鎌ヶ岳/三重

鈴鹿セブン六発目〜鎌ヶ岳〜後編

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ガレ場での壮絶な「断崖絶壁デスマッチ」。

ザ・魔雲天が次々と仕掛けて来る罠にことごとくはまって行く三匹のマゾ達。


しかし我々はアゴ割れMの奮戦により、なんとかザ・魔雲天を撃破した。

見事にミート君の腰を取り戻す事に成功はしたが、やはりそれなりの犠牲を払う結果となってしまった。


従軍キャメラマンの矢作Cはカメラを壊してただの小さいおっさんと化し、アゴ割れMに至っては体力を根こそぎ持って行かれた上に頭までも割る始末。

唯一被害を被っていないのは僕だけだ。

みんなの犠牲は無駄にしない。

見事に鎌ヶ岳の制覇を成し遂げてみせよう。


しかし僕はこの時忘れていた。

原作でのザ・魔雲天は生前よりも死後の方が活躍した悪霊超人だったという事を。


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魔のガレ場を制圧した我々は、頂上に向けて動き出した。


森を抜けやがて尾根に出る。

ここまで頑張って来た僕らに、ご褒美のような絶景眺望が待っていた。

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はずがなかった。


本来なら一気に景色が広がって、今までの苦労も吹っ飛ぶような感動の場面だったはずだ。

しかし山頂付近は見事に雲に覆われ、何の展望もない。

確かに「魔雲天」と言うだけあって、天空は悪魔のような雲に覆われていた。


せっかくここまで頑張ってきたが、ただただ真っ白な世界の登場に愕然とする矢作C。

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一体今回の登山のどこに「楽しさ」を見いだせば良いのか?

せめて頂上の展望だけでもって淡い期待は粉々に打ち砕かれた。


それでもここまで苦労して来たんだから、山頂に到達した時は感動するだろう。

地図でもうちょっと先の山頂を確認し、我々は頑張って進んで行こうと気合いを入れ直した。

と、思ったら何か出て来たぞ。

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え?うそ、山頂?

山頂はまだ先だと思っていた我々はただただその場に立ち尽くした。


まるでカウントダウンパーティーで、「6」くらいで年が明けちゃったかのような驚き。

当然だが何の感動も達成感も感じない。

「出会い頭のゴール」ほど人を興ざめさせるものはない。


認めたくなかったが、そこはまぎれもなく山頂だった。

とりあえずただ淡々と記念撮影をこなす三人。

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いまいち爆発的な喜びが伝わって来ず、カメラを壊してまで登頂した矢作Cは実に微妙な笑顔だ。

アゴ割れMに至ってはニコリともしていない。

黙々と休憩を始める男達。

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さあ、眼下に広がる一面の「白の世界」を堪能しようか。

アゴ割れMのこの楽しそうな顔と言ったらどうだ。

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ただただ白い雲を見つめるこの男に、どこか哲学的な威厳すら感じてしまう。

苦労して登って来た甲斐があったなあ。


そんな事を思っていたら、なんとかろうじて雲が切れて風景がチラ見せサービスをかましてきた。

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ほんの一瞬だけ見えた景色。

きっと晴れていたら、さぞかし絶景だったんだろう。

こんな思いをするんだから、へたにそんな景色見せてくるんじゃないよ。

やり手のホステスみたいなチラ見せで悶々とさせやがって。


そしてこの「わずかなチラ見せ」の代償を、ここまで無傷の僕が支払う事になる。

この山頂で軽くメシを食おうとしていた僕に、なぜか大量の虫が襲いかかって来た。

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ヒッチコックの「鳥」状態で、瞬く間に大量のアブ?に襲撃される男。

アブの背後には、亡霊となった魔雲天がニヤリとほくそ笑む。

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突如として大氾濫したアブが、なぜか「僕だけ」を狙って来る。

アゴ割れMや矢作Cの周りにはそんなにいないのに、僕だけ一人「モテキ」状態。

汗という名のワイルドフェロモンの流出が激しすぎたのか?


