前回の壮絶なる前夜祭。
その祭りで男の身にこびり付いた諸症状は「連続登山疲労」「風邪気味の体」「マスオストレス」「夜泣き寝不足」「夫婦喧嘩の後味」の5本。(前回記事参照)
そんな、ある種のベストコンディションで挑む雪山中級者の山「伊吹山」。
天気予報はついに「快晴」「微風」予報。
雪山登山シリーズ最終章がついに始まった。
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伊吹山登山者駐車場の、ほんのちょっと下の駐車場に駐車。
実は普通に登山者駐車場に停めると1000円だが、そこから10秒歩いた所の民間駐車場は500円なのだ。
これ、知らずに1000円のほうに停めてしまったら切なすぎるだろ。
そんなこんなで、出発前の記念撮影。
ここは本来スキー場の入り口ゲートなんだけど、スキー場は数年前に閉鎖されてしまっている。
目が腫れぼったいのは、もちろん寝不足だからだ。
そして登山口に着くと、早速飛び込んでくる看板。
しょっぱなから恐怖をあおりやがって。
いきなりやる気を削いでくれる注意報が発令されている。
神はどうあっても僕を登らせたくないのか?
僕の場合「注意報」は「警報」に匹敵する。
降水確率0%でも、車のワイパーがマックスに動いた事もある男だ。
まだ登山口なのに、激しい不安感が僕を支配した。
そしてここからは非常に地味で、かつ意外と急でしんどい道が延々と続く。
厳冬期であれば、もうこの辺からすっかり雪だったろうに。
そしてこの地味な区間が結構長い。
中々一合目が現れず、この間隔が頂上まで続くのかと思ったらゾッとした。
何はともあれ、一合目到着。
スキー場の閉鎖により、すっかり廃墟と化した場所だ。
ここからは、かつてのゲレンデだった場所を延々と登って行く。
もちろんスキー場だったから、中々の急登だ。
登って来た道を振り返れば、ズバンと景色が開けて、奥には琵琶湖が霞んで見える。
ここで2つの事にお気づきだろうか?
まず1つ目は、今までになかった物が背中に括り付けられている事だ。
別にエロすぎて亀仙人になったわけではない。
今更ながら導入した「シリセード用」の子供用ヒップソリだ。
下山時に、快適に雪面を滑って下ってくる為のアイテムだ。
そして2つ目は、そのソリを使う為の「雪」が全くない事だ。
やはり来るのが遅かったのか?
シリセードどころか、これの一体どこが「雪山」なんだ?
どの辺りが「なだれ注意報」なんだ?
僕のモチベーションが崩れて行く事への注意報だったのか?
またしても僕は不安に支配された。
しかし、登り続けて二合目を過ぎるとちらほらと雪が現れ出した。
そしてついに僕の眼前に、目指す伊吹のピークがドドンと姿を現した。
待たせたな、伊吹ジョーよ。
僕の気分は再び高揚し、壮絶な減量を乗り越えた力石徹のような気分になった。
僕は勇ましくリングに向けて歩き出した。
しかしそのリングまでの花道は、すっかり「ゲリ道」と化していた。
もう雪が溶けちゃってるから、グッショグショなのね。
絶対来るの遅かったって。
こんなの雪山登山じゃないよ。
こうして力石はクソの花道をグチりながら進んで行った。
やがて足下をクソまみれにしながら三合目に到達。
最後のトイレが現れた。
クソまみれついでに、一発ここにクソをお見舞いしてやろう。
僕が生きた証を、この伊吹の大地に奉納するのだ。
僕は全力で踏ん張り、己の分身を便器へと切り離した。
その時、肛門に突き抜けた「冷やっこい」感覚。
何事かと思い投下物を確認すると、目を疑う凄惨な光景が飛び込んで来た。
鮮血が飛び散り、便器が真っ赤になっている。
投下物との美しき茶と赤のコントラスト。
これは何かの新しい韓国料理なのか?
冬の伊吹山三合目での、まさかのケツから「吐血」。
怪我したときの為に絆創膏を持って来ているが、まさかケツの入り口に蓋をするわけにはいかない。
いよいよ追いつめられた僕のコンディション。
最近ずっと大人しかった切れ痔が、この局面で炸裂するとは。
登山口の「なだれ注意報」とは、さてはこの事だったのか。
この二日で父親の威厳、養子の慎ましさ、嫁の愛とともに、大量の血までも失ってしまった。
もはやこれ以上失う物は何もない。
文字通り「尻に火がついた」状態だ。
もうこうなったら、この勢いで一気に伊吹山のピークハントを狙ってやる。
猛々しい後ろ姿だが、まだケツがシパシパする。
それでもこの手負いのマゾは、あくまでも頂上を目指す。
彼の奮闘に多くの観客が涙する事だろう。
大分足下が雪で覆われ、やっとゲリ道とはおさらばだ。
かと言っても、雪が「シャーベット状」なので、なんせ滑って歩きにくいったらない。
たたでさえ、今の僕に「踏ん張り」は効かない状態だ。
これ以上踏ん張ると、体中の血を紛失する事になる。
やがてやっとこさ「四合目」到達。
実はここから道が二手に分かれていた。
地図を見てもイマイチどっちが正解か分からない。
すると左の道の入り口付近に「雪だるま」を発見した。
おそらくこっちが正解という事を表現しているんだろう。
そして僕はその道を突き進んで行く。
何やら人の踏み後らしき物も何もないが、地図見てもあってるっぽいから進んで行く。
上を見上げると、この場所で「雲が作られる瞬間」が目撃出来た。
うまく表現できないが、「こうして雲は出来るんだ」っていう場所だった。
こうして伊吹山にぶちあたった気流で雲が作られ、伊吹おろしとともに岐阜に雲を運んで行く、まさに雲の源流部だ。
急がないと、こんな晴天がいつまでもつか分からないぞ。
次第に道はどんどん急になって行き、凄まじくハードな展開になって来た。
だんだんと「この道であってんのか?」という激しい不安が僕を支配する。
やがて道はどんどん狭まって行き、最終的に行き詰まった。
もうこれ以上先には進めなくなっている。
実に分かりやすい遭難だ。
随分と登って来てしまったが、これで道が間違っている事がはっきりした。
今注文しているハンディGPSが、今日の登山に間に合っていればこんなことにはならなかったろうに。
やっぱりつくづく僕にはGPSが必要だな。
登山道も、そして人生にも。
結局せっかく登って来たこのハードな急登道を、むなしく引き上げて行く。
やがて、僕をこんな目に遭わせた「雪だるま」が再登場。
一体誰がこんな紛らわしい物作ったんだ。
普通の人は騙せなくても、この僕は騙されるぞ。
伊吹の罠は実に恐ろしい。
結局余計な体力を失って、やっとの思いで五合目に到達。
やっと、半分。
というかまだ半分なのか?
僕は無駄な道迷いと無駄な出血によって激しく消耗していた。
しばしこの場所でぐったりと休憩。
お尻の状態が不安なので、しっかり座って休憩することも出来ない。
「無事下山出来たら、ちゃんと痔を治そう。」
そう固く誓った瞬間だった。
しかし、ここからの後半戦。
そこはマゾと恐怖が支配する世紀末登山だった。
冬の伊吹山の本番はここから先にあった。
ついに本気を出した伊吹山が、傷だらけの男に襲いかかる。
〜伊吹山後編につづく〜
流血の挑戦者〜伊吹山前編〜
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MATATABI BASE
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