◉ りんころ成長記

雄叫び英会話レッスン〜ピッコロの呟き〜

平日の火曜日。

僕は午前中で早々と仕事を早退した。


別に早くも放浪病の症状が悪化して体調を崩したわけではない。

実は入院中の嫁の世話にお義母さんが出動していたので、りんたろくんの「キッズ英会話教室」へ僕が連れて行かねばならん事になったからだ。


ちなみに「遊ぶ時間が無くなるくらいなら勉強するな」が僕の教育方針なので、あまり子供に習い事をさせる気はない。

でも出来れば英語は喋れるようになって欲しいという想いがある。

それはあわよくば将来りんたろくんにはカナダに留学していただき、僕が嫁に「息子の様子を見て来る」という口実で現地に赴き、りんたろくんを通訳に据えて遊びまくるという勝手な野望を抱いているからだ。

そんな父の深謀遠慮だとも知らずに、半年程彼は通っている。

いつもは平日でお義母さんと行っていたが、今回僕は初めてその現場に向かう事になった。


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家を出発する10分前。

僕とりんたろくんはまたしてもトイレの中にいた。


当ブログではもはやお馴染みの光景となった、男達の出産風景。

便秘のりんたろくんが「ぐあああああ」と言い、父が「ヨイショー」と合いの手を打つ。

しかし今回は中々にしぶとい強敵で、意地でも排便されてなるものかという強い意志が見てとれる。

さすがのりんたろくんも「ウンチ、失っちゃったの」という独特の言い回しで終戦宣言。


出産が持ち越しとなり、りんたろくんのテンションが激しく低い。

そんな状態でこれから陽気なキッズ英会話教室に行くのは、今回が初参加のお父さんにとっては早くもハードルの高い設定だ。


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やがてキッズ英会話教室があるマンションの一室へ。

中には女の先生と1組の母子。


こんな密室空間でおっさんは僕一人で、初対面の女性二人と子供。

強烈に居心地が悪く、不安とソワソワと緊張で急激に喉がカラカラになって行く。

まさか山中にとどまらず、このようなマンションの一室ですら脱水状態に陥ってしまうのか?


頼みのりんたろくんは相変わらずテンションが低い。

IMG_1543.jpg

彼に構ってもらわないと、僕の立ち位置がが非常にフワフワしたものになって息が苦しい。

まあいいさ。

後は50分間、大人しくりんたろくんの授業風景を見て無難に過ごせば解放されるんだ。


やがてレッスンスタート。

先生が元気良く「ハロー!エブリワン!」と陽気に挨拶。

そして「レッツ!サークル!」と叫び、おもむろに子供もろとも僕まで巻込んで来た。

そして5人が手を繋いで輪になり、なんと歌いながら回転を始めた。

僕の最も苦手とするシチュエーションが襲いかかる。


僕の汗腺から大量に嫌な汗が「ブシュッ」と大放出。

恥ずかしさでみるみる顔が硬直し、頭から湯気が溢れて窓を曇らせてしまいそうな勢いだ。

しかも比較的若いお母さんと手を繋ぐ事になり、「恥ずかしい」「でもちょっと嬉しい」「変な事考えるな」「でもなんか久しぶりの感情」「邪念を捨てろ」などの複雑な感情が入り乱れてスパークする。


そして皆は慣れてるから陽気に歌っているが、僕はそもそもその歌を知らない。

結果、「ウウウ、うう、ウウウ〜」といううめき声だけが、か細く口の隙間から空気と一緒に漏れるだけ。

その流れで陽気に無理矢理合わせそうとすると、「ゥゥゥワオゥ!」と岡田のような奇声を発する事になる。


やがてこの異様な異質感に耐えきれなくなり、手からはダクダクと汗が大量抽出。

手はママさんに繋がれているので「ああ、このままではなんだか意識してる変な男だと思われてしまう」という思いが、より一層この妙な緊張に拍車をかけて発汗作用が凄まじい。

僕から抽出されたドモホルンリンクルが、このママさんを不快にさせてやいないかとハラハラしてしょうがない。

そんな中、先生が「リンタロウズ ファーザー グッジョブ!」と少しも良い仕事をしていない僕を励ます。



なんだこの針のむしろのような空間は。

会社を早退してみんなが働いている最中に、狭いマンションの一室で汗だくになってくるくる回っている自分は何者なのか?

