養老三山/岐阜

聖なるピンチヒッター〜養老三山〜

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週末。

快晴の土曜日は、丸一日アンパンマンミュージアムでパン共と戯れて久しぶりの家族サービスが出来た。

多少ポイントが溜まったものの、当然フラストレーションも溜まった。

天気もいいし、山に行きたい。


でも、前回の藤原岳で大事なトレッキングポールを1本失くしてしまっている。

僕の中では「トレッキングポールとサポートタイツがない状態では山に登りたくない」という信念がある。

特にこの2本のトレッキングポールは、僕の登山を支える最重要アイテムだった。

僕が劉備とするならば、左右のポールは関羽と張飛のような存在だ。

どれか一つでも欠けてしまえば、思ったような登山が出来ない。

しかし残念ながら、藤原岳攻防戦で呉軍の急襲を受け我が義弟関羽が死んでしまった。


あれからずっと悲嘆にくれる僕。

だから、新たにポールを買うまではしばらく大人しくしておく事にした。



しかし、土曜日の夜。

玄関の傘立てから天の声が聞こえるではないか。

「私を使いなさい。」

なんとお遍路さんの時に使った金剛杖が僕に囁くではないか。

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弘法大師空海が関羽のピンチヒッターとして名乗りを上げた。


なるほど、こいつがあれば新しいポールを買うまでの当座は凌げそうだ。

いや、むしろ不幸な僕にとってこれ以上ご利益のある相棒もいないだろう。

僕は聖なる力であらゆる困難から守られるはずだ。

しかも鈴も付いてるから、熊避けにもなるし。


こうして張飛と空海という異色の二刀流で、翌日の日曜日の登山が可能になった。

しかしこの時の呼びかけが、悲しい出来事への第一歩となるとは僕は知る由もなかった。


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日曜日、朝8時に家を出発。

男の向かった先は「養老の滝」。

もちろん張飛が酒好きだからといって居酒屋チェーン店に飲みに行ったわけではない。

「養老山」「小倉山」「三方山」の養老三山縦走登山だ。


三山縦走といっても、そんなにレベルは高くないから気楽な雪山登山だ。

危険度は低い上に、今回は聖人空海のご加護まである。

恐らく何事も無く終わって、ブログ的にはつまらないものになるはずだ。


そう思っていた。

「その時」が来るまでは。


僕の今シーズン最もショッキングな瞬間「その時歴史が動いた」がスタートした。


ーー「その時」まで、残り1時間ーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


家からおよそ40分程で、養老山が見える場所まで辿り着く。

本日の養老のYahoo天気予報は朝から晩まで「晴れ」マークが踊っていて降水確率も0%だった。


今に始まった事じゃないが、思った通りの光景が広がっている。

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養老山は深く雲の中で、フロントガラスを叩く水滴はどう考えても雨だと思うんだが。


養老の滝観光駐車場の前でしばらく思案に暮れる。

もう帰ろうかな。


でもきっと空海のご加護で今後晴れて来るはずだ。

いくらなんでもあの予報で、ずっとこんな感じが続くわけがない。

僕は意を決して駐車場に入って行った。


この時帰っていればあんな事には…。


ーー「その時」まで、残り20分ーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

早速準備を整えて出発だ。

まずは養老の滝を目指して観光路を歩いて行く。


ここで一つニューアイテムをご紹介しておこう。

最近、金華山で使い勝手の良かったグローブを失くしたので(罪と罰)、新たに購入したもの。

スマホが操作出来るグローブ、ノースフェイスのEtip(イー・チップ)Gloveだ。

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登山中やランニング中に結構頻繁にiPhoneを操作するので、その際いちいち手袋を外さなければいけなかったのが煩わしかったからこいつを購入した。

人差し指と親指部分に特殊加工が施してあるから操作出来るってこと。

若干その部分が滑りやすいのが気になる所だが、中々良いものを手に入れた。

これで、これからグローブしたままでもサクサクとiPhoneを操作出来るぞ。


ーー「その時」まで、残り1分ーー


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しばし歩いて行くと観光マップの看板が出て来た。

早速iPhoneに入れて来た地図と照合してみよう。


僕はiPhoneを取り出し、早速この革新的ニューグローブでカションとロックを解除。

やっぱ、ちょっと滑るな。


あ。

あっ。

ああっっ!


