快晴の週末。
風邪も治って、いよいよ大暴れの予感。
紅葉の山や秋カヌーが待っている。
秋は短く、快晴の休日は何物にも代え難いスペシャルデイだ。
そんな「ズボンを脱いで今にも不二子ちゃんに襲いかかろうとするルパン三世状態」の僕に、嫁からまさかのミッションが言い渡された。
「同僚の結婚式があるから土曜日は花屋さんに乗せていけ。日曜日は朝に美容院に送れ。髪のセットと着付けが終わったら迎えに来い。そして駅に送れ。さらに夜には名古屋まで迎えに来るように。山とか行ってる場合じゃないぞ。」
まさかの週末送迎五連投指令が炸裂。
僕はこの貴重な秋の快晴土日を送迎と待機だけに費やそうというのか。
まあ、ここの所方々に遊び回ってたから全然良いんだけど、花屋だけの為に土曜日を失うこの儚さよ。
で、土曜日は大人しく花屋さんへ。
とても日差しが眩しかったね。
そして一日が終了。
僕と同じ放浪病という病を抱える人にはお分かりだろう。
僕のストレスは瞬く間に限界点を突破。
もはや精神状態はエースを失ったルフィ状態。
そして日曜日。
ハッと気付いた時にはこんなことになっていた。
しまった。
嫁を美容院に送り迎えしなくてはいけないのに何故か山にいるじゃないか。
結局我慢できなかった男は、お義母さんに甘えるというマスオとして最も心が痛む行為に及んだ。
嫁の美容院送迎はお義母さんに行ってもらい、僕は夜名古屋に迎えに行くために夕方までに家に帰れば良いいという状況設定になった。
こうして駄目夫は山へと脱出。
手に入れた時間内を目一杯遊んでみせる。
こういうことを繰り返すから嫁の愛が薄まって行く。
カルピスの原液をお風呂いっぱいの水で溶かしたみたいに薄まって味も何も感じない。
しかし男は息子を連行して飛び出した。
今回はそんなのんびりとした親子の秋の記録です。
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向かった先は「烏帽子岳」。
鈴鹿山脈最北端の865mの山。
ここは最近整備された登山道で、登山口には広い駐車場と案内看板、そして奇麗なトイレもある。
そしてチラチラ写っているこの男はりんたろくんだ。
今日は出来るだけ彼を担がずに、行ける所まで自分の足で登らせてみよう。
そろそろ君を担ぐのはお父さん的に限界が近いんです。
こうしてりんたろくんは大人への階段の第一歩を刻む。
いつもなら早くもこの辺で「ダッコ。ダッコー。」とギブアップする男が、今日は非常に調子良く登って行くぞ。
お父さんの大事な三脚に「バキューン」と言う変な名前をつけて振り回しながら登って行く。
おお、今日は随分と登って来てるじゃないか。
成長した我が子が実に頼もしく見えるぞ。
しかし突然狂ったように木の皮を剥き始める男。
この「木の皮を剥く」という行為に快感を覚えてしまったようで、全く先に進まない。
黙々と皮を剥き続ける息子。
「素直で大人しい養子」という化けの皮が剥がれたお父さんへの当てつけかな?
