雲ノ平〜高天原/富山

マゾピース1 太郎平編〜冒険の夜明け〜

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富・名声・力

この世のすべてを手に入れた男、後悔王ゴールド・ロスター。

彼の死に際に放った一言は人々を山に駆り立てた。


「俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる。

探せ!この世の全てをそこに置いてきた!」


男達はグランドラインを目指し夢を追いつづける。

世はまさに大後悔時代!


その山に今、

マゾマゾの実を食べマゾ人間となった中年、ジョージマゾリーとその仲間たちが挑む。



おマゾ王に

オレはなる!


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【後悔日誌 8月7日】

10:00


いよいよ出航の時が近づいて来た。

今日は強引に会社を午前中に上がる段取りをしている。


しかし出航前から戦いはすでに始まっている。

まずは伝説の後悔王、ゴールドロスターにあやかって航海の安全祈願。

私の巧みな作戦にまんまと引っかかった海軍により、私は「信号無視」という名の汚名を被せられて捕縛された。(前回記事参考)

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そこで見事に我がゴールド免許への夢を喪失。

これで私もゴールドロスターとなり、実に縁起の良い出だしとなった。


私は即座に9,000ベリーという罰金を銀行から振込んで釈放。

そして北アルプス最深部に向けて、意気揚々と大海原へ飛び出したのである。


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14:00


私は今、遥か遠く「富山」という国に向かっている。

仕事を午前で上がって今猛烈に急いでいるのには訳がある。

実は登山口に向かう為の「有峰林道」へ入るためのゲートが、19:20くらいには閉ざされてしまうからだ。

その時間までにそのゲートを突破しないと、次にゲートが開くのが翌朝6:00。

そうなると出発時間が大幅に遅れて、冒険の時間が思いっきり削られてしまうのである。


そんな状況の私に向かって、我が航海士(カーナビ)が突然このような事を告げて来た。

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まさかの東海北陸道通行止め。

これにより、私は「下道」での航海を強いられる事になる。


ただでさえ時間がなくて焦ってるのに実に厳しい航海。

戦いは登山前から始まっているようだ。


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19:00


早くもヘロヘロだ。

何とかゲートを無事に越えてグランドラインの入口、「折立駐車場」に到達。

ノンストップでの6時間ドライブは、我が腰に猛烈なダメージを植え付けた。

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とりあえずここでは、空が異様にグレーな事は見なかった事にしておこう。


すかさず明日に向けて準備開始。

これが今回のパックトランピングの装備である。

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前回24キロのザックで何度もエクトプラズムを吐いた反省を元に、今回は3キロの減量を果たして総重量21キロ。

この3キロの減量のために、随分とお金を使ったぞ。

しかし私はあの頃より、「自分自身」が4キロも増加しているというまさか。

結果的に体感重量は前回を上回ってしまった。

このあたりの根回しこそ、私が「イーストブルーの愚か者」と恐れられる所以。


とりあえず明日のグランドライン突入に向けて、今日はさっさと寝るのである。


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【後悔日誌 8月8日】

4:50


ついにグランドライン突入の時が来た。

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この瞬間をどれほど待ちわびた事か。

出発前、我が愛する嫁にも「保険金だけちゃんと下りるようにしといて。人目につくとこで死んでよ。捜索が面倒だで。」と優しいエールを頂いた。

もういっそ「この登山口で死んでやろうか?」と頭をよぎったが、我が冒険はまだ始まったばかりだ。


さあ、いざ出航。

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のっけから地味にしんどい登りが延々と続く。

何がしんどいかと言えば、このような己撮りをしながらだから何度も同じ場所を往復する事になる。

しかしパックトランパーとして、無駄な己撮りこそマゾを華やかにするために欠かせないスパイスだからしょうがないのである。


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5:30


地味な汗だくグハグハの航海は続き、ちょうどペンギン村にさしかかった頃、

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我が後方から実にいぶし銀な渋い声で「おはようございます」の声。