そして次の瞬間。


ーーその時歴史が動いたーー


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いや..。

いや…。

イイイイヤアアアアアアアアッッッッッッッッ!

キャアアアアアアアアアッッッッッッッッ!

UUUUURRRYYYYYYYYYYY!


なんて事だ。

もう一度言う。

なんて事だ。


まだ買って半年も経っていない我がiPhone4Sを落として割ってしまった。


サクサク操作するためにこのグローブを買ったのに。

サクサクどころか、ザクザクになってしまったじゃないか。


おお、神よ。

なんの恨みがあってこのような仕打ちを。


おい空海、どうした?ご加護は?

天国で天才同士、ジョブズと喧嘩でもしたのか?

iPhoneになんか恨みでもあるのか?


最近何かを失っては何かを買って、そしてまた何かを失う。

何かが壊れれば修理して、別の何かを壊す。

今に始まった事ではないが、最近この負の連鎖っぷりが激しくなっている。

空海は僕に「輪廻転生」の教えを説こうとしているのか?

だったら空海よ。

もう十分身にしみてるからやめて。ほんとお願い、もうやめて。



こうしてまだ登山口に着く前に、早くも本日のKPP(心ポッキリポイント)が訪れてしまった。

かつてこれほどのローテンションで山に登り始めたのは初めてだ。


もう割れてしまったものはしょうがない。

まだ裏のほうで良かった。

空海のおかげで、画面の方が割れなかったんだと前向きに考える事にしよう。

割れた分だけ楽しめば良いじゃないか。


気勢を張っては見たけど、僕はいつもの倍の猫背で登山口にトボトボ歩いて行った。


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やがて名瀑「養老の滝」が現れた。

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この程度のマイナスイオンでは、僕のマイナスな心を癒す事は到底出来ない。

いっそこのまま滝にでも打たれてみようか。

全てを忘れさせてくれるかもしれない。

そしてそのまま安らかに眠れるのではないか?


そもそも、昨日お遍路杖を見つけなければこんなことには…。

5分でも家を遅く出ていれば…。

あの信号が赤だったなら…。

それを言ったら金華山でグローブを失くさなければ…。

金華山に行ったのもニンニクを食ったせいだから、ニンニクさえ食わなければ…。

会社の新年会だった訳だから、入社してなければ…。

転職も養子になったせいだから、嫁と出会わなければ…。

じゃあ僕が生まれて来なければ…。


生まれてすみません。



いかん!


またしてもネガティブの滝壺にはまっていってしまった。

空海から与えられしこの試練。

前向きに行かないと。

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やがて登山道に入った。

しばらく行くと看板が出て来た。

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どこをどう進めば良いかまるで理解出来ない看板だ。

僕はまたしても試されているのか?


とりあえず、なんとなくそれっぽい道を進んだ。

人の足跡もあるから、間違いないだろう。

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しばらく足跡をたどって行ったが、どうも様子がおかしい。

足跡は随分ハードな場所から川を渡って行っている。


しかたなく足跡を辿って行くが、やがて僕は気づく。

人間の足跡にしては随分小さいなと。

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獣じゃないか。

随分ワイルドなコース取りと思ったが、これで納得だ。

ワイルドに割れたiPhoneを持つ男らしく、僕もワイルドにそのコースを攻めて行った。

もう、どうにでもしてくれ。

運命を受け入れる準備は出来ているぞ。


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野生の導きで、なんとか登山道に復帰。

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何とかなるものだ。


ここからはアイゼンを装着して、しばらくはクネクネと高度を上げていく。


途中このような看板が現れる。

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どうやら以前、ここから滑落して亡くなってしまった人がいたらしい。