やがて彼の前に試練の急登登場。
さあ、逞しく登って行け息子よ。
お父さんのマゾの血を受け継いでいれば生唾ものの急登のはずだ。
しかし迷うこと無く即座に「ダッコ。ダッコー。」と泣きついて来た。
残念。
まだまだ彼にはお父さんの世界は早すぎたようだ。
結局いつものようにジャキーンと合体。
実は正直病み上りで未だに体がだるくて体力が戻っていない。
ゆえに本日もマゾ的仕込みは十分。
ここからは大人の時間の始まりだ。
とは言え、この登山道はとても良く整備されていて歩いていて非常に気持ちがいい。
「ほら、ここを見てごらん」などと微笑ましい親子の登山風景を演じた己撮りをする余裕もある。
りんたろくんが気の毒なのは、この様な親の茶番に付き合わされることだね。
なにせこのような平和的な山でマゾるには、己撮りを駆使していかに余計なピストン作業を織り交ぜられるかが勝敗の分かれ目だ。
もちろんこのあと、息を切らせながらカメラを取りに戻っていることは言うまでもない。
でも本当に気持ちのいい道だし、今日はたっぷりとこの里山を親子で満喫できそうだ。
心を痛めてまでお義母さんに送迎を頼んで良かったなあ。
そう思った矢先、強烈な寒気を帯びた突風が吹き荒れた。
しまった、浮かれてしまった。
毎度毎度、あれ程浮かれるなと念を押していたのに。
「快晴の日の寒風まみれ」という久しぶりの王道パターン。
最近晴れた日は実に趣向を凝らした嫌がらせが多かったが、今回は基本的なやり口での嫌がらせだ。
たちまち寒さで震え出すりんたろくん。
防寒着は持って来ていたが、手袋を忘れるという父の凡ミスによりどんどん手が冷たくなる息子。
僕の背後から「帰る。ボク、おウチがいいの。あたたかいのがいいの。」と悲痛な訴え。
慌てて風のない場所に移動して彼を温める。
さっきまであんなに平和だったのにたちまち遭難中の親子といった状態に。
体温を上昇させつつ、iPhoneでウルトラマンVSバルタン星人を見せてご機嫌の上昇も図る。
しかしまだ機嫌が悪いのか、株価をチェックするおっさんみたいな顔になっている。
そして久々に登場のしまむらレインボーポンチョ。
今回で二度目の登場だが、前回登場したのは伝説の乗鞍パープルリップの悲劇の時だ。(参考記事)
非常に可愛らしいポンチョだが、何やら呪われている気もする。
そんなドラクエ風に言えば「のろいのポンチョ」を身にまとったりんたろくんがおかしな行動に出る。
ブチブチとキノコを剥がしはじめ、
木を棒でバシバシと叩き出した。
そんな彼の無言のメッセージを受け取った僕は、無念の途中撤退を決意した。
まさに乗鞍岳以来の二度目の途中撤退。
前回は3000mでの撤退だったが、今回は標高わずか500m付近での悲劇。
敗残兵はただ去るのみ。
せっかく勝ち取った大快晴の登山だったが、一切の展望を見ること無く親子は下山して行った。
風のない場所まで降りて来てお昼ご飯です。
本来は頂上で景色を見ながら食べる予定だったけど、登山道の脇で惨めに敗北の味を味わう親子。
でもまあたまにはこういうのもいいかな。
親子でのんびりと森を楽しもうじゃないか。
大分りんたろくんもご機嫌が良くなって来たぞ。
別に頂上なんて登らなくても、子供は森にいるだけで十分に楽しいはずだ。
そして最近僕が教え込んで、嫁に「くだらんこと教えるな」と怒られたロバート・デニーロの真似を乱発するりんたろくん。
ふいに「デニーロって何?」って聞かれたが「宇宙にいる正義のヒーローだよ」と答えておいた。
だんだんとテンションが上がって何かを祈り始めるシャーマン野郎。
どうした?どうした、りんたろう?
今君に何が起こっているんだ?