あまりのうっとうしさに場所を変えるが、必死に僕について来るあぶさん軍団。

思えば僕は過去にも北海道の釧路川源流部で30匹ほどのアブを引き連れて川を漕いだ記憶がある。

きっとアブ界では僕は韓流スターばりの人気なんだろう。

人間の女性たちにも、早く僕の魅力に気づいて欲しいものだ。



もはやのんびりメシを食ってる場合じゃない。

結局山頂でくつろぐ事もままならぬまま、早々と撤退宣言。

しかし方角すら見失い、下山道も見つからずアブに襲われながらも山頂付近をウロウロする敗残兵達。


このあたりだっただろうか。

誰かが呟いた。

「もう二度と鎌ヶ岳には登らない。」と。



その後、別の登山者に聞いてようやく下山道を発見。

凄く細くて、急激に高度を下げて行く下山道だ。

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弱り切った我々を逃がさじとばかりに、執拗に襲いかかる亡霊魔雲天。

その追撃を振り切ろうと、必死で駆け下りる男達。

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中々にハードな下り道が続く。


やがてポッと景色が良い場所に出た。

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やっとそれなりに景色を楽しめる場所に来た。

しかしこれも亡霊魔雲天の罠だった。

こんな感じで、彼らは景色に見とれながら歩いているが、

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実は正しい登山道は彼らの背後にあり、景色に気をとられているこの男達はそのまま突き進んで行った。

結果、道はどんどん激しくなって行き明らかに「遭難色」が色濃くなって行く。


しかしここでもいち早く矢作Cが異変に気づき、何とか我々は超人墓場に引きづり込まれる事なく生還することが出来た。

あのまま進んでいたら、僕らの腕はアシュラマンに奪い取られていた事だろう。


正しい道に戻ったものの、下山道はより悪魔的な雰囲気に包まれ始める。

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本当にここは正しい下山道なのか?

山頂で道案内してくれた登山者は魔雲天の差し金だったんじゃないか?

こうして不安の中、「奈落」に落ちて行く男達。

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ひたすら降下作業を続ける疲労感たっぷりのSAT隊員。

アゴ割れMもまだまだ降りて行くのかと不安な表情だ。

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すでにガレ場のデスマッチで体力を奪われているアゴ割れMだったが、この頃から精神にも異常をきたし出す。

一人で「ファイト一発」をやり始めた。

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まずいぞ。

彼の精神も危険な状態だ。

そして彼はついに岩場で雄叫びをあげた。

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ああ、ついに彼の魂が悪魔に乗っ取られてしまった。

本来なら山頂でとるべきポーズをこんな中途半端な所で爆発させるなんて。

彼を預かった手前、彼の家族になんと報告すれば良いんだ。

「奥さん。残念ながら旦那さんはもう帰って来ません。悪魔将軍によって超人「イボ痔マン」になってしまいました」とでも報告するべきか?

そしてイボ痔マンは口からイボを出しながら山中に消えて行った。

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恐るべし亡霊魔雲天の威力。

我々は慌ててイボ痔マンを追いかけるが、凄い早さで奴は駆け下りて行く。

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くそ、追いつかない。

すばしっこい野郎だ。

やがてちょっとした広場でやっと奴を追いつめた。

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大急ぎでズームして撮ったから、やたらダイナミックな感じの放尿写真となった。

こうしてアゴ割れMは自力で魔気を放出して正気を取り戻したのだ。



そろそろ我々には休憩が必要だった。

山頂でアブに襲われたからろくに飯も食っていない。

アゴ割れMが人間に戻った所で、適当な広場でやっとメシを食う事にした。

しかしこの広場も実は魔雲天の罠だったのだ。


アブもいないので、安心して昼メシを食い出す三人。

僕に至っては、油断してしまったのか靴も靴下も脱いでくつろいでいた。

そこで突然僕は「グアッ」と叫んだ。

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急に足に激痛が走った。

それは「刺された」というより「齧られた」と言った方がマッチしている。


突如として「あぶさん軍団」の大量発生アゲイン。

人として、最も刺されてダメージが残る「足の指の又」を刺されるという惨劇。

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これ以上ないほどのもどかしい痛痒さにもだえ始める男。

これを合図に僕の体は真珠湾と化し、アブ達がバンザイアタックで突入。

一瞬にして広場は戦場となり、第二次アブ大戦が勃発した。


結局ここでも落ち着く事なく撤退。

僕はジンジンと唸る足を引きづりながらの下山。

あまりにも地味だが、甚大な精神的ダメージを与える亡霊魔雲天の攻撃だ。

(余談だが、これを書いている今もやられた場所が痛痒い。凄まじく持続性のある攻撃だった)