この場所は当然として、今後はあの場所にも「iPhone滑落注意」の看板を設置しておいてもらいたい。


ついでにどうでもいい情報を載せておく。

実はこの場所で右肩をつった。

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ザックを降ろさずに、背中から無理にクリームパンを取ろうとした結果だ。

些細な事も空海は見逃さない。

人間、横着したら痛い目に合う事を教えていただいた。


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しかしそれにしても、中々いい感じの雪山だ。

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激しい坂があるわけでもなく、のんびりと雪中ハイクができて中々よろしいぞ。

だんだん天気も良くなって来たし、強行軍で登って来て良かったかも。

辛い事はあったが、ここからは気合いを入れ直していこう。


無理矢理テンションを上げる方法。

こんな時はやっぱりリンダリンダだ。

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中年にしてはそこそこ飛べてるんじゃないか?

マゾネズミだって美しく生きてやるさ。


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しばらく気持ちのいい登山道を歩いて行く。

やがて一つ目の山「三方山」への分岐が見えて来た。

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このあたりから、結構登山者がどこからか増えて来た。

若い山ガールもいたから、僕はベテラン山ボーイ風に精一杯格好付けてニコリと笑う。

しかしよくよく見ると、僕の手にはお遍路金剛杖の異質な修行ボーイ。

なぜか彼女達との距離を感じてしまった。



やがて三方山の山頂に到達。

結構凄い眺めだ。

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ここからは、なんと我が家まで見える位置だ。

嫁を上から見下ろすなんて、実にいい気分だ。

せめてここにいる間だけは、丘亭主関白でありたい。


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三方山からは縦走路の平坦で気持ちのいい雪道が続く。

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やがて笹原峠の尾根に出た。

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尾根に出た事で、突風と共に細かい雪がキラキラと舞う。

ここからは新雪が豊富になって来たから、スノーシューに履き替える。


景色もいい感じになって来て、大分気分も晴れやかになって来たぞ。

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樹氷のトンネルだ。素晴らしい。

薄い雲越しに太陽の光がグレーに滲んで、大変神々しい。

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やはり試練の後にこそ、この様な神々しい自然の姿に感動出来るのだ。

色即是空空即是色。

小さな事でいちいちへこんでる場合じゃない。

すべては空ですね、空海さん。


感慨深く哲学にふけっていたら、突然激しく吹雪いて来た。

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せっかくポジティブになりかけて来たのに、横殴りの吹雪が僕を痛めつける。

さっきまでは「へこんでる場合じゃない」って言ってたのに、すっかりへこんでいる自分がいた。


まだまだ修行が足りないようだ。

もっと自分を痛めつけていかんと。

僕はニヤリと笑って小倉山の山頂を目指した。


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着いたぞ、二本目の山「小倉山」の山頂。

今度はザイルパートナー空海さんが登頂記念撮影。

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相変わらず風は強いが、ご利益パワーで吹雪も収まって来た。


1000mに満たない山だから甘く見ていたが、ここまで来ると中々の積雪量だ。

テーブルらしきものが埋もれているし。

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結構良いな、冬の養老三山。

あんまり人もいなくて、ここまでくると踏み跡のない新雪パラダイス。

スノーシューで遊ぶにはもってこいのフィールドだな。

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うーん。堪能した。

踏み跡のない新雪を歩き回るだけが、こんなに楽しいとは。

嫁が寝転んでいる僕のケツを踏みにじって喜んでる気持ちがよく分かった。

分かるけど、一応かつて愛を誓った相手のケツを踏んじゃダメだ。

僕の心の雪原は蹂躙されすぎて、もう白いアスファルトと化している。

でも踏まれながらも満足げな顔をしていたりするので、ちょうどいいのか?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

さあ、ラストの養老山へ向けて新雪ハイクだ。

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ここからはさらに新雪オンパレード。

あえて踏み跡のあるルートからはずれて、フカフカの雪を堪能する。

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振り返っても僕の足跡しかない。

これこそ本当の「ヴァージンロード」。

いや、僕は男だから正式には「童貞ロード」か。

なんか急に響きが情けなくなるのはなぜだろう?