振り返ると60代の男が一人。

しばし話をすると、彼は某有名大学病院の外科部長や医師会会長を歴任したという超大物だった。


ちょうど良い感じに瀕死状態だった私は、そのチョッパーおじさんを船医として仲間にした。

チョッパーとしてはいささか貫禄がありすぎるが、これ以上頼りになる船医はいない。

恐らく知ってる人からすると話す事も出来ない雲の上の人なんだろうが、山に入ってしまえば皆同じ穴のマゾ。

これでいつマゾり死んでも大丈夫だ。



話をしながら歩いていると、チョッパーおじさんは山を買って自分で登山道を切り開いているという変わり者だった。

しかも嬉しそうに奥さん公認の愛人の話を始め出すという意外な展開に。

チョッパーおじさん、とんだブラックジャックだぜ。


かく言う私も、そのチョッパーをして「俺も変人だけどあんたも変人だな。なぜボート背負ってるんだ?」と言わしめる。

そして「そんだけゼエゼエ言って心拍数上がってるのに、なぜそこからスピードが上がるんだ?」とも。

さらには「あんた大丈夫か?体から凄い量の湯気が出てるぞ!」とも。


それはどんな医学でも説明出来ない。

何故なら私はマゾマゾの実を食べたマゾ人間なのだから。


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6:40


チョッパーおじさんの「愛人論」を聞きながら航海を進めていると、やっと樹林帯から解放されて空が開けて来た。

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そこを登り詰めると、まるで北海道かアラスカにでもいるような広大な世界が登場した。

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たまらない。

まず何よりもこの時点で雨が降ってないどころか、ちゃんと5m以上先まで見通せること自体に感動。

今までは常に霧の中の航海を強いられて来ただけに、この時点で我がパンティーはずぶ濡れである。

そんな最高な光景がどこまでも続くから、アテントなしにはこの先には進めないほどだ。

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チョッパーおじさんに「どうしたらそんな風に嫁を手なずけられるんですか?」と聞いたりして凹んでいた私の視界も、これで一気に良好に。

さあ、家の事は忘れて、いざヨーソロー!

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こういう壮大な風景が好きだから以前アラスカくんだりまで行ってしまったわけだが、ちゃんと北アルプスでもそれを感じられる場所があったのだ。

さあ、モリモリ進んでいくぞ。


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8:00


スタートの折立から稜線上の太郎平小屋までは、通常コースタイム5時間。

そこを重量級パックトランピングスタイルで、無理矢理「3時間10分」というタイムでマゾりきった。

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はちきれんばかりの腹と乳を揺らしながら、ゼエゼエと虫の息。

まだ朝の8時なのに、早くもHPはオレンジ色に。

何もこんなに急ぐ必要はなかったんだが、私は命を削って1分1秒でも多く遊びたい冒険者なのである。


優秀な船医がいるからこそ、こうして死の縁まで己を追い込む事が出来た。

しかしチョッパーおじさんは「ほな、ワシは薬師岳の方に行きますんでここで失礼。」と、ここで船を降りてしまった。

ここからが本番なのに肝心の船医を失った私は、ここにあった小屋で「死医死慰烈門」という名の秘薬を手に入れる。

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これで無理矢理息を吹き返した気になる。

通常の人なら、折立からこの太郎平小屋で一泊する所。

しかし私はここからがスタートと言っても過言ではないから、ここで立ち止まるわけにはいかない。


休憩もそこそこに、この港町から出航。

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ここから先は、ドコモ携帯でもずっと圏外という魅惑の世界。

他の人がほとんど薬師岳の方に向かって行くのに対し、私はそれに背を向けてまだ見ぬ世界へと舵を切る。

天下の北アルプスに来てるのに、一切の山頂を目指さないというスタイルだ。

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それこそが、無駄を愛するパックトランパーの進む道なのである。


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9:00


相変わらず素晴らしい稜線が続いている。

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横を見ればこの景色。

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そして青空をバックに咲き乱れるお花達。

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ひょっとして私はすでに死んでしまっているんじゃないだろうか?

