鬼ヶ牙/三重

魁!鬼ヶ塾 前編〜全身破壊の開幕戦〜

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「鬼ヶ牙」と言う名の地獄がある。

別にこれは嫁のことを言っているのではない。


三重県亀山市にある、「鬼ヶ牙」という名の山のことだ。

もはやそのネーミングから「山」や「岳」という言葉は消え、「牙」になっている時点で危険な香りがプンプンと漂っている。


そう、この山は山ではない。

春のぽかぽか陽気に対してすっかり腑抜けてしまった者達に「マゾの何たるか」を叩き込む道場。

男塾風に言えば、「大凶殺鬼ヶ牙周回三連山制覇魔憎道場」といった修行の場だ。



そんな「鬼の棲む山」に挑戦状を叩き付けた勇者達がいる。

もちろんその勇者達とは、マゾを楽しむアウトドア集団「チーム・マサカズ」の面々。


ついに2年目に突入した彼らの今シーズン開幕戦。

初戦から修行色濃厚のフルスロットルマゾ行軍。

鬼ヶ牙から長坂の頭(ながさかのかしら)を経由し、臼杵岳(うすきねだけ)へ抜ける周回ロングコース。

強敵揃いのハードな開幕三連戦が始まった。


それではそんな彼らによる、素敵な全身破壊への道のりを振り返って行こう。


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我ながら見事な調整が決まった。


3週間に渡る胃腸風邪からの追い風邪でフラフラな男。

歩くだけで息切れしてしまう程に弱り切った体。

喉はまだ痛いままで、病み上りというよりは未だに病み中の気だるい体調。

そんな中で子供を担いでハード登山に挑まねばならないという状況設定。


こいつはいつも以上のベストマゾコンディション。

チームのエースマゾが、しっかりと開幕戦に照準を合わせて絶妙な調整に成功したのだ。



開幕戦当日の早朝。

淡路島沖の大地震で目が覚めるという波乱の幕開け。


空は快晴だが、その快晴具合がより一層不安を駆り立てる。

快晴の代償として、メンバーの誰かが無言の帰宅を果たすかもかもしれない。

気持ちは悲壮感で満たされ、少しも「これから登山を楽しもう」なんて気分になれないといういつもの朝だ。


やがて各人が「大渋滞に巻込まれる」という軽めのマゾ調整を楽しみながら集合場所に集結。

皆一様にウォームアップは済ませて来たようだ。


そして早くも鬼ヶ牙の悪魔が小木Kに憑依した。

なんと小木Kがりんたろくんに「チョコあげるわ」と言って、「食い終わった中身のないチョコの空箱」をプレゼントしたのだ。

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相手が3歳児だろうと容赦のない鬼ヶ牙の悪意。

りんたろくんは早速悪い大人による悪の洗礼を受けてしまった。

やがて車の中で空箱だという事に気付き、「チョコが失われちゃってるのよぅ」と切ない目で僕に訴えかける息子。

小木Kは早くも悪魔に魂を売ってしまったようだ。



そんな小木Kにも今回は試練が課せられている。

それは18時までには犬山の家まで帰り、嫁さんをカラオケに送り届けるという重要な任務を遂行しなくてはならないというもの。

もし間に合わなかったら家庭崩壊も視野に入れなければいけない危険なタイムアタック。

このチームから二人目の家出者を排出するわけにはいかない。


しかし僕の立てた計画通りに行けば余裕で18時に間に合う予定。

でも想定外の乱入者「弁慶」の登場で事態はスペクタクルな展開になっていく事になる。


弁慶とは一体何者なのか?

味方なのか刺客なのか?

果たして小木Kは家庭の平和を守れるのか?

それとも3歳児の心を傷つけた報いを受けるのか?


