狂ったような突風が吹き荒れるカヌーの上。
そこに狂った餓鬼のようにシュークリームにがっつく男が一人。
そして彼の手前にいる彼の父は、逆風の中で狂ったようにカヌーを漕ぎ続けるという筋肉破壊の真っ最中だ。
何故よりによってこんな強風の冬の日にカヌーをやろうと思い立ってしまったのか?
そもそも父親の方は早朝トレラン修行を終えたばかりでフラフラの状態だったはず。
子供の方は全くこのカヌーを楽しんでない状態だし。
これは一度振り返ってみる必要がありそうだ。
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初のトレランで見事に猛烈なモーニングマゾを達成した男。(前回記事参照)
想像以上の筋肉破壊を楽しんだ男は大満足。
これでやる事はやったから、落ち着いて一日を家の中で過ごせると思っていた。
こーたろくんをダッコしてあやしながら、ふと窓の外を見る。
そこには突き抜けるような「大快晴」が広がっていた。
たちまち僕の中を突き抜けて行った衝動。
まあでもこれだけ快晴だとどうせ強風が吹いてるんだろ?と思って窓をガラリ。
ものすごく無風だ。
木の細い枝は風に揺れる事無く静かに佇み、鳥のさえずりが「遊ぼうよ」と僕を誘惑する。
大快晴で大無風。
こんな日に外で遊ばないなんて男じゃない。
突然目の前に長澤まさみが全裸で登場して「好きにして」と言っているのに、そこで何もしないなんて男じゃないのと同様だ。
最近では嫁も「りんちゃんを外で遊ばせて」というので、りんたろくんと一緒なら外に行きやすい。
でも当然やれる事は限られ、あまり激しい事はできないし遠出もできない。
そこで「無風で遠出できない時が来たらいつかやってみよう」と思っていた事にチャレンジ。
それは我が家の裏を流れる川「犀川・五六川」の遡上計画だ。
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犀川と言っても長野の名川「犀川」とは違い、誰もカヌーをしない地元の農業用水的なドブ川。
実は養子で越して来た時に、僕はこの川を一度下っている。
いつか「あん時のアイツシリーズ」で取り上げようと思っていたが、ごらんの通り美しくもなければ特徴もなく面白みも無い川なので特質すべき事も無くほったらかしていた。
しかし最近になって他の人のブログで判明したのが、この川に流れ込む五六川をカヌーで遡上して行けるという事。
そしてその遡上した先には「牛木閘門(うしきこうもん)」なる昔ながらの石造りの水門がある。
その閘門を川から見ると、実にヨーロッパの田舎の風景のような味わい深い光景を見ることが出来るというのだ。
こうして、天気もいいし風も無いからのんびりと川を遡上して優雅な一日を過ごす事を決意。
そして家にあったシュークリームに目を付け、「りんたろくん、このシュークリームをカヌーの上で食べようか?」とエサをちらつかせる。
すると奴はまんまと「シュークリーム食べたい。カヌーやりたい。お父さん大スキ。」と見事に釣り上げられた。
父の登山に付き合えば「温泉」に連れて行ってもらえ、カヌーに付き合えばもれなく「おやつ」が貰えるという図式。
卑怯と言われたっていいさ。
これは僕からりんたろくんへのバイト代のようなものだ。
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で、やって来たのは墨俣城の河川敷駐車場。
桜の季節ともなれば満杯になるこの駐車場も、やはり閑散としている。
そこで、巌流島に上陸した宮本武蔵のように櫂を片手に勇ましく川に向かう男はりんたろくんだ。
なんだかんだと天気もいいし風も無いから彼もきっと楽しいだろう。
でも彼の顔にはあまりワクワク感がみなぎっていない。
まるで「さあ、ひと仕事するか」といった工場勤めの人の出勤風景的な表情。
とりあえず時間をやり過ごして、父親のカヌーに付き合ってさえすればシュークリームが食えるんだ。
めんどくさいけど我慢するか、といった雰囲気だね。
そして出発場所は墨俣城が見えるここから。
多分ここにカナディアンカヌーが浮かぶのは史上初かもしれない。
そしてここで注目したいのは川の上の「風紋」。
さきほどまで穏やかだったのに、突如として風が吹き荒れ出した。
これから出発だというまさにその瞬間だ。
これはレッドクリフなのか?
