「あん時のアイツ」シリーズ第14弾。
最近のこのシリーズは四国だったり、北海道だったり、中国地方と飛びまくっていた。
ここらで地元でのささやかな記事をひとつ。
甘酸っぱい少年時代が蘇る。
舞台は愛知県岡崎市の「矢作川」。
僕が生まれ育った町を流れる、決して奇麗ではない川だ。
この川をカヌーで下っている人間を、僕以外に見た事が無い。
砂利の川原ではなく、基本砂地の川なのでいつも濁っている。
雨が降った後は常にカフェオレ的な水質になる川だから、好んでカヌーツーリングする人も少ないのだろう。
そんな理由もあって、小さい頃は全く川で遊ばなかった。
もっぱら家に引きこもってファミコンばっかりやっていたもやしっ子。
まだABボタンが四角くて、よく埋まってしまっていた時代だ。
幼年期から少年期にかけての僕は、今の僕に繋がるようなツキの無い男だった。
まず僕の一番古い記憶は、車の後部座席のドアを開けてしまって車外へ投げ出されてしまった所から始まる。
ちょうど交差点で右折する時に放り出され、後続車がいたら死んでいた。
それが僕の記憶の上での人生のスタートだ。
さらには僕は「通り魔」にも襲われている。
知らないおじさんに「僕、良いものあげるから、目をつぶって後ろを向きな。」と言われ、「良いものくれるなら」と思って言う通りにした。
すると左足の膝下内側辺りを突然包丁で刺された。
ガッパリと肉が裂け、大量に出血。
犯人は逃走。
救急車から警察まで来て、小さな僕の町は大パニック。
この時の傷は今でもしっかりと足に刻まれている。
ちなみに犯人は未だに捕まっていない。
と、まあこんな感じのありふれた幼年期を過ごし、小学校へ。
名字が「わ」で始まり、名前が「ゆ」で始まる僕は、必ず五十音別の出席順でオーラスの存在だった。
この名前のせいで、僕は身体測定もいつもラスト。
グンゼのパンツ一丁で体重計に乗っている時に、いつも次の女子軍団が大量に入って来るという悲劇に晒された。
先生も少しは気を使えなかったのか。
出席順オーラスの悲劇は続く。
クラス対抗の合唱コンクール前日。
各家庭に電話の連絡網で「明日は男の子はできるだけ黒っぽい半ズボン、女の子も黒っぽいスカートを持って来るように」との通達が回っていたようだ。
「回っていたようだ」と言ったのは、僕の所にその連絡が回ってこなかったからだ。
連絡網も最後になればなるほど曖昧なものになっていくので、結構こういう事がある。
当日先生に事情を説明したが、この時の馬鹿な教師がとんでもない事を言いやがった。
「おい、女子の誰か。こいつにブルマー貸してやれ。」
ざわつく教室。
笑う男子に、嫌がる女子。
まだあどけない少年時代のこの時の僕の精神状態。
皆さんに想像する事が出来るだろうか?
結局嫌がりながらも責任感の強い女子が僕にブルマーを貸してくれた。
そして僕はそれを履いて全校生徒が見守る中、体育館の壇上へ上がる。
このとき僕は、小学生にして「針のむしろ」という言葉を体験する事になる。
まあ、他にも自転車のサドルだけが盗まれたり、徹夜でドラクエ買う為に並んでたら誰かにリークされて翌日先生に怒られたり、日記を連続で忘れて暴力教師に胸ぐらと髪の毛を掴まれたまま5階の窓から落とされそうになったり、etc….
