白馬三山〜唐松岳/長野

白馬男塾2・白馬散々縦走編〜嗚咽まみれの消耗大会〜

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日本男児の生き様は

色無し恋無し情けあり

男の道をひたすらに

夢見て白馬を魁る

嗚呼男塾 男意気

己の道を

魁よ


〜男塾 塾歌より〜





壮絶だった白馬岳の刺客「大雪渓」との死闘。

あやうく古代中国拳法「猪突落石拳」の餌食になりかけた三人の塾生達。

だが彼らは紙一重の所で落石攻撃をかわし、見事に大雪渓を撃破する事に成功した。


しかしその勝利の代償はあまりにも大きかった。

テン泊装備の重量が想像以上に重くのしかかり、この美しいまでのグロッキー状態。

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左から、かつて富樫が「田沢の苦苦はいつ聞いても惚れ惚れするのう」と誉め称えた男塾一の頭脳派マゾ「田沢」。

そしてその田沢とコンビを組み、毎回必要以上な重量を背負って余計なマゾに埋没する仕込派マゾ「松尾」。

そして命知らずな武闘派にして、代謝が良過ぎるあまり常時シャリバテ状態のハングリー派真性マゾ「虎丸」。

今まさにこの白馬で「ギリギリボーイズ」が結成されたのである。


こんな絶望的グロッキー状態の彼らだが、実はこの時点でまだ何一つとして目的を達成できていない。

そう、その目的とは、白馬三山と呼ばれる「白馬岳」「扚子岳」「白馬鑓ケ岳」の三山を大縦走で陥落せしめる事である。


通常この白馬岳到達時点でテント泊か小屋泊が一般的。

しかし彼らは一般人ではなく、あくまでも男塾の塾生。

すでに死亡確認されてしまっているが、それでもここから一気にその白馬三山を落とす長い旅に出てしまうのだ。



彼らは山に登りに来たのではない。

あくまでも「漢」になりに来ているのである。


ついにここから始まる男塾名物「超論愚覇威苦」。

限界の先にこそ真の男の世界が待っている。


そんな彼らの長過ぎた戦いの軌跡。

じっくり振り返ってみよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


白馬岳頂上宿舎のベンチで発見された3つの死体。

しかし彼らにはまだ息があった。


しばしの休憩の後、ゾンビのようにムクムクと起き上がる3名。

ここで彼らはガッツリ昼食をとり、なんとか再び生気を取り戻して立ち上がる。


ここから白馬岳山頂までは往復1時間。

今まで足かせでしかなかった重いテン泊装備をデポし、やっとここで身軽になる3人。

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鉛道着を脱ぎ捨てた悟空よろしく、あまりの身の軽さに笑顔が弾ける松尾。

白馬岳は「大雪渓」が実質上のボスなので、ここからは気楽なピークハントだ。


目の前には要塞のような白馬山荘が見えて来る。

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そこは日本最大の収容人数を誇る山小屋。

正直僕としては「もういっそここで泊まってしまいたい」と喉元まで言いかけてしまったほど。

しかしそんな事を口に出してしまった時点で、男塾の規則で「切腹」させられてしまうのは明白。

我々はここにレジャーをしに来ているのではないのだ。


身軽になった我々は軽々と白馬岳の最後の攻撃をかわして行く。

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絶壁から覗く眼下には、悔しそうに我々を見つめる「大雪渓」。

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そんな視線を気にする事無く、我々は華麗に白馬岳の登頂に成功した。

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やはり大雪渓を撃破した時点でこいつとの勝敗は決していたのだ。

とりあえず「やっと」本日の最初の目的地に到達した3人。

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この頃はお昼休憩もあって、わりかしまだ顔色は良い。

だがここはまだ本日の旅の「スタート地点」でしかない。

他の多くの登山者達はこの場所で達成感に満ちた良い表情をしているが、我々男塾生にとってはまだ「タイムカードを押しただけ」といった状態なのだ。

やっとこれからお仕事が始まるのだ。


そんな気合いを入れ直す我々に対し、同じ1号生の男も応援に駆けつけてくれた。

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彼こそ我らが男塾1号生筆頭の「劔桃太郎」。

この思いがけない仲間からの励ましに、虎丸と田沢も感激しきりだ。

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さあ、桃に恥ずかしい姿は見せられないぞ。


3人は下山を開始。

再び白馬岳頂上宿舎にデポした、クソ重いテン泊装備を背負って動き出す。

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さっきまで空身で動いていた分、その重みは信じられないほどズッシリと背中にのしかかる。