孔明がエイヤッと風を吹かせてしまったのか?
僕は大量の火薬をカヌーに積んで曹操軍に突っ込んで行かねばならないのか?
しかしレッドクリフなら追い風だが、これは見事な向かい風。
ただでさえしんどい「遡上」という行為を「逆風」の中、風の影響をモロに受ける「カナディアンカヌー」で漕がねばならないという状況設定。
もの凄く悩んだが、「せっかくだから」といういつもの失敗一直線ワードが飛び出す。
無理矢理逆風の中で、犀川・五六川遡上作戦のスタートです。
普段は鏡のように穏やかなこの川がこれだけ風で波打っている。
そして見事に全く進んで行かない。
というか漕いでも漕いでも後ろに進んで行っているぞ。
実はここには岸に沢山人がいたりする。
普段ここでカヌーをする人間は皆無なので、みな珍しいもの見るような目で見て来る。
しかもこのカヌーイストは「前に漕いで後ろに進む」というイリュージョンを披露中。
俄然注目を浴びるカヌームーンウォーク。
猛烈に恥ずかしい。
なぜあれ程の無風だったのがこんな事になってしまったんだ?
穏やかで静かなカヌーをするつもりだったのに、これでは「訓練」ではないか。
朝のトレランですでに筋肉破壊済みだったが、ここで再び僕はマゾスイッチオン。
パワー全快で「グハッ!グハッ!」といいながら全力でパドルを漕ぎ続ける。
少しでも漕ぐ手を休めればあっという間に元の場所に戻されるから、とにかく漕ぎ続けなくてはならない。
一方でりんたろくんは、いつまでも変わらない景色に早速飽きてしまった様子。
汗だくで漕ぎまくってる僕に向かって「ねえ、シュークリームは?」と問い続ける。
僕は「ちょ..ちょっと待って。ぐ、ガハッ!…あそこのッ…川にッ…合流したらッ…食べようかッ。グハッ!」と爽やかに対応。
その後、根性で漕ぎまくってやっと「20mだけ」進む。
腕の筋肉が千切れそうだ。
もはや遡上どころか五六川合流なんて夢のまた夢だ。
せめてりんたろくんとの約束だけでも達成しなければ。
僕はゴーサインを出し、彼にシュークリームを与えた。
この「シュークリームを渡して1枚写真を撮る」という行為だけで、あっという間に5m程押し戻される。
とにかく彼が無事にシュークリームを食べ終わるまではお父さんは頑張って漕ぎ続けるぞ。
しかし、長く「待て」を食らっていたりんたろくんのシュークリームへの食いつきっぷりが凄まじい。
あっという間に彼の口回りはクリームに支配された。
そして服にもクリームが付きまくり、ボタボタと大事なカヌーの中にも次々とクリームが落下する。
よりによって、なんという「たっぷりクリーム入り」のシュークリームなんだ。
こうなる事は容易に想像できたはずなのに、なぜいつもその現場に直面してから失敗に気付くのだろう。
前回のみたらし団子の教訓を生かす事無く、今回もウエットティシュを持って来ていない。
そしてアワアワしながら僕の服でクリームを拭き取ってやっていると、あれ程苦労して進んで来たカヌーは自動的にスタート地点にゴールしていた。
なんて事だ。
しかもさらに風は強まり、接岸すら困難な状況に。
もうこの頃には僕の中に「優雅に川を遡上してシュークリームを食べながらヨーロッパ田舎風の水門を眺める」なんて事はおとぎ話のような夢物語と化していた。
とにかく「早く上陸してこの苦しみから解放されたい」という一心。
何度も接岸を試みるがすぐに風に引きはがされ、再び盛り漕ぎしては接岸を試みる作業の繰り返し。
突然現れた同じ場所をクルクル回るカヌー親子をギャラリーが不思議な顔で眺めている。
なんだこれは?
