銚子ヶ峰/岐阜

秋の中性脂肪祭り二日目 in銚子ヶ峰/前編

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ひとりぼっちの猫背男。

標高1800m。

孤独感と疲労感を漂わせて遠くを見つめる男が目撃された。



こう見えて彼は今祭りの真っ最中。

前日の大日ヶ岳に続く「秋の中性脂肪祭り2012」の二日目を迎えている。


しかし昨日まで7人もいた祭りの参加者がついに彼一人になってしまった。

薄々分かっていたことだが、誰も好き好んでこんなマゾの酔狂に付き合う人などいない。

期待したアゴ割れMはまさかの肉離れ&台湾泥酔により初日でリタイア。


ついにいつも通りの一人祭りとなってしまった二日目。

男の無理が止まらない。


すっかりタレントに見放されてしまった敏腕プロデューサーの、その後のお祭り風景を追って行こう。


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5時にセットしていた携帯のアラームが鳴る。

しかしまるで体が動かない。


絵に描いたような二日酔いで頭がぐあんぐあんしている。

深夜に激辛嘔吐ショーと台湾男との死闘を繰り広げた僕にはとても起きる気力が湧いて来ない。

ある程度予想はしていたが、やはり計画に無理があったか?

見事に僕は深い二度寝に突入。

この時二度寝していなければ、後の「サンマ定食の悲劇」は起こらなかったはずだ。



結局7時半くらいに起床。

その気になれば「おはよう」と言う前にゲロが吐ける状態。

正直もう登山なんてしたくない。



でも外を見ると、僕の期待に反して絶好の登山日和の大快晴。

普段なら狂喜乱舞するシチュエーションだが、この時ばかりは舌打ちが飛び出す。

せめて曇ってればすんなり諦められたのに。


しかしこれは祭りだ。

こんな天気の日に行かないで後悔するより、行ってゲロまみれで死んで後悔した方がマシだ。


即座に僕は山に行く準備を始める。

すでに他のメンバーは「こいつは本当に行くのか?」「なぜそんな事をするんだ?」「何がお前をそうまで突き動かすんだ?」といった変態を見る目で僕を見ている。

もちろん聞くまでもなく彼らは行かない気満々だ。


中性脂肪祭りを途中下車する事になったメンバー達から、激励の食パン・アンパン・魚肉ソーセージ・ソイジョイを託され、同時に彼らの夢も託された。

何とか僕一人でもこの祭りを完走してみせる。

みんなの無念の思いを晴らしてみせるぞ。

(そもそも登山+BBQを楽しもうというだけの平和な企画なので彼らが正しい。来なくて当然。)


