花房山/岐阜

ドMの達人〜花房山〜 後編

悲しみの冠山から車で1時間程。

花房山の登山道脇の駐車スペースに降り立った僕を、素晴らしい晴天が迎えてくれた。

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冠山を撤退して来て良かった。

しかしこの秋の登山シーズンだというのに、どうやら登山者は僕だけのようだ。
少々不安がよぎる。


登り始めた僕をさっそく出迎えてくれたのは急登オンパレードだった。

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ウォーミングアップなど許さない。

スタートから実に追い込み上手な山じゃないか。

エスカレーターをさらに急にしたくらいの急登が延々と続いている。

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急登、急登、また急登。

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名前に似合わず、一直線に頂上を目指す実に男らしい山だ。

くねくねと山を登るなんて認めない。のっけからこの山は僕を試しているようだ。


この山の木々はなんだか全体的に生々しい。

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今にも枝が触手となって僕を襲ってきそうだ。


休憩なんて許さない。急登パラダイスはどこまでも続く。

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体はひぃひぃだが、今の所僕の膝は大丈夫だ。

しかしこの道を下って行くことを考えると、膝の爆弾は西部警察並に爆発することだろう。


くりのき平という場所に到達。

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やっと落ち着いて休憩が出来るぞ。

名前の通り栗が沢山落ちていたので、秋的なこじゃれた写真を撮ってみた。

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この時に栗のイガイガで指を負傷した。やはりこの山はそういう余計な事は許さない。


1時間位の急登パレードはようやく落ち着きを見せ始めた。

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そして突如このようなものが現れた。

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これこそ正しい簡易トイレだ。

女性には嬉しい配慮だろうが、この山を登る女はアマゾネスくらいだろう。


そして、ようやくここからは落ち着いた登山になることだろう。

のんびりと秋の山を楽しむとしようか。


しかし登山道は急登パラダイスから、両サイドが切り立った痩せ尾根へと変化して行った。

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写真では伝わりにくいだろうが、歩けるルートはとても限られていて細い。

踏み外せばそのままライク ア ローリングストーン。

そしてここにきて得意の突風攻撃にさらされ始める。

寒いわ、歩きにくいわ、怖いわ、膝痛いわでもう最高だ。


やがて尾根上に、後に僕の中で「地獄への門」と呼ばれる木のゲートが現れた。

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妖々しくガッパリと口を開けて僕を待っている。

この門をくぐれば、その先は限られた者のみに許されたMの世界。

ようこそここへ。遊ぼうよマゾパラダイス。

僕は迷う事なく地獄への門を越えて行く。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

巨大な日本刀の刃先を歩く蟻のように突き進んで行く。

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多少開けた所に出てきた。

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一体山頂まであとどれくらいあるのだろうか。結構疲労もたまって来たぞ。

地図を見ても一向に現在地が分からない。

その後もよく分からないまま進んで行くが、どんどん登山道は不明瞭になって行く。

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ここで道はあっているのか?

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こんな光景で間違ってないのか?

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さては僕は遭難しているんじゃなかろうか?

ひょっとしていつの間にか頂上を越えていて、さらに奥へ奥へと突き進んでやしないか?

ひたすら不安の自問自答が続く。

こんな時こそあのiPhoneアプリの絶好の出番なのに、当然この山の地図は作っていない。

一体僕はどこを歩いてるんだろうか?


高度も結構上がって、周辺の山並みがたまに見えと中々の眺め。

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しかし、視線を登山道に移せば相変わらずのお下劣な道が続く。

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痩せ尾根は続き、木もなんだか扇状にはえちゃってよく分からない光景が続く。

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まるで小学生の組み体操のようだ。

痩せ尾根はその鋭利さを増して来て、より集中力が求められるようになって来た。

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ちなみに足下を見ればこんな感じだ。

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これが両サイドに展開され、道は綱渡りのような狭さで、なおかついい突風が吹いている。

僕は冠山を断念した時点でお気楽ハイキング的な気分でこの山をチョイスしたんだが、お気楽な要素は今の所何一つ見当たらない。


やがてやっと痩せ尾根パラダイスが終わり、道は鬱蒼とした樹林帯へと吸い込まれて行く。

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なんか晴れているのにこの山は全体的に暗いイメージがつきまとい、なにか悪魔的な気配を漂わせる。

一体誰が「花房山」などというチャーミングな名前を付けたのか?


突然巨大な岩が現れる。

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おどろおどろしい雰囲気を盛り上げてくれる悪魔のオブジェだ。


やがて突然に視界は一変する。

バサッと樹林帯を突き抜けると素晴らしい展望が開けた。

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見渡す限りの絶景じゃないか。

暗く切ない登山道を切り抜けて来ただけに、この急展開に思わず「うおっ」と声が出た。


さあ、こんな場面で実はもうひとつ試したいiPhoneアプリがあった。

このアプリを起動して周りの山々にかざせば、圏外でもその山の名前が分かってしまうというアプリなのだ。

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さっそくかざしてみた。

ほうほう、あの山が○○で、あの山が○○か。そしてあの山が冠山か。

ん。冠山?

