那賀川/徳島

激流どうでしょう第2夜〜渦巻ダッチナイト〜

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死国、激流どうでしょう第2夜。

前回は天に翻弄され続け、ひたすらお日様求めて大移動して来た腰痛野郎。

那賀川最大の難所「赤石の返し渦」を目の当たりにし、絵に描いたように怖じ気づくマゾ5人。

死国の激しい入国審査が始まった。


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すっかり怯えた小動物達の井戸端会議が続く。

幾度も「行くのか?」「やめるのか?」の議論が交わされ、「いっそさらに南方の日和佐川なんてどうだろう?」という案も飛び出す。

確かに日和佐川は増水時にのみ下れる川なのでアリなんだが、発着ポイントの情報が全くない。

行ってダメだったら完全に今日一日をロストしてしまい、我々はただの「移動マニア」で終わってしまう可能性がある。



いよいよ覚悟を決めて濁流の那賀川下りの準備を進めた。

大増水の那賀川だったが、危険水位に達していない事と、道路からの下見で僕らでも行けると判断した。


もちろん、レスキューロープのテストにも余念がないB旦那とバターN。

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しかしこのロープは、来月誕生日を迎えるバターNの為に本日B旦那がシークレットで用意したプレゼント。

この時が初お披露目なので、当然いまいち使い方も分からない。

出来る事なら絶対にこいつの出番がない事だけを祈ったが、僕の脳内妄想スクリーンにはこのロープで救い出される僕の映像だけがとてもリアルに繰り返し流されていた。

なんだか凄く不安だ。

僕らは楽しむ為にわざわざここまで来ているんだが、何だろうこの悲壮感は?


しかし、ここに来てやっと「光」が差し込んで来た。

晴れて来たのだ。

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僕のひとり陽動作戦が成功したのだ。

穴吹川に行くと見せかけてからの那賀川大移動に、奴らも不意をつかれた格好だ。


僕だっていつまでもやられてばかりじゃないぞ。

しかし、その晴れた事への代償として「増水」「濁流」「強風」を受け入れなければならない。

いたしかたあるまい。

すべてを望めるほど、僕はまだ天に愛されてはいない。



さあ、もう覚悟は決まったぞ。

出発の記念撮影をして、豪快にこの川をねじ伏せてやろうじゃないか。

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でも、この時地元のおっさんが通りかかり余計な一言を吐いていった。

「普段より3mは増水してるけど本当に下るんかね?一度落ちると随分先まで水中から抜け出せんぞ。そりゃあ、恐ろしいぞ。死んでまうで。」

やっと心を決めてこれからプロポーズしようって奴に、「あの娘他に男がいるんだぜ」って囁くようなこの仕打ち。

再び決意が揺らぎ出すチキン戦隊の五人。

しかしまだ初日で元気がある状態なので、那賀川さんへ撃沈覚悟のプロポーズ決行の意思は変わらない。



我々は地獄への一本道を降りて行く。

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今回はB夫妻の「トムキャット」の記念すべきデビュー戦だ。

バターNのセビラーと僕のゴエモンとで、赤・黄・青の信号カラー艦隊が完成。

赤は何となく危険な雰囲気だが、考えようによっては「突き進め」の青(僕のやつ)が一番危険なのかもしれない。


それでもやっぱり今回初のカヌーだし、天気もいいからテンションは自然と上がって行く。

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僕もこれから戦いに挑む男らしく、実に良い笑顔をしている。

しかし、この時点でなんと僕の尻に「火」がついた。


何故か急速にケツの辺りが熱くなって行く。

一体何事が起こっているのだ?