正直数え上げればきりがない。
これだけで別のブログを立ち上げられる程、悲惨な目に多々遭遇して来た。
話が大きくそれてしまったが、そんな少年時代をずっと見守って来たのがこの「矢作川」だ。
大人になって、少しは成長した姿を見せようじゃないか。
凄く長い前置きだったけど、時は2003年10月。
「あん時のアイツ」シリーズ第14弾「矢作川」です。
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豊田市の水源公園の適当な所からスタート。
お気づきだろうか?いつもと違う光景に。
僕のカヌーに乗っているこいつ。
もちろん僕のお父さんでもなければ、喋るわけでもない。
こいつは岡崎の実家で飼っている「ジュリ」という名の犬だ。
単に母さんが沢田研二ファンだった事で、雌犬のくせにジュリと命名された。
当時どっぷりと野田知佑さんにはまっていた僕は、どうしても名カヌー犬「ガク」のようなパートナーが欲しかった。
そこで、家にいたジュリを無理矢理連れ出してきて、無理矢理カヌーに乗せてみたわけだ。
犬のくせに激しく腰が引けている。
足がプルプルと震え、明らかに楽しんでいない様子だ。
言い忘れたが、基本的にこの犬は大変臆病だ。
まず人の目を見ない。
見つめると必ず目をそらす。
家の庭に侵入して来た鳩を、追い返すどころかビビって自分の犬小屋に引きこもってしまうというチキンドッグ。
そんなジュリをカヌー犬にしようとしてしまって、ちょっと悪い事をしてしまったか。
喜ぶと思ったんだが。
でも次第に慣れて来たのか、立ち居振る舞いが様になって来たぞ。
実に凛としている。
さすがは沢田研二。
広い川原に上陸。
普段はリードでの散歩だから、解放されて凄く楽しそうだ。
忍者のように背景色と同化して何度も見失いそうになるが、僕は微笑ましくジュリを見守った。
やっぱり犬は自由に広い場所を駆け回らせてあげないといかん。
僕も現在嫁の飼い犬なので、今はジュリの気持ちがよく分かる。
僕が川原に寝転んでいると、僕の顔を覗いて来たりする。
あれ程、人と目を合わさないジュリにしては珍しい。
やはり、こいつにはカヌー犬の素質があるのではないか?
再びスタートする頃には、すっかり逞しく前方の危険物をチェックする相棒。
あんなに臆病だったジュリが、随分頼もしくなったじゃないか。
やがて葵大橋が見えて来る。
この数年後位から、この橋の下のテトラポッドによく通ったな。
ここで結構手長エビが捕れるのだ。
よく会社の後輩を連れて来ては、エビ鉄砲とエビタモで手長エビを捕って油で揚げて食ったもんだ。
少年時代にはてんで遊ばなかった川を、やっと大人になってから遊ぶようになったわけだ。
ファミコンなんてやってる場合じゃなかったな。もったいない。
この川は、川と堤防の間に深く木が生えていたりするから気づかなかったが、川からの眺めは結構広々としていて気持ちがいい。
水量は少ないが、瀬も無くのんびりと気楽に下るには良い川だ。
ふるさとの川を見つめ直す事も大事な事だね。
しんみりとそんな事を考えながらジュリを見たら、彼も何か考えているようだ。
すっかり哲学的な顔つきになって、いい顔してるじゃないか。
カヌー犬「ジュリ」の誕生の瞬間だ。
こうして我々は、地元の川のツーリングを終えた。
今後は新カヌー犬ジュリと全国の川を一緒に旅をして、やがていつかはユーコンへ。
そんな夢が膨らんだ旅だった。
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しかし、その後思わぬ展開となる。
なんとジュリは30分以上車に乗ると、激しく車酔いしてしまって車内にゲロを吐きまくる事が発覚した。
結局この犬は「矢作川限定」のカヌー犬だったのだ。
というわけで、ジュリとは矢作川を2回だけ下ってコンビ解消の運びとなった。
あれからおよそ10年が経つ。
ジュリはすっかりよぼよぼのおばあちゃんになってしまい、もはや耳がかなり遠くなっている状態だ。
晩年の彼女は、当時の事を思い出す事はあるのだろうか?
彼女にとって、あの川下りは輝かしい思い出になっているのか?
それとも、無理矢理連れて行かれて苦々しい思い出なのか?
今となっては分からない。
青春の川、矢作川。
次は犬ではなく、りんたろくんを乗せて挑戦したい。
りんたろくんには素晴らしい人生を送って欲しいものだ。
通り魔に襲われないように、逞しく生きて欲しい。
そんな男は僕だけで十分だ。
あの時の犯人は今どこで何をしているのか?
一緒に川でも下って酒でも飲み交わしたいものだ。
ガラスの少年時代
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MATATABI BASE
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