まさかとは思うが、あの山頂が快晴に包まれた山が冠山なのか?

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おい、貴様なんで晴れてんだこの包茎野郎。

立派に雲がずるむけてしまってるじゃないか。

僕は本来登るはずだった冠山を苦々しく眺めた。

またひとつリベンジ対象の山ができてしまった。

ただ基本的に各地で惨敗を繰り返す僕には、リベンジの対象が多すぎて忘れてしまうんだが。


悔やんでも仕方がない。

ここまできたら制覇してやるぞ花房山め。

そんな僕の目の前に「急登」「痩せ尾根」に続く最後の難関が待ち構えていた。

マゾクライマーの十八番「薮漕ぎ」パラダイスだ。

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この背丈を越えるほどの薮をかき分けて行かなければ頂上へは行けない。

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道などは当然見えない。というか道はない。

ピンク色のテープだけを頼りに突き進んで行く。

この薮自体も、ごぼう並みの固さと竹のようなしなりで僕を襲う。

足下は見えないので、何か根っこ的なものに足を取られてはバサバサと倒れそうになる。



何度も心が折れそうになる。

ただただ辛くて不安で一杯だ。これが薮漕ぎか。

やがて頂上に…

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「スポン」って感じで抜け出した。

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着いた。頂上だ。

素晴らしい展望だ。360度の絶景。御岳だって丸見えだ。

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しかし薮漕ぎ前の展望とそうは変わらない。

無理して薮漕ぎしてくる事もなかった気もするが、登りきった事に意味がある。そう願いたい。


さあ、登頂の記念撮影だ。

花房山山頂の看板はどこだ。

しかし、何も見当たらない。

足下に三角点の奴があるのみだ。

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なんて寂しい登頂記念写真なんだろう。

ここまで苦労してそりゃないんじゃないだろうか。

でもまあせっかくなんで、因縁の冠山を背景にパチリ。

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幾多の苦難を乗り越えて登った僕には、マゾの達人の風格すら漂い始めていた。


秋の登山シーズン。人気の山では大混雑する山頂も、この山は僕のものだ。悠々とメシを食らう。

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どうでもいいが、なにげなくコンビニで買ったこの商品。

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B’zの「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」に匹敵する長いネーミングだが実にウマかった。

キツかったこの山で食うからウマかったのかもしれないがおすすめの一品だ。


そして満足した僕は再び薮の中へと消えて行く。

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正直あの道を戻って行くのは気が引ける。

そして膝との戦いが始まる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

下山はただただストイックな世界だった。

やはり打撲した左膝を抱えての登山は無理があったのか。

下山開始30分で、僕は早くもいつもの「C3-PO」へと姿を変えてしまっていた。

すごく膝が痛い。

しかも左膝をかばいすぎたのか、右膝もかなり痛いじゃない。


さらに頭の中では何故か長渕剛の「とんぼ」が流れ続けてとても苦しい。

決して僕は長渕ファンでもなんでもないのに。この山の精神攻撃か。

意識すればするほど鳴り止まないWOW WOWとボストンバック。

皆さんも経験ないだろうか。

流れ続ける同じフレーズ。これって結構精神に来る。


やがて膝の痛みもぶっ飛ぶような出来事が起こる。

僕の視線の先をどでかい生き物が横切って行った。その距離40mくらいだろうか。

そして登山道から少しそれた位置で「そいつ」は僕の方を見ている。

立ち止まる僕。凍り付く僕。震え上がる僕。

「そいつ」は「あいつ」じゃないのか?

猿にしてはでかすぎやしませんか?

しばし時が止まる。

やがて「そいつ」は森の奥へと消えて行った。

もうめちゃくちゃだぞこの山。


そしていつもの子馬スタイルにて下山。

完全燃焼。

僕の両膝は大爆笑している。


恐るべき山だった、花房山。

満場一致で「日本サド名山」に認定だ。

景色は良かったが、恐らく二度とお前には登らないだろう。

さようなら、花房山。


ーーードMの達人〜花房山〜 おわりーーー


ーおまけー

その後温泉へ行った。

足裏マッサージをやっていたので、ボロボロになってしまった膝下をオーバーホールしてもらう事にした。

終了後、何となく足が楽になった気がしたが、何故か首を痛めた。

一体何のツボを押されてしまったのか。

その後寝違えたみたいにツってしまった首と膝痛と抱えて、男は帰路についた。

理由なく戦い続けるマゾの戦士は、もう次のステージを見据えているのだ。



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