岩壁で身動きが取れなくなっているギリギリ男。
前日からえぐられたHP(体力)は点滅を続け、その精神力(MP)も風前の灯火。
もはやスライムの通常攻撃ですら彼を即死させるに十分な威力。
耳をすませば、出産でもしているのか「ヒィッー、ヒィッー、ブフッーーッ」という唸り声ばかり。
呼びかけても全く反応はない。
そう。
彼は今まさに、白馬男塾名物「不帰ノ嶮苦羅威民愚(かえらずのけんクライミング)」の試練真っ最中なのである。
【不帰ノ嶮苦羅威民愚】
それはかつて古代中国において、我こそはという男達の「真の男度」を図るべく開発された岩場の試練。
白馬三山「超論愚覇威苦」の試練を乗り越えた者のみが挑戦できるという白馬男塾の最終関門。
しかしその難易度は極めて高く、挑戦者達のほとんどが帰って来る事はなかった。
ゆえにいつの頃からか「不帰(かえらず)」と呼ばれるようになった。
清王朝滅亡とともにその修行は途絶えたと文献には残っているが、今は形を変えて日本に伝えられたという。
それはまさに「男が男である為」の決死の試練なのである。
民明書房刊 『中国修行奇譚-白馬に消えた男達』よりーーーー
さあ、いよいよ男の祭典総仕上げ。
男が男である為に避けては通れぬ「不帰」の試練。
白馬大四凶殺、最後の難関「唐松岳」へと続くデッドゾーン。
果たしてギリギリボーイズ達は不帰を突破して「帰って来る」事が出来るのか?
それとも白馬の地で永遠の眠りについてしまうのか?
それとも家に帰ったはいいが、嫁によって再びリアルな不帰の闇に葬られてしまうのか?
男達の最後の戦い。
白馬男塾最終章。
ガッツリと振り返って行こう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
早朝の天狗山荘前。
出発を前に、早くも追いつめられてる男がいる。
それはデスラー総統のような真っ青な顔で、ひたすら緊張に打ち震えている田沢だ。
極度の高所恐怖症である田沢は、実はこの数日ずっと緊張していた。
それはもちろん北アルプス三大キレットと言われる難所「不帰の嶮」に、図らずも挑まねばならんくなったから。
彼はこの天狗山荘に至るまでに、得意の「ネガティブイメージトレーニング」によって82回ほど滑落死済み。
その内38回くらいは田沢と虎丸も道連れにしての壮絶な滑落。
彼はこの余計なイメトレのせいで、毎回戦う前から相手に飲み込まれてしまう厄介な男なのだ。
田沢は山にマゾは求めるが、スリルは一切求めていない男。
それが松尾JTBの「大丈夫ッスYO!」という軽薄な言葉と、サバイバー虎丸の「ゾックゾクするわ」という変態的な言葉に振り回されて無理矢理連れて来られてしまったのだ。
しかも「朝から雨」という絶望的な事前天気予報。
雨に濡れた岩場はさらに田沢の不安を増大させる。
実は唯一のエスケープルートである鑓温泉からの道が荒れ荒れだという情報もあって、直前まで我々は「雨が降るんじゃ、またあの三山戻って落石地獄の大雪渓から下山するしかないね」という所まで追いつめられていた。
「進めば雨の不帰の嶮」
「退けば超論愚覇威苦&背後からの猪突落石拳」
まさに進むも地獄、退くも地獄。
いよいよ進退窮まったギリギリボーイズ。
しかし朝の撤収作業後の天候が比較的安定していた事により決断が下される。
このマゾツアーを企画したJTB松尾が「我々はこれより、雨が降る前に不帰の嶮を突破する!」と高らかに宣誓。
ギリギリボーイズ達はエスケープルートの白馬三山に背を向ける。
そして「真の男」になるべく白馬男塾名物「不帰ノ嶮苦羅威民愚」にその身を投じてしまったのだ。
この先は理屈抜きのデッドorアライブの世界。
田沢などは早くも目を血走らせ、激しい緊張を押し殺すように無言で突き進む。
彼は緊張の余り予定より2時間も早く起きてしまい、しなくてもいい余計なネガティブイメトレをこなし過ぎて悲壮感がハンパ無い。
もはや気分は「死刑台に向かう冤罪死刑囚」のようなやり切れなさだ。