そして踏み跡のある道に戻って、一路養老山の山頂を目指す。

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美しい。

なんてセクシャルな白肌流線型ボディー。

いいぞ。

この先のフィナーレ、養老山の山頂はどんなに素晴らしいことだろう。



そしてついに養老山の山頂へ到達した。

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展望ゼロ。

過去最高に地味な山頂だ。

たまたまそこにいた山ガールさんに撮影してもらったんだが、彼女も怒りで手が震えているようだ。

写真がブレブレじゃないか。

それともiPhoneアウトローモデルを使いこなすワイルドな僕に緊張でもしているのかな?


しかしハードボイルドすぎる僕は、あまり若い子とおしゃべりできない。

ワイルドシャイボーイの僕はこの山頂の広がらない景色と同じく、その山ガールと大して会話を広げる事は出来なかった。


そして僕は地味に風が来ない林の中でおにぎりを食って下山して行った。

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


下山後、車に着いたから嫁に下山報告だ。

少しでも心証を良くする為に、温泉にも入らず直行で帰りますと伝えてやろう。

こうした日々の努力が僕の冒険を支えるのだ。


電話をするべくiPhoneを取り出す。

ずっとしまっていたからすっかり忘れていたが、久々に現実を再び目の前に突きつけられた。

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しかし、今日一日の修行を経て僕は強い心を手に入れた。

よく見るとカッコいいじゃないか。

道具はハードに使ってこそ道具なんだ。


そう言えば僕は自分の車「エクストレイル」を新車購入した二日後に底をへこませ、その四日後に当て逃げされている。

そういう儀式を経て、初めて人は割り切ってその道具と本物の付き合いが出来るんだ。


今回もつまりはそう言う事さ。

そう思う。

そう思いたい。


悔しい。

やっぱり悔しいです。

そう思うなんて無理だ。


アウトドア用の強靭なiPhoneケースを探していた矢先だっただけに悔やまれてならない。

こんなことならこだわらずに安いケースでもとりあえず買っときゃ良かった。


僕に必要だったものはアイゼンでもピッケルでもなかった。

iPhoneケースだったんだ。


しばらくは、この割れかかった心を保護してくれるカバーを探す旅に出よう。

まだまだ僕のお遍路修行は続いて行くのだ。



聖なるピンチヒッター〜養老三山〜 完



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コメント

    • 空海
    • 2012年 2月 14日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    まぁB旦那なわけだが、

    http://www.dealextreme.com/p/replacement-battery-back-cover-for-apple-iphone-4s-black-115244

    これ使ってみ。
    届くまで2週間ほど我慢だけど、送料無料だから700円ぐらいで復活さd(^_^o)

    ただiPhone解体には星形ドライバーがいるよ!

    ケースもあるから消耗品はここで揃えるのがいいよ。

    ポイントは別発注w

    • yukon780
    • 2012年 2月 14日

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    おおおおお。
    弘法大師様。
    貴重なる情報に感謝いたします。

    早速買っちゃいました。
    この値段で送料無料ってどうした事でしょう。

    星形ドライバーももちろん買いました。

    ついでにバッテリー付きケースの安いやつも。
    明らかにチャイナ的な雰囲気のした、格調高いものにしました。
    まあ、壊れてもショックの無い価格なんで試しに。

    実にヤバいページですね。
    一日見ていても飽きないす。
    また悪いお知恵を拝借しちゃいましたね。

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