しかしやっぱりこの重さこそが「白馬大四凶殺」の神髄。

虎丸も必死でやせ我慢しながら、その重いテン泊装備を担いで進んで行く。

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彼は半年も獄悔房(家)から遊びに行かせてもらえなかった欲求を、今ここで爆発させているのだ。

不自由という名の吊り天井を担ぐぐらいなら、テン泊装備沢ザックなんて彼にとっては軽いものなのだ。


やがて「唐松岳」と書いて「地獄はこちら」と読む標識を越え、

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劔桃太郎に見送られながら進んで行く。

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振り返れば今しがた撃破した白馬岳も優しく見送ってくれている。

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男塾では一度拳を交えた相手は全て仲間になってしまうシステムなのである。


そしてその白馬岳から目を前方に移すと、ついに我々の目の前に長大な大稜線が登場。

ズドンズドンと「扚子岳」と「白馬鑓ケ岳」が重々しく鎮座しているではないか。

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思わず「どんだけ〜」と言ってしまったどの広大さ。

残り体力があとわずかしかない男達に突きつけられた吐きそうな現実。

しかも平坦な稜線歩きかと思いきや、豪快なアップダウンを予感させる絶望的な光景。


どこからともなくヒゲ教官の声が響き渡る。

「これより男塾名物“超論愚覇威苦”を行う!はじめーいっ!」と。


3人は不安で一杯になりながらも、この決死のロングハイクに突入して行く。

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正直今の体力で最後まで歩ききれる気がしない。

一体この先にどんな悲惨なマゾが待ち構えているのか?


松尾もその気の遠くなるような光景を目にして、不安そうに田沢に対してこう言う。

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松尾がこう言ったときは、100%の確率で良いことは起こらない。

そしてそのとばっちりを食らうのはいつも田沢の役目。


そもそもすでに相当足に来ていた田沢。

そんな中で突入した超論愚覇威苦のスタート直後。

田沢は思いっきり浮き石を踏み、その勢いで豪快に転倒。

そしてヨロヨロと起き上がった時。

田沢のポールはポッキリと折れていた。

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最近何かと言えばすぐに私物を山に奉納してしまう田沢。

今回の奉納アイテムは、あれ程気に入っていた「ブッラクダイヤモンドのディスタンス」でした。

「田沢の次回奉納アイテム予想」で「ポール」でご投票していただいた方、おめでとうございます。

さて、次回田沢は何を失くす(壊す)でしょうか?

皆さん、ふるってご応募お願いしますね。



これにてガックリと肩を落とす田沢。

大事なポールを失った悲しみもさることながら、ただでさえポール無いとしんどいこの行程の最初の一歩でやらかしてしまったビッグプレイ。

しかし彼は「サイズ調整できないポールだったけど、こうやれば短くなって便利だね。」と目に涙を一杯にしながら強がっている。

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やはりこのくらい豪快な方が「漢」が使うポールとしては相応しい。

左右で長さが20cmほど違って来るが、アシンメトリーなポールこそ現代の男のトレンドなのである。


早くもポールと心を折った田沢だったが、皆に支えられて何とかその足を進めて行く。

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しかしここから普通のハイクをさせてくれないのが、普通のロングハイクじゃなく「超論愚覇威苦」たる所以。

ここに来て、なんと「体感風速15m〜20m」ほどの暴風が吹き荒れ始めたのだ。


写真だけだとただただ平和な光景にしか見えない。

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しかしこの写真の中の世界は「もう勘弁してくれ」と言った横風の嵐。

ものすごく悲惨なんだけど、その辛さが写真では全く伝えられないというブログ的な苦しさ。

ビジュアル的な優雅さと裏腹な、この目に見えない地味な地獄。

このマゾり損な感じが実にたまらない。


そしてせっかく上げて来た標高を下降させられ、その先には長大な登り。

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縦走登山とは比較的アップダウンの少ない快適なもののはずなんだが、どうもこれは縦走と言うより単純な山登りアゲインだ。

さらに奥の方には白馬鑓ケ岳がかすんで見えてるし..。


なんともやりきれないが、ガッツリ鞍部まで下降してそこから再びガッツリ登って行く。

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これにはいよいよギリギリボーイズ達の苦しみもエスカレート。

そもそも大雪渓時点でギリギリになってしまった彼らなので、ここに来てこのような状態になるのは無理の無い事。

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虎丸は顔をゆがめて「腹減った….メシ…メシを…」と窮状を訴え、松尾などは立っているのもやっとのご様子。