しかし危険な場所に慣れすぎている男虎丸龍次は、全く緊張感がなく寝ながら歩いている。
むしろ昨日の超論愚覇威苦のダメージを思いっきり引きずっている様子。
しかも「何か風邪引いたかもしれない…」とか言っているし。
もちろん言い出しっぺのJTB松尾も同様に、蓄積疲労の色が濃厚で早くも吐きそうになっている。
こうして本日も彼らは「青ざめた無言死刑囚男」「寝ながら歩く風邪ひき男」「嘔吐寸前蓄積疲労男」という綺麗なスタートダッシュを決めてみせた。
さすがは我らがギリギリボーイズである。
しかしのんびりギリギリを楽しんでいる場合じゃない。
空は「その気になったらいつでも降らせてやるぞ」とやる気満々な状態。
難所で雨が降ったら、恐らくその時点で田沢は全てを諦めて「男塾万歳!」と叫んで自ら落ちて行く事だろう。
この先に待つ難所への恐怖感。
雨にせかされる焦燥感。
そして全く他の登山者がいない不安感。
「レジャー感ゼロ」のダークな世界。
いよいよラスボスと戦う雰囲気がびんびんして来たぞ。
やがて長大な稜線にヒイヒイ言いながらも、何とか「天狗の頭」に到達。
まだスイッチが入ってない虎丸は、今にも昨晩のカレーライスをマーライオンのようにぶちまけそうな表情。
彼は垂直にはめっぽう強いが、長距離縦走にはとことん弱い。
スリルの探求者である彼が戦力になるのは、不帰の嶮に突入してからだ。
もちろん本日も彼の靴擦れはしっかり絶好調である。
で、不帰の嶮はすぐに始まるわけではなく、その後も昨日の続きのようなロングハイクは続いて行く。
一つ奥に見えるのが目指すべき「唐松岳」とその八方尾根。
その間がガッポリえぐれて見えないが、その見えない場所で「不帰の嶮」が今か今かと我々を待ち構えている。
ただただ地獄に向かう亡者の様に突き進むギリギリボーイズ。
死刑台に続く絶望ロードはやたらと長い。
そしてまだ難所の手前なのに、松尾と虎丸はご覧の憔悴っぷり。
不帰の嶮前のウォーミングアップが長過ぎて、虎丸なんてついに目を閉じて熟睡してしまっている。
なんだか出発前よりもこの人達若干老けた気がするぞ。
しかし本日も相変わらず大鐘音のエールを送り続けてくれる劔桃太郎。
そしてそのさらに遠方では、男塾の「あがらずの塾旗」ともいわれる男塾名物「喝魂旗(別名槍ヶ岳)」までもが見てとれる。
聞こえるぞ、桃達のエールが。
見えるぞ、極小路秀麻呂の旗揚げ根性が。
これにて再び奮起する男塾1号生のギリギリボーイズ達。
そしてそんな彼らの目の前に、いよいよ「地獄への入口」が。
ついに不帰鎮守三人衆の一人「一峰独眼鉄」の必殺技、「天狗の大下り」が炸裂だ。
田沢は恐る恐るその大下りとやらを覗き込む。
瞬間、田沢は150ccほどの失禁を炸裂。
大下りにも程がある「大急下降」。
天気が悪いくせに、実にありがた迷惑なことに眺望は腹立つほどに抜群だ。
一峰独眼鉄は、恐怖におののく田沢に対してこう言い放つ。
「男とは何ぞや?」と。
早くも試練が始まった。
もうこの頃には田沢の顔から「夢と希望」という文字が完全に消去されているのが分かる。
すっかりおじいちゃんになってしまった田沢。
彼は口角に泡を溜めながら、ぶつぶつと「りんたろう、こーたろう…お父さんはこれから遠い所へ旅立ちます。どうか強く生きてほしい。お父さんは星になっていつでもこの白馬の空から君たちを見ているよ…」と呟き続けている。
何度も言うが、彼はこういう場所がリアルガチで嫌なのだ。
しかしそんな田沢の悲壮感を見て見ぬ振りをし、急にここに来て目覚めた虎丸が「天狗の大下り」にガシガシ突っ込んで行く。
山間に虎丸の「うっへっへっへ」という不敵な卑猥声がこだまする。
変態スイッチが入った虎丸は誰も止められない。
そしてJTB松尾も、高所恐怖症男を連行して来てしまったという罪悪感を微塵も感じさせないこの浮かれっぷり。
田沢は激しい殺意を覚えたが、今は目の前の試練に集中する事で精一杯。
「男とは何ぞや?」
