ゴールデンウィーク。
毎年のように言っているが、それはカヌー野郎達にとって「魂の季節」。
鮎釣り解禁前だから気兼ねなく川を下る事が出来、新緑も眩しいスペシャルウィーク。
僕が1年のうちで最も大切にしている、まさにゴールデンなウィークなのである。
今年はGW前半戦を全て家族へのごますり強化デイとして費やし、後半の脱出に向けて万全を期した。
まあ結果としては3回にわたって家族をツラい目に導いてしまったのは記憶に新しい。
何はともあれその努力の結果、僕はGW後半に3日間の仮釈放の恩赦にありついた。
そこで計画したのが、和歌山に残る今だ未漕の謎の川の開拓遠征。
それは「和田川」「静閑瀞(せいかんとろ)」「四村川」の超マニアック3本立てという、アドベンチャー色満点の企画だった。
静閑瀞に至ってはもはや「川」というワードすら無くなっており、沢屋さんが突っ込んで行くような世界。
もう考えるだけでワクワクと勃起が止まらない大冒険なのである。
しかし我がワクワクが止まらないほど、満を持して準備すればするほどに天はそれを見逃さない。
天気予報はみるみる悪化の一途を辿り、桜の開花のように傘が華やかに開花する。
最悪和歌山がダメだったら他に天気が良い所に行こうと思っていたが、見事に日本全国逃げ場がない傘乱舞。
結果的にせっかく手に入れた3連休の初日を失う羽目に。
普通の人にとっては「しょうがないね」で済む話だが、僕にとっては楽しみにしていた初体験をとんでもない老婆に捧げてしまったに等しい喪失感なのである。
この時のショックが伝わるだろうか?
しかし我がショックはそれだけでは終わらない。
今回は次回の記事に向けてのプロローグ記事。
というか次回の綺麗な記事と混同させたくないんで、汚れ物をここに分離したかったための強制前編なのである。
それではそんな彼の年に一度のゴールデンなウィーク。
彼が全く下る予定じゃなかった「熊野川」に至るまでの彷徨の模様をサクッとお送りしておこう。
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貴重な一日を雨で失ってしまった。
結局その日は「移動日」として諦め、二日目の早朝から最高のスタートを切るべく気持ちを切り替える。
なんせ二日目と三日目は好天の予報。
今日一日我慢すれば全て報われるのである。
しかし移動日と言えど、移動だけで無駄にしては遊び人の名がすたる。
移動の途中、前々から行ってみたかったアウトドアショップのモデラートさんへ寄ってみた。
ほんのちょっと店内の様子を見たかっただけだ。
そもそも今僕はかつてないほどの金欠状態だから、何かを買ってる場合じゃない。
ではなぜだろう?
なぜここに2時間もいてしまったのか?
そして助手席にまでついて来てしまったこのニューアイテム達は何事なのか?
まさかまた散財してしまったのか…。
ちょっと店内の様子を見るだけだったのに、気づいた時にはキルトシュラフ・レインパンツ・ハーフパンツ・ロングペグをお会計してしまっていた。
今日という一日を意味あるものにしたかったばかりについ魔がさして…。
だってめったに現物見れないローカスギア・ティートンブロス・アークテリクスの欲しかった商品置いてやがるし、試着させやがるし、サイズピッタリだし、店員さん可愛かったし、イーストンのペグなんて廃番で諦めてたやつがレジ横においてあるんだものつい…。
クソ…雨さえ降らなければ買わずに済んだものを…。
私は何も悪くない。
悪いのは貴重な初日に雨を降らした天である。
こうしてスーパー金欠からEX金欠に進化した僕は、できるだけ先々の事を考えないように一路和歌山へ向かった。
やがて数時間後。
熊野近辺に到着した僕に「あれ?今日って台風だっけ?」と思ってしまったほどのウェルカム大暴風雨。
相変わらず熊野の歓迎は凄まじい。
車のワイパーのマックスを繰り出すのは、いつだって熊野なのである。
さすが天下の多雨地帯。
コンビ二行って車に帰って来るだけで全身がグッショグショになるほどである。
基本雨で前が良く見えないし、両手ハンドルで唾を飲み込むのも忘れるほど運転に集中しないと暴風で車ごと崖から落ちそうなエキサイトドライビング。
そのあまりの雨の勢いに「おや?さては明日河川は大氾濫なんてオチじゃないのか?」と不安がよぎりまくる。
スマホの天気予報も良い感じの注意報を展開。
河川の増水なんて訳のわからない事まで書いてある。
しかし和歌山の名川たちの回復力を私は知っている。
豊富な森林に覆われた山の保水力はハンパ無く、例え増水していても清流はキープされている。
それが和歌山の川の力なのである。
僕は何も疑う事なく暗闇の中で熊野川を北上し、道の駅でビリギャルのDVDを観て一発泣いてから酒を飲んで眠りについた。
やがて朝が来た。
勝負の二日目である。
ここからやっと我がGWは始まるのである。
車から出る。
熊野川を見る。
するとそこには「あれ?ここって黄河だっけ?」と思ってしまうような状態が展開していた。
たっぷりと大増水して濁流と化している清流熊野川。
僕は思わず優作と化して「なんじゃこりゃあ!」と叫ぶのが精一杯。
ワナワナと震えてすぐには事態を飲み込めなかった。
たった一日の雨でここまで増水するって、一体どんだけ降ったんだ…。
しかし僕の中の清流ランキングでベスト3に入る、支流の赤木川なら大丈夫だろうとそこに向かう。
あの川が汚れた姿なんて想像する事が出来ない。(赤木川↓)
さあ、いざその大清流の底力を見せつけてくれ。
来た!