もちろん田沢も段違いポールのおかげで重量分散がうまく行かずに「肩が痛い、腰が痛い」と言い始めている。

そしてそんな3人に容赦なく吹き付けられる大暴風。

もはや祭である。


そんなマゾな祭り囃子の中、ギリギリボーイズは順調にギリギリをキープしながら登って行き、

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再び下降させられて、ついに第2の関門「扚子岳」をその目に捉えた。

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この写真を見て分かるだろうが、実はこの先道が二本に分かれている。

1本は山頂に向かう道で、1本は山頂に行かない巻き道ショートカット。


ギリギリボーイズ達は何度も協議を重ねる。

「もちろん山頂…行く?よね?」

「まあ…ね…」

「でも、ギリギリだよね」

「ああ、ギリギリだもんな…」

「巻いちゃう?」

「あ、それ言っちゃうの?」

「どうする…?」


などとウダウダやってる間に、その分岐点に到達。

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左が頂上、右が巻き道。

言ってみれば左が「男道」で、右が「負け犬道」。


しばしここで緊急会議するギリギリボーイズ。

いよいよ負け犬一直線かと思われたその時。

松尾と田沢が、ものすごく良い表情でこう言い放った。

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覚悟を決めた男達の顔は美しい。

過去に一度南ア男塾を歩き抜いた男達の決意。

虎丸もこの根性に感動し、ギリギリボーイズ達はもうすでにギリギリだけど左の「男道」へと進軍。

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そしてそんなアツい男達に対し、扚子岳もアツく応える。

ものすごく滑り易くて歩きにくい、ジャリッジャリの道で彼らをお出迎えだ。

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白馬雪渓地獄の次は扚子砂礫地獄。

この歩きにくさとしんどさには、さっきあんなに良い顔してた松尾も早々に後悔している様子。

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しかしその容赦ない砂礫の熱烈歓迎は、はるか上の方まで続いている。

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それでもこの「男道」を選んでしまった以上、敵に背を向けて逃げ出すわけにはいかない。

男達は、ただただ愚直に上を目指す。

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ただただ愚直に。

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時折聞こえる「ぐええええッッ」という嗚咽は誰が発したものなのか?

それともギリギリボーイズ全員の嗚咽なのか?

もはやミッキーロークの猫パンチですら病院送りになりそうなほどのギリギリ感。

これぞ我らがギリギリボーイズ。



どれほどの時間が経ち、どれほど吐いた事だろう。

虎丸と田沢が、倒れ込むように1本の木にすがりついている。

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そう、それは扚子岳の山頂標識という名の「男気」。

ついに彼らは二つ目の刺客「扚子岳」を撃破したのだ。

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この爆発した悦びの表情が、ここまでの道のりの厳しさを物語っている。

しかし彼らはあっという間に現実に引き戻される事になる。


もう終わった的な達成感に浮かれているが、まだ白馬三山はあと一つ残っている。

それはこの山頂の先に見えてしまった、「更に長大な縦走路」の先にある「白馬鑓ケ岳」の存在だ。

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この圧倒的な絶望に、ただただ呆然とうなだれる松尾と虎丸。

もう虎丸なんて、別の方向見てその現実を受け入れようとしていない。

ついには寝転がってしまった二人。

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必死で現実逃避をしようとしているのだろうか?

もう彼らはこれ以上ギリギリをキープできなほど消耗してしまっている。

虎丸なぞ、崖を覗き込んで「この苦しみから解放されるならいっそここへ…」と考えているのかもしれない。

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このままだと、奴は「男塾万歳!」と言って落ちて行ってしまう。

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急がねばならない。

ここでヘタに休んだら、死人が増える一方だ。

とにかく先に進むんだ。


こうして休憩もそこそこで、さっさと扚子岳を後にするスーパーギリギリボーイズ。

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ダイブする崖はいくらでもあるから、突然「男塾万歳」をしないように皆が互いを励まし合いながら進んで行く。


で、当然のように白馬鑓ケ岳までなだらかな稜線が続くわけが無い。

当たり前のようにガッツリ下降させられる男達。

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あんなに頑張って稼いだ標高貯金が、湯水のように失われて行く。

先行する虎丸が何度か立ち止まっては遠くを見つめている。

その背中はどこか寂しげだ。

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そもそも彼はわざわざ東京から「沢遊び」に来た人だったはず。

実際背中には背負い心地最悪の沢用ザック背負ってるし。

一体どこから彼の歯車は狂ってしまったんだろうか?

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なぜこんな雄大な世界でマゾる事になってしまったのか?