この問いに応えてこの試練を突破しないと、どっちにしてもお家に帰れない。
田沢は意を決して「男とは!」と突入。
しかしすぐに黙る田沢。
ケツの穴は針も通さないほどにキュキュっと絞られる。
もはや彼のティンコは空豆クラスに。
このままでは天狗に飲み込まれてナチュラル性転換を達成してしまいそうな勢い。
それでも彼は声を裏返しながら、得意の九九をそらんじながら必死で急降下。
山間には田沢の「インニガニ!インサンガサン!インシガシ!…」という激しい息づかい。
彼なりに必死にこの恐怖を取り除こうと必死なのだ。
その横を、時折Dr.スランプ松尾が余裕のアラレスタイルで滑降して行く。
今もし田沢がマグナム銃を持っていたら、躊躇する事なくこの浮かれた松尾を打ち抜いていた事だろう。
しかし己のリトルマグナムですら消失しかけてしまっている空豆男は、ただただそんな浮かれポンチ松尾の姿を黙って見ている事しか出来ない。
やがて事態はこのようなふざけた世界へ。
「ネガティブイメトレ」で何度も見て来たこの光景。
シュミレーションでは100発108中の確率で滑落して来たが、その甲斐あってか何とかこの難所も突破。
そしてやっとこさ鞍部まで到達。
もうすっかり虎丸は目を覚まし、この場所で絶対に必要のない自慢の沢ザックを広げている。
しかしホッとするのも束の間、ここからガッツリ登りで一峰独眼鉄との男らしい打ち合いに突入。
そんな急登も我々は体で男を表現し、見事「男とは何ぞや?」の問いに応えて行く。
そしてその男気に対し一峰独眼鉄は、「うむ。良い返答である。通るがよい!」と道を示す。
これにて見事不帰鎮守三人衆の一人「不帰一峰」を撃破である。
我々はまた一つ「真の男」に近づいた。
しかしである。
ここでついに我らの眼前に、この不帰ノ嶮最大の難所がズドーンと登場する。
不帰鎮守三人衆、二人目の刺客「二峰男爵ディーノ」のご登場だ。
不帰一のサディスティック野郎は、一峰を抜けて浮かれる我々に対して宣戦布告。
早くもムチをしならせて、マゾがネギ背負っておめおめとやって来るのを待っている。
やはり行かねばならんのか…。
しかし躊躇して時間を伸ばしてしまえば、雨が降って来てさらに絶望色は強くなる。
田沢は泣きそうになりながらも、一峰から下降して行く。
もはや目の前から壁が迫って来るようなインセプション的な大迫力。
でももう帰るに帰れないから進むしかない。
やがて二峰男爵ディーノの取り付きに到着。
そして見上げてみる。
するとそこには、先行していたパーティー達がアリのように岩壁を這っているお姿が…。
もちろんこれを見た高所恐怖症の田沢は「あべし!」と叫んで憤死した事は言うまでもない。
しかし憤死している場合ではない。
我が家では愛する子供達が私の帰りを今か今かと待っている。
こんな所で「不帰」になるわけにはいかない。
そうなってしまったら喜ぶのは嫁だけだ。
田沢は気合いを入れ直し、虎丸に続いて岩に取り付く。
この妙に陽気でポップな滑落看板のピクトが、もう自分のシルエットにしか見えない。
見上げるとこのオシャレ空間。
そして振り返ればこの余計な大絶景。
普段は展望抜群な山頂で「真っ白」を提供して来るくせに、今日に限ってこの節操のないほどのズルムケ高度感。
田沢はただただ引きつった顔でガタガタ震えるばかり。
それでもひたすら突き進むしかない。
ここは「真の男」になる為の道場なのである。
田沢は必死で「ここは公園のアスレチック…ただのジャングルジム…お子さんでも安全な遊具です…」と呪文のような自己暗示タイムに突入。
しかし鎖の乱発するこの遊具に対し、彼は錯乱状態に。
ついに泣きながら笑い出したのである。
竹中直人の笑いながら怒る人を彷彿とさせる泣きながら笑う人。
まさにこれは「男塾万歳滑落」の前兆で、非常に危険な状態だ。
しかし田沢は諦めない。
目に涙を一杯にしながら、再び「ニニンガシ…ニサンガロク….」と、得意の九九でごまかしながら這い上がる。
何が彼をここまで突き動かすのか?