この様な周りに理解できない行動を突然する辺り、僕との血の繋がりを感じる。
すっかりご機嫌になり、ここからの下山はのんびりと自分の足で進んでいくりんたろくん。
途中で何度も振り返ってはお父さんにスペシウム光線を浴びせて来る。
彼には普段初代のウルトラマンばかり見せているから、彼の脳みそは昭和30年代の少年と変わらない。
そしてそんな風に振り返ってばっかりいるから激しくコケることになる。
一体、どこまでお父さん似なんだ。
で、またおもむろに木の皮を黙々と剥がし始める。
何となく全体的にアホっぽい男だが、お父さんは元気に育ってくれて大満足だ。
そして無事に下山です。
達成感に浸っているのか、何やらモンゴルの少年のようになってしまったね。
結局登頂は果たせなかったけど、なんだか来て良かったね。
さあ、まだ時間はあるぞ。
次の現場に急行だ。
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やって来たのは水嶺湖。
ここではレンタルカヌーなどというものがある。
今更金払ってカヌーするのもどうかと思ったけど、今日みたいなついでで来た身にとってはちょうどいい。
値段も30分1020円で許容範囲だし、身一つで気軽に来れるから楽ちんだ。
アルバイトの高校生くらいの男にカヌーの漕ぎ方をレクチャーされるカヌー歴10年以上の男。
よく考えたら僕はカヌーも登山も我流で勢い任せでやって来たから、たまにこういうレクチャーを受けると目からウロコ的な感動があったりする。
やがて出発です。
りんたろくんも一日で登山からカヌーまでこなして、もはや立派なアウトドア3歳児じゃないの。
このカナディアンカヌーもメーカーは分かんなかったけど広くていい感じ。
カヌー内で三脚立てて己撮りまで出来てしまう安定感だ。
やっぱり秋のカヌーは湖でのカナディアンに限るね。
この湖は自艇持込みは出来んから残念だけど、このまま静かな場所に上陸してテント張って、焚き火と酒とギターの夜なんて言ったら最高だよね。
いつかりんたろくんと、もう一人来年飛び出て来る弟くんとの三人でそんな夜を送ってみたいね。
そして男同士の会話をするんだ。
「お父さんはなんでお母さんとケッコンしたの?」なんて聞かれたら、
「それはね、あの頃はまだお母さんに優しさという感情が残っていたからだよ。今は失われてしまったけど、お母さんはドSだしお父さんはドMだから平気なんだよ。たまに涙はこぼれるけどね。」って答えてやるか。
そうこうしているとりんたろくんが「ボクもやりたい」とパドルを手にして漕ぎ始めた。
お父さんは感動しました。
苦節3年。
慎重に慎重にカヌーの楽しさを教え込んで、この度めでたく初漕ぎでございます。
なんだか山でも結構歩いてくれたし、急激に息子の成長を目の当たりにした感じ。
今日はいい秋の一日だ。
さあ、秋の山に続いて秋のカヌーも満喫したぞ。
まだ時間はある。
次の現場に急行だ。
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かみいしづ緑の村公園とやらに行ってみました。
広い芝生の広場と遊具があって、やっとりんたろくんも「普通の子供の遊び場」に連れて来てもらえたようだね。
今こそ山や川の現場で鍛えた力をいかんなく発揮するんだ、りんたろくん。
この程度の急登なんて槍ヶ岳に比べたら屁でもないぞ。
ちょっと前までは怖がって出来なかったことが出来るようになっている。
今日はつくづく彼の成長を実感する日のようだ。
さあ、まだわずかだが時間はあるぞ。
次の現場に急行だ。
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登山、カヌー、公園と来たらもう温泉しか無いでしょう。
りんたろくんは3歳にして大の温泉好きなので大喜びだ。
いい湯に浸かっていい気分。
本来美容院と駅への送迎で潰れるはずだった日曜日。
わずかな時間があれば我々はここまで遊べるのだ。
晴れた日は1分1秒として無駄にしてはいけない。
この想い。
嫁に届け。
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そして帰宅し、晩メシを食って再出発。
またしてもりんたろくんを乗せて一路名古屋へ。
僕もりんたろくんも朝から動き続けているね。
嫁と合流して、二次会会場でりんたろくんから花嫁さんに花束を渡す。
奇麗な花嫁さんにダッコされてエロい顔になっている。
こうして全ての任務を完走したりんたろくんは、帰りの車に乗るなりスイッチを切ったように一瞬で眠りに落ちた。
もうすっかり夜の11時だ。
秋の休日を走りきったな、りんたろう。
僕は大満足で微笑ましくりんたろくんを見ていた。
なんだかんだと一日しっかりとお父さんをやった僕に嫁も惚れ直してくれるかも。
そんな期待の目で嫁を見たら、彼女はボソリと言った。
「お前、ニンニク臭えな。あんま近寄るな。」
確かに夕飯でニンニクは食ったが、はるばる名古屋まで迎えに来たのに近寄るなとはヘビーじゃない。
秋の登山、秋のカヌー、秋の公園に秋の温泉。
まさか最後に秋のサドが待っていようとは。
こうして長くて短い秋の快晴日曜日が終わった。
りんたろくんの成長を実感した一日だったね。
お母さんの愛の消失も実感した夜だったね。
次回は大人しく送迎に徹します。
すみませんでした。
秋の逃避行〜全力親子の一日〜
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MATATABI BASE
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