経ヶ峰/三重

経ヶ峰痔鎮祭 後編 〜黄金の乳首〜

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標高800m付近の避難小屋。

外は土砂降りで陰鬱な空気が張りつめる。


薄暗い祭殿の中で神へのお供え物を作る男達。

ついに彼らは痔鎮祭の時を迎えた。


ここまで気楽な宴会気分で登って来た彼らに神は数々の試練を課して来た。

台風によるワイルド登山道、テクノ化を皮切りに親父狩りに遭う者、寒風と横殴りの雨、ゲリM on ゲリ道。

そして買って一ヶ月の一眼レフカメラの死。


そんな数々の神の試練の末辿り着いた痔鎮祭会場。

今回はそんな神聖な儀式を追った真面目なドキュメントです。


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僕は向井理の死を受け入れて失意の中頂上を後にする。

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荒れ狂う外の世界と、悲しみに沈む心の世界。

一筋の希望の光も見い出せない。

もはやこうなったら割り切って宴会に全神経を注いでくれる。




やがて僕が先頭で避難小屋に到着。

もちろんカメラは死んでいるので写真は無い。


ガラリと扉を開けてビクッとする僕。

何と誰もいないと思われた避難小屋には1組の老夫婦が。


僕もビックリしたが向こうもかなりビックリしていた。

お互いに「何故こんな雨の日に登って来たんだ?」というお互い様の目で見つめあう。

この老夫婦が油断して全裸で営業中じゃなかった事が救いだ。


そんな老夫婦の静かな小屋のひと時を切り裂くように、続々と入店して来るずぶ濡れの男達。

静かで平和だった小屋の中は瞬く間に「部室的」な妖気に包まれた。



風雨から解放されて笑顔の男達。

しかしただ一人カメラを手にテンション急降下中の男の姿。

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オギKもビール片手に実に気の毒そうな表情だ。

ちびまる子ちゃんなら大量の縦線が頭上に現れた事だろう。


記念写真も極めて覇気が無く、放心状態。

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これが今の僕に出来る精一杯の笑顔だ。


早速鍋の準備に入る。

老夫婦が「せっかくだから鍋を少し頂いてから帰ろうかな」と言うので、早く作らなければと妙に焦る。

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そしてわざわざ僕が担ぎ上げて来たこのかさ張るガスコンロと鍋。

実は、なんと小屋に普通に「ガスコンロと鍋」が常設してあった事が発覚。

僕は実に無駄に大きなものを担ぎ上げて来たようで、心の空しさにさらに拍車がかかる。



今回チョイスされた鍋の元は「赤から鍋〜3辛〜」。

毒をもって毒を制すの法で、激辛をもって痔を制すというショック療法。

これは実に勇気がいるノーガード戦法だ。

このくらいの意気込みが無ければ痔鎮祭は成功しない。

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しかもこの半笑い気味で鍋に赤からを投入しているオギK。

奴も何気に痔主さん。

彼もアゴ割れMと僕と同様に、チームGのメンバー。

携帯の電波も届かない山小屋だが、我々3人の3G回線はいつだってバリ3だ。


そして細かい事は気にせずに男らしく食材の直切り投入だ。

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食材を洗うなどという軟弱な思考回路は持ち合わせてはいない。

ドブネズミにはドブネズミなりの味わい方があるのだ。


さあ、いよいよ準備が整った。

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ついに待ちきれなかった老夫婦は去って行ってしまったが、ここからは神聖な時間なのでちょうど良かったのかもしれない。


そして次々と神への食材が追加され、

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我々は必死の思いで、酒という名の聖水を体内に押し込み祈りを捧げる。

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正直誰一人酒なんて飲みたくないんだが、アゴ割れMのイボを鎮めるためには仕方が無い事だ。

あくまでも伝統ある痔鎮祭の祭礼に則って、仕方なく鍋を食らい酒を流し込んで行くメンバー達。



そろそろ気付いているだろうから、いい加減はっきり言ってしまおう。

正直なんでも良かったんだ。

乾杯する時なんて、前日が誕生日だったビビるSに「誕生日オメデトー!」だなんて言っちゃって、誰も痔鎮祈願なんて事思ってなかったし。

別にアゴ割れMのイボが出ようが出まいがどうでも良いのだ。

ただ口実が欲しかっただけなのだ。

ただ単に酒が飲みたかっただけなのよ。



次々とビールの缶が空き、酔いが回る男達。

もう鍋も何鍋なのか分からない状態に進化して来ている。

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ウインナーがケツのシワから大量に飛び出しているように見えるので、今後「血まみれイボ痔鍋〜3辛〜」と名付けよう。

血と痔と3を略して「チヂミ鍋」と称してもいいだろう。


こんな事をしてる間に、外はさらなる土砂降り模様。

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そんな中、まるで「先輩に急に呼び出された大学1年生」みたいに正座しているのは僕だ。