それは単純に「進まなきゃ帰れないから」に他ならない。
そんな弱った田沢を見て、二峰男爵ディーノが打って出た。
ついに彼の必殺技「空中ハシゴ」が炸裂。
これに対し、田沢はもうすっかり「反省」のポーズで動きが停止。
写真では伝わりにくいがこのハシゴの下は断崖絶壁で、もちろんハシゴだから景色はスケスケ。
ビルとビルの間にハシゴがある状態と言えば分かり易いだろう。
もう少し分かり易く言えば、男塾名物「万人橋」の上を歩いて行くようなものと言えば適切だろうか。
ここで進まないと男にはなれない。
田沢は芸術的なまでに美しい「腰の引けっぷり」で、その難関を勇ましく乗り越えて行く。
ひたすらプルプル震えながら、「サザンガク…サンシジュウニ…」と呟く男らしい戦士の姿。
そしてそんな仲間の必死で戦う姿を見て、心なく爆笑する前後の虎丸と松尾。
彼らは「高所恐怖症」の何たるかを知らない。
今僕が魔法を使えるなら、迷う事なく奴らにサンダガを食らわせて滑落させていただろう。
しかし精神が削られた今の僕には、もうMPは残っていない。
しかしこれは世界中の高所恐怖症患者達に希望の光を捧げる田沢の勇姿。
かつて脚立のてっぺんにも登れなかった男の奇跡。
彼は見事に空中ハシゴを突破し、その男気を天下に示したのだ。
しばしその場から立ち上がれない田沢。
そしてその先の休息スペースでやっと安堵のひと時。
ここで刮目したい。
達成感に浸る田沢にズームインしてみると、なんと彼のズボンが脱げている。
その事に気づいていない田沢はアホみたいに笑っている。
男を示すと言っても、そのように直接的に示してはダメだ。
なんとか気づいて履き直しているが、難所を越える度に脱いで行ったら唐松岳では全裸になってしまうぞ。
そしていよいよ二峰男爵ディーノとの最後の戦いへ。
ついに最終の難所に取り付く田沢。
もはや彼にとっては生き地獄である。
とにかく下を見ないように、目の前の岩に向かって「ゴゴニジュウゴ…ゴロクサンジュウ…」とブツブツ呟きながらよじ登る。
とにかく必死で鎖にすがりつく。
まさに何度もシュミレーションして来た「滑落現場」に今私はいるのだ。
ここが「真の男」になる為の最前線。
この動画の1:05あたりでは、リアルに心臓が停止したほどだ。
プルプル震えながらも必死で食らいつく田沢。
もう目も当てられないほどの腰の引け具合。
しかし彼は「シチシシジュウハチ….シチゴサンジュウゴ…」と呪文のように己の中の恐怖を押さえ込む。
そしてどれほど厳しい戦いが続いた事だろう。
「クシチ..ロクジュウサン…クハ…ナナジュウニ…」と呟く田沢の眼前に、このようなものが。
田沢は叫んだ。
心の限り叫んだ。
それは魂の咆哮だった。
恐怖に耐え抜いた男が、その恐怖から解放されたゆえの勝利の雄叫び。
彼は「男」になったのである。
こうして不帰鎮守三人衆「二峰男爵ディーノ」を撃破。
虎丸と松尾も田沢の健闘を称える。
そしてこの難所を突破したギリギリボーイズ達は、最後の不帰鎮守「三峰蝙翔鬼」目指して進んで行く。
しかし二峰男爵ディーノはまだ死んでいなかった。
三峰かと思ってがっつり登った先には「不帰2峰南峰」という文字が。
さすがは男塾で一二にを争うほどに「何度も死んだと見せかけて生きていた」男である。
実にうざい男である。
しかしここからの眺めは中々のもの。
ここまで越えて来た「天狗の大下り」「一峰」「二峰」の姿がはっきりと見て取れる。
こうして見ると、テン泊装備担いでほんとよく越えて来たもんだ。
しかし安心するのはまだ早い。
ついにここに来て「三峰蝙翔鬼」が登場し、「雨」を降らせて来たのである。
降り注ぐ血の雨。
難所は越えた後とは言え、まだ不帰の嶮は終わっていない。