恥ずかしすぎるぞ。
というか、過去最低のカヌー体験だ。
やがて諦めて、僕は片足を犠牲にする道を選んだ。
まさかこんな穏やかな川で川に足をつけるなんて想定してなかったから、普通のズボンと靴を履いて来ている。
しかし意を決して接岸時に川底に足を突っ込み、何とか上陸成功。
一体3月のこの寒い時期に僕は足をズブ濡れにして何をしているのか?
りんたろくんも「今回のカヌーは一体なんだったのか?」といった表情。
結果的には「逆風の中、50mの範囲内で盛り漕ぎしながらシュークリーム食って足を濡らして終わり」という惨憺たるカヌーとなってしまった。
男は「トレランだけで止めておけば良かったんだ…」と力無く呟く。
もう目に見える快晴や無風なんて信じない。
天気予報だって信じない。
もう何も信じられない…。
僕はもうすぐ37歳になる。
そろそろ落ち着いたアウトドアライフを送ってもいい頃じゃないのか?
ダメなのか?
許されないのか?
許されざる者なのか?
こうして、いつものように「嘆き」を楽しむお父さん。
でもお父さんはこれで良くても、りんたろくんに申し訳ない事をしてしまった。
こんな事でりんたろくんにカヌーを嫌いになってもらうわけにはいかない。
なんとかフォローしておかないと。
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という事で、我々はおもちゃやさんへ移動。
そこで僕は「今日はカヌーに乗ったから1個だけウルトラマンのフィギュアを買ってやるぞ。好きなものを選べ。」と贈賄計画。
たちまち彼のテンションはアップし、「やったー!お父さん大スキ。またカヌー乗ろうね!」と言って来た。
安い男だ。
彼は「ウルトラセブンがいいな」と言いながらフィギュア置き場へ。
しかし何故か彼が手に取ったのはウルトラセブンではなかった。
何だあれ?
なんか凄く気持ち悪い奴を手にしたぞ。
後で拡大したものがこれ↓
なんだ?随分キショいぞ。
僕は慌てて「セブンじゃなくていいのか?」と聞いてみたが「ツインテールがいいの」とかたくなだ。
確かにりんたろくんは、いつも口癖のように「ツインテールはグドンに食べられちゃったの」と初対面の人にも言っていた。
こいつが噂のツインテールなのか?
なんて気持ち悪いんだ。
しかし彼としては念願のツインテールにこの表情。
頬を擦り寄せて愛情たっぷりだ。
まあとりあえず機嫌が良くなったからいいだろう。
そして「またカヌー行こうネ。次はメフィラス星人だからネ。」と言っているから、方向性こそ違う気がするがカヌーの事を好きになってくれているようだ。
そして帰宅。
玄関で荷物を片付けていると、家の中から嫁の悲鳴が。
慌てて駆けつけると「なんでこんな気持ち悪いもん買ったの!やめてよ!」と僕にキレて来た。
僕が選んだのではないのに。
僕はセブンのがいいと言ったのに。
なんて理不尽なんだ。
こうしてアウトドアでもインドアでもたっぷりと逆風に晒された日曜日。
つくづくトレランだけで止めておけば良かったんだ。
いくら「マゾ不足」だからって、やはり一日でそう何度もマゾるものではないな。
そしてうなだれている僕に更なる追い打ち。
なんとお義父さんが「地区の消防団員が足らんらしい。何とか志願してくれんか?」と来たのだ。
なんて事だ。
養子の身分で「何とか志願してくれんか?」は、イコール「もう君は消防団員だ。」に等しい言葉。
断れるはずも無いじゃないの。
しかも聞けば消防団員の上限年齢は35歳までと言うじゃない。
でもあまりに人がいないから37歳の僕に白羽の矢が立ったらしい。
なんだこの侍ジャパンの井端のような招集のされ方は?