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僕は颯爽と皆に感動の別れを告げ、車で別荘を走り去る。

そして5分後に忘れた携帯を取りに戻るという羞恥プレイ。

さらに広大で迷路のような別荘敷地内から出ることが出来ず迷子になる男。

いつまでたっても出発できない。

祭りは早くも始まっているようだ。



そしてひたすら車を走らせ、結構な悪路の中で延々と山の中へと侵入して行く。

コンビニなんてないから、餞別で貰った食パンを素のままモソモソと食う。


ちなみにその頃、他のメンバーはこの様な物を食べていた事が後に提供された写真で分かる。

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早くも劣勢だ。

明らかにこちらの祭りのが盛り上がっている気がしてならない。


そんな事は何も知らない二日酔い男が、やっとこさ登山口に到達。

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表情の覇気の無さと言ったらどうだ。

滲み出ているのは登山が始まる高揚感というより壮絶な倦怠感。

今最も必要なのは山を登る力よりもウコンの力だ。

未だに頭痛がする。


そのままフラフラと登り始める男。

彼はここで早くも痛恨のミスを冒してしまう。

登山口にあった水を汲み忘れたまま、一切の水分を持たずに登り始めたのだ。

二日酔い男にとっては完全なる自殺行為が始まった。


そして早速そんな彼の目の前に現れるのは、どこまでも続く急登階段ヒットパレード。

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スタートからわずか3分で早くも心を折られる男。

祭りも二日目ともなれば、やはり出だしの勢いが違うぞ。

しかしここで折れてはダメだ。

みんなに夢を託されている以上、這ってでも登りきってみせる。



その頃、すっかり僕の存在は頭から消えたメンバーが遊びに繰り出している模様。

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別荘地の爽やかなる朝。

正しい人間達の正しい休日の過ごし方。



もちろん今、嘔吐への欲求と戦いながら階段を這い上がっている男には彼らが何をしているかは分からない。

そしてグハグハと随分上まで登った辺りで気付く。

「水、汲み忘れてるじゃないか」と。


たちまち絶望感に支配される二日酔い男。

普段の8倍は体が水を求めている最中で突きつけられた現実。

地図を見れば一応途中に「水場」と書かれた場所があった。

所要時間、ここから実に「2時間」。

祭囃子が鳴り止まない。


こうなれば割り切ってこの祭りを全力で楽しんでくれる。

踊る阿呆に見る阿呆、同じアホならマゾらにゃ損々。


階段を登って行くと、やがて僕は何やら視線を感じた。

その方向を見れば、手前の木の後ろに何やらとてつもなく巨大な物が見えるぞ。

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「いとしろの大杉」さんのご登場だ。

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大して期待していなかっただけに、なんだかとんでもなく凄く感じるぞ。

屋久杉と変わらないくらいの大迫力。

まるで嫁の目の前に立っているかのような威圧感。


どうでもいい所に全力を傾ける低収入男に対する嫁の怨念が現れたのか?

僕は妙に怒られている気分になったので足早にその場を離れた。


そして試練のような急登が始まる。

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時折「おええっ」という吐息が漏れる。

昨夜に吐ききれなかった僕の中の台湾軍が「早く出撃させてくれ」と僕を煽る。

さらに僕の中の自衛隊が「水、水をくれ…」と必死の訴え。


これが試合なら間違いなくレフェリーストップの局面。

しかしこれは自業自得祭りだ。

ここに来れなかったあいつらの為にも、この歩みは意地でも止めてなるものか。

僕には遊んでる時間なんて無いんだ。



その頃、彼らは無邪気に遊んでいた。

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もうこの頃には彼らの中で僕の存在なんて歴史上の人物くらいに過去の人になっていた事だろう。

歴史上でも後世に名を残す人間がいれば、歴史の闇に消えて行く名もなき男がいるものだ。



しかし闇に埋もれる側の男にもついにご褒美の時がやって来た。

道はひたすら平坦になって行き、

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燃えるような紅葉が始まったのだ。

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決して僕が血を吐いて辺り一面が真っ赤になったわけではない。

これはまぎれもなく紅葉だ。

すっごく奇麗で気分がいいぞ。

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体調さえ良ければだけどね。


体の脱水症状がその景色を楽しむ事を許さない。

やがて干し椎茸のような状態の男の前に、何やら不穏な標識が。

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「おたけり」の言葉の意味は分からないが、何やらその響きが僕に強烈なダメージを与えそうな予感がする。

この手のネーミングの先に待つ世界は、今までの経験上ろくな思い出がない。


案の定、おたけり坂はゴング直後から激しく急登に襲いかかって来た。

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おい、随分とおたけってるじゃないか。

その坂はとんでもない急斜面でひたすらおたけり続ける。

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延々と延々とおたけりまくるおたけり坂。

さすがの僕でももうこれ以上おたけれそうにない。

おたけりすぎて、体内から昨日の台湾ラーメンが大量の汗となって吹き出すピリ辛男。

唐辛子とニンニク臭に包まれる脱水野郎。

本気で厳しい事になって来た。


後にこの坂の由来を調べてみました。

このように書いてあります。

「おたけり坂はかなり急な坂道です。泰澄大師の母が女人禁制の白山に登ろうとしたときに、神様のおしかりをうけた場所だと伝えられています。坂の途中には泰澄大師の母が血や槍の雨をしのぐために雨宿りしたと伝えられる「雨宿りの岩屋」があります。」


おしかりをうけた場所…

それに血や槍の雨って…

身に覚えがあるから、今後この坂の事を「どえすよめ坂」として新たに名付けておこう。



必死でどえすよめ坂をおたけりきると、やっと平坦な道に出る。

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そしていよいよ銚子ヶ峰の山頂を捉えたぞ。

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山肌にポツポツと赤い紅葉が点在し、非常に美しく雄大だ。

僕肌もポツポツと赤い唐辛子の汗が噴き出し、非常に臭くて辛いぞ。


ここからの道は快適そのものだった。

ひたすらに美しくて歩きやすい紅葉の楽園回廊。

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以前アウトドアショップの店員に「この辺で一番良かった山は?」と聞いた時に、「秋の銚子ヶ峰」と答えていた事を思い出した。