だんだん火傷しそうなくらいにヒートアップして行く僕のケツ。


思い出した。

僕は腰痛を抑える為に「温熱シート」を腰に貼っていたのが、そのまんまだったことを。

水を吸った温熱シートが、一気に発熱を始めていたのだ。

このままでは間違いなく低温火傷してしまう。


あんなに張り切って出発の写真を撮った直後に撮影された、そんな白豚の情けない写真がこれだ。

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必死でケツ周辺を洗う男。

まさかこの段階で「沈」してしまうとは微塵も思っていなかった。

当たり前だが、もの凄く水は冷たい。

急速に温めて、急速に冷やされた僕の腰はとてもコシのある腰痛になった。

激しいぜ、那賀川。



気を取り直して、ついに濁流へ乗り出した。

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水面が盛り上がっている感じがお分かりだろうか?

しかし怖くてこっちの気分は盛り上がらない。

凄いスピードで流されて行って、漕がなくてもいいくらいだ。


でも慣れて来ると、中々心地よかったりもする。

何と言っても晴れているし、四国ならではの懐の深い景色が広がって行く。

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スリルと快感を味わって、やっと「四国へようこそ」って雰囲気になって来たぞ。

下ってる最中は気が抜けないが、上陸すれば皆自然と笑顔がにじみ出る。


僕らが選んだ区間はそんなに大きくて嫌らしい瀬がないから、流れに慣れてくればこんな濁流でものんびり漂える。

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ううううああああ。

晴れるって楽しい。

やっぱり風が吹こうが濁流だろうが、お日様に当たっているだけでカヌーツーリングはお宝体験だ。

晴れていれば、多少の不幸は受け入れられるよね。(※この二日後にこの言葉は撤回される)


この川のいつもの状態がどんなかは全く分からないが、何だか凄く楽しい。

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一時は恐怖の眼差しで見たツンデレ女の川だったが、いざ懐に飛び込んでみればこのような優しくてグッと来る仕草を披露してくれる。

マゾ心をよぅく理解してらっしゃる。


やはり、何事も挑戦してみないといけないな。

僕の嫁の心の中の川にも、ひょっとしたらステキな「優しさ淵」が潜んでいるかもしれない。

しかし何度嫁川に飛び込んでも、今の所激流は地平線の彼方まで続いて見える。

その濁流っぷりは那賀川の比ではない。



その後、ゴール手前にあった支流の流れ込みを遡上してみた。

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恐らく通常時であれば相当なクリアウォーターだった事は間違いない中々ステキな空間で、そこに架かる橋もいい雰囲気を演出していた。

こういう「寄り道」ってのはとても心を穏やかにしてくれる。

もうゴールもすぐそこだし、我々はすっかり油断していた。

ついに「渦潮三回転」がダッチャーSとバターNコンビに襲いかかる。



この支流の流れ込みと、ゴールの川原の間にひとつの瀬があった。

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これは後に撮ったもので、ガイドマップにも記載されていない名もなき瀬。

恐らく増水時にのみ現れるであろう瀬かもしれない。


支流の遡上を堪能し、すっかり気分はウィニングランの余裕で流れて行く何も知らない5人。

先頭を行くのは、青い弾丸「マゾ川ゴエモン」。

その瀬に近づくにつれ、僕の顔から瞬く間に笑顔が消えた。


僕の眼前に巨大な隠れ岩が現れ、そこに乗り上げるように盛り上がった水流を越えて行くとガツンと落ち込んで落下した。

そしてその先は渦やバックウォーターが乱発して凄く複雑な流れで、水流も凄まじい勢いだ。

正直余裕こいていた事と予想外に激しい瀬だったことで、僕の狼狽っぷりはハンパなかった。


僕はなんとかゴエモンを駆使してその瀬を突破する事に成功したが、これは危険だ。

早く後続の奴らに知らせなきゃいけないんだが、その後の流れも凄く早くて複雑なので振り向くことが出来ない。

僕は全力漕ぎでかろうじて岸に辿り着き、振り向いた時にはすでにB夫妻が瀬を乗り越えていた。

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なんとか漕ぎ抜けたようだが、二人の顔が硬直している。

後にB旦那が「B女房が弱気になるのを初めて見た。」と語ったように、彼らも瀬の突入直前で異変に気づき真っ青になりながら下って来たようだ。


僕は二人の無事を確かめ、ホッとしてからさらに後続のダッチャーS&バターNのダッチバターコンビを見た。

そこには何とも凄惨な情景が展開されていた。

なんとダッチャーSが転落し、渦に翻弄されているではないか。

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写真では何が何だか分からんが、目撃した僕も何が何だか分からない。