そう言えばかつて出発前に猿倉で大豪院先輩がこう言っていた。
一峰の独眼鉄は「男度を示す」事で我々を通してくれたが、三峰蝙翔鬼はそうはいかない男。
一番の難所である二峰を越えて安心した登山者達が、この三峰で多くの事故を起こしているのだ。
そして疲労もピークにさしかかるこの時点で、再び論愚覇威苦的な長い持久戦へ突入。
やはり今の我々の弱点を巧妙に突いて来た三峰蝙翔鬼。
今度は二峰でクライマーズハイになって浮かれていたいた虎丸と松尾に襲いかかったのだ。
虎丸はともかく、松尾の嘔吐寸前度は絶望的な領域へ。
正直、倫理委員会からストップ命令が来そうで掲載するのも迷ってしまったほどのこの表情。
ついに白目をむいてしまった18禁松尾。
もはやこの顔は立派な公然わいせつ罪である。
しかしここには彼らのギリギリ顔を取り締まる警察なぞはいない無法地帯。
ギリギリボーイズ達は三峰目指してガッツリ大急登にその身を投じて行く。
そしてついに三峰蝙翔鬼を撃破。
妙にあっけない感じで撃破したみたいになっているが、もうしんどさと面倒くささで、写真なんて撮ってる場合じゃなかったのだ。
もちろん「三峰」の標識も撮っていない。
男塾では蝙翔鬼は影の薄い男だったが、この三峰蝙翔鬼も結果的に非常に目立たないものとなった。
しかしその実力はやはり不帰鎮守三人衆の一角。
ギリギリボーイズ達の体力は、もうとっくにギリギリを通り越した世界へと追い込まれていた。
だが悦びの瞬間は近づいて来ている。
ついに彼らは白馬大四凶殺の最後の砦「唐松岳」に到達する。
振り返ればここまでの「オー、モーレツ」な長き道のり。
そしてギリギリボーイズ達は前を向き直し、男らしく胸を張って唐松岳に迫って行く。
やがて唐松岳山頂の標識を捉えた。
これぞ「真の男」のみが到達出来るという最終地点。
ついに白馬大四凶殺、完遂である!
天が祝福するかのように彼らに「雨」を降り注ぐ。
しかし僕が「なんか写真におもっきり石が入り込んじゃったからもう一回撮り直そうか?」と言えば、虎丸は遠くを見つめながら「いや..もう..いいよ…」と言うのが精一杯。
松尾に至っては、最終回のジョーのようにうなだれている。
そう、彼らは全てを出し切ったのである。
ひとまず体を休ませる為に、唐松岳頂上山荘を目指す3匹のゾンビ達。
そして山荘に到達した彼らは、死んだように死んだ。
しかし何度も書くが、男塾は何度死んでも強制復活させられて再び戦地に送り込まれるシステム。
まだ彼らには「約3時間」の八方尾根下山戦が待っているのだ。
「もういやだ…」という言葉を飲み込みながら、渋々山荘を出る。
するとそこに待っていたものは、大雨と恐怖すら覚える暴風の嵐だった。
気温はグングン下がり、体感温度は雪山登山並。
田沢に至っては中間着にフリースまで着込んで、雪山と同じ防寒スタイル。
そして八方尾根は「お馴染みの光景」で我々を迎え撃つ。
見事に真っ白じゃないか。
景色なんて見たくない不帰ノ嶮であんなに見えてた景色だったが、いよいよ景色が楽しみな尾根歩きに至ってこの有様。
僕は八方尾根が3回目だが、まだ一度もこの尾根から景色を見た事がない。
それもそのはず。
白馬大四凶殺は終わったが、この八方尾根の先には「大豪院邪鬼」が控えている。
時にハッポーN、時にラオウ、時に大豪院と名を変えて我々に悪天候をお見舞いして来る最凶の男が。
だが今の我々ギリギリボーイズにとって、悪天候なぞ心地の良いバラードでしかない。
「もう何だっていいや…早く帰りたい…」と言いながら、もはやこの2日間で何個目の山かわからない「丸山」に到達。
徐々にいつも通りのグレイッシュな世界観に包まれる負の男達。
その後も「見渡す限りの絶景」を堪能しつつ、無言の下山をして行く亡霊達。