確かにこの山は登る時はがっつり登り、平坦な場所はひたすら平坦というメリハリのある山で、初心者山ガールなんてお誘いするにはもってこいの場所かもしれない。

ちゃんと通常の体調で水を持っていればの話だがね。

そもそもこんな全身が台湾ラーメン臭で、脱水により口の端に泡作っているようなおっさんに山ガールはついては来ない。


その後も紅葉にメロメロで脱水にヨロヨロしながら進んで行く。

そしてついに地図に「水場あり」と書かれていた「神鳩ノ宮避難小屋」に到達。

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やっとこの2時間映画「脱水野郎 Mチーム」がエンディングの時を迎えそうだ。

僕は即座に荷物を降ろし、リザーバー(水筒)を持って付近をゾンビのようにうろつく。


どうした。

水場が見当たらないぞ。



僕は泣きそうになりながら休憩中の他の登山者に「水はどこですか」と尋ねた。

彼が指を指した方向へ向かう。

なんとここを降りて行けと言うのか。

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ここまでこればすぐに水にありつけると思っていた男の、微塵も予期していなかった延長戦。

まるで42.195キロ必死で走って完走したかと思っている男に、追加で+10キロ走れと言っているようなこの仕打ち。


男は「俺に水を飲ませろ!」と叫びながら突っ込んで行った。

まさに筋肉少女隊「日本印度化計画」以来の悲痛なシャウトだ。


しかし銚子ヶ峰も「祭りを盛り上げろ」とばかりに、壮絶なジャングリーロードで迎え撃つ。

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はっきり言って、この登山の中で一番過酷な登山道。

どこまでもどこまでも下降して行く水場への道。

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一体どこまで降ろせば気が済むんだ。

まさかこのまま下山させるつもりじゃないだろうな。


やがて放尿現場のようなジョロジョロと流れ出す水場を発見。

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餓鬼のように水に突っ込んで行った事は言うまでもない。

キリッと冷えたその水が五臓六腑におたけりまくる。

その強烈な美味さは、二日酔いで二時間山を登り続けた者のみが許された絶妙なる味わい。

僕は今誰よりも幸せな男だ。


という麻痺を起こすほどの美味しいお水。

しかし水を汲んで再び上を見れば、今来た急降下ジャングル道を今度は大急登しなくてはいけないという現実。

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あんなに美味しかった水だが、今はたっぷりと汲んだ3Lの重りとなって僕にのしかかる。

山で水を得るというのは戦いだ。

今後、蛇口の水を無駄に使う奴を見たらぶん殴ってやる。



やがてふらっと水を汲み行った男が、ふらふらになって小屋に帰って来た。

そのままベンチに座り込み、息を切らせながらアンパンを食う。


そこで僕の体に原因不明の異変が生じる。

背骨上部に「ピキィーーンッ」と電流が走った。

何だ?

何もしていないのに背中を痛めてしまったぞ。


すごく背中が突っ張る。

息を吐く度にピリリと痛い。


思い当たる行動と言ったらアンパンを食った事だけ。

このアンパンは矢作Cに餞別で貰ったもの。

まさか彼なりに祭りが盛り上がるようにと、わざわざ何かが混入したアンパンを提供してくれたのか?

それとも矢作Cが串焼きの仕込み中に、ビールばっか飲んで働かなかった僕への腹いせで何かを仕込んでいたのか?



何にしても祭りはハードな展開。

中性脂肪祭りは二日目にして「中年死亡祭り」へとシフトチェンジして来たようだ。


それでも歩みを止めないお祭り男。

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一歩一歩、一呼吸一呼吸が背中にダメージを与える。

やっと脱水祭りが終わったと思っていたら、早くも背骨祭り突入。


みんなはきっと来なかった事を後悔するに違いない。

みんな感じているか?

こっちはすっごく盛り上がっているぞ。

悔しくなんて無いし、ましてや後悔だってしてないさ。

ただちょっとだけ目から水がこぼれる程度の話さ。

さっき沢山水を飲んだから溢れちゃっただけだよ。

あんまこっち見んなよ。

見んなって。



こうして男は一人メガネを曇らせながら、静かに山中へと消えて行った。



中性脂肪祭二日目 in銚子ヶ峰〜後編〜へ つづく 



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