後で聞いた事だが、落ち込みの後に「渦」に捕まった彼らのカヌーは、その場で渦巻き花びら三回転。

このままではバランスを崩して二人とも犠牲者になると判断したダッチャーSが、自ら渦に転落。

そんな涙ぐましい自己犠牲によって、ついに大回転から脱出したという。


僕はすかさず救助に向かおうとするが、ダッチャーSが自力で再乗艇して漕ぎ下って来るのを確認出来たので安心した。

しかし、その後にバターNの悲痛な叫び声。

彼の視線の先に、ダッキーを膨らます為のポンプが無情にも流されていた。

僕は再びゴエモンに乗船してポンプの回収に向かおうとしたが、凄まじい逆流で漕いでも漕いでも後ろに進んで行くというていたらく。

もちろんバターNがバースデープレゼントの救助ロープを投げた所で、彼のポンプがロープを掴むことなどない。

我々はバターNのポンプが流れて行くのをただ呆然と見送る事しか出来なかった。


完封勝利目前で、まさかの逆転満塁サヨナラ押し出し危険球退場。

ゴール直前の心の隙間にまんまと付け入られてしまった。


なんとか無事にみんなゴールして、それぞれに恐怖体験を語り合う。

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どんな怪談話よりリアルに怖い「ついさっきの出来事」。

ダッチャーSに至ってはほとんどカヌー経験がないのに、早くも「渦に巻かれる」という難易度の高い技を完成させて非常に興奮している。


清流を楽しみにはるばる横浜からやって来た彼らに対し、この濁った激流の川をご提供したのは僕だ。

「誰だこんな川を選んだのは?」という彼らの怨嗟の声が聞こえて来るようで申し訳ない。

まあ、そもそも僕を誘って来た時点でこの程度の覚悟はしてしておいてもらいたい。と、開き直る僕。


改めて事件の現場検証。

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この名もなき瀬は、今後「ダッチバターの瀬」と呼ぶ事にしよう。


全く清流ではなかったが、恐らく忘れられない思い出となった事だろう。

これこそ一味違った旅を提供するツアー会社「マゾツーリスト」の真骨頂。

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基本的に今回の参加者は選ばれたマゾ揃いなので、大満足の那賀川濁流ツーリングとなったようだ。

中々初日にしてはハードな内容だったが、素晴らしい一日だった。


これがeTrex20の「那賀川濁流の軌跡」でございます。


より大きな地図で 那賀川 を表示


そして、我々は那賀川を後にして再び移動マニアへ。

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さようなら、那賀川さん。

今度来る時は「通常」のあなたに出会いたい。

今日の君は少々厚化粧が過ぎたようだね。

全く可愛くなかったけど、とっても面白かったよ。


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実はこの五人。

このハードな一日を、実はおにぎり1個で乗り越えて来ている。

昼メシを食う時間も、昼メシを食う場所もなかったのだ。


もう時間は夕方4時。

向かった先はやはりご当地もの「徳島ラーメン」だ。


一見、営業中とは思えないほどの閑散としたラーメン屋の入口。

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しかし、一度中に入れば大人数の客で溢れ返る。

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ここは徳島ラーメンの有名店「いのたに」。

このラーメンの味は実に僕好みでスペシャルヒットした。

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まあこれだけの空腹状態で食えばなんだってウマいんだが、あれだけの激闘の後だけにハンパなくウマかった。