さすがと言わせてくれ!
これぞ赤木川だ!
ジーザス…
あんたわかってんのか?
年に一度の楽しみで、中々ない3日間の仮釈放のすでに二日目なんだぜ。
どれほど今日という日を楽しみにしていた事か。
川下りする気満々だから、登山靴も持って来てないし今更登山に切り替える事なんて出来ないんだよ。
こっちは川を下りに来てるんだよ!
清流に癒されに来てるんだよ!
ここに来るまで5時間かかってるんだよ!
なんだかちょっぴり涙が出て来た。
ビリギャルで涙腺が緩んじゃったのかな?
あの映画って「頑張れば願いは叶う!」的な内容だったっけ。
俺…結構頑張って生きて来たんだけどな…。
しかし諦めたらそこで試合終了だ。
そんな赤木川の更なる上流にあるのが、本来の目的である「和田川」。
その川は普段は水量が少なく、逆に増水時じゃないと下れないと見込んでいる。
ヘタしたらベストコンディションなんじゃないだろうか?
で、はるばる向かってみるとベストを遥かに越えてしまった和田アキ子状態に。
渓相はもの凄く雰囲気いいだけに、悔やんでも悔やみきれない。
この風景の中で大清流間違いなしだったのに。
そして今日は天気が良いのに。
それでも諦めきれない男。
こうなったらとことん上流に行って、意地でも下れる区間を探し出してやると魂の大移動。
道は落石まみれの荒れ荒れ道で、一歩間違えたら崖から転落して行くというスリリングな冒険。
しかも途中で「道に滝が落ちて来る」というジョークのような展開にも巻き込まれる。
もはやネイチャー洗車場。
これはこれで立派にアドベンチャーだが、僕はこんな事がしたいんじゃなくて川を下りたいんです。
やがて行けども行けども増水フィーバーは続き、「どっちみち下れないね」って状況になってしまった。
もうこれ以上アッコにおまかせはできない。
唯一発見した川に降りれる場所で、しかたなく無念の朝飯。
初日の無念を晴らすべく、今日は早朝から下り出そうと思っていたのに。
ちくしょう、天気良いなぁ。
このままじゃ貴重な二日目も無駄にしてしまう。
「こうなったら海に行って無人の浜へ上陸して遊ぶしかない」と新たな目標設定を立てる。
海なら増水もクソもないし、熊野灘の海は凄くキレイ。
全く情報はないけどそれに賭けるしかない。
で、和田川から再び時間かけて大移動。
しかし海の手前の高田川(ここも以前から気になっていた川)をチラ見した時。
「あれ?結構綺麗だぞ」と気づいてしまう。
ここで再び川スイッチがオンになって、高田川を大遡上調査開始。
良さげな雰囲気だが、どうしても他の大清流を知ってるだけにあまりそそらない。
しかも道路から確認出来ない区間が多かったし、こんなとこも出て来るからちょっと怖い。
そもそも清流をのんびり漕ぎたくて来てるのに、中途半端な川で激流下りなんて望むところではない。
しかしこの一件で「支流によっては綺麗な状態の川がある」と確信した僕は、「大塔川なら行けるかもしれない」と思い立つ。
大塔川は赤木川と並ぶ、我が清流ランキング殿堂入りの名川。
しかしそこに行くには再び熊野川を1時間くらい戻って行かねばならない。
だがそこに1%でも希望という名の花が咲いているのなら、私は行かねばならない。
それが仮釈放中の奴隷が出来る精一杯の努力なのだ。
やがて貴重な時間を削りながら大塔川へと大移動。
これがかつて行った大塔川の写真↓
さあ、今こそ諦めない男に光を!
