宇連山/愛知

親子三代8耐登山〜昭和山女に学べ〜

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受け継がれる「M」の系譜。

今、一子相伝の極意が、親から子、そして孫へと引き継がれようとしている。



僕は今回里帰りするにあたって、登山好きの実母に「どっか行きたい所あるか?」と事前に聞いていた。

僕がりんたろくんを担ぐ事は知っているし、母さんは間もなく70歳になる。

だからてっきり軽い低山をチョイスすると思っていた。

なんせ母さんはその登山前日まで沖縄を旅しており、疲労も残っているだろう。


しかしさすがは我が母。

彼女は悩む事なく、日本百名山で標高2,191mの「恵那山に登りたい」と言い放った。


3歳児担いで、70歳の母を引き連れて2,191mとはどんだけマゾらせるつもりなのか?

しかもよくよく調べてみれば、恵那山頂付近はまだ雪で覆われているじゃない。

親子三代で雪山遭難でも楽しもうというのか?

危うく母のマゾプレイに引きづり込まれる所だった。

恐ろしい女だ。



というわけでGW前半戦の二日目。

僕は母のご要望を察して、雪のない別のハードな山を選定。

奥三河の名山「宇連山」(うれやま・929m)の岩稜ハードロングコース。

ここを僕はりんたろくんを担ぎ、別名「女三浦雄一郎」もしくは「昭和のイモト」と謳われる我が母と挑む。

これが僕なりのマゾ孝行だ。


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愛知県民の森モリトピアの駐車場へ。

写真だけだと非常にいい天気に見える。

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しかし現場には写真では伝えられない「強風」が吹き荒れ、4月末とは思えない寒さが展開。

まあいつもの事なんでこの親子三代は驚きはしない。

でも昨日の反省もあるから(参考記事:ジュナンボーイとヤプールの秘策〜冷戦和知野川〜)、今回は初めからりんたろくんにはスキーウェアで防寒対策。

4月末なのにスキーウェアを着ているという不思議。

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しばらくはお気楽で平和な林道歩き。

ここでおもむろに母さんが、りんたろくんに「しりとりをしよう」と提案。


母「じゃあ、りんちゃんの好きなものから始めよう。好きなものはなあに?」

孫「ボクの好きなのは…、うどんとご飯とラーメン!」


りんたろくんによる「ん」の乱れ打ちで、わずか5秒で終焉を迎えた祖母と孫のしりとり。

それでもめげない祖母は「それじゃあ終わっちゃうね。おばあちゃんから始めようね。じゃあねえ…ルンバ!」と言った。


しりとりのスタートに「りんご」や「ゴリラ」ではなく、あえて「ルンバ」を持って来るあたり、我が母のセンスに卓越したものを感じる。

それに対するりんたろくんは、「ば…ば…、ばあちゃん!」と再び「ん」で返り討ち。

一向に進展して行かない祖母と孫のしりとり一騎打ち。


そんな戦いを横目で見つつ歩いていると、中々に美しい世界が展開されて行く。

真上から見る極上の清流と滝や、

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新緑と紅葉の夢のコラボレーション。

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ここの公園内だけなら、きっと平和なファミリーハイクが楽しめる事だろう。

しかしもちろん我々はのんびりハイクなぞには目もくれなず、ただただ登山道へ突っ込んで行く。

飛んで火にいる初夏のマゾ3匹。

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そして今回は己撮りではなく、母さんに撮影をさせている。

普通のデジカメすら使いこなせない70歳の母に、一眼カメラを与えて自分の子と孫を背後から撮らせるというプレイで今回もがっつりと「無駄な時間」を堪能するのだ。


そしてガフガフと登山道を登って行く3人。

ここで母が「真の山ガールの姿」を見せつける。

昭和山女奥義、「トレッキングポール現地調達」が炸裂したのだ。

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枝を折る彼女の背中が、「トレッキングポールなんて店で買うもんじゃねえ。現地で作るもんだ。」と雄々しく語っている。

アンチショック機能なんて必要ない。

長さ調節なんて、枝を折ればいいだけのこと。

そして用が済めば捨てて、また必要になれば枝を拾って作るを繰り返す。

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これぞ合理第一主義の「地産地消」の精神。

現代の山ガールにも、この昭和山女の精神を継承していただきたいものだ。


その後は清々しい渓流道や、

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見応えのある滝を堪能するが、

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やっぱり道はいつものようにオシャレさを増し、いい感じで我々の体力を削り取って行く。

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グハグハ言いながら高度を稼ぐ。

やがて母は帽子を飛ばしながらも、岩場から崖を覗き込んで素敵そうな滝がある事を確認。

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かなり遠くて随分と下の方だが、母は「あの滝を見てみたい」とリクエスト。

本来のルートから外れて急下降。

せっかくここまで稼いだ高度を無にする長行軍。

そして行き着いた先の滝は思った程じゃなくて、チョロチョロで残念な滝だったといういう事実。

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そして傷心のまま、元来た急下降の道を再び急登して行く親子三代。

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母の仕掛ける無駄なハードマゾ行軍が止まらない。

彼女は息子のマゾレベルを推し量っているのか?