今回のテーマは「僕の体調は持つのか」と「小木Kは間に合うのか」という二点に絞られたようだ。


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移動して登山口へ到着。


僕、りんたろくん、小木K、矢作C、ビビるS、アゴ割れM。

今回チームメンバーのゲリMは家族旅行で来ていない。

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おや?と思われた方もいるだろう。

ゲリMに目が行ってしまったと思うが、この部室臭い男達の中に紅一点の存在がいる。



実は僕にはささやかなる夢があった。

登山を始めて以来、密かに心の中に思い描いていた夢。

それは「チャムスの服を着た山ガールと快晴の山を歩く」というとても微笑ましい夢だ。


しかし「白く曇ったメガネをかけたゲリMと濃霧の山を歩く」が定番だった僕には、それは永遠に叶えられない夢だと思っていた。

しかし今回はゲリMがいないおかげで、そんなささやかな夢が叶えられたのだ。

ゲリMという濁流に慣れたチームに、チャムスガールという凄まじい清流が注ぎ込まれたのだ。


そんな今回初参加となる彼女は、矢作Cのカメラ仲間。

「引越と落石好きの三脚チャムス姉さんM」では名前が長過ぎるので、今後は分かり易くまとめて「低血圧Mちゃん」と呼ぶ事にしよう。


僕と小木Kの「チーム低血圧」に、80の40というダントツの成績で殴り込んで来た期待の低血圧ルーキーだ。

そして何気に雪山に登ったり、単独山行してたりと登山経験はゲリMを遥かに凌駕している。

低血圧なのにハードな道を歩んでいる彼女には、我々と同じマゾの血を感じずにはいられない。


もちろん女性だからといって容赦はしない。

なぜなら我々はマゾを楽しむアウトドア集団。

やがてこの清流も、チームの濁流に飲み込まれていく運命なのだ。


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早速鬼ヶ牙に向けて突入して行くメンバー。


ここでいきなり思いもよらない男が抜け出した。

まさかのりんたろくんだ。

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自力で3mの山にしか登らない男が、まさかの鬼ヶ牙道場一番乗り。

「鬼」というネーミングの山に「母」の姿を見たのか?

ずんずんと進んで行くぞ。



僕の感慨はひとしおだった。

ついに息子が登山に開花したのだ。


しかし突入してわずか3分。

彼のカラータイマーが「ダッコダッコ」と鳴り始め、結局早々と担がされる事に。

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まあ分ってた事だけどね。

お父さんも重量アップしてる息子の重みに、ついついニヤリが止まらない。

こうんなふうに笑ってられたのも最初だけだったけどね。


そして鬼ヶ牙は突入直後からいきなり牙をむいた。

猛烈な「歓迎急登セレモニー」で我々を出迎えてくれたのだ。

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早くもメンバーから荒い息づかいが漏れる。

去年の鳩吹山「みぞれ」登山以来のマゾを全身で噛み締めるメンバー達。

総重量20キロを背負った病み中の僕には、地獄以外の何ものでもない夢の世界の入口だ。


そして右手に崖を見ながらロープ伝いによじ登って行くと、

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鬼の棲家への階段登場。

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絶対に子供を背負って来てはいけない領域だ。

家を出るとき、嫁には心配をかけないように「ピクニック程度の山さ」と言って出て来ている。

もしこの写真を嫁に見られたら二度と山に行かせてもらいないだろう。


わずかな足場を辿って川を横切って進んで行く。

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恐らくこの時点で低血圧Mちゃんは「今日は登山と聞いていたが、何やらとんでもない変態達の修行に付き合わされていないか?」と思った事だろう。

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早くも濁流に染まり始めた低血圧Mちゃん。

そろそろ彼女には覚悟を決めてもらわねばいけないようだ。


その後も容赦のない急登セレモニーは続く。

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道は抜群の不明瞭さで、鬼ヶ牙は我々をしばしば「遭難VIPルーム」へとご招待しようとして来る。

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次々と提供される「岩」と「崖」と「急登」による鬼の熱烈歓迎。

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断言しよう。

恐らくこの山を子供を担いで登った人間は僕が史上初だと。

しかも風邪中というオプション付きだ。

良い大人は真似しないように。



鬼の歓迎は続く。

もはや笑けて来る展開になって来た。

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一体我々は何に向けての訓練を行なっているのか?

いつからこのチームは特殊奇襲部隊になってしまったのか?


徐々に目的を見失いそうになるが、それでも黙々と進んで行く7人のマゾ。

2年目の開幕戦にふさわしすぎるハードマゾの連続だ。

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まだ全行程の1/6の時点で早くも凄まじい疲弊感。

ほのぼのと家族旅行中のゲリMに見せつけてやりたい光景だ。


さすがに休憩。

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やはり絶倫男のアゴ割れMと、担がれていただけの男は元気だ。

しかしのんきに遊んでいるが、もうすでに大幅に行程に遅れが出ていることに僕は気付いていた。

小木Kのタイムリミットに対してふと不安がよぎったが、順調にいけばまだ間に合うだろうと思っていた。


さあ、休憩もしたからここから一気に時間を稼ごう。

そう思った矢先、またしてもあの男の「余計なスイッチ」がオン。

「ボク、歩く」と言ってりんたろくんが山を登り始めた。

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いつもピクニック的な山では一切歩かないくせに、こんな変態みたいな山に嬉々として登って行く男。

僕はそこにハッキリと自分の遺伝子を垣間見た。


しかし喜んでばかりいられない。

鬼ヶ牙は瞬く間に反対野党の「牛歩会場」と化した。

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まるで進まない。

刻々と時間だけが過ぎて行く。

すぐに根を上げるかと思っていたが、意外な程に登り続けるりんたろくん。

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若いお姉さんの登場でエロ太郎スイッチが入ったのか?

