみんな助け合いですよ」とポンプを貸してくれたのである。
これには二子山からずっと関東の悪口を言っていた僕も、「関東人ってもっと冷たいと思ってました!みんないい人だなあ!」と単純に関東ファンに。
しかも初めてラフト用のポンプを使わせてもらったけど、これがまた衝撃的に膨らますのが早くて感動。
1プッシュで一気に膨らむもんだから、これ知ったらもう普通のポンプには戻れない。
火打石で必死で火をおこしてた北京原人が、突然チャッカマンを手渡されたかのような感動がそこにはあった。
そんな温かい救いの手のおかげで、なんとか出発出来る事に。
天気はこれでもかというようなどんよりさだが、雨が降ってないだけ僕的には超好天の部類。
ただこの時期にしてはもの凄く寒いのね。
いらんだろうと思ってたけど、念のためにドライスーツ持って来てて良かった。
二子山で散々体が冷えてるから、普通の恰好だったらスタート前に低体温症で搬送されてる所だ。
それでは素晴らしいどんより天気のもと、いざスタートであります。
実はこの川は鮎釣り解禁後も下れる川としても有名。
なぜならこのように観光和船が運航してるから、熊野川や保津川のように釣り師が舟に対して寛容なのがその要因だ。
だから激流の川とはいえ、川底が和船用に調整されて厄介な瀬がなくなってるから、ダッキーなら余裕で楽しめる川なのである。
で、早速「鉄橋下の瀬」から「ステミの瀬」「セイゴの瀬」と断続的に楽しい瀬を越えて行く。
ここ最近のパックラフトによる「沢探検」や、熊野川のような「川旅スタイル」とはまた別のこの激流スタイル。
これはこれで単純に楽しい。
こういう川は気の合う仲間と単純に何も考えず「ワッー!」と叫んで楽しむのが良い。
この川はまさにそんな川なのである。
セイゴの瀬を越えると、ちょうど大量の修学旅行生が川原に出現。
平日に白昼堂々と川で遊んでる堕落した大人達の登場に、ワッと歓声を上げる中学生達。
それに対して「お前達。ちゃんと勉強しろよ。」と説得感ゼロの大人が、遊びで痛めた手を振る一コマ。
僕が中学生の頃は、基本的に好きな女子の事と少年ジャンプの事と桜木ルイの事しか考えていなかった。
そのまま大人になると「こうなっちゃうぞ」という良い手本が、中学生の目の前の川を流れて行くのである。
なんだか良い教育をしてあげた気分で一杯だ。
やがてこの川の核心部「小滝の瀬」が出て来たからスカウティングへ。
B旦那曰く、どうも今日はかなり水量少なめで全然激流じゃないとのこと。
岩登りしようとすれば雨で濡れ濡れだし、激流下りしようとすれば渇水とは。
二子山もそうだったけど、中々関東は僕に本来の姿を見せてくれないようだ。
結果的に余裕たっぷりで小滝の瀬に突入。
恐怖が無い分、純粋に瀬を楽しめた。(笑ってるけど手首は痛いです)
B旦那、バターNコンビも中学生に見守られながら突入。
なんだかあまりの安心感と、作られたような奇岩怪石の風景もあって何かテーマパークのアトラクションのようだった。
この川は遊歩道が沿っているのか、平日なのにやたらとギャラリー多いし。
夏の休日ともなれば、ここは観光客やラフトやカヤッカーが入り乱れる密集地帯になるらしい。
色んな意味でさすが関東の川なのである。
で、長瀞という名の通り、瀬を抜けると長いトロ場区間へ。
基本的にこの川は瀬とトロ場が連続する川だから、ある意味せわしくなくてバランスが良い。
この日は渇水のせいで瀬も大した事なく、昔から思ってた激流のイメージとは違ったけどなんだかちょうど良く楽しい。
電車も並走してるし、関東の人がこぞってここに来る理由が少し分かった気がした。
長いトロ場を抜けたら二股の瀬。
で、またすぐにトロ場。
意外と水も綺麗だったりして、驚かされる。
いいぞ、だいぶ清らかな体になって来た。
その後も、こっちに気づかず川に石なげてる中学生達の投石に怯えつつ突き進む。
何やら「がんばってくださーい!」というエールを送られたが、実はおじさん達はただ遊んでるだけなんだよ。
でもこの時見た我々に憧れてしまった中坊が、将来立派な社会生活不適合者になってくれれば嬉しい限りだ。
やがて「洗濯機の瀬」とやらを抜けて行く。
かつて長良川で人間洗濯機になった事のある身としてはネーミングだけでビビってしまったが、ここも水量なくて難なくクリア。