ダッチャーSに限っては「生きてこうしてまたラーメンが食べられる幸せ」を噛み締めながらだったので、そのお味のほどはまさに「命」の味だったろう。


続くご当地グルメお遍路。

大判焼きの名店「あたりや」にて極上の大判焼きを購入。

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いいねえ。充実してるねえ。

後は温泉でのんびりと疲れを癒して、夜の宴に突入するのみだ。


向かった先は「あいあい温泉」。

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ラブホかと思ってしまう安っぽさ全開の温泉だ。

入口では武将の石像が出迎え、温泉内にもゴジラや坂本龍馬などの石像が並び立ち、経営者の卓越したセンスが伺えるスタイリッシュな温泉だ。

色んな意味で「ああ、四国に来たなあ」と思えるホッとする空間。


浴室に入ってみると、あり得ない数の裸の男達が溢れていた。

過剰すぎるこの男密度は、明らかに定員オーバー気味の様相を呈している。

ここは裸祭りの会場なのか?

それとも密入国船のコンテナの中に入り込んでしまったのか?

サウナに至っては、完全に奴隷収容所でサウナの熱気なのか男達の熱気なのかよく分からない。

とてもじゃないがこんなグラディエーター達に囲まれて落ち着く事なんてできやしない。


団体客のムキムキ運動部員から、はしゃいで走り回るガキ共の嵐。

それを見守る坂本龍馬の石像と中世ヨーロッパ調の装飾。

この温泉は、たちまち僕の中の「落ち着かない温泉ランキング」のベスト1に躍り出た。

つい最近、DSY漕行記で行った「家畜&発狂少年温泉」が早くも抜かれてしまった。

これには阿部寛もビックリだろう。


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すっかり温泉で疲れ果てしまったが、なんとか我々は本日のキャンプ地の穴吹川の川原に到着。

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ここでのんびりと網でツマミを焼いて、ささやかな宴だ。

しかし肝心の「網」をバターNが忘れて来た事が発覚。

ここで僕は出番がないと思いつつ持って来た、焚き火用のホットサンドクッカーを車から引っ張り出した。

買って1年以上経つが、一度も使う事がなかったこのホットサンドクッカーが、ついにこの四国で奇跡の光を放った。


試しにウインナーを挟んで食った所、その奇跡的なうまさに一気にテンションが上がる5人。

大量のエノキにバターかけて挟み込むと「きゅううぅぅ」というエノキの断末魔が聞こえ、そして信じられないうまさのツマミが完成する。

まるで小さなダッチオーブンのようなこの調理法を、いつしか我々は「ダッチ」と呼んでいた。


中でも一番のダッチ使い(たまたま一番近くにいただけだけど)が、このタオラーS改めダッチャーSだ。

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この食材を挟んで火に投入する際のダッチャーSの恍惚の表情と言ったらどうだ。

僕のホットサンドクッカーも、彼に挟まれる為に生まれたとしか思えないほどの愛称の良さだった。


こいつで挟むものに失敗はなく、ジャガバタですらまるで違う料理となって「パリパリとホクホク」の夢のコラボも実現する。

次第に論点は「どこまで挟めるか」になっていき、様々な名勝負が生まれた。

下の写真は、「ダッチャーS VS 巨大厚揚げ」の一コマ。

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見事に挟まれた厚揚げは、途中の醤油の投入で「ダッチ風焦がし醤油厚揚げ」という絶品料理になる。


その後も絶妙のタイミングでバターNがバターを追加する「追いバター」や、炭を上部に乗せて両面から加熱する「ダブルダッチ」、ダッチを利用してちくわを焼く「ダッチ置き」などの新語が続々と誕生した。

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すっかり楽しくなってしまい、簡単に済ませて早めに寝ようと思っていたのがすっかり深夜になっていく。

ご覧の出来上がりっぷりが最高のダッチナイトを物語る。

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もう誰一人目が開いていないえびす顔。

恐るべきダッチパワー。

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こうして波乱に満ちた「初日」が終わって行く。

初日にしては実に濃い内容の一日だった。


この日の夜、凄い暴風でテントがバタバタ言っていたが僕はあっという間に深い眠りに落ちた。

やっぱり川原キャンプは最高なのです。




〜激流どうでしょう第3夜へつづく〜

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