それとも小木Kに対する、空のチョコ箱の恨みを晴らす「りんたろ牛歩戦術」なのか?

どちらにしても、見事に時間だけが過ぎて行く。



やがてさすがに限界は来て、再び彼には背中にご乗車いただき先を急ぐ。

サイパンのジャングルを逃げ延びる日本兵のような状態の行軍が続く。

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ここは本当に日本なのか?

今にも草むらから横井庄一さんが出て来そうだ。


やがて徐々に鬼の牙の先端が近づいて来る。

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鬼に近づくにつれ高まる緊張感。

ついに「鬼」にめっぽう弱い男が、嫁の存在を感じていつもの癖で土下座した。

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というのは冗談で、松の枝が乱立しているからくぐっているのです。

子供を背負っていると、自分の見えない所で枝が子供に当たってしまうからこの様な屈辱的な光景が展開されるのだ。

史上、最も過酷な「ハイハイ」。

チーム1のサドの小木Kに至っては、もう枝を越えているのに「まだ頭上に枝あるぞ」と言って僕を騙し、この苦行ハイハイを見て喜んでいる。

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こういう大人げない悪事を繰り返す小木Kには、後々神の鉄槌が下る事だろう。



鬼ヶ牙は東峰と南峰と本峰(頂上)の3つに別れている。

実は先に東峰に行く予定だったのが、いつの間にか道に迷って南峰に到達してしまったメンバー達。

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眼前には広大な景色と、本来行くはずだった東峰の姿。

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正直、東峰に行ってたら死んでたねって思った程の岩の鋭峰だ。

もはや誰も「戻って東峰登ろうぜ」なんて口走る奴はいなかった。


それどころか、口々に「ハラ減った」「メシ食おうぜ」などと言い出す始末。

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僕の立てた計画では昼メシはまだまだ遥か先にも関わらずだ。

結局我慢できずにこの場で昼メシに突入。

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こうして「東峰未遂」「繰上げ昼メシ」「りんたろ牛歩」などの予定外の展開で時間は狂いまくっていく。

本日もハードすぎて中々写真を撮らない矢作Cも、この段階では無駄に凝った写真を撮り始める始末。

鬼ヶ牙南峰に立つりんたろくんの秘書、ガンQの勇姿だ。

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おそらくここにガンQが立ったのも史上初だろう。


この南峰ですっかりまったりモードのメンバー達。

一番危機感を感じなければいけない小木Kに至ってはこのていたらく。

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のんきにうまい棒を食っているが、まだ全行程の1/5しか来ていないんだぞ。

君が18時までに家に帰るには、16時には下山してないといけないのにもはや12時過ぎ。

先はまだまだ長いぞ。


すっかりまったりしてしまったが、ここでまさかの山ガール軍団が登場。

こんな修行山に山ガールがいる時点で驚きだったが、ちょうどいいタイミングで彼女達に追い出されるようにしてやっと重い腰を上げるメンバー達。

本峰に向かう途中の道からは、ちょうど東峰と南峰の山ガール達の眺め。

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改めて凄い所まで来てしまったものだ。


やがて鬼ヶ牙の本峰に到達。

ついに第一の関門、鬼ヶ牙制覇です。

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りんたろくんはガンQと合体して、まるで20世紀少年の「ともだち」みたいになってしまっている。


さあ、ここからは第二の山「長坂の頭」と言う名の張飛が守っていそうな山を目指す戦いだ。

気合いを入れ直し、意気揚々と先を急ぐ挑戦者達。

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しかし早くもこの時点で彼らは道を間違えて遭難コースへまっしぐら。

あからさまに急降下の崖道になっていき、「そんな馬鹿な」と言った空気が現場を包み込む。

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結局遭難エキスパートの僕の嗅覚が異常を感じ、元来た道を戻るメンバー達。

骨折り損のマゾ儲けを満喫して、再び鬼ヶ牙本峰へ戻って来るというタイムロス。


なんとかそこにいた別の登山者に正しい道を聞いて、やっと長坂の頭へ向けて動き出す。

さすがにここまでが急登の連続だったから、ここからは穏やかな尾根歩きを楽しめて時間もそんなにかからないだろうだなんて思ってしまったのがいけなかった。

今考えてみれば、この時点で大人しく元来た道を下山しておけば良かったのだ。


それでも先に進んでしまった、のんきでゆかいなチーム・マサカズの面々。

蛇の道は蛇、マゾの道はマゾ。

向かうべくして向かったマゾの道。

この先にこそ、本当の「鬼」が棲んでいるとも知らずに。



タイムリミット「16時下山」まで残す所3時間半。

深い闇の中から、弁慶がこちらを覗いて笑っている。




魁!鬼ヶ塾 後編へ 〜つづく〜



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