僕はここで正直、早くも「あ、今日もうダメかも」って思ってしまった程に疲弊してしまったよ。

ありがとう、おかあさん。



さらに急登を共闘して駆け上がる親子三代。

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やがて見晴らしの良い展望台へ到達して休憩。

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そしてここでついに自分の親を巻込んでの己撮り。(オープニング写真)

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僕は男なんで、思えばこの歳までまともに母親と話す事も無かった。

こんな写真を撮るなんてことは考えてもいなかった。


思えば小中学生の頃に無理矢理母さんに山に連行され、何も分らないまま北アルプスを大縦走させられた挙げ句に槍ヶ岳で強烈なトラウマを植え付けられて高所恐怖症になった過去もある。

しかし37のこの歳になって、何だかんだと母と同じステージに立っていてりんたろくんに対して同じような事をしている自分がいる。

30年後くらいに、今度は孫を背負ったりんたろくんに引き連れられて山を登る日が来るのだろうか?

その時は、きっとヨボヨボだろうが容赦なくハードな山に連行されるんだろうな。


受け継がれる「M」の意志。

伝統のマゾは、こうして脈々と未来へと繋がって行くのである。


そしてその心意気をしっかりと受け止めた男。

ついにりんたろくんが自らの足で山を登り始めた。(登らせたんだけどね)

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最初はイヤイヤだったが、次第にMの血がざわつき始めてズンズンと進んで行く男。

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そして前のめりに見事に大転倒。

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父がシャッターを切るタイミングを見計らった、見事なる転倒プレイ。

普通の三歳児なら泣いてしまう所だろうが、彼はこちらを見てニヤリとした。

まるで「父さん。今のしっかり抑えてくれたかい?」とでも言わんばかりだ。

さすがは我が後継者だ。


思いのほか頑張るりんたろくんを、父と祖母で引っ張って登って行く親子舟。

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地味に時間が浪費されて行き、全く進んで行かない。

これでは親子三代でのナイトハイクへと突入してしまう恐れがあったので、やっぱり合体。

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その頃には母さんの「現地調達ポール」はかなりグレードアップして二刀流へ進化。

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左手のポールなぞはウソップの武器みたいだ。

もちろん手には「軍手」という、昭和山女の正装で決めている。



やがて尾根に出てからの急登パラダイスへ突入。

決してファミリー向けではないハードな登りが延々と続いて行く。

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ここに来てさすがの母さんも弱音を吐き出す。

なにせ昨日まで沖縄を旅していた人だから、さすがに疲労の色が濃い。


そしてそろそろ山頂付近かと思った所で、「山頂まで残り1時間」の標識。

ついに我が母の口から「心が折れた」という言葉が飛び出した。

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そう言いながらも顔が笑顔なのは、やはりと言った所だ。

しかし自分の母親に「心が折れた」と言わせてしまって、果たしてこれが親孝行なんだろうか?

多少の疑問は残るが、恐らく間違ってはいないはずだ。


でも一方で花や南アルプスの眺めが我々に力を与える。

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そして山頂までの最後の登り。

最後くらいはりんたろくんも徒歩で登頂を目指す。

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そして最後の岩場をよじ登り、

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見事、宇連山制覇です。

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彼はほとんど担がれていたが、ここは「よく頑張ったぞ!」と精一杯ヨイショしておいた。

彼に山好きになってもらう為には、こうした疑似達成感と接待の積み重ねこそが大切なのだ。


実にスタートから4時間も経っていた。

ファミリー登山の片道の登山時間ではないぞ。


しかし頑張っただけあって、山頂からは素晴らしき風景。

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本来なら「真っ白な景色」こそ似合う男なのだが、今回は親孝行という事でたまにはこんな絶景でもいいじゃないか。

子供にこうした風景を沢山見せておけば、多少は細かい事は気にしないスケールの大きな男になってくれる事だろう。


そして昼メシ。

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ここで昭和山女の二発目の奥義が飛び出す。

衝撃の大技、「ウイスキーinうがい薬ボトル」が炸裂した。

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もはや絵的に検尿感たっぷりだが、これぞ合理第一主義の昭和山女の必携品。

何よりも軽く、そして残量が見え、さらには目盛り付き。

オシャレなボトルなぞは必要ない。

ましてやカフェラテでオシャレな山頂カフェブレイクなんて必要ない。

昭和山女の活力はあくまでも「酒」だ。


さすがはワンカップ大関を何本も担いで北アルプスを縦走した女。

そして槍ヶ岳山頂で酔っぱらって、あの絶壁を千鳥足で降りて来た女だ。

僕はまだまだ母には遠く及ばない。


一方で僕とりんたろくんは、親子奥義「山頂オムツチェンジ」。

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この開放感にはりんたろくんもご満悦な表情だ。

この快感に味を占めて、大人になっても山頂で露出野郎にならないように気をつけないと。



そして下山開始。

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雄大な景色を見ながらの下山で実に気分がいい。


やがて途中の休憩ポイントで、早くも昭和山女の最終奥義が飛び出した。

ついに必殺奥義「お花摘み」が炸裂。

母は何の躊躇も無く、草むらの中に消えて行った。

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昨今の山ガールは我慢を重ねて膀胱炎になる者も多いという。

しかし昭和山女には膀胱炎の三文字と恥じらいという言葉は存在しない。

是非今度「ランドネ」の巻頭特集で、昭和山女を取り上げていただきたいものだ。

山スウィーツ特集なんてやるよりも、「今年こそ!昭和山女に学ぶ、迷いのないお花摘み特集」的な感じでやってみてはどうだろうか?