忘れている人も多いだろうから改めて書いておくと、彼はこの時も厳冬期登山靴で絶賛大靴擦れ中である。


僕はそんな虎丸の姿を見て、こんな無謀なツアープランをご提案して来たJTB松尾に苦情を言う。

高校の先輩として「修正」という罰を与えようとすれば、JTB松尾は開き直ってこの状態。

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僕とランボーNは、間違いなくツアー会社のチョイスを間違えたのだ。

もうどんなに文句を言ってもツアー代金は戻って来ない。

こうなったら我々も覚悟を決めて、この変態的な超論愚覇威苦に快感を見いだすしか無い状況だ。


覚悟を決めたギリギリボーイズはヨロヨロと直進行軍を続ける。

しかし目の前にはずううぅぅんっと、白馬鑓ヶ岳が江田島平八クラスの大迫力で行く手を阻む。

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もはや胃液しか吐けない。

しかし、このような障害をのりこえてこそ男は磨かれてゆくのである。

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この雄大な景色に対し「いいなあ」と言う人もいるだろうが、もう一度行っておくと現在彼らは「風速20m」の中を歩いている事を忘れてはいけない。

そしてヒザに来ている男達に突きつけられる、滑り易い砂礫の下降地獄。

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そしてやっと下降が終わり鞍部に到達すれば、休む間もなく襲いかかって来る白馬鑓ケ岳の大急登。

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もう何度倒しても復活して来るドラクエのラスボスのような鬱陶しさ。

すでに我々のMPは底をつき、ホイミすら唱えられる状態じゃない。

かろうじて薬草(塩飴)を舐めながら、ギリギリの所で踏ん張り続ける。


白馬雪渓地獄、扚子砂礫地獄の次は、実にストレートに白馬鑓の「直登地獄」でマゾ仕上げ。

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いよいよ白馬三山が我々の息の根を止めに来た模様。

3人もそれぞれが「俺だけじゃ..ハァハァ…ないよね..?こんなに限界なのは….ウプッ…俺だけじゃ..ない..よね…?」と虫の息でお互いの限界度を確認し合う。


そしていよいよ無言でうつむいて己のマゾと向き合い始める3人。

もう誰もが無表情でうつろな顔。

田沢と虎丸は、嫁さんに無理言って出て来てまで一体何をしているのか?

そしてこの企画を立てたJTB松尾も、内心ものすごく壮大に後悔している。

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それぞれが家庭を持ち、会社ではそこそこの立場の立派な社会人。

一体彼らはこんな所で何をやっているのか?


そして吐き気をこらえて振り返れば、白馬岳からここまでのお下劣極まりない長大な道のり。

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しかしこれぞ我らが積み重ねて来た「男の花道」。

流した汗は「ロマンの雫」、飲み込んだ胃液は「ダンディズムの苦み」、背中の重みは「自由の翼」。

無言の男達が奏でる美しき直進行軍。


やがて家族や友人達の笑顔が走馬灯のように幻覚で見え始めた頃。

ついに直登地獄を乗り越え、山頂までのビクトリーロードへ到達。

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やったと思ったのも束の間。

見た目以上に妙に長かったビクトリーロード。

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もう終わったと思った男達にこのボディーブローは実にえぐい。

しかも最後も追い打ちのような急登おかわり。

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ギリギリボーイズのギリギリが加速する。

しかし確実に白馬三山制覇の瞬間が近づいて来ている。


やがて松尾と虎丸がついに山頂付近へ。

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虎丸はこの場で「男..塾…ば..万歳!」と言って前のめりに倒れ込む。

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虎丸龍次、死亡確認。享年37。


そして彼らに遅れた遥か後方では、立ったまま大往生する田沢の姿が。

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田沢慎一郎、死亡確認。享年38。


これを見た松尾が田沢にエール。

そう、これぞ男塾名物「大鐘音のエール」。

しかし限界を越えていた松尾はエール半ばで絶命。

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松尾鯛雄、死亡確認。享年36。



男達は死んだ。

しかしもちろん「宮下あきらマジック」で即座に復活する男達。

死ぬ事すら許されない地獄の輪廻。

3人は最後の気力を振り絞り、ついにその瞬間を迎えた。


白馬三山、最後の雄「白馬鑓ケ岳」撃破です。

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「男」が「漢」になった瞬間。

感極まって抱き合う3人。


振り返れば、我々を漢にしてくれた試練の道のり。

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辛い戦いだったが、今となってはもうお前達も我々男塾の仲間だ。

なあ、白馬三山達よ。

またの名を月光、雷電、飛燕よ。

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新たな友情を噛み締めるギリギリボーイズ。


さあ、あとはテント場のある天狗山荘を目指そう。

やっとこの長過ぎた苦しみから解放されるぞ。


すぐ近くのはずだけどどこかな?