八方池に到達する頃には、カメラが濡れているのか涙を流してぼやけているのか分からない状態に。
ドブが似合うマゾネズミ達には、実に心地の良いゲリゲリ下山道だ。
そしてここからは八方尾根の名所を巡る。
まず、記憶に新しい名所「ジャギ谷」の登場である。
かつて松尾が「ジャギ」と名乗っていた頃、あの谷底にテントを吹き飛ばした伝説の谷。
↓当時の写真
そして彼はシュラフ救出の為に二度もこの谷に飲み込まれたという、実に男らしい名場面が繰り広げられた谷なのである。(参考記事:世紀末救世主伝説2〜谷底アヒージョの彼方へ〜)
松尾(ジャギ)も目を細めてその谷を眺め、「俺…よくあんなとこに降りてったもんだなあ…」と感慨に耽っている。
やがて一度もその看板通りの景色を提供してくれない「偽りの山容看板」が登場。
本日も我々の心眼サポートの為に、陽気に白馬三山の眺めを解説してくれている。
そして改めてこの看板を見ると、今回の白馬大四凶殺の行程の激しさがよく分かる。
ここに載ってる全ての山を制覇したわけである。
虎丸などは、この行程を沢ザック担いで終始靴擦れしてたんだからまさに「男」だと言わざるを得ない。
やがて再び名所の「矢作Cの黄昏ベンチ」が登場。
ここはかつて矢作Cが無理矢理バックカントリーに連行された挙げ句、強烈なホワイトアウトマゾに巻き込まれてほとんど滑れなかった時に黄昏れたベンチ。(参考記事:夢見る男の美白道場〜うぬぼれ晴れ男の末路〜)
その時の写真↓
この時の白さを思えば、今日のような大雨くらい屁でもない。
やはり真の男になった我々は、確かに強靭なハートを手に入れたのだ。
やがて登山道はゲリ道を通り越して「川」と化した。
田沢と虎丸は、ここに来てやっと本来やりたかった「沢下り」を楽しむ事が出来たのだ。
なんだか随分遠回りだった気がするし思ってたのと違うけど、やっと目的を達成したのだ。
やがて白馬池山荘に到達し、
追い払われるように真っ白な世界に放り出される。
ここのリフトはいつ来ても真っ白だな。
そして何気にこの場所で松尾がやらかす。
彼はこの旅の最初の頃、自慢げにこう言っていた。
「これ、ザックに直接カメラ取付けるやつなんすよ。高かったけど買っちゃったんすよ。今回初導入なんすよ。いいでしょう?」と。
彼はこの買ったばかりの自慢のカメラフォルダーを、このリフト搭乗時に紛失するというビッグミス。
この時はあんなに浮かれていたのに、後にこの紛失が発覚した時の「まだ一回しか使ってないのに…」という彼の落胆ぶりは見事だった。
松尾は普段、大事な物を無くしてばかりの田沢に対し「遊び過ぎて脳みそスカスカになってんじゃないすか?やばいすね」と言っていたにも関わらずこの失態だ。
所詮ギリギリボーイズの脳みそは、常にスカスカだと言う事なのである。
しかしあのような高価な商品を「使い捨て」で使えるようになったという事は、彼が「漢」になったという事を証明している。
こうして彼らは下山完了。
この長過ぎた「白馬男塾」を、めでたく卒業する事に成功したのだ。
初日11時間、2日目9時間。
総移動距離約30km。
ハッキリ言ってアホほど長過ぎた旅だった。
より大きな地図で 白馬男塾 を表示
しかしこの試練を乗り越えた事により、ギリギリボーイズ達は画期的なまでに「男度」を上昇させた。
誰ともなく「もう…しばらく登山はいいや…」なんてほざいている奴もいたが(全員)、彼らの戦いはまだまだ続いて行くのである。
ギリギリこそ男、ギリギリこそ正義。
そこに理屈など必要ない。
あるのは根性と友情のみ。
速乾性のアンダーウェアなぞクソ食らえ。
雪山だろうとふんどし一本あれば十分だ。
メシは担ぎ上げてもあえて山荘で食う。