次第に余裕が出て来ると悪ふざけを始め出すのが悪い癖。
皇族姿勢で品よく手を振りながら下ってみたり、
岩のスレスレを攻めてみたり、
うつぶせローアングルで撮影に集中したり、
犬神家スタイルで瀬に突入したりする。
それらの操船の全てを女性に任せきり、一人で勝手に長瀞を満喫する。
B女房も迷惑な男とペアにさせられたものである。
それでも難なくダッキーを操船するあたりさすがである。
やがてゴールの樋口に向けてかっ飛んで行く2艇。
ここのゴール場所は速い流れの中にあって、そこで降りるのを失敗するとその先に結構な落ち込みのパワーボムが待っている。
僕はその流れの中、華麗にB旦那の手を取って岸への飛び移りを図る。
しかし勢い余ってバランスを崩すダッキー。
そして見事に道連れにされたB女房。
何の落ち度も無いのに、散々振り回された挙げ句最後の最後で沈させられたB女房。
これがうちの女房だったら起き上がりざまパドルで居合い斬りしてくる所だが、突撃系マゾガールのB女房はいつだってスマイル。
内心どう思ってるかわかんないけど、楽しそうだからオールオッケーとしておこう。
こうして渇水気味ではあったけど、念願の長瀞をしっかり楽しんだご一行。
これにて二子山での式前準備運動、そして長瀞で式前禊ぎの作業が終わった。
木曜日の朝起きてから1時間半の仮眠だけで動き続けているが、どうにかなるもんだ。
ちなみに車回送中に、あのどんより雲が無くなってやたらと快晴になった事は言うまでもない。
別に今に始まった事ではないんで何とも思わない。
さあ、まだまだこの程度では我々のサケヤKを祝いたい気持ちは納まらない。
温泉に入る事もせずこっから横浜まで再びロングドライブ。
そしてサケヤKのために肉をたらふく食いまくり、サケヤKのために遅くまで酒を飲みまくり、サケヤKのためにバターNの結婚相談に乗りまくる。
B旦那もサケヤKのために会社関係の飲み会に参加しに行き、帰って来たのは深夜だったりする。
そんな我々の次なる祝福プラン。
それはまたしてもほとんど不眠の状態で行く、楽しい楽しい早朝丹沢登山。
神奈川の名店「塔ノ岳」を、時間が無いからトレランスタイルで無理して往復してやろうとの試み。
僕は4時間の睡眠(2日で5時間半しか寝てない)、B旦那に至っては30分くらいしか仮眠してない状態でのビッグチャレンジ。
もちろんこの手のマゾ企画にはバターNもB女房も参加しないから、僕とB旦那の二人のみ。
40代のお腹が出た中年二人による、嘔吐必至のトレラン大作戦。
計画通りに帰って来れなかったら夕方からの結婚式に間に合わない。
ほんとはゆっくり寝て普通に式場に行きたい所だが、サケヤKを祝いたい気持ちがまだまだあふれて来てしまうからしょうがない。
せっかく来たからには全力で関東を駆け回る。
満身創痍の遊び人の次なるステージは丹沢「塔ノ岳」。
結婚式までの道のりは長く険しいのである。
関東祝福遠征 塔ノ岳編へ 〜続く〜
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今回のギア
【上半身&下半身】
・ミドル/パタゴニア「キャプリーン3」
・下着/ノースフェイス「ドライショート」
・ショートパンツ/アークテリクス「パリセードショート」
・フルドライスーツ/パーム「カスケード」
・ライフジャケット/モンベル「フリーダム」
【足】
・シューズ/NRS「パドリングシューズ」
・ソックス/ドライマックス「トレイルランニング」
【頭部】
・ヘルメット/プロテック「Ace Water」
・キャップ/マムート「MTR 201 Cap」
【ギア】
・ダッキー/NRS「バンディッドタンデム」
・パドル/アクアバウンド「スティングレイ・カーボン4P」
・パドルリーシュ/シートゥーサミット「パドルリーシュ」
・レスキューロープ/ファイントラック「ゴージュバッグ25」
【デジ物】
・ウェアラブル/GoPro「HERO4silver」
関東祝福遠征 長瀞編〜禊ぎのどんより川下り〜
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MATATABI BASE
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