白の世界の大浸食。
猛烈な勢いで迫り来るモクモクさん。
そこから必死で逃れようとするマゾディジョーンズ。
日本列島が「大快晴」に包まれた週末に起きた摩訶不思議なる光景。
彼は一体どんな呪いの秘宝に手を出してしまったのか?
そもそもこの人は、この週末はさすがに家で大人しくしている予定だった。
しかし9月前半にあれほど苦しめられた天気が、この週末に来て「ここ一番の大快晴」を持ってきた。
もちろん快晴餓死寸前の男が家で我慢できるはずも無い。
そこで思い立ったのが、得意の早朝トレイルランニング。
家族が寝静まる早朝の内から走り出し、一山登ってから朝飯前までには帰宅すると言うスピードマゾレジャー。
もちろん本来であればのんびり一日中快晴を満喫したい所だが、育児トレイルランナーの身としてはそんなこと夢のまた夢だ。
そんな彼がチョイスした場所は、伊吹山から国見岳に伸びる「伊吹北尾根」。
実はここは以前から狙っていた場所。
なんとその尾根上からは、天気がいい時には白山・御嶽山、そして南アルプスの眺望が得られ、空気が澄んでいればなんと槍ヶ岳まで見えてしまうと言われる隠れた名スポットなのだ。
なので行く時は「確実に天気が良い日」に行ってやろうと目論んでいた場所。
そしてついに「その日」がやってきたのだ。
疑う余地もないパーフェクトな状況。
風も穏やかで、最高の早朝トレイルランニングが満喫できそうだ。
今回はそんな彼の、大快晴下のささやかなる幸せトレラン風景。
ただただ彼が快晴を楽しむだけの光景をお送りいたします。
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寝坊をした。
なんと言う事だ。
予定よりも1時間の寝坊。
限られた時間内で戦う育児ランナーにとっての1時間は、半日分に匹敵するタイムロスだ。
せっかくの大快晴の貴重な1時間を失ってしまった。
大急ぎで準備を整え、眠い目をこすりながら家の玄関を出る。
急げ急げ。
ほら、空はこんなにも快晴な…
おや?
僕はまだ寝ぼけているのかな?
何度目をこすって見ても、このドーム球場内のような圧迫感が消えない。
いやいやいや。
まさかあの天気予報でこんな状況なわけが無いじゃない。
こんなのはちょっとしたにわか雲さ。
これはあれだな。
山頂に着いた時に、一気にパァァァって雲が晴れてアルプスの絶景がご登場っていう粋な演出をするつもりだな。
サプライズがすぎるぜ、モクモクさんよ。
そして車を走らせる事1時間ちょい。
揖斐川町のさざれ石公園の上にある駐車場。
そこには僕の車しかいないという、早朝トレイルランナーのいつもの朝だ。
ここから一気に高度を上げ、静馬が原〜御座峰〜大禿山〜国見岳と4つの峰を巡る縦走ラン。
寝坊したせいで早くも時間が押しまくっているが、せめて大禿山くらいまでは到達したい。
そしてイノシシよけの為の柵を開けて登山道へ侵入。
とにかく早く終わって帰らないと、こんな感じで家に僕よけの柵がしてあるかもしれない。
さあ、急いで駆け上がって快晴の尾根道ランと洒落込もうではないか。
見上げると、伊吹スカイラインと伊吹山の勇姿。
勇姿と言っても上の方が随分真っ白な気がするぞ。
中々にオシャレな白い帽子だね。
随分と手の込んだ演出だな。
全く晴れる気がしないのは僕だけだろうか?
そして何気にここ、ハードな急登が続くじゃないの。
実に地味なる早朝マゾタイム。
朝なのにこの爽やかさゼロの時間帯は何事だ。
それでも真っ白な大快晴のもと、なんとか尾根に近づいて来た。
さあ、ここを越えた所に一番楽しみにしていた区間が出てくる。
それは絶景を横目に見ながら、まるで北アルプスにいるかのような素敵なトラバース道を駆け抜けられると言う区間。
それがこの場所だ。
何かがおかしい。
「絶景を横目に」どころか数十メートル先すら見えないぞ。
ある意味僕がいつも見ている「北アルプスの光景」と同じだから、まあ考えようによっては北アルプスにいるかのような気分だ。
改めてこの時の現在地の天気予報を載せておこう。
僕はこの資料を手に気象庁に乗り込もうと思っている。
そして絶対に土下座させてやるんだ。
白い世界に空しくこだまするマゾ沢直樹の嗚咽声。
気象庁検査にことごとく反発する僕に命じられたのは、白い世界への出向命令。
これが満を持してこの伊吹北尾根にやって来た男の悲しい「日曜劇場」。
視聴者からは「これ以上見てられない」という声が大量に寄せられ、記録的な低視聴率をマーク。
どちらかといえば、これはもはや「おしん」レベルの暗く切ない世界観。
雪が降っているわけではないのに、回を重ねるごとに白くなって行く日曜劇場。
もはや放送事故のレベルにまで発展したモクモクさん。
いよいよスポンサーも撤退し、快晴の提供を失ったマゾ沢。
見事に男は倍返し返しをされ、さらに「悲しみの倍率ドン・さらに倍!」と気の毒そうに巨泉が言い放つ。
一体ここはどこなんだ?
実はまだ夢の中なのか?
この状況のどこをどう見たら「晴れ」と言い切れるんだ、なあ気象庁さんよ。
そしてこの打ちのめされた状況で、予想外の大急登。
おかしいぞ。
どこから歯車が狂ってしまったんだ?
僕は一体前世でどんな酷い悪行を重ねて来てしまったのか?