その後も細かく我々を責め立てる魔雲天。

道が分かりにくい場所で困っていると、前方に道しるべ看板の背面が見えた。

その看板に回り込んでみると、驚きの内容が記されていた。

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真っ白じゃないか。

これはトンチなのか?


頼むから道を示してくれよ、道しるべなんだから。

「人生なんて白いキャンパスのようなものだ。己の道は己で描いて行くが良い」とでも伝えたいのか?

山でそういうシャレたメッセージボードは必要ない。

実にたちの悪い魔雲天の精神攻撃だ。



やがて予定外の谷筋の道に出て、さらに下山して行く。

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途中、イモリの登場もあって喜ぶアゴ割れM。

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彼とは長い付き合いだが、彼が過去にイモリを飼っていて相当なイモリ好きだという事を初めて知った。

意外な一面があるものだ。

一方でそんなアゴ割れMの横で、虚空を眺めて「イモリなんてどうでもいいよ」とすっかり疲れ果てた矢作Cが言っているかのようだ。

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カメラを壊され、何度も遭難する二人の面倒を見、自身の体力と精神も破壊された男の悲しい姿。

もうすぐで終わりだ、頑張ろう矢作C。



そしてこの山は人をネガティブな気持ちにさせる山だ。

ここからゴールまではすっかり情けない男達の愚痴ロード。

最初は鎌ヶ岳への文句から始まり、次に天気への愚痴、そして次第に話は中日のダメな選手への文句になり、いつの間にか「嫁」や「養子」に対する愚痴が始まっていた。

一体どれほどの愚痴を吐いただろうか。

結局ゴールまで愚痴を吐き続け、気の毒に思ったのかいつの間にか魔雲天の亡霊も消滅していた。


やがてゴール。

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何だかんだと愚痴を吐き続けた男達は、妙に「スッキリ」とした表情になっている。

実はこの山はやり手のカウンセラーだったようだ。

随分酷い感じの登山だったが、戦いを終えた我々には優しい風が吹いていた。


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その後温泉へ。

消滅したと思っていた魔雲天がまだかすかに僕に引っ付いて来ていた。


僕は登山後のほてった体を冷水シャワーで一気に冷やす事が大好きだ。

しかしシャワーから「熱湯」しか出て来ないじゃないか。


冷水マックスの設定にしてもモクモクの湯気に覆われる僕の体。

別の洗い場に移動してもシャワーから熱湯しか出て来ない。

湯船につかる前にシャワーでのぼせて行く男。


やがて温泉を出て脱衣所で待っていたものは「絶望」だった。

何と着替えのTシャツを忘れて来た事が判明。

お風呂でスッキリした体に、再び汗だくのシャツを着るという悲劇に見舞われる男。


男は今度こそはっきりとした声で呟いた。


「もう二度と鎌ヶ岳には登らない。」と。




こうして鈴鹿セブン六発目の挑戦が幕を閉じた。

これで去年の秋に始まったこの挑戦も、いよいよあと一つの山を残すのみとなった。

鈴鹿の最深部にそびえる鈴鹿セブンの最高峰「雨乞岳」。

そう、ついに最終悪魔超人バッファローマンの登場だ。


回を重ねるごとに激しくなるこの鈴鹿セブンシリーズの最終決戦。

次はどんな戦いが待ち受けているのだろうか?


待ってろよバッファローマン。

その自慢の角をへし折ってミート君の頭部を取り戻してみせるぞ。


しかし、恐らくへし折られるのは己の心なんだろう。




鈴鹿セブン六発目〜鎌ヶ岳〜  〜完〜



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