山ガールにはとことん弱い。
これが男の生きる道。
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナ嫁ヲモチ
慾ニマミレ
決シテ浮カレズ
イツモシヅカニマゾッテヰル
サウイフ男ニ
僕ラハナリタイ…
by ギリギリボーイズ
白馬男塾 〜完〜
白馬男塾3・不帰激闘編〜命がけの九九斉唱〜
- 白馬三山〜唐松岳/長野
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MATATABI BASE
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かつて誰かが言った。
「EDAJIMAがあと10人いたら、我々は戦争に負けていただろう。」
そんなEDAJIMAの意思を継ぐ漢達がこの渡世にもいたのですね。
ご無沙汰しております。
H to the I to the R to the O♪
ヒロです。覚えていますでしょうか?
田沢、松尾、虎丸の漢っぷり、しかと見届けさせていただきました。
個人的には実況解説ネタがあったほうが、より漢気あふれる記事になったのではないでしょうか??
とにかく、無事で下山なによりです。
かくゆう私も昨年、漢を磨くため天挑五輪大雪渓を責め、猛突爆激石の餌食になりましたが、ワンターレン氏の蘇生術により一命をとりとめました。
白馬山荘に到着したときは、お三方同様、二回目の瀕死状態になりましたが、一気に漢気レベルは100くらいあがった次第です。
山は漢気を上げるためのプレイスなのかもしれませんね。
嫁という生き物には、決して理解できないでしょうが。
不帰の嶮は自分も一度は行ってみたいプレイスです。
自分もあまり高所は得意ではありませんが、危機に直面したとき次の念を唱えると良いでしょう。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前・・」
九九も斬新ですね。新手のスタンド使いかと思いました。
今回も、ジャンプネタに尽きてしまいましたが、ご容赦ください。
では、またどこかで。
アディオス 朋友
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
極小路ヒロ麻呂さん、ご無沙汰でございます。
でもハッキリ見えてましたよ。
ヒロ麻呂さんが遥か遠方で、鼻血吹き出しながら喝魂旗揚げてくれていたのを。
EDAJIMA塾長なら、同じ1泊2日の条件で北アルプス冬期全山縦走を成し遂げるでしょうが、所詮松尾と田沢と虎丸なんでこの程度が精一杯でした。
実況解説ネタはやはりもう一人の名解説「富樫」がいなかった事により次回持ち越しでございます。
にしてもあの天挑五輪大雪渓は、過去一番死を身近に感じた世界でしたよ。
あそこを普通に一般登山道にしているのが信じられないほど強烈に恐かったです。
赤石剛次先輩が一緒にいればあんな岩なんて軽く一刀両断なんですが、なんせ戦闘にいたのが松尾と田沢だったんで、背後に「ラークッ」というのが限界でした。
もう二度とあの大雪渓には近づきません。
山は漢気を上げるためのプレイス。
嫁はそのロマンを打ち砕くプレイス。
そこで「臨、兵、闘、者…」なんて呟いても、すぐさま「いてつくはどう」で全ての特殊効果が吹き飛ばされます。
しかしこのブログ。
80年代ジャンプ世代じゃない人が読んでたとしたら、一体どういう方に映ってるんでしょうか…。
でもそれでも伝えたい。
山の魅力の方じゃなくて、あの頃のジャンプ漫画の「強引な世界感」を。
すべての漫画が常軌を逸していたけど、それがまかり通っていた時代。
あの頃のジャンプは「漢」だったなあ…。