それ以外にこの不条理な悲しみを背負いきる理由が見当たらない。
そしてその大急登を這い上がって行った先。
ついに眼前に大絶景が広がった。
左から順に白山・槍ヶ岳・乗鞍岳・御嶽山・恵那山・etc…。
実に壮大に広がる日本の名峰の数々。
噂通りの穴場的なアルプス眺望のナイススポット。
快晴の日に狙いを絞って、はるばる無理して来た甲斐があったってもんだ。
なあ。
気象庁さんよ。
そしてここはトレラントしてもグッドフィールド。
道も走りやすいのなんのって。
何度もこけて死ぬかと思ったよね。
今日はそうゆうのいらないんだよね。
ただ単純に景色を楽しみに来てるだけなんだけど。
そんな中、朝の寝坊が大きく響き、無情にも制限時間が近づいてくる。
早朝育児トレイルランナーは、ウルトラマン並みに戦える時間が限られているのだ。
まだ一つのピークも落としていない。
でもピークらしい所はこの尾根の遥か先。
何事にもキリをつけないと気持ちが悪い性分の僕としては猛烈に消化が悪いが、残念ながらこの時点でタイムアップ。
景色といい、なんだか全てが予定通りに行かなかった。
いや。
僕のような男として、これはある意味予定通りだったんだろう。
僕は一発天に向かって「バカヤロー」と叫び、
ひとしきり大泣きした後で下山を開始した。
せめて何か一つでも山頂を落としていたならば、多少の達成感もあっただろうに。
そうガックリと肩を落としながら走って行くと、道ばたにこんな物が埋まっていたのを発見。
これはひょっとして、実は知らない間に「足○○山」の山頂に立っていたんじゃないのか?
もしそうであれば多少は救われる。
僕は草むらに埋まっていたその標識を掘り出した。
そう。
君の言うとおりだよ。
まずは僕は自分の人生の足元から見直す必要ががあるのかもしれない。
毎度悲壮感に包まれて苦しい目に遭っているが、確かに君の言うようにそれらは全て自ら進んで陥った事ばかり。
家で大人しく育児してれば、何もこんな早朝から君を掘り出してため息つくような事も無かったはずだ。
そして反省しながらさらに帰路を走っていると、自然に同化していた看板発見。
静馬ヶ原だ。
来るときは全然気付かなかったけど、どうやら僕は一つだけ目標を達成していた模様。
何も無い道の途中で、景色も全く開けてない場所にあった静馬ヶ原。
むしろ今日のような日はこのくらいの頂上が心地よい。
僕の心の中には、もうこれ以上ガッカリする余地はないからね。
ひとまずこれで多少気持ちが救われた。
そう思って気を良くした途端。
見事にスリップして大転倒。
そして岩に思いっきり腕を打ち付けると言う痛恨の一撃。
多少気を良くする事も許されないのか?
色んな意味で涙が止まらない。
つらすぎて、もう誰もこの日曜劇場を視聴している人なんていないだろう。
その後も「バカヤロー」と叫び続けながら疾走する二児のパパの早朝風景。
猛烈な勢いで駈け下っていく男。
トレランはこの下山時の爽快な疾走感が楽しいもの。
しかしこの山は道幅も狭く、足下は滑りやすくて、転倒場所によっては滑落の危険性もある。
ゆえに全くスピードにも乗れず、所々で滑ってばかり。
例えばこの左足でフリーキックを蹴っているかのような写真↓
実はこれは、カメラをセットして立ち位置にダッシュして行く途中で足を滑らせ、勢いでその先の崖に落ちて行きそうになって焦っているお姿だ。
ここに至っては、滑りまくる砂礫の急下降↓
これにてももの筋肉はぶち切れる寸前まで追い込まれる。
早朝の訓練としてはいささか体にダメージを蓄積し過ぎだろう。
で、不快感をあおる極めつけがこれ。
エネルギージェルを入れる為のフラスコ。
エネルギージェルは単体で使うとべたつくので、このフラスコに4つ分くらい入れて補給すればべたつかないしゴミも出ないというもの。
しかし。
どんなにちゃんと蓋を閉めても、中のジェルが漏れて来て手から服から全てが「べたべた」に。
その度に手をぺろぺろ舐めながらのニャンニャンランとなり、確実に僕のエネルギーが無駄に消耗されて行く。
何か使い方を大きく間違っているのか?
それともマゾ的にはこれが正解なのか?
何にしてもその不快感たるや相当なものなのだ。
そんな感じで、「白く暗い世界」「滑りまくる道」「べたべたな手」という不快三兄弟を従えて悲しみの下山完了。
もちろんアホらしくて下山記念写真すら撮っていない。
伊吹北尾根。
どうやらここはトレランには向いていないようだ。
そして僕がここからアルプスの絶景を見る事も二度とないだろう。
帰宅後。
ヘロヘロになりながら玄関に向かって歩き出す男。
家の中からこーたろくんの泣き声が聞こえる。
オムツかな?
ミルクかな?
それとも眠たいのかな?
今お父さんがそこに行くからね。
そう呟き、玄関の扉を開ける男。
その男の頭上には、信じられないほどの「青空」が広がっていたという。
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ちなみ彼が白い世界で戦ったのと同じ日、同じ岐阜県内。
チーム・マサカズのゲリMが初めてのソロ登山。
そんな彼が陽気にFacebookに投稿して来たものは以下の通り。
「白草山。来てよかったわ。天気良くて最高!御嶽山がハッキリ見えました。」
もはや何も言うまい。
さわやか日曜劇場〜伊吹北尾根・不快三兄弟〜
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MATATABI BASE
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