次第に意識は白濁とし、先生の話す英語が黒魔術の呪文にしか聞こえない。


そして必死で助け舟をりんたろくんに求めるが、彼はぐにゃりとしていて「やる気ゼロ」と顔に書いてあった。

結果的に僕が率先してレッスンに参加する事に。

そして己に「これは猛吹雪の中での遭難訓練だ。諦めてはそこで終了なんだ。」と言い聞かせ、開き直って魂の叫び。

狭い室内に僕の「ドッグ!バウワウ!アンドキャット!ニャウニャウ!」という雄叫びがこだまする。



そこから先の記憶がズッポリとえぐり取られている。

やがて先生からレッスン終了の合図。


その場には憔悴しきってうなだれる父の姿。

さらに今更テンションが上がって来やがった息子の姿も。


戦いは終わったのだ。

我々は無事に下山する事に成功したのだ。


すっかり生気を失った僕は、最後の力を振り絞り「しぃ…ゆぅ…」と先生へ別れを告げた。

確信した事は、僕はこのような場所に不向きである事と、りんたろくんが将来留学して通訳してくれる器ではないだろうという事くらいだ。


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帰宅後、僕は嫁が入院しているクリニックへ向かった。

実はこのクリニックでは、出産後に落ち着いた段階でディナーが振る舞われるという何ともブルジョワジーなスタンスのクリニック。

嫁と久しぶりに二人きりでのディナータイムだ。

IMGP0920.jpg

何やら照れくさいものがあるが、本日の僕は必要以上に照れくさ過ぎる時間を満喫済みだからへっちゃらだ。

これはまたここでいい雰囲気を作り上げて、三人目に向けての新たなスタートだ。


僕はいつもよりトーンを落としたステキな声で「お疲れさまでした。よく頑張ったね。三人目も頑張りますか。」とニカリとワイングラス越しに笑ってみせた。

すると嫁は無表情で肉をナイフで切り裂きながら「痛いからもういいわ。お前が一人で産め。」とズバリ。

ナイフのような鋭い声が僕のハートを切り裂いた。


そもそも僕はピッコロではないから一人では産めないはずだ。

きっと彼女の照れ隠しだったと思いたい。


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入院中の部屋に戻る。

ちなみに部屋はこんな感じで非常に豪勢だ。

IMGP0900.jpg

IMGP0906_20130123153733.jpg

僕の「自称自分部屋」との差を感じずにはいられない。↓

IMGP0767_20130115145635.jpg

僕もそこそこ腹が出てるからここに入院出来ないものか?


何はともあれ、こーたろくんとの再会です。

IMGP0936.jpg

よう、元気にしてたか?

お父さんは本日、非常に元気ではなかったぞ。


せっかくなので、初ダッコをしてやろう。

そしてその感動的かつ歴史的な瞬間をお母さんにカメラで撮ってもらおうね。


僕は嫁にカメラを渡して、その一生に一度の大切な瞬間を撮ってもらった。

そして帰宅後にパソコンの画面で確認したその写真がこれだ。

IMGP0954.jpg

IMGP0955_20130123153653.jpg

これは悪意なのか?

一生に一度の歴史的瞬間が逆光と手ぶれのオンパレードじゃないか。


きっと素敵な旦那様の姿に緊張して手が震えていたんだろう。

それとも僕のカメラに「サドモード」という撮影モードが入っていたのか?


これが偶然だったのか故意だったかは今となっては分らない。

しかし写真には残らなかったけど、こーたろくんの感触はしっかりこの腕に刻まれたよ。

早く君にも弟くんか妹ちゃんをダッコする機会を与えてやるからな。


そうなるように父ちゃん頑張るぞ。

口から卵を吐く訓練するから待っててね。



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