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実は僕のジャケットが度重なる「間違った洗濯法」により著しくその撥水効果を失っていた。

その結果、びしょ濡れになった中の服が冷えて強烈な寒さに打震えているのだ。


もはや目もうつろにひたすら寒さに向き合う一人の男。

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手前のオギKはアホなのか変態なのか、何故かTシャツ1枚で「心地いい」などと言っている。

のんきにツマミを食うTシャツ男と寒さでうろつき始める男。

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この写真は、チーム1の稼ぎ頭オギKとチーム1の低収入男の僕をを如実に物語っている1枚となった。


そしてついに我慢できなくなった極寒野郎が走り出す。

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渾身のセルフヒート機能を発動。

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体は温まるが、みるみる酒が嫌な感じで体中を駆け回る。

その一方で常夏Tシャツ野郎が矢作C相手にキャバクラ並の愚行を繰り返す。

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次第にたちが悪くなり、周辺にまで危害を及ぼし始めるオギK。


さらに一方では、黙々と酒を飲み続ける渋い男アゴ割れM。

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もはや誰も彼の痔鎮祈願をしなくなり、ついに一人で相棒(イボ)と語り始めたのか?

その姿の実に男らしいこと。

もはや日本酒のポスターかと思うほどの渋さだ。

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こうしてアゴ割れMは一人で痔鎮祭を完成させたのだ。



ひたすら狭い小屋の中を走り続ける男。

周りに絡みだしたTシャツ1枚の男。

ひたすら痔問痔答を繰り返す辛口一献男。


避難小屋は瞬く間に混沌とした熱気に包まれた。

ついにはオギKによって鍋の残り汁に大量の焼酎が投入された。

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その奇妙な酒をすする姿はもはや妖怪にしか見えない。

こうしておぞましすぎる避難小屋での宴会が幕を閉じた。



片付けをして、出発の頃には見事に雨足はエスカレート。

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しかし真ん中の男だけ異常にハイテンションだ。


ここからの下山は誰も写真を撮ってない。

そこで展開されたのは、あちらこちらで足を滑らせて右往左往する酔っぱらいの姿。

たちまち新橋のガードレール下へと姿を変えた経ヶ峰。


たち悪くのしかかって方々にちょっかいを出し始めるオギK。

その鬱陶しさから走って逃げる僕とアゴ割れMとビビるS。


やがては男達の熱い議論が始まる。

「中森明菜はセクシーか否か?」「WinkはともかくBaBeで言えばどちらが好みか?」「毎度お騒がせしますの勃起音についての考察」「ギルガメッシュナイトはやはり憂木瞳だろう」etc…

80年代を生きた男達の白熱した討論を展開しながらの下山。


後半は延々と「ファッションモ〜ンスタ〜」と連呼して歌い続けるオギK。

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その鬱陶しさに後方でグッタリした笑みを浮かべているのは、いつまでも頭からカメラの故障が抜けて行かないブルーな男。


やがてゴール地点到達。

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オギKが終始ハイテンションをキープしていた事がよく分かる。

想像以上に宴会が長引いて、もうすっかり暗くなっております。


こうして壮絶な痔鎮祭は幕を閉じた。

もはや舞台が山だっただけの話で、ただの宴会の模様をお送りしました。


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その後、鈴鹿の温泉へ。

僕の当初の予定では、この後四日市市に移動してみんなでボルダリングジムに行って最後の筋肉破壊を楽しもうという計画だった。

しかし想像以上に宴会時間が長引いた事と、こんな酔っぱらいの状態でジムには行けないだろうという大人の判断。

ここは大人しく「宴会」するのがデキる男の過ごし方だ。

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結局ただ単に昼からずっと宴会をしましたという一日。

何も生み出さず、誰の役にも立たない30代後半の憐れな男達の一日。

楽しかったのかと問われれば楽しかったが、僕の場合失ったものの方が大きかった気もしたりしなかったり。


そして背中に黄金に輝く鍋を背負ったマゾ仙人が帰りの電車に乗り込む。

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まるで背中に巨大な黄金の乳首が生えたかのようなその後ろ姿。

前日に嫁に「この乳首野郎!」と罵倒された男が、翌日には立派な「黄金の乳首野郎」に成長して帰宅する。

彼女はこうなる事を予言していたのだろうか?


さらにその後、男は電車の乗り換えに失敗して名古屋まで延々と各駅停車の普通電車に揺られる事になる。

もの凄い時間をかけてこの姿のまま大都会名古屋駅。

背中から乳首を生やしたブルーな男はトボトボと岐阜行きのホームを目指して消えて行く。




その後。

アゴ割れMのイボが沈静化したかどうかの噂は未だに聞こえて来ない。



経ヶ峰痔鎮祭 〜完〜



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