本来、僕はこんなお下劣な山を登るつもりではなかった。
ひょんな事から登ることになってしまった山「花房山」。
その可愛らしいネーミングからは想像もできない悲惨な山だった。
ろくな下調べも無く登って来てしまったが、帰宅後ネットでこの山を調べてみたら次のような言葉が踊っていた。
「急登の続く登山道」
「遭難事件があった山」
「熊の生息地」
「登るには覚悟が必要」
「普通の登山では物足りなくなってしまった達人のための山」
僕は達人でもなければ、今まで山で物足りない思いをしていない。
むしろいつも完全燃焼で下山している男だ。
膝に爆弾を抱えた素人が挑む「達人の山」。
まずはいつものように、なぜこんなことになったかを振り返ってみよう。
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乗鞍岳での左膝の打撲から回復していない僕は、とにかく今週は軽い山に行こうと決めていた。
友人も誘って、1000m以下の里山をのんびり歩くんだ。
最初の候補は三重の「入道ヶ岳」。
しかし調べるとまだこの時期でもヒルで賑わっているらしい。却下だ。
そこで、友人の家と僕の家の中間あたりにある、養老の滝で有名な「養老山」に行こうと思った。
前日の夜にiPhoneアプリ用の地図をせっせと作った。
(この画期的なアプリについてはいずれ詳しくご報告しよう。簡単に言えば、圏外でも取り込んだ地図上で自分の位置が分かるというスバラシアプリ。遭難だらけの僕には持ってこいのアプリだ。)
しかし、友人が諸事情あって参加出来なくなってしまった。
そうなってしまった以上、養老山にこだわることもなくなった。
養老山もこの時期まだヒルズ達がいらっしゃるから、まだ行くことはないだろう。
しかも、嫁の都合で明日はりんたろくんを連れずに僕一人で山に行けることになった。
であれば少々遠めの山に行っときたいじゃない。
岐阜は豪雪地帯が多いから、行ける時に登りたい山が沢山ある。
そこでチョイスしたのが、「能郷白山」だ。
日本百名山にぎりぎりもれてしまった悲しい山。前々から実に親近感を覚えていた山だ。
もう夜も遅くなって来ていたが、またせっせとアプリ用の地図を作成する。
早く寝ないと。明日は早いぞ。
地図も出来上がり、寝る前に能郷白山をちょっと調べてみた。
そこには僕の眠気を覚ます言葉が綴られていた。
「現在岐阜県側から登山道に行く道は閉鎖されています」
なんてことだ。
即座に新しい山を探す。
もう0時を回っている。急がねばならない。
岐阜と福井の県境にある「冠山」に狙いを定めた。
ここも前から狙っていた山で、展望が素晴らしいらしい。
もう諦めればいいのに、また頑張って地図を作成する。
地図ばっか作ってる気がするが、山で迷わない為に必要なんだ。
すっかり夜も遅くなってしまい、結局2時頃に疲れ果てて眠りについた。
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いつも僕は寝坊ばかりするので、今回は根性で4時半に起きた。
少しでも早く行って、のんびりと秋の山を楽しむのだ。
車を走らせながら空を見ても、天気は実に素晴らしい晴れだ。
天気予報でも本日はひたすら晴れと出ている。
2周連続での裏切りは勘弁してくれよ。
道は深く深く山に入って行く。中々にアクセスにヘビーな山だ。
空には雲一つなかったが、前方の方になにやらモクモクとミシュランマンみたいなのが現れて来たぞ。
僕の目指す冠山が「雲」という名の冠をその頂きに被り始めたではないか。
みるみる道は、先週の乗鞍岳のリプレイ映像を映し始める。
ああ、またなのか。またですか。
長い長いドライブの果て、失意の中僕はスタート地点の冠峠に辿り着いた。
暗闇に包まれる、おどろおどろしい光景が僕を歓迎してくれた。
そして風がすごい。とっても寒い。
とてもじゃないが、こんな状況で登り出す気にはなれない。
僕のテンションにはワクワク感のかけらもなかった。
しばらく車内で待機を決め込む。
天気予報も晴れだったんだ。いずれこの山を覆っている雲もどっか行ってくれるさ。
こういう時は焦らずじっと待とうじゃないか。
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焦って来たぞ。
もう1時間も僕はこの峠の車内でじっとしている。
雲は消えるどころかその厚みを増し、風も寒風が吹き止まない。
せっかく気合い入れて寝坊せずに早起きしてかっ飛んで来たのに。
意味ないじゃないか。
たまに姿を現す冠山の山頂もすっかり雲の中だ。
さっさとその雲の冠をむけよ、この包茎野郎め。
僕の手元のiPhoneのアプリはスタート地点で止まったまま、今か今かと僕が動き出すのを待っている。
夜なべしてまで頑張って作ったのに。
駐車場に1台の車が止まり、4人組の熟女パーティーが降りてきた。
実に残念そうな彼女達。
ごめんなさい。すべては僕の責任です。
僕は決心した。
あの人達の為に、僕はここを離れるべきだろう。
そうすればきっと晴れるだろうし。
すっかり卑屈なネガティブ野郎になった僕は、別の山を本で探す。
近くてそこそこお気楽そうな山はないだろうか。
「花房山」が目に入る。
なんてやんわりした優しげな名前の山なんだろうか。
今日は仕方ないから、情報あまりないけどこの花房山を軽く登ってみるか。
僕は車で南下を始めた。
そこが達人の山だとはもちろんこの時は微塵も思っていない。
ドMの達人〜花房山〜 後編につづく
ドMの達人〜花房山〜 前編
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