奇跡という名の清流を!
いざ!
これが大塔川である!
だよね。
うすうす分かってたんだ。
分かってたけど来ちゃったんだよ。
1%の可能性なんて元々無かったんだ。
僕の人生は所詮こんなものである。
そして…
なんて天気が良いんだろう…
これにて完全に希望が0%になった男。
今更普通の観光になんて切り替えられない不器用な男は、まだ諦めもせずに古座川観光協会に電話しては増水確認をしている。
もちろん結果は「濁流化してますね。来ない方がいいです」と言われて絶望の上塗り。
全てを諦めた男はついに嫁に電話をした。
「あのう…川が全滅で行き場が無くてですね…。今帰ったら今回の旅は無かった事にならないかなあって…。次回持ち越しとかにできたりするのかなあって…」と。
すると嫁は「あぁ?」と一言のみ。
電話口なのに眉間にしわが寄ってるのがハッキリ見て取れる。
男は慌てて「いやいやいや。ウソウソウソです。楽しんできまーす。」と言って電話を切るのが精一杯。
たった「あ」の一言だけで威圧殺される所だった。
こうなった以上、なにがなんでも遊ばないと。
でも行く当てが無い彷徨い人。
もうすでに朝起きてから5時間が経とうとしている。
この間のお天気の良さが余計に男を凹ませて行く。
もういっそ海でのんびりした後、軽く身投げでもしようかと思ったその時、
男は一瞬のチャンスを見逃さなかった。
走行中にチラッと見えたこの景色。
ここは北山川と熊野川の合流地点。
濁流の熊野川に対し、北山川の水の色がハッキリと清流をキープしてるのが確認出来る。
これで「本流だから最初から諦めてたけど、さては北山川の方はいい感じなんじゃないのか?」と思い立つ。
良く考えれば北山川は観光ジェット船も運航してるし、上流部では観光筏流しなどもやっている。
ってことはGW中の今、増水調整で水がダムで止められている可能性が高い。
これは行けるかもしれない。
ってことでさらに北山川を遡上して、瀞流荘前の川原へ。
良い…。
行ける…。
やっと我がゴールデンウィークが始められるぞ!
こうしてここに至るまで、三連休の半分である1日半を費やしてしまった男。
実に長い長い放浪の旅路だった。
しかも当初の目的の川ではなく、まさかの熊野川(北山川)。
でもそれでいい。
もうわがままは言わない。
川を下れればもうそれだけで私は幸せです。
でも考えようによっては、この熊野川は「カヌー野郎生誕の地」。(参考記事:カヌー野郎の誕生)
言ってみれば故郷に帰って来たようなものだ。
最近は奴隷生活が長過ぎた事もあって、1本の川をゆっくり二日かけて下る川旅から遠ざかっている。
一発ここらで原点回帰。
これぞ川旅って言う昔のスタイルを楽しもうではないか。
ってことでなぜか初の「流しスタイル」で流されてみようとギターを持って行く事に。
もちろん野営道具一式も担ぎ、酒もしこたま入れ込んで荷物はこんな事に。
軽装の観光客が観光ジェット船を待つ場所で、ただ一人片道切符を手に船を待つ異質な流し男。
しかしこの手の恥ずかしさはもう慣れて来た。
特にこの川は何度も下ってる勝手知ったる川。
ジェット船にも乗り慣れてるからやたら僕だけ段取りが良い。
そしてこの一人で戦争でも始めそうな騒々しい男が、周囲の観光客の視線を一心に浴びながらジェット船へと乗り込む。
いよいよだ。
やっっっっっっっっと私のゴールデンウィークが幕を開ける。
まさかここまでで一つの記事が出来上がるとは思ってもいなかった。
やがて男は瀞峡(どろきょう)の川原へと降り立つ。
時は来た
流し流され熊野川
紆余曲折こそ男の人生
奴隷奴隷と人は言う
泣くも演歌
笑うも演歌
演歌を求める人あれば
流しは流され歌歌う
粋な男の瀞八丁
故郷に錦の漕ぎしぐれ
さあ歌っていただきましょう
カヌー野郎さんで
「熊野川旅情〜熊野の夜に酔いしれて〜」
この1日半の事は忘れてはりきってどうぞ!
後編へ 〜つづく〜
さまよう刃〜必死奴隷放浪記〜
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