ようするに何でもこなす「便利屋」として指名された感がプンプンする。
そもそもこれで「育児」だけじゃなく、今後貴重な休みの日に「消防訓練」をするという驚きのオプションが追加されてしまった。
今後益々僕は旅から遠ざかって行く事だろう。
でも消防団員になったからって、この遊びに対する熱い炎は消しはしないぞ。
ここからの2年くらいが正念場だ。
逆風だろうと、ツインテールのようにしぶとく生きてやるさ。
そう決意する僕の横でりんたろくんがお義父さんにツインテールを見せてこう言った。
「ツインテールはグドンに食べられちゃうんだよ。」と。
そしてグドン(嫁)が言う。
「こーたろくんのオムツ替えといて。早く。」と。
僕は静かにこーたろくんのオムツを替えた。
無邪気な目で僕を見つめるこーたろくん。
こーたろくん。
こーたろくんよぅ。
僕の目のオムツも替えてくれないか?
溢れちゃってるんだよ。
涙ってやつがね。
許されざる者〜逆風のツインテール〜
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MATATABI BASE
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初めて書き込みをさせていただきます。
この辺りは、いつもの僕のジョギングコースになっていまして、本日の夕方もうろうろとしていました。墨俣で「つり雛」祭りがあるせいか、河川敷駐車場もにぎわってますね。
今日は犀川はかなり水量が少なかったですね。これだけ少ないと牛木閘門の辺りの水深も浅いので、閘門をくぐるのは難しいのかもしれないですね。
僕の舟はファルトボートなので、船体布のダメージに気を使わなくてはならず、犀川はどこから出艇するのがいいか悩ましいところです。
昨年の夏に長良川も下りましたが、こういう場所はダッキーが適してますね。
それではまた情報交換しましょう。
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Oeさん、ありがとうございます!
まさしくここに出て来る「他の人のブログを参考に」はOeさんのブログでございます。
僕はランニングでよく牛木閘門を見ていたんですが、あの川からの写真にすっかり魅了されてしまいました。
とても地元とは思えない、ヨーロッパ田舎調の雰囲気を僕も味わってみたかったんです。
まあ、でも結果はこんな悲惨な結果になってしまいましたけど。
僕も出艇場所は悩みました。
最初OeさんのGPSログを参考に、プラント6の奥の施錠してある堤防脇に車を停めて行こうと思いましたが、カナディアンカヌーを担いであそこまで降りて行くのが気が引けて断念。
オーソドックスに墨俣城河川敷からの出発にしました。
でも問題としては杭が邪魔な事と、ギャラリーがいて恥ずかしいってことでしょうか。
出る分にはいいんですが、帰って来た時に岸との段差があるので、ゴールするときは本当に難儀しました。
対岸で釣りしてる人が車降ろしてやってるんで、他にいい場所はありそうですね。
僕も発見したらお知らせしますね。
僕も本当はファルトが1艇欲しいんですが、僕は川下りメインなんで日本だと中々適したフィールドが少ないんですよね。
四万十川や熊野川みたいな水深もあって雰囲気もある川は限られてて、長良川や木曽川みたいに浅瀬で激流チックな川が多いこの地方だと、どうしても船底を気にしちゃいますからね。
でもせっかく瑞穂市に越して来たからには、メインフィールドを琵琶湖にするという選択肢が増えて、ダッキーとカナディアンでは風が怖くて中々行く気にならないのも事実。
買うならアルフェックのボイジャーあたりかと思ってますが、またその際はご相談させてください。
まあ現状そんなお金もないですけどね。
今後ともよろしくお願い致します!