おや?

なんだか山荘が近くに見えないねぇ。

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おい…うそだろう…。

まさかあのずっと先に見えるのが天狗山荘なのか..?

ものすごく遠くの方でかすんでいるあの黒いのがそうなのかい…?

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この瞬間。

白馬の空に「パキッ、ポキッ、グシャッ」という音が鳴り響いた。

そう。

それはギリギリボーイズ達の心の音。

彼らの心が折れて粉々に砕け散り、こねて丸めて固めてもう一回へし折ったくらいの痛々しい音。


男達は無言で再び歩き出す。

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暴風とともに、どこからともなく歌声が流れ来る。


日本男児の生き様は

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色無し恋無し情けあり

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男の道をひたすらに

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夢見て明日を魁る

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嗚呼男塾 男意気

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己の道を 魁よ

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嗚呼男塾 男意気

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己の夢を 魁よ

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嗚呼..

男塾…..




男達は全てをやりきった。

もはや疲労のあまり、そのちんこはポークビッツレベルまで縮小してしまった。

でも間違いなく男度は上昇したはずだ。


しかし「もう何もする気力がない…。メシは山荘で金出して食う…。」と言って、せっかくここまで担いで来た食料を食わないというまさか。

一体彼らは何の為にここまで食材を担ぎ上げて来たのか?

いや、そんな疑問は愚問である。

「彼らは男だから」

理由はそれだけで充分だ。


もはや限界を突破してしまった彼らだが、実はこれはまだ「1日目」が終わっただけ。

まだ明日の2日目が残っている。

しかもその2日目には、北アルプス三大キレットの一つ「不帰の嶮(かえらずのけん)」という難関ルートが待ち構えているのだ。

言ってみれば「本番」は明日だったりするのである。


そして白目でカレーライスを食ってる男達に朗報が届く。

彼らの背後の登山者達の声が聞こえたのだ。


「なんかさあ、明日朝から“雨”だってよ…」と。



田沢はコトリと静かにスプーンを置いて松尾JTBを見る。

そしてプルプル震えながら「誰だ…、台風一過で2日とも晴れですYO!と陽気に言っていた奴は…」と声を絞り出す。

その時松尾はただただ寝たふりを決め込んでいた。



行くも地獄

戻るも地獄


ここは地獄の1丁目

マゾが織りなす男の殿堂


これぞ白馬男塾


見さらせ


これが男の生き様よ




白馬男塾3・不帰激闘編へ 〜つづく〜



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コメント

    • しん
    • 2014年 7月 26日

    SECRET: 0
    PASS: 9655f4239c9829444d7ae84b580abe9a
    始めまして、私は最近北海道から名古屋に引越してきた38歳の子持ちシシャモです。
    名古屋に住むからには北アルプスを攻めたい!と思い、情報収集してたら、ここに辿り着きました。
    僕は、まだ縦走に踏み切れないヘタレピニストなので白馬縦走憧れます。
    川は何度かラフティングツアーに行った程度ですが、川の記事も楽しく読ませていただいております。

    • yukon780
    • 2014年 7月 28日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    しんさん、はじめまして!
    恐らく登山記録ブログの中で最も参考にならないページに辿り着いてしまったんですね。
    基本的に登山内容の詳細よりも、全体的に男塾とか北斗の拳とかジョジョとかを知らないと内容が掴めないという不思議なブログです。
    マゾの生態を観察するにはいいですが、ちゃんとした情報はヤマレコとかで…。
    でも同じ年の子持ちと言う事なら、嫁さんへの対応(ドゲザなど)参考になるかもしれません。

    僕からしたら北海道に強烈な憧れがあるんで、逆に以前北海道にいたというしんさんが羨ましくもあります。
    でもせっかく名古屋に来たのなら、ガッツリ日本の屋根アルプスに行かないわけにはいかないですね。
    名古屋からは鈴鹿山脈って言う気軽に登れるステージもありますから、山やるには交通的にいい場所です。

    縦走なんて体力や技術よりも「男気」さえあれば何とかなります。
    僕もMr.ヘタレと言われた登山初心者でしたが、いつのまにか登れるように(マゾれるように)なってきて苦痛すら快感になって来てます。
    是非、しんさんもそんな変態ワールドへ!

    名古屋自体に良い川はないですが、岐阜・三重・静岡・和歌山にはわんさか清流がたむろしてます。
    まずはラフティングや体験カヌーとかやってもらって、山の合間に川も楽しんでみてください!

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