その後、ただでさえ長行軍になってしまったのに、あえて遠回りの岩稜ルートにて下山して行く親子三代。

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一体何時間この山を彷徨えば気が済むのか。

さすがに僕も子供を背負い続けて、強烈に腰と肩に来ている。

冷静に考えてみると、この人70歳なのになんでこんなに元気なんだろうか?

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昨日まで沖縄だったんだろ?

疲れないのか?

実はサイボーグなのか?


そうこうしていると、国体尾根コースという名の岩稜尾根に到達。

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雰囲気も景色も良いんだけど、この時点で実に登山開始から7時間が経過。

もはや足腰はヘロヘロで景色やお花を楽しむ余裕はなし。

さすがのサイボーグも、本日10本目くらいの現地調達ポールを支えにヘロヘロだ。

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やっぱり親子してこんな事になってしまうんだね。

3歳児を担いで、70歳とともに長時間山中を彷徨い続ける戦い。


麓まで降りて来た時には、もはや辺りは夕方になっていた。

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そして無事に下山完了。

実に8時間の耐久登山。


親子三代が織りなす魅惑の8耐レースが終わりを告げた。


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もちろん追い打ちを楽しむ事は忘れない。

見事にGWの大渋滞に巻込まれて行く親子三代。

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僕はもう疲れすぎてとっても瞼が重かった。

運転変わってもらおうにも母さんは酒飲んでるし。

一方でりんたろくんは、うまい棒のカスを車内に撒き散らかしてるし。

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そんな感じで長時間移動して、愉快に実家に帰宅。

朝家を出てから、実に15時間が経過していた。


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〜おまけ〜


実家で見つけた衝撃的な写真。

僕が今のりんたろくんと同じ3歳だった頃の写真。

左が僕で、右がりんたろくんだ。

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りんたろくんには気の毒だが、将来君はお父さんと同じ道を辿って行く事が決定したようだ。

今がモテキの絶頂だとしっかりと自覚して生きていって欲しい。

将来はビックリする程モテなくなるから気をつけろ。

そしてビックリする程ドSな女性と結婚する事になると心得よ。



このように色濃く受け継がれて行く「M」の遺伝子。

しかし僕としてもまだまだ息子に易々と家督を譲る気はない。

今の僕がMの絶頂期である事を息子に示す時が来たようだ。



男の体はボロボロだったが、彼は翌日子供を母に預けて一人旅立って行った。

彼がGW前半戦の最後の追い込み道場に選んだのは「足助トレラン20キロ」。

いよいよ現役のマゾの力を示すのだ。


冷戦カヌー、8耐登山、そして20キロトレラン。

人体の限界に迫るノンフィクション。

GWとはゴールデンに肉体を破壊するウィーク。


次回、華々しくGW前半戦を締めくくります。



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MATATABI BASE

コメント

    • キキ
    • 2013年 5月 10日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    yukonさん、こんにちは♪

    ご実家のお母様、「すごい!!」の一言に尽きます!!
    やはりyukonさんのお母さんです!(笑)

    親子三代で過ごせて良かったですね~♪
    親子三代の「M」の写真、見事です(笑)!

    それにりんたろくんとこんなに瓜二つの父子っているのでしょうか~(笑)。
    髪の毛のくり色の感じと、艶やかなサラサラヘア。
    似たような写真の写り方といい凄すぎです(笑)。

    yukonさんってアラスカの旅行記といい、ぜったい何か「持っている」人です!!

    • yukon780
    • 2013年 5月 11日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    キキさんどうもです!

    我ながら母は凄い人です。
    常に動いてないと落ち着かない人で、今でも2件のバイトをガンガンこなしてお金が貯まったら海外旅行とかに行ってる落ち着かない女です。
    見事に僕はこの人の血を引き継いだみたいです。

    そして言われて初めて気づいたけど、確かにオープニングの写真が「M」の形に見える!
    これは全く意図していなかっただけにナイス指摘です。
    やはり血がそうさせてしまったんですねえ。

    りんたろくんは僕も似てるなあとは感じてたんですが、今回帰省して昔の写真を見てビックリしました。
    これは強烈な遺伝子ですね。
    多分結婚相手が長澤まさみでもアジアン隅田でも同じ顔が生まれて来たんでしょうね。
    恐ろしいです。
    彼にはこの現実に目をそらさずに、明るく前向きに生きて行ってほしいものです。

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