今ここにいる私は幽体離脱して来た魂で、本体は撲殺された状態で嫁の前に転がっているんじゃないだろうか?

やはり出航前の海軍への賄賂(9,000ベリー&2点減点)が功を奏したのか、ここまでは実に順調な航海である。


そしてせっかくここまで稼いだ高度を無にするべく、私は北アの最深部に向けて下降を開始。

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この奥の奥の奥の方にまだ見ぬ秘境、雲ノ平が待っている。

そしてそのまた奥には、ゴールドロスターが残したという秘宝が眠っているのだ。

この時点で、我がロマンと体臭ははち切れんばかりなのである。


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9:30


クソ暑い中、ひたすら下降は続く。

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本来なら高度を上げると共に涼しくなるのが北アルプスだが、私は今張り切って下降中。

下りれば下りるほどに暑さが増して、草木が発するムンムンな湿気が体中にまとわりつく不快地帯へ。

「今日ばかりはそんなに晴れなくても…。景色も見れないし…。」と思わず口から漏れそうになるが、おマゾ王になる男がそんな弱音を吐いてはいけない。


やがて薬師沢の源頭部を渡り、

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太陽が放つライトニングボルトを激しく食らいながら、謎の大急登。

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そこを乗り越えると、再びアツアツムンムンの道を進んでいく。

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水を飲んでもすぐに喉がカラカラになるという脱水状態に。

パックトランパーの三大資格として「無駄な己撮りが好き」「お腹が弱い」「脱水症状になりやすい」が挙げられるが、どうやら今回もバッチリ決まったようだ。


そんな中、薬師沢左股出合いの橋に到達。

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ここから本日の目的地「薬師沢小屋」まではおよそ1時間。

本来ならその小屋に荷物を置いて、小屋横を流れる黒部川源流部をB沢までパックラフトで下る予定だった。

しかし、ここで薬師沢が「こっちおいでよ」と妖艶に私を誘って来たではないか。

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私はゴクリと生唾を飲み込むが、喉がカラカラでうまく飲み込めない。

くしくも現在絶賛脱水中で、なおかつ汗による体臭や股間のムレムレっぷりはピークに達していた。


でもここで我慢出来ずに沢に入ってしまったら全身ずぶ濡れになる。

そうなると、そのまま未知の沢筋を下って小屋まで行く事になってしまう。

1時間で行ける所を、無駄に何時間もかけて行く事になる。

しかも薬師沢では水量不足でパックラフトが出来るかどうか全くの未知数だ。


あと1時間我慢するんだ。

ここで沢には入ってはいけないぞ。


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10:20


無理だった。

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ふと気づいた時、私は沢用の格好に着替えて薬師沢の懐に抱かれてしまっていた。

キリリと冷えた沢の水が、火照りに火照った私の体を休息冷却して行く。

川好きの私が、脱水状態のままこの快楽に目を背けて先に進む事なんて土台無理な話だったのだ。


さあ、もうこれで後には引けなくなってしまった。

靴もフェルトソールの沢靴に履き替えてしまったから、もう登山道を行く気はない。


安全が約束された航路から外れ、全く情報がない世界へと飛び込んで行く不安と興奮。

しかしうまく行けば、苦労してしか辿り着けないスペシャルなパックラフト区間があるかもしれない。

そしてそのまま薬師沢小屋まで漕いで行ければ、「移動手段」としてパックラフトを使う事になるのがかなり魅力的だ。

パックラフトを、本来の使い方であるアラスカ的冒険アイテムとして活用出来るかもしれない。


さあ、この先の世界は一体どうなっているのか?

地形図の情報だけを頼りに、いざ訳の分からない「薬師沢沢下り」の戦いへ。

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普通の登山道を行けば簡単な話だが、私はあくまでもロマンハンター。

果たしてこの先で待ち構えているのは大秘宝なのか、それとも大悲報なのか?


私の冒険は、まだ始まったばかりなのである。





マゾピース2 薬師沢編へ  〜つづく〜



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